だれにでもできる水質調査ガイドブック
−小・中・高等学校環境教育指導資料−

環境教育研究プロジェクト・チームによる研究成果

              


1 はじめに

 大阪府教育センターでは、平成6年度の重点研究として「中学校における環境教材の開発に関する研究」を行い、水環境全般にわたる幅広い内容の指導資料として『水と私たちの生活−環境教育指導資料−(中学校編)』を刊行した。
 環境教育研究プロジェクト・チームは、この研究を継承し、平成7年度より2年間の予定で、「小・中・高等学校における地域環境を教材とした指導法の研究」にかかり、学校で水質調査を実施するためのガイドブックの作成を行うこととした。環境教育は、校種・教科を越えた総合的な内容を多く含んでいる。そこで、本プロジェクト・チームは小学校・中学校及び高等学校合同で編成し、だれにでも実施できるわかりやすい指導資料の作成を目指した。

2 研究の目的
今日、地球的規模の環境問題として、地球温暖化、オゾン層の破壊、熱帯林の減少、酸性雨、海洋汚染などをあげることができるが、これらはいうなればわれわれ人間の日常の営みに起因している。そして、日常生活における身近な環境問題として、水質汚濁、騒音問題、ごみ処理問題、自動車公害、大気汚染、自然環境の破壊などの都市・生活型公害がある。このうち、児童生徒にとって最も身近な環境問題の一つが、河川、湖、海などの水環境の悪化であり、これを今回の実践のテーマとした。
 さて、われわれ人間をはじめ自然界の動植物にとって、水は欠かすことのできないものである。しかし、その水環境は近年著しく悪化しつつあり、河川の水質汚濁についても、以前は産業排水が主要な原因であったが、現在では、生活排水が汚れの原因全体の80%を占めている。これは、台所や洗濯の排水などの生活排水が十分に処理されないままに河川に流出することにより引き起こされるものである。本来、生活排水などは、多少の汚れであれば、微生物によって有機物が分解されてきれいになるはずである。これを自浄作用と呼んでいるが、許容限度を越えた有機物などの流入があると、自浄作用では追いつかなくなり、自然浄化はできなくなる。したがって、下流にいくほど河川水の汚れはひどくなっていく。これが都市型河川の現状である。現在、都市部における水道水の原水の多くは、河川水から取り入れている。これらの水を浄化して、安全な水道水を確保するためには、多くの費用と手間がかかっているのである。
人間にとって最も大切なものの一つである水について認識と理解を深めるために、水質調査をすることによって、水についての現状を正しく把握することは大いに意味のあることである。そこで、本冊子は、小学校、中学校及び高等学校で、環境教育で河川などの水質調査を初めて担当する場合でも利用できる手引き書として編集した。


3 学校における環境教育の必要性
平成元年の小学校、中学校及び高等学校の学習指導要領の改訂では、多くの教科、道徳、特別活動において、環境教育にかかわる内容がこれまで以上に重要視されている。特に小学校低学年に新設された生活科はその目標で、「具体的な活動や体験を通じて、自分と身近な社会や自然とのかかわりに関心をもち」と示されており、環境教育とのかかわりが重要視されている。そして、今回の改訂全体を通じて、社会の変化に主体的に対応できる能力や態度の育成、体験的な学習や問題解決能力の育成が強調されており、環境教育においても、環境にかかわる内容の理解だけにとどまらず、環境問題の解決に必要な能力を育成することが求められているのである。
 また、環境問題は、今後、すべての人々にとって避けることのできない課題であり、生涯学習の大きな対象であるといえる。したがって、学校における環境教育は、生涯学習としての環境教育の一つの出発点であり、一部の教科だけでなく、多くの教科で行うことが望ましく、道徳や特別活動など、学校の教育活動全体を通して行うことが大切であり、生涯学習の基礎となるものでなければならない。


4 内容について
本冊子は、特に理科の授業で利用されることを前提として、水質調査項目を第1章分析・技術編と第2章調査・実践編の大きく二つに分けて編集した。また、ガイドブック全般を通じて、できるだけ図、写真および表等を取り入れ、理解しやすいものにした。以下、内容について特に配慮した点について述べる。
第1章 分析・技術編について
 一般的な水質調査項目は、JIS公定法の工業用水試験方法に約60種類、工場排水試験方法に約65種類の項目が記載されている。これらの中から、学校で取り扱う環境教育の調査項目に適した28項目を選び、教材化を図るとともに、いくつかの学校において実践研究を行った。
 それぞれの項目については、単に測定法を記述するだけでなく、内容の解説とともにどのような目的で調査するのかを示した。また、各学校において水質調査を実施する場合の参考のために、章のはじめの表に校種ごとに実施するのに適した項目を示した。実際には、小学校では、特に予備知識がなくても内容が理解しやすく、操作が簡単であることが必要である。中学校においては、ある程度の理科的な知識の上に、内容を十分に説明しながら水質調査を実施することが必要である。高等学校においては、化学、生物等の科目を履修するので、ここに記載した項目についてはすべて実施可能である。しかし、授業時間内では収まらない場合もあり、学校行事やHRおよび理科クラブ等で実施することも想定している。
 また、本文中には項目ごとに初級・中級・上級を示しているが、これは実験方法の操作の難易度を中心に区分した。内容は比較的簡単なものでも、操作的に特に高度なものは上級に分類した。したがって、水質調査を初めて実施する場合には、初級を中心に選択すればよい。初級・中級等の両方が記載されているのは、同じ項目であっても分析方法が複数あり、その操作の難易度にも差があることを意味している。



