活動記録

Report

<特別プログラム>
国際文化科1年SGH講演会

SGH Lecture for the first-year International-course students

2018年7月6日

July 6, 2018

国際文化科1年SGH講演会

大阪大学大学院国際公共政策研究科の猪口絢子さんを講師にお招きし、国際文化科1年生を対象に講演会『暴力と戦う規範を育てる』を実施しました。 「平和的な共存」の対極にあるのが「暴力による抑圧」。この暴力と戦うための武器となるのが国際的な「規範」です。このような規範を市民と企業がどのように育てるか。その意義と可能性が今回の講演のメインテーマです。 Ms. Ayako Inokuchi from Osaka School of International Public Policy (OSIPP) gave a lecture to our first-year students. At the opposite extreme of peaceful coexistence is suppression by violence. A weapon to fight against this violence is the international norms. How can citizens and enterprises establish them? What is their importance and potential?

講師には、大阪大学国際公共政策研究科(OSIPP) 博士後期課程1年生の猪口絢子さんをお迎えしました。猪口さんは、上記のテーマを研究課題として、ルワンダでの現地調査を敢行されました。また、国際関係学の分野で高い評価を受けているとされるイギリスのエセックス大学の修士課程に1年間留学もされました。今回は、①研究の紹介、②暴力の抑制のために企業ができること、市民ができること、③留学の経験についてお話いただくようお願いしました。

写真1

講演の内容と講演後アンケートの主な回答を掲載します。

《講演の主な内容》

・「紛争鉱物」について短く説明したビデオConflict Minerals 2018 Update (by Enough Project. https://youtu.be/6aJxfEkSiPg)の上映ののち講演開始

1 自己紹介

1.1 福岡の県立高校から大阪大学法学部国際公共政策学科、大阪大学国際公共政策研究科博士前期課程、University of Essex修士課程、大阪大学国際公共政策研究科博士後期課程へ

1.2 大学院生の日常

1.3 研究について

1.3.1 国際関係論の研究者

1.3.2 やっていること:国家や人々の行動を決める要因(主に規範の発展)を分析。

1.3.3 目指していること:暴力の抑制・国際政治における市民や企業の力の再評価

1.3.4 研究方法:文献調査+関係者にインタビュー+統計も頑張りたい・・・

写真2

2 紛争とビジネス

2.1 紛争の状況:第2次世界大戦後も内戦・国際化した内戦が依然として多い。アジア・アフリカで多い。コンゴ内戦での死者数が500万人以上と抜きん出て多い。

2.2 紛争鉱物とコンゴ民主共和国:コンゴの人々の資源は収奪・密輸され、武装勢力やコンゴ政府高官・ルワンダ政府の利益にされた。米・EUにより紛争鉱物規制法が制定された。

2.3 死海コスメとパレスチナ紛争:国際法上違法な入植地で生産されたコスメの購入は、イスラエルの違法行為の肯定を意味するため不買運動が広がった。EUは違法な入植地で生産された商品についてラベルを貼る法律を制定した。

2.4 タコと西サハラ紛争:西サハラの人々の海からとれる海洋資源をモロッコ産として輸出している。

写真3

3 ビジネスと規範

3.1 規範とは何か:規範は国家や人の行動を変える力がある。

3.2 企業と人権:2011年「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で承認された。人権を尊重する企業の責任を規定した。

3.3 規範を使って暴力と戦う:コンゴ・パレスチナ・西サハラでは、「国際規範を使って問題を提起・権利を主張する」という戦い方がされた。成果が出たケースもある。

写真4

4 市民社会の責任

4.1 沈黙は現状の肯定

4.1.1 圧倒的に力関係に差があるとき、「中立」や沈黙は強者に味方することになる。

4.1.2 ビジネスにまつわる暴力に対して、市民にできることは?

