校長だより

畑中校長

 ホームページを通じて、もっと吹田高校のことをみなさんに知っていただき、 またみなさんのご意見もお聞きするために、校長の目から見た吹田高校の姿や、私が日々感じていることを「校長だより」という形で掲載いたします。みなさんの感想もお待ちしています。

 「校長だより」や吹田高校全般に関するご意見質問などは下記のメールアドレスまでお送り下さい。

  z-suita@sbox.osaka-c.ed.jp

 なお、お送りいただいたメールはこのホームページで公開することもあります。 公開する場合も原則として匿名ですが、非公開を望まれる方はその旨お書きください。

平成23年3月16日      畑中校長だより 第57号

3学期 終業式式辞

― 祈りだけでなく ―

 お早うございます。3年生もいなくなってやや寂しい状況の中での集会ですが、進級する君たちにとって今年度の締めくくりの話ですので、よく聞いてください。

 先週の3月11日、午後2時46分頃、日本で未だ観測されたことのないマグニチュード9.0という規模の巨大地震が東北地方の三陸沖で発生し、津波の襲来とともに東日本一帯に甚大な被害をもたらしました。先ずは、犠牲となった多数の方々のために、皆で黙祷をささげたいと思います。

  (黙祷)………………………………………………………………………………………

 先月、南半球のニュージーランドで大地震があったばかりなのですが、今度は日本で。テレビを見つめていると、日々の人間の暮らしも、最新の科学技術も、地球の巨大なエネルギーの放出によって圧倒され、あっという間に海からの濁流に呑み込まれていくように思えました。「壊滅的」という言葉をニュースの中で何度聴いたことでしょう。さらに、原子力発電所での緊急事態を含めて、この重大な危機は現在も進行中です。

 今から約70年前、君たちのお父さん、お母さんのそのまたお父さん、お母さんの時代、世界は大きな戦争の時代でした。その後今日まで、日本人は戦争の惨禍を教訓とし、必死の努力で平和を維持することができました。ところが、16年前、お父さん、お母さんの時代で君たちの人生の始まりの頃に、阪神・淡路大震災が起こり、6000人をはるかに超える犠牲者が出ました。永く平和を守ることも大変に難しいことですが、こうした大きな自然災害は、人間の一生の中で誰もが避けられないことなのです。とりわけ「国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもの」(寺田寅彦)とたとえられる日本では。今回の「東日本大震災」は、菅総理が談話の中で使った「国難」という言葉がぴったりと当てはまります。

 今も被災地では、助けを求め、ともに生きようとする人々、また、助けようとし、危機に臨んでこれ以上被害を大きくしないよう、懸命になっている人々が大勢います。人間は、一人ひとりはもろいけれど、協力とつながりの力で困難を乗り越えます。多くの現場がぎりぎりのところで崇高な人間性を発揮していることを知る時、私は涙が出そうとなるのを精一杯こらえます。皆が心を強く持つために、先ほどの祈りから、困難に対して戦っている人々を可能な限りの正しい方法で支援する行動に移りましょう。

 これは日本全体の試練であり、助け合わねばなりません。物と心の両面で、苦難を分かち合う覚悟がいります。加えて、冷静さがとても重要です。たとえば、私の家族にもあったのですが、東日本に電力を送るために関西でも節電しようというチェーンメールが流れているとも聞きます。しかし、実際は関西(60Hz)と東京電力等の周波数(50Hz)が異なるため、電力融通量は限定的となるそうです。むしろ、大切な通信回線を塞がないためにも、チェーンメールは回さないのが鉄則です。確かに、私たちにもできることが何かあるはずです。その時と場合を冷静に判断して、一人ひとりが、誰かのためにできることを考えて自らやる(行動する)、それが世の中で求められています。

 吹田高校では、1年生は今年の秋、東北地方(秋田県)への修学旅行を予定しています。10月にはいくらか落ち着いているであろう東北の一角を訪れ、現地の自然と人々から何かを感じ、もし、何か役に立つことがあればやってきてほしいとも思います。2年生も、3年に進級して、来年には社会に出る立場です。離れたところからでも思いを届ける方法があると思います。人の世への責任を若い君たちも果たしてくれることを期待しています。

平成23年3月8日      畑中校長だより 第56号

高 博 連 携

― 人の縁と地の縁と ―

 平成23年3月4日、吹田高等学校は吹田市立博物館(小山修三館長)と「高博連携」に関する包括協定を結びました。
 その締結式で、私は以下のような挨拶をさせていただきました。


 吹田高校校長の畑中です。この度は、関係者の皆様のご理解を得て、吹田市立博物館との間で前例のない「高博連携」協定を締結できますことに、感謝と将来の展望に大きな期待を表明したいと思っております。

 私事で恐縮ですが、私が初めてこの博物館の存在を知ったのは今から約5年前、まだ吹田に来る前の学校で、今日も会場にお見えのH先生と出会ったのが縁でした。地学がご専門のH先生からは、館の前に露出しているピンク火山灰層のことなどを教えられました。その後、偶然、吹田に赴任することとなり、博物館にも見学に来て、高校としてどのように活用すべきかを考えてみましたが、当時はよいアイデアが浮かびませんでした。

 次にやって来たきっかけは、本年度(22年度)、私が吹田市の社会教育委員になったことです。幸いそのメンバーである吹田市音楽連盟のKさんは、本校の元PTA会長でもあったという縁もあり、ともに本市の様々な社会教育施設を巡る機会に恵まれました。この博物館でも、学芸員の方のご案内でバックヤードを見たり、小山修三さんというユニークな考えをお持ちの館長がおられることや、高校生の利用者を何とか増やしたいという博物館側のニーズを知りました。また、昨年夏には博物館の特別展に関わって、オープニングイベントや「吹田くわい」の発表で、本校家庭科部の「くわいガールズ」が協力することもできました。

