音楽療法

坂本 美紀


 私がこのテーマに決めた理由は、自分自身ピアノで進学を目指していて音楽が身近にあったことと、その音楽でひとをたすけたりできるという事に関心を持ち、もっと深く知りたいと思ったからです。音楽療法といってもいろんな種類があります、例えば、普段の生活でたまったストレスの解消、気付かない内に耳にしている音楽も、癒しの音楽だったりします。そして、もっと医療の現場に近いところでは、病院や老人ホームなどで実際に、痴呆性老人(アルツハイマー)などの治療に音楽療法が使われています。例えば、音育療法というものがあります、これは、器楽演奏などによってお年寄りの孤独感を孤立化を防ぎ、身体や感覚の機能を回復しようという音楽療法の一つで、身障者にも応用できるユニークなリハビリテーションとして注目を浴びています。
最初は手をたたくことからスタートし、手を握ったり開いたり、足を踏み鳴らしたりしてリズム感を養い、身体機能の回復を図ります。その他に、腹式呼吸による発声練習も重要です、日頃は小声で話すことが多いお年寄りだけに大声を出すという事は、想像以上に気持ちがいいようです。ストレスの発散はもちろん、呼吸器官にもいい影響を与えるなどの効果があります。

 老人だけではありません、音楽療法は自閉症・ダウン症・脳性麻痺機能障害等の子供にも効果があるようです。実際に、私たちの普段の生活においても音楽療法が使われています。例えば、歯医者でのBGM。歯を削る機械音をマスキングするための使い方もありますが、恐怖感を和らげ、気分をリラックスさせるという音楽療法的な使い方も配慮されています。外科では、手術の前に音楽を聞く事によって、恐怖感や痛みを和らげ麻酔の使用量が少なくて済むという研究報告もあるそうです。

 このように、音楽の療法といっても幅広いのですが、音楽療法の身体や脳への影響、身近なヒーリングミュージック、私たちの生活の中で音楽療法などを主に研究し、深く知っていきたいと思います。


○ 老人ホームでの実習・見学

 私はこの夏休みに、老人ホームなどで音楽療法をボランティアで行っている「おたまじゃくし」というグループに、実習・見学といった形で参加させてもらいました。
 まず、老人ホームでの実習は思っていたものとは全く違うものでした。実習に行く前は、まだ頭の中に、「音楽療法とは対象者に演奏を聞かせるものだ」といった考え方が少しありました。でも、実際はそんな一方的な音楽療法は一切ありませんでした。すべて、みんなで一緒に活動するというものでした。

ここで私が参加させてもらった実習のプログラムを紹介いたします。

1)お年寄りとコミュニケーション
 一人一人の名前が書いてある名札を渡し、自分でつけられない人には着けてあげます。そして、布ボールを使ってキャッチボールをします。

2)おたまじゃくしの歌で開始
 「おたまじゃくし」というボランティアグループなので、「おたまじゃくし」の歌から始まります。

3)軽い運動
 音楽に合わせて、座ったまま足をトントン叩いたり、指を曲げたり伸ばしたりの軽い運動をします。

4)たなばたの歌
 実習にいったのが7月12日だったので、季節に合わせて「たなばた」の歌を歌います。

5)ことばあそび
 「はなののののはなはななぁに〜」という言葉遊びをします。スラスラ言えるようになったら「は」で手を叩く人、「な」で手を叩く人に分け
読みながら手を叩きます。

6)海の歌
 夏の歌を歌います。ハンドベルやトーンチャイムといった楽器にリボンで色分けして、コードごとに歌いながら鳴らします。どこで鳴らすかわかるように、前にはってある歌詞の横に、コードごとに色分けしてあります。楽器のリボンはその色に合わせています。

7)でんでん虫としょじょじのたぬきばやし
 この二つの歌はコード進行が同じなので、お年寄りを2つのグループに分けて同時に歌います。

8)シャボン玉の歌
 2〜3のグループにわけて、シャボン玉の歌を輪唱します。その後、シャボン玉をして遊びます。

9)おたまじゃくしの歌
 最後にもう一度おたまじゃくしの歌を流して終了です。

 以上が今回のプログラムです。

 老人ホームなどで音楽療法をやる場合、お年寄りは小さな子供のように感情で行動し、ちょっとした言葉や態度も気に障って怒ったりするので気を使わないといけません。
 あと、グループでやる場合いろんな性格の人がいるので、1人1人をちゃんと見て療法を行うことが大切です。例えば、今回の実習でシャボン玉をした時「私はいい」といって遠慮する人がいました。そんな時、その人も一緒に参加している気持ちになるように、「きれいですね」とか、「やってみませんか?」などと声をかけながら、代わりにシャボン玉をふいてあげたりしました。

