氷と食塩とを混ぜて入れた容器に、水を入れた試験管を浸しておくと、水が冷却されて氷に
変わる。これは、氷と食塩を混合すると、0 ℃より低い温度になるからである。このように、
二種類以上の物質の組合せで得られる冷却剤を、寒剤という。
2-1 寒剤になる物質
A.氷
氷が大気圧(1気圧)のもとで融ける温度は 0℃であり、冷却剤として用いられる。しかし、
試験管の水を凍らせるには氷だけでは駄目であり、 0℃よりも低い温度が必要である。それに
は普通、砕いた氷と食塩を混ぜたものが使われる。
(1) 氷と食塩でできる寒剤
@ 氷を細かく砕き、この氷の1/4〜1/5の食塩をふりかけ、よく混ぜる。
A この寒剤を大きなビーカーまたはプラスチック容器(発泡スチロール製容器がよい)に移
し、この中に、冷却したいものを入れた容器を入れればよい。
B この寒剤の底に水が少しあれば、効率よく冷却される。しかし、わざわざ水を加えなくて
も、氷が融けて食塩水ができている。
C 食塩に限らず、水に溶ける塩の多くは、氷と混ぜると温度は 0℃より下がる。次の表にい
ろいろな物質と氷を混ぜてできる寒剤を示す。
氷を使ってできる寒剤 | ||
氷100gに混ぜる物質と加える量 | 最低温度 | |
塩化ナトリウム NaCl | 30g | −21.2度 |
塩化アンモニウム NH4Cl | 25g | −15.8度 |
塩化カルシウム CaCl2 | 144g | −54.9度 |
エタノール C2H5OH | 100g | −30.0度 |
(2) 氷と食塩の混合物が寒剤となる理由
一般に、ある物質に他の物質が混ざると、純粋なときに比べて融点が下がる。
0℃の氷に食
塩を混ぜると、氷の融点は 0℃以下になり、氷は 0℃では固体として存在できないので融ける。
融けるときには融解熱が必要であるがその熱を周囲から奪っていたのでは間に合わず、自分自
身の熱を使うため温度は 0℃よりも下がる。
さらに、塩類が水に溶けるとき、一般に、熱を吸収する(溶解熱が吸熱)ものが多い。氷が融
けてできた水に食塩が溶けるとき、周りから熱を吸収するため、より一層温度が下がるわけで
ある。
(3) 身近な現象(融雪剤)
冬季に路面が凍結したとき、食塩をふりかけると、氷が融けてどろどろの状態になり、車の
タイヤはスリップしない。しかし、−22℃以下では食塩水も凍結することになるので、食塩に
代えて塩化カルシウムが広く用いられている。
B.ドライアイス
(1) ドライアイスの性質
@ 圧力を加えて液体にした二酸化炭素(液体炭酸)を急激に蒸発させると蒸発熱のために
自分自身の温度が下がって固体になる。この固体炭酸を圧し固めたものがドライアイスであ
る。
A ドライアイスを大気中に放置すると、液体になることなく気体に変わるので、ドライアイ
スは三態変化の昇華の例としてよく取り上げられる。
B 大気中で昇華し続けるドライアイスは、水が沸騰している間 100℃の温度が保たれるのと
同じように、−78.5℃の一定温度(昇華温度)を保つ。
(2) ドライアイスを用いた寒剤
@ ビーカーや魔法びんに砕いたドライアイスを入れ、これにメタノール(またはアセトン)を
少しずつ加えていく。
A はじめはメタノールの温度が高いので二酸化炭素の泡が激しく発生するが、しばらくすると
温度が下がり、泡の発生は穏やかになる。
B このような状態でのメタノールは、−78.5℃の温度に下がっている。
C この寒剤に、花や葉、ゴム管などを入れると、それらはすぐに凍結し、非常にもろく、壊れ
やすいものになってしまう。
2-2 冷却実験事例
実験1 混合物の凝固点
(1) ナフタレンとp-ジクロロベンゼンを次の割合で混合する。
@ | A | B | C | D | E | F | G | H | |
ナフタレン (g) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
p−ジクロロベンゼン (g) | 9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
(2) @〜Hのそれぞれを、乾いた試験管に別々に入れ、80℃以上の湯につけて混合物を融かす。
(3) @の試験管を取り出し、混合物を温度計で静かにかき混ぜながら、空気中で冷却する。
温度計でかき混ぜる際、試験管の上の方に結晶がつかないようにすること。
(4) やがて、融解液中に細かな結晶が析出してくるので、析出し始めたときの温度を読み取る。
この温度が凝固点である(図10)。
(5) (2)〜(4)の操作を3回繰り返し、凝固点の平均値を求める。さらに、A〜Hの試験管につ
いても同様に実験する。
(6) 測定結果をグラフに描く。なお、純物質の凝固点は次の通りである。
ナ フ タ レ ン : 80 ℃
p-ジクロロベンゼン : 53 ℃
《結果》 測定結果の一例を図11に示した。ナフタレンとp-ジクロロベンゼンをほぼ1:2に
混合すると、約29℃で液状になる。この図11から、混合物の凝固点が、純物質のそれに比べ
て低くなることがよく分かる。
グラフ中の最も低い温度を共融点、そのときの組成の混合物を共融混合物という。
実験2 氷を用いない寒剤
(1) 結晶硫酸ナトリウム 10g と硝酸アンモニウム 10g をビーカーに取り温度計でおだやか
にかき混ぜる。混合物の状態を観察するとともに、温度を読み取り、ビーカーの外側に手を
触れてみる。
(2) 別のビーカーに、チオ硫酸ナトリウム(ハイポ) 10 gと硝酸アンモニウム10gを取り、(1)
と同様に操作して混合物の状態や温度変化を調べる。
《結果と解説》
@ (1)(2)ともに、冷たくなっていくのが分かる。室温(20℃程度)で実験を始めた場合、(1)
は0℃程度まで、(2)は 5℃程度まで温度が下がる。
A 結晶硫酸ナトリウムは、硫酸ナトリウム十水和物 Na2SO410H2O といい、水和水(結晶水)
をもっているが、さらっとした結晶である。水和水は、結晶を構成する粒子として存在し、
液体の水のような状態になっていないので、結晶を手で触れても、手が濡れることはない。
B 結晶硫酸ナトリウムは、32.4℃以上では、融けて水和水を手放す。
C この結晶硫酸ナトリウム(氷と食塩との寒剤の場合の氷に相当)に硝酸アンモニウム
NH4NO3(同食塩に相当)を混ぜると、混ぜたことによって凝固点(融点)が下がる。つまり、
32.4℃以上でないと水和水を手放さなかった結晶硫酸ナトリウムは、それよりも低い温度で
水和水を手放すようになる。その結果、混合物は湿った状態になり、やがて、どろどろの状
態になる。このとき、結晶硫酸ナトリウムの融解熱で温度が下がる。
D 次に、結晶硫酸ナトリウムから生じた水に、硝酸アンモニウムが溶ける。硝酸アンモニウ
ムが水に溶けると、6.1 kcal/molの熱を吸収するので、低くなった温度はさらに低くなる。
E チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)は、水道水中の塩素を除くのに利用されている。正式にはチ
オ硫酸ナトリウム五水和物 Na2S2O35H2O という。
F チオ硫酸ナトリウム(氷と食塩との寒剤の場合の氷に相当)が水和水を手放す温度は48℃
以上である。硝酸アンモニウム(同食塩に相当)と混ぜると、上記のA〜Dと同じ理由により、
低温が得られる。
《付記》 かき混ぜるために温度計を使うのは良くないが、操作を簡単にするため、止むを
得ない。