 私は本校の教育の質を向上させるためには、このような人のつながりや縁、また、地域社会とのつながりや縁【地縁】をきっかけとして、地域連携によるイノベーションを生み出すことが大変重要であると考えています。博物館から歩いて実測13分の近さにある吹田高校は、「吹田から世の中へ」をスローガンとして、グローバルな視野とローカルな活動力をもった生徒を育てる『グローカル・スクール』を目差している学校であり、地域にある素晴らしい社会教育施設との連携協定締結は、そのための大切なプログラムであると言えます。

 最後に、この協定を出発点として、吹田市立博物館(すいはく)と吹田高校(すいこう)、延いては市内の府立高校とが活発に交流、利用し、お互いの発展につながりますよう、また、「博学連携」の新しいモデルとなりますことを願って、挨拶に代えさせていただきます。


 博物館3階の講座室で行われた協定書の締結式は、市の広報担当者による撮影等も入って少々晴れがましいものでした。その後、座席を□の字形に変えて、一同がこれからの活動計画や連携について話し合う懇談会。博物館側からの出席者(国立民俗学博物館教授、地元小学校長、市民代表の方々等からなる「すいはく運営協議委員」)と本校関係者(学校協議会委員、PTA・鳳志会・教員の各代表者)、計22名全員が活発な意見交換を行いました。

 博物館を「知的な遊戯場」と呼び、みんなが楽しめるものになってほしいという小山館長。対する吹田高校は、23年度から新たに開設する『こども未来専門コース』において、「地域社会研究」という授業で「すいはく」から支援を受けるだけではなく、クラブ活動を含めて、多彩な企画に生徒が参加することで博物館の新しい形づくりにも貢献できる可能性をもっている。元々、ミュージアムの語源となったムーサイは、ギリシア神話で音楽・舞踏・学術・文芸等、人間のあらゆる知的活動を司る女神たちなのだから、連携の間口は広いはずと私は考えています。

 式も懇談も終わった後、早速、学芸員の方と本校担当教員との間で、春の万博展への本校の参画について、協議がもたれました。すべてはこれからですが、「吹高(すいこう)」と「吹博(すいはく)」のコラボがどう発展するか、楽しみの増えた一日でした。
  大阪府立吹田高等学校と吹田市立博物館との「高博連携」に関する包括協定書

平成23年2月28日      畑中校長だより 第55号

卒業式 式辞


 季節がいよいよ春へと向かうこのよき日に、大阪府立吹田高等学校 第五九回 卒業式を挙行いたしましたところ、公私ご多用にも係わりませず、大阪府教育委員会 ご代表 様、大阪府議会議員 上の和明 様、同じく三浦寿子 様、地元の吹田市立各中学校の校長先生、さらにはPTAを始め、本校が常日頃よりお世話になっております多数の皆様のご臨席を賜り、心から厚く御礼申し上げます。

 保護者の皆様。お子様のご卒業、誠におめでとうございます。皆様方がこの日を迎えるまでに注がれました愛情とご苦労に立派に報いて、お子様達は栄えある卒業を勝ち取られました。ここにご報告と心よりお祝いを申し上げますとともに、この間、本校に寄せられました多大のご支援に対し、学校を代表して深く感謝を申し上げます。

 そして、第五九期生の皆さん。今し方、君たち二八四名に対して卒業証書を授与いたしました。本当におめでとう。卒業するんだという目標が皆に真剣さを生み、卒業できるんだという希望が君たちの表情に明るさを与えているのを見て、私は今更ながら高校を「卒業する」ということの大きな意味を感じております。一人ひとりにとってはそれぞれに特別な三年間、おそらく小さくはない山と谷が誰しもにあったはずです。それらを乗り越えた今、私は君たちが吹田高校の求める学業を達成した証しとして、人間の価値に差がないように全てを等しい一枚の紙に託し、先ほど卒業証書を授与しました。

 思い返せば、三年前の皆さんの入学は自分自身も吹高に着任した時。それからの時間を共有してきただけでも、私には大変に感慨深いものがあります。大切でない思い出は一つもないのですが、記念すべきことというなら、やはり先ず二年生の時の台湾への修学旅行をあげておきたい。それは、一年生の時から周到に国際交流の準備を進めてきた本校で初めての海外修学旅行でした。本番は、折からの新型インフルエンザの流行のピークとも重なって、物々しいほどの備えをして臨んだ緊張感で一杯の行事でした。参加者全員が関西空港に戻ってくるまで、少しの油断もできなかったことを今も覚えています。

 それでも、台湾は本当に楽しかった。三泊四日にしては欲張りすぎたくらいのプランが、旅の充実感を一層高めたようにも思いますし、現地で出会った高校生や大学生、台北の市街で触れ合った人々との交流は、グローバル化の時代に生きている君たちの国際感覚にきっとよい刺激を与えたはずです。そうした経験は、三年になって「総合的な学習の時間」に行った、自分達ができる国際貢献策についての討議と発表や、厳しい生活条件の中で必死に努力しているネパ―ルのHAPPY GIRL’S HOMEの同世代の若者との連帯にもつながりました。現在の地球にある災害や貧困といった問題に対して、国際協力と支援に具体的に関わったのも五九期生ならでは大きな成果だったと思います。