 はじめに集合した時は静かだった人も、やって行くうちに元気になったりするのがわかってちょっと嬉しかったです。


○ホスピスでの末期患者への療法

 医療にはいろいろな治療法があります。例えば、薬物で治療する場合には薬物療法、そしてさらに細かくし、合成薬剤や化学物質で治療する、例えば、ガンや白血病など、そういう場合には化学療法や免疫療法が行われます。でも、ホスピスにいる患者たちはみんな、死を宣告された人たちばかりです。
自分の病名を知り、死期が近い事もわかっています。しかし、すべての人が自分の運命を受け入れている人ばかりではありません。ほとんどの人が、死に対する恐怖や不安を抱えています。そんな精神的な恐怖や不安を和らげてくれるのが音楽なのです。しかし、終期末の患者にどんな音楽を提供すれいいかということは、その人がこれまでの人生でどんな音楽教育を受けてきたか、どんな音楽を好んできたかを知らないと、最後の音楽を設定することができないといわれています。だから、その人が子どもの時にはどういう子守唄を聞いたか、小学校、中学校では何を歌ったか、ジャズ・ロック・管弦楽 そういった音楽を様々な年代別に思い出してもらい、そのうえで子どもの時の音楽から始めて、各年代での音楽を演奏してあげる。そのように音楽というメディアを使って、その人が自分の人生を振り返って、「私の生涯はこうだった。そして今、人生最後にはこの様に音楽に包まれて優しくケアされて死ぬんだ」というように、死をごく自然に受容できるように誘導する・・・ このようなことが行われているのです。

 実際、音楽を聞く事によって、死ぬ前の患者の呼吸が安らかになって、最後に聞いた音楽が、その人を非常に豊かにしたという事もおこっています。

 私たちは、今までは薬などで病気をコントロールしてきたわけですが、薬だけでは本当の心の癒しはなされず、これからは、音楽その他の、薬以外のメディアを使って、もっと全人的に患者をケアしなくてはならないと考えられています。
 末期患者の、薬では治められない痛みなども、音楽が持つヒーリング効果、 いわゆる癒しの力で和らげることもできます。


○ 海外における音楽療法

 現在、アメリカには3700名ほどの会員を持つ「AMTA(米国音楽療法協会)」という団体があります。元々は、1950年に設立された「NAMT」と、1971年に「NAMT」から分裂した「AAMT」という2つの協会が合併し直したものなのですが、約3700名の会員のうち、85%が女性、15%が男性と、日本と同じように女性がこの業界の大半を占めています。

 アメリカの音楽療法の雇用現状を見ると、まだ日本にはあまり見られない対象領域として、健常者がカウンセリングなどと同じ感覚で音楽療法を利用するという現状が出てきています。これは特にストレスを抱えた人々が多い大都市に見られる傾向ですが、音楽療法がより人々の間に浸透してきているという事が言えると思います。しかし、まだ日本と同じように、統計的には圧倒的に「高齢者/アルツハイマーや痴呆症」の患者を対象にしている音楽療法士の比率が多いです。これは、高齢化社会に伴った現象であると共に最近、医療保険で音楽療法に対する報酬が支払われるようになった事も大きな要因と思われます。

 アメリカの医療保険では、ケースマネージャーといわれる治療チームを管理する専門家(医者・ソーシャルワーカー・管理職セラピストなど)の承認を得れば、音楽療法の施療が保険によって一部まかなわれることがあります。承認を受ける際「CPT」というコードシステムが使用され、音楽療法が保険弁償されます。
 だから、アメリカの音楽療法士の働いている現場の一位は老人ホーム・二位が自己開業というもの、日本の現状と違って、保険弁償が保証されているからこそできる事であると思います。とはいっても、アメリカの音楽療法士の生活も決して楽なものではなく、年収統計を見てみると、範囲は15,000ドル(約180万円)〜90,000ドル(約1,070万円)で、平均すると31,755ドル(約380万円)となっています。

 アメリカには現在約70校の大学が、AMTAに認定された音楽療法士養成学科を持っています。学士コース・修士コース・博士コースとレベルは様々ですが、最低でも学士コースを卒業し、試験を受けて合格すればAMTAが認定する音楽療法士の資格を取得することができます。

 大学で教師が学生の成績評価を学期末につけるのは同じですが、アメリカでは学生たちも教師の評価をします。これは、大学の学部が義務付けているもので、授業の内容、説明のしかた、ペース、資料や教材の準備、適切さ、学生たちの質問に対する応対など、15項目くらいにわけて、学生が点数をつけていきます。
 この学生の教師に対する評価があまりに悪いと、公正な調査のあと、やめさせられることもあります。


