第3章 器具の取扱いと基礎実験事例

       5.結晶作り


 結晶の魅力は、その形や色、光屈折の様子に様々な美しさを見せてくれるところにある。も

し理科実験の中で、児童・生徒に結晶作りに挑戦させ、手軽に大きな結晶が得られたならば、

彼らの喜びは大変なものであると同時に自然の変化に対する驚きと感動も呼び起こすであろう。

そこで結晶作りを指導するときの一般的な注意点と、カリミョウバン、硫酸銅、食塩の結晶作

りの実験例を紹介する。

5-1 結晶作りにおける一般的注意

(1) 溶液調製のポイント

@ まず室温での飽和溶液を用意する。

《飽和溶液の調製》

(a) 確実な飽和溶液の作り方は、結晶を過剰に入れて、室温よりも10℃ほど高い温度での濃い

 溶液をつくる。溶けきらない結晶が残っているところへ、さらに小さじ一杯ぐらいの細かい

 結晶を追加し、攪拌しながら室温まで放冷する。

(b) 大きな容器に飽和溶液と過剰な結晶を入れて保存しておけば、いつでも飽和溶液を使える。

 もし溶液が減った場合には、水を少し追加して容器をよく揺さぶり、一昼夜ぐらい放置する

 とよい。

A 飽和溶液に一定量の結晶を追加して、加熱溶解し、濃い溶液をつくるこの溶液を冷やせば、

 追加結晶量だけが析出してくるので、どのぐらいの大きさの結晶をつくるかの目安を立てや

 すい。

B 溶液の温度が高いうちにろ過しておくこと。ろ過に手間取ると、溶液が冷えて結晶が析出

 することがあるので、少し高い目に加温しておくとよい。

C この溶液に種結晶を吊せば、結晶を成長させることができる。
 
 (種結晶の作り方、吊すタイミングについては次の項を参照)

D 上記の飽和溶液を基準にする方法は、溶解度のデータを知らなくても季節に関係なく同じ

 ような大きさの結晶をつくることができる。

E 追加結晶量としては、一般に(カリミョウバン、硫酸銅などで、食塩は駄目)飽和溶液100

 cm3 に対して、5〜8g が適当である。

(2) 種結晶の作り方 

@ 飽和溶液 100cm3 に対して、追加結晶量 20gぐらいを加熱溶解し、シャーレかバットのよ

 うな広く浅い容器に、水深10mmぐらいに液を入れる。

A 蓋をしないで数時間ないし半日放置しておけば、底一面に小さな結晶が析出してくる。

  その間容器をみだりに動かさないこと。

B 結晶が互いにくっつきあう前に、大きさ4〜5mm程度の形のよい結晶を箸で取り出す。

  金属製ピンセットはよくない。

C どうしても種結晶が得られないときは、大きな結晶を砕いた小片の透明な部分を使っても

 よい。形のよくない結晶でも、結晶成長段階で修正される。

(3) 種結晶を吊す時期(図18)

   

@ 種結晶は、釣用テグス糸 0.4〜0.6 号で結ぶ。瞬間接着剤を利用してもよい。

A 種結晶を溶液に入れる前に、ごみや微結晶を洗い落とすために、種結晶と糸を軽く水洗す

 る。

B 種結晶を溶液に入れるときの液温は、体温よりも少し低い目の35℃ぐらいが適当である。


C 冷却法では、一昼夜放置すれば過剰な結晶量の9割以上が析出しているので、いったん大

 きくなった結晶を取り出し、再度濃い溶液を調製し体温ぐらいまで下がったとき、大きくな

 った結晶を水洗してから吊す。



5-2 カリミョウバン(冷却法)

(1) 溶液の調製

 上記の方法により、飽和溶液 200cm3に追加結晶量 15gを加熱溶解する。容器は集気円筒の

 ようなものを用意する。

(2) 種結晶および結晶成長

@ 上記の方法で種結晶をつくると図19のような形のものが得られる。特に(a),(c)の形のも

 のが多い。

   

A これをテグス糸に結び、溶液にほこりの入らないようにして吊す。

B 一昼夜で1.5cm角ぐらいのきれいな正八面体の結晶が得られ、繰り返せば大きな結晶が得

 られる。

C 容器の底にできた結晶できれいなのは、次の結晶作りの種結晶として取っておく。



5-3 硫酸銅(冷却法と蒸発法の併用)

(1) 溶液の調製

 上記の方法により、飽和溶液 100cm3に追加結晶量7gを加熱溶解する。 容器は直径 9cmぐ

 らいのシャーレを用意する。

(2) 種結晶および結晶成長

@ 上記の方法で種結晶をつくり、透明で形のよいものを選んでおく。

A シャーレに体温ぐらいの溶液を水深10〜15cmに入れ、水洗した種結晶を3つ程互いに離し

 て入れる。ほこりの入らないように大きめのろ紙で覆っておく(図20)。

   

B 一晩放置すると、一辺が3〜4cmの平行四辺形型の偏平な結晶が得られる。
  (ここまで冷却法) 

C シャーレの中に別の微結晶が出ていなければ、そのまま放置する。

D 微結晶がたくさん出ていれば結晶をいったん取り出し、別のシャーレに飽和溶液を用意し

 て結晶を入れ、放置する。自然蒸発による濃縮を利用して、結晶の成長を続ける。

E 結晶同士がぶつかりそうになれば数を減らし、溶液が少なくなれば飽和溶液を補給してや

 ればよい。(蒸発法)

F この方法は、溶液量が少なくても大きな結晶が多く取れるし、面倒を見る時間が短くてす

 むので、大勢で行うときに向いている。糸で吊す方法の場合、必要な溶液量が多く、適宜加

 熱溶解する手間がかかる。



5-4 食塩(蒸発法)

(1) 溶液の調製

  上記の方法で飽和溶液を作り、シャーレかバットのような広く浅い容器に、水深15mmぐら

 いに液を入れる。ほこりが入らないように大きな紙で覆いをするが、液を蒸発させるので、

 ガラス板のような気密なふたはしない。

(2) 種結晶および結晶成長(図21)

   

@ 数日間放置しておくと小さな正方形の結晶が底に析出してくる。

A 一週間程して結晶同士が互いにくっつきそうになったら、きれいな正方形の結晶だけ取り

 出す。溶液500cm3から 4×4×2mmぐらいの結晶が100個前後得られる。

B 次に、容器に新しい飽和溶液を入れ、取り出した正方形の結晶を少し水洗してから、横向

 きに背が高くなるように容器の底に並べる。

C 容器に紙のふたをし、10 日前後放置する。途中で微結晶が出て来たら飽和溶液を取換え

 結晶を並べ直す。その際、結晶の置き方は、成長速度が上下に小さく左右に大きいことを考

 慮して、全体として立方体になるように並べる。

D 1ヶ月前後で1辺が10mm程の立方体の結晶がたくさん得られる。