 現在、本館の玄関には修学旅行で交流した台北市立華江高級中学から贈られた記念品の額が掛けられています。その中には東アジア温帯固有の果樹である柿の実の装飾と、プレートには「友誼長存」の文字が記されています。学名に(ケー・エー・ケー・アイ)kakiとあるぐらいで、カキは世界中に通用する果実の名だそうです。世界につながる連帯と友情をどうか永く保ち続けてほしいと心から念願しています。

 また、この三年間は、本校が創立六十年記念事業に取り組んだ期間でもありました。この会場でも使っている音響機器、トレーニングルームと、「くわいホール」と命名された視聴覚室の整備は、この事業によってもたらされた成果であって、すでに大いに活用されています。これらが将来の吹田高校への形のある財産であるとすれば、事業を進める中で派生してきた「ダンスパーティ」の企画は、現在の吹田高校の姿勢を生き生きと示す無形の財産となったといえます。高校が社交ダンスを取り入れること自体、全国でもとても珍しいものです。授業の一環として練習した成果を地域の人々に披露し、併せて交流を深めながら、大人としてのマナーや態度を学ぶ、さらに「成人になるために」という目標で学年全体の取組にも発展して行く素敵な企画でした。五九期生は、六十周年の節目に相応しく、グローバルな視野とローカルな活動力を育てることを目差す吹田高校教育のさきがけとなった、大変積極的な学年であったとして、永く記憶に留めたいと考えています。

 私は、世の中への旅立ちとなる卒業式において、本校の歴史のなかで育まれ、先輩から受け継いできた魂ともいえる言葉をこれまでも忘れないように話してきました。今年もまた、君たちへのはなむけとしてその言葉を贈りたいと思います。その言葉は、「ナニクソ」という感動詞です。

 この表現を、辞書は「くじけまいとして、気持ちを奮い立たせるときに発する」言葉と説明しています。私は以前、同窓会である「鳳志会」の先輩から偶然に伺って以来、これぞ本校が受け継いでいくべき魂を宿す言葉と信じ、また、時には自分自身の心の中の叫びとして、何かに耐える力をもらってきました。皆さんが卒業後に世の中の困難と直面して、絶えざる変容と対応を求められた時、まさに必要なのがこの「ナニクソ」という言葉の力です。

 本校では、今年度も保存会のご協力のもと、郷土の伝統野菜である「吹田くわい」の栽培や調理に取り組み、ささやかながら地域に貢献する教育活動として、その普及にも関わってきました。昨年の暮れのことです。校内に造った「くわいの池」で初めて収穫した一粒のくわいが校長室に運ばれてきました。未だ成長しきっていない、貧弱としか言えないそのくわいを、私はとにかくこの冬の間、入れ物に水だけは絶やさずただ置いておきました。新年が明けてからのある時、ふと見るとその小さな粒から角のように鋭い芽がしっかりと伸びているのです。吹田くわいは、名前のとおり吹田原産とされている植物であり、その特色は環境の影響をまともに受ける野生でもなく、人間の都合のよいように品種改良された栽培でもない「半栽培植物」という点にあります。鋭いくわいの芽は、「ナニクソ」という反骨心、本校の魂をそのままイメージしているように私には見えました。吹田高校の歴史から生まれ、受け継がれた伝統の中にも、新しい時代を生き抜くためのDNAが宿り、将来、くわいの芽のごとく世の中に現れる力が潜んでいると信じております。

 よく言われることですが、今後の世の中では、グローバル化とIT革命の流れはどちらも止まりません。さらに、ごく最近のチュニジアやエジプトやリビアでの変動を見れば、グローバル化とIT革命は、民主化というもう一つの大きな波を世界中に広げているように見えます。こうした急速で大きな変化が起きる世の中では、何が正解かがわからない。吸収した過去の知識だけでは足りない。自ら考えるしかない。これからは豊かな教養に加えて、熱意と意欲をもって、行動し、伝え、受け取って、他者と協調するコミュニケーション力をもった人材が求められる。これらは社会人基礎力と呼ばれますが、吹田高校が「元気力・行動力・人間力」という標語の下で育てようとしてきたのはまさにそうした力なのです。

 ここでもう一つ、別の言葉の話をしましょう。それは、「人はだれでもさよならをいうときには希望をいだく」という詩人 寺山修司の言葉です。その意味は、「さよなら」は単に過去を「捨てること」ではない。むしろ、「さよなら」を言えた時、人は次の自分のあるべき姿を描けるのだということです。

 先に、これからの社会が先の読めないようなきびしい状況であることに触れました。仮に、将来の見通しが全くつかないお先真っ暗のような状態であるとしても、私は、若い君たちの可能性の中に、これからの社会を照らす希望の光を見出したいといつも考えています。今日の卒業式のために、君たちが一年生の時に本校の教頭であった片岡先生が会場に来られています。毎朝、校門に立って登校する吹高生に挨拶をする片岡先生はよく「この子らは吹田高校の宝ですわ。」と言っていました。本校で三年、私もまた登校してくる君たち、グラウンドで走る君たち、地域で様々に活動する君たちの姿を見て、同じように思うようになりました。君たちこそ、吹田高校の宝です。皆さんが、自分のもつ可能性を一杯に拡げるためには、世の中に出て、困難に立ち向かいながらも誠実に戦う人々に出会う必要があります。そうした大人たちに憧れ、過去の自分に「さよなら」を告げて、あるべき自分を目指す力強い行動を始める時、世の暗がりの先に明るい光がさして来る、その時を信じて我らが母校からの応援を続けたいと思っています。

