校長通信

2月24日(木) 雨のち晴れ  第29回卒業式
大阪府立金剛高等学校
第29回卒業証書授与式 式辞

 ひときわきびしかったこの冬の寒さも峠を越え、日ごと春の訪れを感じる今日、大阪府立金剛高等学校第29回卒業証書授与式を挙行するにあたり、大阪府教育委員会ご代表をはじめ、たくさんのご来賓のご臨席を賜りました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。
 また、保護者の皆様には、お子様のご卒業を心からお慶び申し上げます。心身ともに大きく成長する時期のお子様の健やかな成長を願いつつ、見守り支え続けて来られた保護者の皆様には、感慨もひとしおのことと拝察いたします。同時に、本校の教育方針、教育活動にご理解をいただき、ご支援下さいましたことに心より感謝申し上げます。

 三年生のみなさん、卒業ほんとうにおめでとうございます。
 元気な学年でした。始業式や終業式、その他いろんなことで前に立った時、いつも大きな声で挨拶を返してくれる人たちがいました。行事の時に、生徒会役員として前に立つ仲間や後輩たちに対しても、「がんばれ!」「よかった!」「ありがとう!」短いけれども、惜しみない労いや称賛の「掛け声」が飛んでいました。その言葉は人の心を明るく勇気づけてくれました。また、目立たないけれど、誠実に人の話に耳を傾ける人たちがいました。その眼差しは、人の心に安心と信頼をもたらしてくれました。
 体育祭でのリーダーシップ、文化祭での感動の舞台、みなしっかりと私の心に焼きついていますが、それにも増して、他者を認め、讃え、つながろうとするあなた方の姿勢を、すばらしいものだったと思います。

 さて、今、日本は、長引く不況による雇用の悪化や格差の拡大など大変きびしい状況にあります。また、人類が未だ体験したことのない「超高齢化社会」(それは65歳以上の高齢者の割合が21%を越える社会です)に、突入しました。日本の国の人口は毎年約30万人(中核都市一つ分ぐらい)の勢いで減り続けています。そうなると経済は縮小し、雇用は悪化し、経済的に子どもを持つ余裕のない人たちが増え、それがますます人口の減少に拍車をかけるという負のスパイラルに陥っていきます。この状態は「ジャパン・シンドローム」と呼ばれ、日本がどのようにしてこの危機を乗り越えるか、世界は固唾を飲んで見守っています。

 みなさんの前途に広がるのは、このようにきびしい状況です。でも、歴史を紐解けば、私たちの祖先は何度かたいへんな危機に遭遇してきました。「危機」という英語「クライシス(crisis)」は、「分かれ路」のことです。
 一例をあげれば、幕末という時代。一歩間違えば列強の植民地になっていたかもしれない危機的な状況の中から、体制を転換させる大きなエネルギーが生まれました。みんなのよく知っている坂本龍馬のような有名人以外にも、「分かれ路」で、国が破滅に向かわないよう必死の努力をした人々がたくさんいたことは言うまでもありません。学ぶべきは、危機に直面した人たちが意見を闘わせつつも、知恵と力を合わせて困難を乗り越え、新たな時代を創り上げてきたことです。そのために、必死で勉強したことです。

 人間には「所有欲求」と「存在欲求」があると言われています。「所有欲求」とは、文字通りモノを手に入れたい、所有したいという欲求です。「所有欲求」が充たされた時、人は「豊かさ」を実感します。第二次産業である製造業が仕事のメインであった高度成長時代、人々は、モノの豊かさを求め、この欲求を充たすために邁進しました。
 では「存在欲求」とは何でしょう。それは自分の存在を承認されたいという欲求、他者と信頼の絆で繋がりたいという欲求です。「存在欲求」が充たされた時、人は「幸せ」を実感じます。産業構造が大きく変わり、今は第三次産業であるサービス業、コミュニケーションワークスが仕事の主流です。マニュアルは通用せず、努力と工夫でがんばらなければならない仕事はストレスの多いものとなりました。が、同時に、直に相手のニーズや喜びに触れることのできる分、やりがいを実感でき、自分の「存在欲求」を充たしてくれるものともなりました。社会の成熟が、モノへの欲求から、自分の存在を確認する繋がりの欲求へと人の心のあり方を変えているのかもしれません。

 「所有欲求」と「存在欲求」この二つの欲求は時に、矛盾する感情となって現われます。冨を独占し、たくさんのモノを手に入れても、なお心の充たされない人がいます。逆に自分の取り分が減っても、人と分ち合えた時、限りない幸せを感じることもできます。それが人間です。
 だから、どんなにきびしい状況であっても、人は人のために、何かをしたいと願うのです。児童養護施設にランドセルを送る「タイガーマスク現象」が瞬く間に広がった時、その中には「失業中の伊達直人」という署名入りのプレゼントもあったといいます。今、苦しい状況にいる人も、いや苦しい状況にいるからこそ、人は人とつながり、苦難と希望を共有しようとするのです。
 福祉国家スウェーデンには「オムソーリ」という素敵なことばがあるそうです。「社会サービス」を意味するこのことばの原義は「悲しみの分かち合い」です。「悲しみを分かち合い」、「優しさを与え合」おうとする心がある限り、人は状況を変えるために知恵と力を寄せ合っていくことができるはずです。

 みなさんの生きる時代が、大きな転換期「分かれ路」にあることはまちがいありません。そこで必要とされるのは、学び続ける力です。そして人とつながる力です。互いを励まし、元気を呼ぶ素敵な「掛け声」をかけあって、多くの人とつながりながら、たくましく生きていってください。

 最後に、本日卒業証書を授与したすべての人の未来が、幸せなものとなることを心より願って、式辞といたします。

                            平成23年2月24日
                                金剛高校校長 前 比呂子 

↑ このページの最初へジャンプ ↑