4.2 市民社会にできること

4.2.1 暴力を続ける国家・企業に対して・・・

  • 国内法・国際法・国際基準を武器に戦う(批判の根拠にする)
  • 良い監視役になる(NGOや個人として)
  • 企業イメージに訴える「naming and shaming」

こうして、広く受け入れられる人権規範を育てていく

4.3 規範が成長すれば、企業や社会は変わる

4.3.1 当事者の声、国際法規範、海外の企業規範が日本企業の行動を改めた例が出てきている。

4.3.2 国際法以外にもFIFA憲章やオリンピック憲章で人権を守る規範作りが行われている。

写真5

《講演後の質疑応答》

ルワンダでの調査について教えてください。

  • コンゴの研究をしているが、コンゴは紛争が続いていて危険。そのため隣国のルワンダで調査をした。
  • 英語とフランス語で話し、ルワンダ人の友達に通訳をしてもらった。
  • ルワンダは、ごはんもおいしいし、人もあったかい。魅力的な所だ。写真のようにスーパーの中は日本と変わらない。
  • インタビューで気をつけたことは、相手のプライバシーを守ること。インタビューの内容は個人が特定されないように記述する。また、相手を尊重することも大切。「相手の国や人々の努力を高く評価している」という姿勢で、ルワンダの政府に研究目的を説明した。また、同じ姿勢でインタビューにも臨んだ。
写真6

《講演後アンケート(記述式)への主な回答》

Q.1 世界の現状について、知らなかったことで大切だと思うのはどんなことですか。

① 日本で比較的よく報道されていた紛争は世界的に見たら小さく、大きな紛争でも日本で報道されず見えていないものがあるということ。

商品を買うことで気づかない間に自分も違反に加担していること。自分が悪いことをしていたら、それをやめればいいけど、知らない間に加担しているのが一番怖いと思った。

条約や国際的なルールが何のためにあるのかを、今まで知りませんでした。批判や説得のための根拠になり、そのおかげで救われる人がいると知って、より興味が湧きました。

④ 規範が、これほど大切な役割を持つことに驚いた。レゴランドの例では、国際・国内法に基づいて根拠のある批判をすることで伝わるんだなと思った。

行動に移すこと、良い監視役になること。

Q.2 上記の他に、覚えておきたいと思ったキーワードとその理由は?

「中立」は、力に差がある場合には結果として強いものに味方しているのと同じ。―その通りだと思った。私たちが買い物をしている中で、無意識のうちに強い者に味方しているかもしれないと思った。

「悪事に加わっている(可能性がある)」:私たちが買って使っているスマホなどが違法なものからできている(可能性がある)ということは初めて知ったし、自分がその悪事に加わっている(可能性がある)ことに驚いた。

「沈黙は現状の肯定」:何も知らずに買っていることは実はその問題を肯定しているということを知って驚いた。

「アンテナを張っておく」:それによって自分が本当にやりたいことを知ることができると思った。

「行動に移す」:考えているだけで行動に移さなければ意味がない。人権規範を育てることで何か必ず変わることがあるから、そういう意識を持って行動すること

「ホテル ルワンダ」:観てみたいと思った。私もそのような、人生に影響を受けるものに出会いたいと思いました。

Q.3 あなたが生きて行く上で「勉強になった」と思うことはどんなことですか?

① いつもテレビで見ているだけの狭い範囲でしか世界を知らないし、本当にわかっていないんだなと思い、衝撃を受けました。

② 日本では人権は普通にあるし、町を歩いていて殺されることはないけれど〔教員注:就きたい職業に就けなかったり、家計が苦しくて大学進学を諦めたり、子どもが虐待をうけて死んだり、障害者施設で無差別殺人があったりすることは、頭に置いておいてください。〕、世界では人権がなかったり、殺されたりする国があることを知った。私たちの環境をより大切にしたいと思いました。

インタビューをするときには、相手のことを尊重したり人権を守ったりすることが大切だとわかりました。

思ったことはしっかり形にして表現し、伝えること。

私たち個人でもSNSなどを活用することによって、ビジネスの暴力の抑制に加わることができると知り、ささやかなことでも始めていくべきだと思うことができたこと。「企業イメージに訴える」ことが効果的。

様々なことに挑戦しようと思えた。はやく自分の仕事にしたいことを見つけたい。

⑦ 今いる場所で満足するのではなく、新しい場所へ恐れず踏み込んでみることで良いことが待っているとおっしゃっていたので、私も一歩踏み出そうと思った。

⑧ 私は、将来、発展途上国で先生になりたいと思っていました。しかし、それには勉強量もすごく多くなるし、自分には無理だと思っていましたが、お話を聞いて私も猪口さんのような人になりたいと思うことができました。