 振りかえれば、あっという間のような三年間が過ぎ去りました。昨日、皆さんに渡された卒業アルバムをほとんどの人が暫くじっと眺めたことでしょう。『MEMORIES』というタイトルの付いた紺色の表紙を開くと、懐かしい顔、楽しそうな顔、少し緊張した顔、そして生き生きした顔が一編に目に飛び込んできます。実社会での忙しい生活の中では、どうしようもなく疲れてしまう時が、人間ですから誰にでもあると思います。あるいは、大人になり、様々な人生の岐路に立った時には、心のアルバムも開いて母校での思い出を上手に取り出してください。青年期までの経験や思い出に励まされたり、勇気を与えられたりすることがきっとあるはずです。

 最後となりましたが、本日、ご多用中にも係わりませずご臨席を賜りましたご来賓の皆様、並びに保護者の皆様におかれましては、今後とも卒業生に対するご支援をいただきますよう、また併せて、本校がその社会的使命を全うし、将来ますますの発展充実が叶いますよう、重ねてご指導のほどお願い申し上げます。

 結びに、「吹田から世の中へ」旅立つ卒業生の前途に幸多かれと祈念して、式辞とします。

   平成二十三年二月二十五日
大 阪 府 立 吹 田 高 等 学 校
校  長   畑 中  利 明

平成23年2月23日      畑中校長だより 第54号

坦々と過ぎゆく時間(とき)

― 放課後の情景から ―

 2月第3週、天気は大きく変わりました。週初めの月曜日は大雪、半ばの水曜日が光のあふれる晴れで、次の木曜の夜から金曜の朝にかけては、グラウンドの土がたっぷり水を含むほどの雨に。週末の19日(土)は、二十四節気の一つ「雨水」です。

 先週末、本校で久々に見られた雪景色(11日撮影)がホームページ上で紹介されています。とくにトップページの校舎風景は、グラウンド上の定点から撮影して、吹田高校の第一印象を季節の移ろいでお見せするもの。春夏秋はすでによい写真があるのに、冬らしい景色だけがこれまでなかなか用意できませんでした。この雪の到来は、四季を撮る待望の機会でもありました。

  それが明けて今週、またしても雪。ひとひら、ひとひらが大きい春雪で、最初、地面ですぐに融けていたものが、授業が終わる頃には雪の勢いが勝って、屋外の何もかもがあれよあれよと白く変わっていきます。玄関で見ている私の前を、いつもなら真っ先にグラウンドに集まるはずの野球部員たちが、降りしきる雪に追われるように一目散で校舎内での練習場所へ。と、代わって表に出てきたのは二人の女子生徒で写真部員。雪にまみれるのを厭う素振りもなく、別々にグラウンドやら植え込みやらを撮りまくる。
 ユキニモマケズ サムサニモマケズ ― そんな文句が思わず浮かんできました。(彼女らの撮った写真10作品は、『突然の雪景色! ― つかの間だったけど・・・』というテーマで、現在、本館2階の写真部展示スペースに飾られています) 

 雪の消えた水曜日の放課後。窓にかかるブラインドの隙間からは、陽光の明るさと、左から右の方向に体操服姿で黙々と、黙々と走っていく生徒たちが見えます。グラウンドを周回する体育の持久走補講。そう言えば昼間は、窓の外で紅く咲きこぼれるサザンカ(山茶花)の枝葉が微かに揺れたかと思うと、中からメジロがつがいで飛び出してくる、そんな場面にも出会いました。春に向かう3学期終盤の光景です。

 そして屋内、「くわいホール」では第1回の吹奏楽部定期演奏会。3年生にとっては最後の舞台でもあり、担任や部員の保護者の方々、そして部のOBらも集まって温かい雰囲気のコンサートになりました。先日、PTAから寄付いただいたばかりのチューバも使った全8曲にアンコール1曲を加えた演奏を披露。終わりの挨拶に立った元部長のN君の晴れ晴れとした表情も印象的でした。彼曰く、先輩がたった一人の状態から始まり、これまでには少人数ならではの苦労があって、お互いの仲のよさがあって・・・。その活動を受け継いでいく1・2年生も明日からは学年末考査一週間前。しばし停止の期間に入ります。

 夜には雨との予報があった木曜日の放課後。1年間を振りかえる第2回学校保健委員会が行われました。学校医・歯科医・薬剤師の先生方、PTA保健厚生委員会の保護者様、生徒保健委員会から各学年代表者、さらには保健部以下の教職員が集まる大切な会議です。冒頭、私の方から12月に車椅子で復帰した生徒を学校全体で受け入れていることに触れ、その後は、校内美化活動から、今季の花粉症、各種環境衛生検査の結果、安全点検や保健室の利用状況まで、次々と報告があり、三師の先生方へ聞きたいことについて活発な質問が出ます。健康や安全安心に関わる検証が真剣に行なわれ、予定の時間があっという間に過ぎてしまいました。

 会議の中で、夏と冬の2回、教室内の空気環境検査をお願いしている薬剤師のK先生が、車椅子の生徒を迎え入れた後に来られた最近の学校の印象を「生徒が成長しましたね」とおっしゃっていました。今週、私がもっとも心に残った言葉でした。

平成23年2月17日      畑中校長だより 第53号

ビー フリー !!