○ニューヨーク大学・大学院の「音楽療法学科マスターコース」の履修科目

 ◎入学前に必要な履修科目
  ・発達心理学 ・異常心理学 ・臨床心理学  ・音楽理論  ・音楽史   ・ピアノ   ・ギター ・声楽  ・論文の書き方

 ◎ニューヨーク大学・大学院の「音楽療法学科マスターコース」の履修科目

  ・音楽理論(90時間)
   
   前期が児童から青少年、後期が成人から高齢者対象の音楽療法の理論を学びます。
   さまざまなモデルやアプローチの文献から、治療設定、構造、プログラムの組み立て方など、実践に即した事柄を身につけます。

  ・フィールドワーク実習(実践200時間以上 セミナー60時間)

   これは1年目の実習家庭で、現場に出て先輩のセラピストの下で修行を行います。
   アシスタントから初めて、週に1時間のスーパービジョンを受けながら、だんだんメインのセラピストとして、クライエントの治療を任されてい   きます。

  ・即興(120時間)

   まず、今までの自分が持っている「音楽」という固定観念を開放し、どれだけ自分の感情を、音や音楽に詫す事が出来るか、表
   現することができるか、ということを体得していく授業です。
   時には体を動かしたり、詩を創ったりなど、「人間の身体が音楽で出来ている」ということを感じることが出来る授業です。

  ・声の即興(30時間)

   自分の身体を楽器として、声というより一番原始的な音楽表現方法を模索します。呼吸法から自分の身体の認識など、発声とか
   歌を上図に唄う、などといったことに縛られない自分の声と身体の感情表現の可能性を探
   ります。

  ・ミュージックセラピーグループ(60時間)

   学生が実際にクライエントになって、グループ音楽療法を受けるという体験をします。
   即興を中心としたアプローチがメインですが、言語を使ったコミュニケーションも模索されます。自分が音楽療法を受けるという体験
   を通して、何を感じるのか、事細かな記録をつけ、それを提出することで、言葉にならない感覚的なものを言語化するトレーニングに
   も結びついていきます。

  ・心理療法理論(30時間)

   さまざまな心理療法モデル、アプローチや歴史を学び、それがどのように音楽療法に結びついているか検証します。後期には自分
   独特の音楽療法理論を展開、確立させる授業もあります。

  ・インターシップ実習(実践90時間以上 セミナー60時間)

   実際に現場に出て、スーパーヴィジョンを受けながら、他の音楽療法士と同じように治療にあたります。セミナーでは、毎週のセッ
   ションを細かく記録し、現場の実践で出てくる様々な悩みをディスカッションします。

  ・グループダイナミックス(理論30時間 実践30時間)

  ・選択科目(GIM・ノードフ=ロビンズ音楽療法・絵画療法・ダンス療法・その他60〜90時間)


 これらが、音楽療法学科マスターコースの履修科目です。ほとんどが即興の厳しいトレーニングだそうです。音楽療法は学ぶだけでは仕事として出来ないので、実践・実習時間はものすごく多いです。


○ 音楽療法の資格

「全日本音楽療法連盟とは」

 1995年4月に「日本バイオミュージック学会」と「臨床音楽療法協会の二つの団体が手を結んで作った音楽療法の全国組織です。会長の日野原重明氏を中心に、5年間に渡って活動を続けてきましたが、2001年4月から「日本音楽療法学会」として発足することになりました。両団体の会員を合わせると、3500人以上の大きな団体となります。

 日本バイオミュージック学会は、1986年に研究会として発足し、音楽が私たちの心身に与える影響について科学的に検証しようという目的で研究活動を進めてきました。どちらかというと医療系の人が中心となっていました。一方、臨床音楽療法協会は、1995年3月に発足し、臨床的な研修を中心に多彩な活動を展開してきました。しかし、両団体の共通の目的である国家資格や医療保険点数の取得のためには、国内に団体が2つあることは何かと不便や支障を生じることから連盟を結成し、そしてさらに文字通りの統一を成し遂げ、新たな組織として歩むことになったのです。

 連盟の今の主な活動は、研究大会・研究誌の発行・国際交流事業・国家資格制度化の推進などがあります。特に、国家資格制度化の推進については現在、国会議員や厚生省と連絡をとり合って、少しずつ問題点をつめている段階です。国会内の動きにもよりますが、1〜2年が目途と思われています。しかし、立法化されても実施にいたるまでには、なお、2〜3年の準備期間を要するので、まだまだ道のり遠く、保険点数取得にいたるまでには数年以上かかるだろうといわれています。


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