3-1 試薬びんから試薬を取り出すときの基本的心得
(1).液体試薬の場合
@ 蒸気圧が高い低沸点の試薬(例:エーテル)や、溶解している気体が蒸
発しやすい試薬(例:塩酸、アンモニア水)、あるいはそれ自体分解しやす
く分解時に気体が発生する試薬(例:過酸化水素水)の場合、試薬びんの内部が圧力の高い
状態になっていることがあるので注意を要する。これらの試薬びんの栓を開くときは、液が飛
び散らないように布で覆い、顔を遠ざけて注意深く行う。塩酸とアンモニアの場合は濡れた布
で覆うことをすすめたい(保存の項を参照)。
A 液体試薬を試薬びんから取り出すときは、図1のようにラベルが上向きになるように配慮
する。下向きだと、びんの外側にこぼれた薬品によりラベルがおかされてボロボロになり、
どんな薬品が入っていたのか分からなくなる。このことは、特に酸類において著しい。
B 試薬を少量取り扱うとき、スポイトなどの器具類を試薬びんの中には直接突っ込まず、清
浄なビーカー類に小出しして分取するのが原則である。しかし、乾いた清浄なスポイトなら
直接扱うのもよい。ただし、一つの試薬には一つのスポイトをあて、いくつもの薬品に多用
しないことスポイトで液を取ったとき、吸い口を上にしてゴムキャップ部分に試薬を流し込
んで分取する人をしばしば見かけるが、スポイトは取った状態のまま平行移動するように操
作し、すばやく容器に移す。
(2).固体試薬の場合
@ 薬さじは一つの試薬に一つと心得ること。
A 薬さじを使わずに試薬びんから直接ビーカーなどに試薬を取るときは、びんを回転させな
がら少しずつ取り出すようにすれば、一度に多量の試薬が出るのを避けることができる。
もちろん、試薬が塊になっていて薬さじで容易につぶせるものは、つぶしてから取り出す。
必要なら乳鉢を使って細かくする。
3-2 水に溶かすときの基本的心得
(1) 液体試薬の場合(発熱を伴う場合)
@ 濃い水溶液をうすめるときは、水に試薬を混入させる。濃硫酸の場合この逆の操作をする
と、つまり、濃硫酸に水を加えると、急激な発熱のために部分的に水が沸騰し、しぶきが飛
んで特に危険である。水に濃硫酸を加えても激しく発熱する。したがって、17%(約2mol/
dm3)以上の水溶液をつくるときは、図2のように、水槽で冷やしながら濃硫酸を少しずつ加
え、ガラス棒で絶えずかき混ぜながらつくる。
A メスシリンダーを、試薬の調製容器として使うのはよくない。あくまでも計量容器として
のみ使うべきである。
B 溶媒が蒸留水でなく水道水でよい場合には、濃硫酸をうすめる際、ビーカーに氷を入れて
おくとそれほど発熱させなくてすむ。
C 濃硫酸をうすめる場合、しばしば硫酸の細かい霧が発生し、喉などを刺激する。この霧は、
公害などで騒がれる硫酸ミストと同様のものである。したがって、希硫酸をつくるときは、
風通しのよいところで行うよう心がける。
(2) 固体試薬の場合(発熱を伴う場合)
@ この代表例は水酸化ナトリウムである。水酸化ナトリウムを水に溶かすとき、かなり発熱
するので注意を要する。そして、よくかき混ぜないと、結晶が容器の底に固くへばりついて
溶けにくくなる。
A 8%(約2mol/dm3)以上の水溶液をつくるときは、水酸化ナトリウム水溶液の霧が発生し、
鼻や喉を刺激するので、吸い込まないように風通しのよいところでつくる。
(3) 固体試薬を速く溶かす方法
@ 細かくする 乳鉢で細かく砕いてから溶かせばよい。大きな塊のままビーカーに入れてか
き混ぜ棒で無理に押しつぶそうとすると、かき混ぜ棒が折れて手に突き刺さったり、ビーカ
ーを突き破ったりすることがあり危険である。
A かき混ぜる 溶けて生じた濃厚な水溶液を、より早く均一化させるべくよくかき混ぜる。
言うまでもなく、その際溶液が飛び散らないように、また容器を割らないよう注意する。そ
のためには、液量を容器の3分の2ぐらいまでにするとか、かき混ぜ棒の先にゴム管やビニ
ールパイプを付けるなどの工夫をするとよい。自動かき混ぜ装置としてマグネチックスター
ラーを理科準備室においておくと何かと便利である。
B 加熱する 一般に、温度を上げて分子やイオンの動きを激しくすれば速く溶ける。加熱に
際しては、ガラス容器に炎が直接あたらないように、必ず金網を敷いて加熱する。そうしな
いとガラス容器が割れることがある。ガラス容器の底に結晶が多量に存在するとき、かき混
ぜないで加熱すると、局部的に温度が上がり、底が割れることがあるので注意する。
3-3 経時変化する(性質や濃度が変わる)試薬に関する基本的心得
@ 一般にアルカリは、空気中の二酸化炭素を吸収して炭酸塩になる。例えば、水酸化ナトリ
ウムは炭酸ナトリウムに、水酸化カルシウムは炭酸カルシウムになる。したがって、つくっ
てから日が経ったアルカリ水溶液は一部炭酸塩に変化していて、アルカリ濃度が表示よりも
うすくなっていることがある。このことを避けるために、つくった水溶液のびんの口は、し
っかりと封をしなければならない。グラウンドのライン引きに使っている石灰を水酸化カル
シウムとして使わない方がよいのもこの理由による。
A アンモニア水は、溶けている気体アンモニアが空気中に逃げやすく、濃度が変化しやすい。
栓がゆるいとどんどん濃度変化する。したがって定量的な実験をする場合は、実験の直前に
溶液をつくるのがよい。
B 過酸化水素水も、つくってから長時間経ったものは、熱や不純物などにより少しずつ分解
する。したがって、古い試薬を使うと、必要なだけの酸素量が得られないことがある。少な
くとも、つくってから2〜3ヶ月以内の試薬を使用したい。特に定量実験の場合は、実験直前
につくるのが望ましい。
3-4 保存容器に関する基本的心得
@ 保存の容器としては、容器が保存試薬でおかされないこと、容器から溶液中に不純物がし
みださないことに注意する。
A 固体試薬を溶かした水溶液をすり合わせのガラスびんに保存すると、すり合わせ部分に固
体が析出して栓が取れなくなることがある。特に、濃アルカリの場合は、ガラスを溶かし、
それが接着剤の働きをして離れなくなることがある。ゴム栓にするとそれは避けられる。