 その日(2月10日)、私は午前中、大阪市内の「あびこ」にある大阪府教育センターへの出張があり、学校に着いたのは午後2時を10分ほど回っていました。本当のところもっと早く戻って来たかったのですが、目の前で電車もバスも出てしまい、やむを得ずという結果です。それはともかく、帰校の目的であった1年生人権学習はすでに始まっていました。

 この度、学年が掲げたテーマは「障がい者理解」。そのため、「福祉情報センター・共働事業所 b−free」の12名のスタッフが講師となり、介助者の方8名とともに1組から8組までの各教室に入って、それぞれの過去の経験や現在の生活などについてお話しをしていただくという内容です。この「各教室で」という実施形態が今回のポイントでした。

 すぐに中央館1階の1年HR教室の方に向かい、階段の下の角を曲がって、廊下の手前から奥を見渡したとたん、私は明らかにいつもとは違う雰囲気を感じました。人影のない廊下なので、おかしな言い方ではあるのですが、いわゆる「水を打ったよう」なという感じ。どのHR教室の中でも誰かの話を聞いている気配がわかるのです。

 ただならぬ雰囲気と途中からというので、どの教室のドアも開けるのはためらわれたのですが、思い切って2組の後ろの方から中に入ることにしました。室内は、すでに廊下で感じられたとおりの静かで和やかな状景でした。前方には車椅子に座ったKさんと介助の方。その周りを円く取り囲むように生徒たちの机が並び、Kさんの話が続けられています。 Kさんは10年ほど前に本校を卒業したOBで、当時の吹高のクラスが自分を自然に受け入れてくれた嬉しさを語り、そのうえで何か質問があれば何でもというところでした。よくあることでしょうが、しばしの間は沈黙。そこでKさんは名簿を手に、男子、次いで女子の生徒を指名して質問を求めました。
出てきた問いは、
 @吹田高校の先生で印象に残っている先生は誰ですか。
 A上の階の教室への移動は大変でしたか。
というもの。(私、とっさに池上彰さんの「いい質問ですね !」という決めゼリフを思い浮かべました)

Kさんの答え ―
 @まだ吹高に残っている先生もいるけれど、Y先生(「あ、うちY先生好きや」との生徒の声)、S先生、U先生、そしてM先生(2組の現担任)。
 A上下の移動はそれは大変。階段昇降機というのを使うけど、車椅子を固定したりするからトロい。急ぐ時にはみんなに担いでもらったが、一度後ろ向きにこけて頭を打ったことがある。その時、保健室で頭を冷やすアイスノンを巻いてもらって授業に出たら、先生から「K君、頭に付けている防寒具を取りなさい」と言われた・・・。(爆笑)

 最後に、Kさんから生徒へ、これからもM先生(担任)をよろしくという言葉があり、生徒からの拍手をもって45分間の語らいは終了しました。

 Kさんが語る言葉は必ずしも聞き取りやすいわけではありません。しかし、生徒はみんな身じろぎもせず心の中で耳を傾けている。Kさんの人間的な魅力とたくまざるユーモアが、また、2組の生徒たちの受容力の豊かさが、自然とコミュニケーションのある教室を作り出していたように思います。

 各クラスでの親密な講演を終えて、講師の方たちが控え室に戻って来ます。そこへ、家庭科部の3年生が焼き立ての「吹田くわいクッキー」を持って来てくれ、本校からのお礼の気持ちを伝えました。

 作業所のホームページによると、「b−free」には、「“barrier free”を広げていきたい」という想いと、「“be free”自由でありたい」という二つの想い また、設備面のバリアフリーはもとより、心のバリアフリーを広め「すべての人に優しい街になるように」という想いも込められているとのこと。「ともに学び、ともに育つ」吹田高校も同じ想いを目差しています。今日の1学年の取組は、それがいつの日かきっと本校で出来ることを確信させてくれるものでした。


【旧聞ですが・・・】 ダンス愛好家のための雑誌『ダンスファン』2011年3月号に、昨年暮れの12月20日、本校で開催した「吹田高校60周年記念事業 ダンスパーティ in 吹高 ! 『シャル・ウィー・ダンス?』」の記事が、3枚の写真(「ワルツの練習をする吹田高校の生徒」「デモを踊る児島貢・利子組」「全員で記念撮影」)入りで掲載されています。全国でも珍しい高等学校でのパーティ開催であり、当日、取材があったことで記事掲載を心待ちにしておりました。記者が採られた当事者の生の声を引用、紹介させていただきます。

利子「40年前に卒業した高校でまさか踊るとは。ボランティアですが、こんなチャンスを与えられ若返りました」
児島「なかなか言うこと聞かへんけど本番はぴたり。若い子の集中力は凄いです」
生徒(3年)のM君「初めは全くわからず覚えられなかったが、乗って踊って楽しかった。3度のメシよりダンスが好き」
生徒(3年)のTさん「初めてで完璧でなく緊張したけれど、楽しく踊れました。またチャンスがあればやってみたい」

 本校の取組をとても好意的に紹介していただきました。この場を借りて感謝申し上げます。

平成23年2月9日      畑中校長だより 第52号

立春の前後に


 厳冬から節分を境に早春へ。気温の変化が鮮やかに季節の移ろいを教えてくれる今日この頃です。今回の「校長だより」は、立春前後の小ネタ的報告を少々。

 先ずは、2月2日(水)の午後のことです。事務室前のカウンターに置かれた蘭の鉢の脇に一通の封筒が立てかけてあるのに職員が気付きました。表には「鳳志会プレス発行・発送のための寄付」と書かれてあり、中を検めて見ると壱萬円札で10万円もの現金が入っていました。この件は、早速「鳳志会(同窓会)」へ連絡し、4日(金)には無事お届けしております。吹田高校への深い思いがうかがわれる『タイガーマスク』さんのご厚志に、ホームページを借りてご報告と御礼を申し上げたいと思います。地域から本校及びその関係者に対する様々なご支援の広がりをとみに実感しており、ただただ感謝するばかりです。