目  次

1 はじめに ─────────────────────────────── 1
2 研究の目的 ────────────────────────────── 1
3 学校における環境教育の必要性 ───────────────────── 1
4 内容について ───────────────────────────── 2

第1章 分析・技術編 
1  水の色・におい・味 −水を感覚的に調べる   ────────────── 6
2  水のにごり(濁度)・透視度・透明度 ────────────────── 9
3  水温 ───────────────────────────────── 11
4  pH(水素イオン指数) ───────────────────────── 12
5  COD(化学的酸素要求量)・BOD(生物化学的酸素要求量) ───────── 14
6  アンモニア・亜硝酸性窒素・硝酸性窒素 ───────────────── 16
7  塩化物イオン ───────────────────────────── 19
8  リン酸イオン ───────────────────────────── 21
9  DO(溶存酸素) ──────────────────────────── 23
10 電気伝導度(導電率) ───────────────────────── 25
11 界面活性剤 ────────────────────────────── 26
12 硬度 ───────────────────────────────── 28
13 蒸発残留物 ────────────────────────────── 30
14 SS(懸濁物質、残留浮遊物) ────────────────────── 32
15 アルカリ度 ────────────────────────────── 33
16 全鉄 ───────────────────────────────── 35
17 全炭酸 ──────────────────────────────── 37
18 残留塩素 ─────────────────────────────── 38
19 一般細菌 ─────────────────────────────── 41
20 大腸菌群 ─────────────────────────────── 44
21 ケイ酸 ──────────────────────────────── 46

第2章 調査・実践編  
1  河川の調査(含実践例) ──────────────────────── 50
2  水中の生物と水の汚れ(含実践例) ─────────────────── 54
3  酸性雨を調べる(含実践例) ────────────────────── 61
4  生活排水を調べる(含実践例) ───────────────────── 63
5  自作標準比色管・簡易光電比色計による水質調査(含実践例) ─────── 66
6  コンピュータを使った水質調査 ───────────────────── 69
7  ミニ生態系を考える(含実践例) ──────────────────── 75


資料1 水環境施設の見学地
1 大阪府水道部 村野浄水場 ─────────────────────── 82
2 柴島浄水場 ────────────────────────────── 82
3 水道記念館 ────────────────────────────── 83
4 淀川左岸流域下水道 渚処理場 ───────────────────── 83
5 鴻池下水処理場 ──────────────────────────── 84
6 下水道科学館 ───────────────────────────── 84
7 背割下水見学施設 ─────────────────────────── 85
8 淀川資料館 ────────────────────────────── 85
9 大阪府立淡水魚試験場 ───────────────────────── 86
10 水産試験場および同付属栽培漁業センター ──────────────── 86
11 府営箕面公園昆虫館 ────────────────────────── 87
12 あくあぴあ芥川 ──────────────────────────── 87

資料2 調査表および参考資料
1 水道水の基準 ───────────────────────────── 90
2 水道のつくりかた ─────────────────────────── 91
3 汚水処理のしかた ─────────────────────────── 91
4 化学的水質調査記録用紙 ──────────────────────── 92
5 生物的水質調査記録用紙 ──────────────────────── 93
6 環境基準、目標値 ─────────────────────────── 94
7 主要河川および主要湖沼・内海の水質汚濁状況 ────────────── 95
8 酸性雨の状況 ───────────────────────────── 96
9 ダイオキシンとPCB ────────────────────────── 97

5 索引 ──────────────────────────────── 98

6 おわりに ──────────────────────────────101
 共同研究者・研究協力委員名 ──────────────────────101

 参考・引用文献 ────────────────────────────102



 大阪府内の公立小・中・高等学校には、1冊ずつ配布済みである。


 共同研究者・研究協力委員名
【研究担当者】  山本 勝博 (理科第一室 研究主担者)    ・平成7・8年度
         紺野  昇 (理科第一室)          ・平成7・8年度
         東   徹 (理科第一室)           ・平成8年度
         津崎  薫 (理科第二室)          ・平成7・8年度
         江坂 高志 (理科第二室)          ・平成8年度
         佐藤  昇 (理科第二室)          ・平成8年度

【研究協力委員】  小林 健人 (枚方市立小倉小学校)   ・平成7・8年度
          丸山みき代 (岸和田市立春木小学校)  ・平成7・8年度
          木村 貴 (堺市立金岡小学校)      ・平成8年度
          鳥海 重治 (富田林市立藤陽中学校)  ・平成7・8年度
          河合 博行 (堺市立福泉中学校)    ・平成7・8年度
          佐々木 啓 (大阪府立北淀高等学校)  ・平成7・8年度
          塩川 哲雄 (大阪府立磯島高等学校)  ・平成7・8年度
          橘 淳治 (大阪府立天王寺高等学校)  ・平成8年度