 次は、3日(木)と4日(金)の両日に行われた進路に関する校外体験学習から。初日は1年生がバス8台で、2日目は2年生が同じく12台に分乗して、それぞれ希望の大学や専門学校等を訪問しました。目的は、進路意識を高め、今後の学校生活を充実させることです。以前から2年生にはこうした企画を実施してきましたが、今年から新たに1年生の時から行うこととしました。

 なお、2年生の保育と介護については、生徒が近隣の施設へ自転車で移動し、1日実習を行っています。天候に恵まれた4日、私も公用車(学校所有の電動自転車)を使って、特別養護老人ホーム「寿楽荘」→ 吹田市立「片山幼稚園」→「岸辺第一幼稚園」→「ことぶき保育園」→「岸辺保育園」の順で、ご挨拶と様子見に回らせてもらいました。その日は男女とも体操服を仕事着として、各施設職員の方やお年寄りと子どもたちから直に学ぶ姿は真剣そのもの。将来の保育士や介護福祉士たちに寄せる期待とともに、本校とは日頃から様々な交流があるとはいえ、今回も受け入れていただいた各施設のご好意の大きさを感じます。また、吹田くわいやダンスパーティなど、吹高発の色々な取り組み情報があちこちに伝播していることも分かり、有意義な時間となりました。

 さて、その次は6日(日)、茨木市青少年センターで開催されていた「北摂地区高等学校 美術・工芸展覧会」の最終日です。地区内の公私立高校から作品120点以上が集まり、本校美術部員も絵画1点と立体2点を出展していました。このうち、絵画(題名「心象風景」)は生徒間の推奨作品に選ばれましたし、素人の私のお気に入りは、ユニークな可笑しさをもった立体作品(題名「メンズセット」・「羽根(ツバサ)」)です。


 そして、午後2時からは場所を変えて、学校近くに(2月7日)開院する耳鼻咽喉科「すながクリニック」の内覧会へ移動。先だって同医院では地域の高校生からロゴデザイン作成を公募し、その入賞作品の展示と授賞式が催されたからです。しかも、多数の応募作品の中から最優秀賞とされ、ロゴ・シンボルマークに正式採用されたのは、本校1年生の穐近さんの作品(その優れたデザインは「すながクリニック」のホームページで見ることができます)。表彰の際に、院長先生の小さな娘さんから穐近さんへ手渡されたのは、花束とロゴマーク入りのクッキーでした。地域とともに歩みたいという医院のお考えがよくわかる、とても微笑ましい表彰風景となりました。こうした機会を高校生たちに与えていただいたことに心から感謝しますとともに、今後ともよろしくお願いいたしますという言葉をお伝えして会場を後にしました。

平成23年2月4日      畑中校長だより 第51号

学校説明会


 1月28日(金)、会議室で本年度第2回目の学校説明会が行われました。本校では、この春の入試の時期を見据えて、「フェニックス委員会」という機関が中心となり、多くの教職員と生徒の一部が協力しながら、吹田高校の魅力をしっかり伝えようとこうした説明の場を複数設けています。

 昨年中、すでに主だったものだけで地区の府立高校合同説明会(9月)、吹高見学会(11月)第1回学校説明会(12月24日)が開催済みで、それぞれ規模や時期による参加者の関心の違いはあるものの、概ね好評であったと考えています。とくに、合同説明会(会場は茨木市内)は、参加者(中学生・保護者・教員、そして高校関係者自身)にとって、一日で他校との比較が可能な機会ですから、どの学校も年々アピールのレベルが上がり、また工夫の競争が行われます。その中でも最後の方に登場した本校のプレゼンは、スクリーンの上で、会場と吹田高校の現場を中継(ライブ!?)で結ぶという未知の企画で、言わば特筆もの。後のアンケートにも、しっかり学校名が書かれていました。 (立案、演出に当たった若手教員たちの創意と秘密≠フ練習の賜物であったと、今でも感動するくらいです。)
舞台にて、キャスター役の2人の教諭が、レポーター役の教諭を呼び出します。
「今日はSレポーターが現場に行っています。Sさーん!」
すると、舞台後ろのスクリーンに、ライブ映像が!(実は事前に撮影したビデオです)
「はいっ!Sです。吹田高校に来ています!」
スクリーンのレポーターに話しかけます スクリーンでは、舞台上のキャスターと画面の中のレポーターの会話にそって、インタビュー映像が進んでいきます。
まるで、本当にライブで会話をしているような、迫真の演技でした。
来年度の合同説明会も乞うご期待です(^_^)

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 さて、28日のことです。大寒の最中の、平日の午後4時半からという設定でした。その時間に集まった中学3年生と保護者は計22名。用意した座席の数よりかなり少なめでした。 30分ほどしてから道に迷ったという生徒たち7名が到着しましたから、本日の来場者は合計で29名。第1回よりも少人数でしたが、真剣に進路を考える中学生たちを前に学校を説明できるというのはいつも喜びであり、先立つ私学入試が本番を迎えて、来にくい時期に来校してもらえたことに心から感謝をしております。この春は入試状況や制度の大変動があり、高校を選ぶ側も、迎え入れる側も不透明な要素が多い。だからこそ今、我々がすべきことは、ていねいに事実を説明し、しっかりと展望を開いてもらうしかないと思っています。

 冒頭の挨拶で、私が触れたのは、学校は人間を成長させるところ、高校の役割は、未来の社会人の基礎をつくること。そのために、吹田高校は、@ よい授業(わかる授業から、できる授業へ)を提供すること。A だれにとっても、安全で楽しい学校生活を提供すること。B 進学から就職まで、将来の幅広い進路目標に対応することに力を注いでいます、という三つのポイントを強調しました。

 そして、いつも言うのですが、学校説明会の目的は、中学生のよい高校選びをお手伝いすること。本校には優れた教育実践があり、結果として本校を選択してもらえればこんなに嬉しいことはないと私は考えています。そんなよい高校選びの一例として、今回もOB(46期生)の田村 裕さんの場合を『ホームレス中学生』の一節(p.119)から紹介しました。

 「吹田高校は・・(中略)・・就職を希望した場合の就職率が100パーセントという優れた一面もあった。/将来のことを考えれば、吹田高校に行ったほうが良いのは明確だった。」

 続いての説明は、熟練≠フ担当者が、教育内容、学校生活(行事やクラブ等)の特色、進路状況、生徒指導のあり方から教育相談室のサポートまで、わかりやすく、かつ個性的に伝えるもの。来年度から新たに開設する≪こども未来専門コース≫の内容もきちんと説明しました。(もちろん、遅れてきた7人向けにもちゃんと同様の説明を行いました。)

 その後、希望者は小グループに分かれて校内を見学。普段の日の放課後のクラブ活動や本校自慢の施設を案内しました。会議室に戻ってきた市内の中学生の中には、本校に進学した先輩と出会ったりした生徒も。また、付添者の中には、10年ばかり前、私がK高校にいた時に授業で教えたという方もいて、地域の深いつながりをあらためて感じました。

 寒い中、よく説明会にご来場いただきました。本校では、すでに中学校にもご案内済みですが、前期選抜を終えた3月4日にほぼ同じ形の第3回学校説明会を開催します。万一日程の都合がつかない方は、本校までお問い合わせください。とにかく一度実際の高校に自ら足を運んで、納得の高校選びをしていただければと心から念願しています。

平成23年1月27日      畑中校長だより 第50号

第3回 吹田くわい研究発表会

― 「くわいホール」にて  ―

 以下は、先にホームページで写真が掲載されている(1月15日)「吹田くわい研究発表会」の際の私からのご挨拶です。

 新年、明けましておめでとうございます。校長の畑中です。元日から少し日が経っておりますが、今日はお芽出度い「くわい」の発表会ということで、このように挨拶をさせていただきます。

 さて、本日は大変にお寒い中、またご多忙中にも関わりませず、大阪府立吹田高等学校 創立60周年記念事業「吹田くわい研究発表会」に多数ご来場いただきまして、心より感謝を申し上げます。

 本校が、郷土の伝統野菜である吹田くわいに関わる教育活動を始めて4年目、こうした発表の場を設けるのは3回目となります。過去2回は、吹田市のメイシアターをお借りしておりましたが、今年度は本校の60周年ということで、そのタイミングで整備をいたしました視聴覚室、その名も「くわいホール」で開催することとしました。

 この「くわいホール」、本来は視聴覚室ですが、実は3年前、私が始めて見た時は老朽化が甚だしく、悲惨なと言ってもいいような状態でした。老朽化は60年の歴史がなせる業でもありますが、室内には傷んで座れないような椅子があちらこちらにあったり、前方のスクリーンには大きな裂け目があったりと、本当のところ、こうした発表会等にはとても使えない。何とかしてほしいという声が強く校内から上がっていたことを今も思い出します。一方で、「吹田くわいプロジェクト」を始めとする特色ある、また誇るべき教育実践が多数蓄積されて、その出番を待っている時期でもありました。

 他方、学校が普段の授業を行う普通教室は手狭で、その環境の改善も切実な課題でした。そこで私は、視聴覚室をあらゆる手段を駆使して改造し、普段の授業でも使いやすい「拡大教室(エクステンション教室、略してエクステ教室と表現してみたこともありました)」にしようと考えたのです。そのためには、創立60周年記念事業による整備(→固定式と可動式の2種類の机・椅子) を基軸に、大阪府教育委員会のご支援(→床・スクリーン)、国のICT環境整備事業の活用(→プロジェクター)、PTAの基金からのご援助(→エアコン)等々をすべて組み合わせることにしました。目指すのは、普段の授業で使える、大阪で一番稼働率の高い視聴覚室です。

 ここには元々の階段教室の形状があり、前方にはフラットな平面部があり、ステージもあります。だから、生徒達のプレゼンテーションやディベートもできるし、さらに私の夢は、ここであのサンデル教授の「白熱教室」のような対話型の授業が行われることです。 ホール内の状況をご覧になって、それもやれるなぁ、と思いませんか?すでに本校では、そうした実験的とも言ってよい授業が、複数の教科や総合的な学習の時間に行われております。

 また、本校では、昨年度(平成21年度)、大阪府教育委員会の「スクールカラーサポートプラン集中支援事業」の指定校となったことで、鳳志会(同窓会)に手入れをしていただいている中庭の日本庭園に、吹田くわいを栽培する専用の池と緑のカーテンを作ることができました。そこで栽培したくわいやゴーヤは、食材として家庭科の調理実習で使おうという「地産地消」の実践です。また、池の水は、環境を配慮して地下タンクに雨水を貯水、循環、供給するという見えない所でハイテクシステムを導入しています。もちろん、機械に頼るばかりではなく、植え付け、日常的な観察と世話、収穫、調理、本日の発表といった肝心な局面では人が主人公となることは言うまでもありません。

 この後、家庭科部の生徒達が今年度の発表を行いますが、本日もこの部屋以外の場所で他の多くのクラブがいつもの土曜日の活動を行っております。また、日ごろ、多彩な教育活動をやっておりますので、本日の家庭科部員は謂わば本校の生徒を代表して、さらに、本校の教育活動を象徴して吹田くわいに関する発表を行うものとご理解ください。

私の大切な役割は、後の発表の時間と場を妨げないことですので、ここらで話を終えます。最後に、本校は『吹田から世の中へ』というスローガンで発展の方向性を表しております。本日は、吹田高校に関わる支援の輪が、大阪府教育委員会、PTA、同窓会から、吹田くわい保存会を始めとする地域の方々や吹田市の関係諸機関にまで、幾重にも広がっていることを実感し、大変に嬉しく思っております。ご支援に感謝いたしますとともに、今後ともよろしくお願い申し上げます。


【蛇足ながら】
たまたま創立60周年という時期に着任した私は、これを好機として、今後の60年の基盤づくりを任されたんだと、勝手に自分のミッションを定義しています。また、自分的には、これまで頑張ってきた吹田高校に、還暦にふさわしい沢山のプレゼントをしようといった気持ちもあります。関係者がみんなで作り上げた「くわいホール」はその一つです。周年記念の行事もこの日の発表会で最終となります。ですから、今年の発表会については当然「くわいホール」で行われねばならなかったというわけです。

【後記】
 この日、記録されたお客様の数は52名でした。階段状の固定席がほぼ埋まり、ステージ前に設けた可動席には地元の小学生のグループ。それ以外に家庭科部員と本校のスタッフが入っていますから、ホール内は人数以上、エアコンの暖房以上に熱気に近いものを感じました。予想を超えて多数ご来場いただき、熱心に発表を聴いて、試食やアンケートにもご協力をいただきましたこと、改めて御礼申し上げます。当日の会場内の様子は、ホームページのほか、吹田ケーブルテレビでも放映されますので、是非ともご覧ください。


くわい発表会の前々日(1月13日)のイベントについても、簡単にご紹介しておきます。その日は、日本ボールルームダンス連盟(JBDF)の「学校キャラバン隊」が、ついに全日本チャンピオンとともに吹田高校へやってきた日でした。チャンピオンとは、様々なコンテストで優勝し、競技の現役から退いた今も精力的に社交ダンスの幅広い普及に努めておられる大村淳毅・和田恵ペア(以前、TV番組の「シャル・ウィ・ダンス?」にも出演されていた方達)です。

今回のダンスタイムは、『成人になるために』をテーマとする3年生の「総合的な学習」の一環で、ホンモノ(チャンピオン)を間近に見て、みんなでダンスをしようという企画。担当教員の熱意、きめ細やかな配慮のもと、大村・和田ペアのデモンストレーション(「ジャイブ<日本ではジルバと呼ばれることが多いそうです>」・「チャチャチャ」) ⇒ 東京と大阪からお見えいただいたJBDFの講師7人による講習と手ほどき ⇒ 再度のデモンストレーション (「ワルツ」・「タンゴ」) ⇒ 生徒代表からの感謝状贈呈というシンプルな流れです。とはいえ、体育館に集まった生徒全員のうち、体育の「ライフスポーツ」でボールルームダンスを経験している者は4分の1程度。多数の初心者はどうか。全体が果たして指導に、リズムに乗って行けるのか。踊れない私は、不安を感じていました。

実際にやってみると、生徒らを上手くリードする講師の手腕のお蔭で、大きな輪の中へ躍り出るほどの生徒こそ少なかったけれど、外側の輪に並んでいる生徒のグループが楽しそうに、段々段々とステップが踏めてくるのがはっきりと見て取れました。大村・和田ペアの華麗な演舞の他にも、社交ダンスの魅力が少しずつ見えてきた気がします。

途中の自己紹介では、大村さんが育ったのは何と千里ニュータウン(豊中市)とのことで、ならば同じ学区のお隣さん。そんなご縁もあってか、チャンピオンからはお2人とも初めての時はみんなと同じだったという励ましの言葉があり、生徒達の我ままな(?)リクエストにも気さくに応じていただきました。

概して恥ずかしがり屋の吹高生ですが、だからこそ、もっともっと表現の方法を知って、成人になるための経験をしてほしい!! 今後とも、こうしたチャンスを沢山設けられる学校でありたいと思っています。

平成23年1月11日      畑中校長だより 第49号

3学期始業式 式辞


 明けましておめでとう。生徒の皆さんは、元気に新年を迎えられましたか?

 今の季節は「寒」と言われるように、冬の寒さが一番厳しい時期ですので、短めの話にしたいと思っています。

 君たちは2学期の終業式の時、全員が実によく私の話を聞いてくれました。皆が、聞くべき話をよく聞ける、当たり前のことがきちんとできる、それがよい学校ということですし、吹田高校は必ずいい学校になれます。

 その時の内容のおさらいでもありますが、今日、車椅子で始業式に登校した生徒がいます。いつでも、どこでも、誰でも、彼が困っていたら、少しだけ力を貸してあげてください。もちろん、彼以外のだれであっても、困っている人がいたら快くお手伝いができるそんな生徒達が一杯いる吹高であればよいな、と心から願っています。

 次の話です。みんなはこの冬休み、何か本を読みましたか? 私が一番最近読んだのは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本で、所謂【もしドラ】。どこにでもよくある高校野球部のマネージャーが、チームを甲子園に連れていくという目標を立てて、部員も監督さえも巻き込んで一人ひとりを活かしながら、甲子園に出場できるチームをつくっていくという小説です。

 実は、昨年2010年は「国民読書年」に指定されていて、そのキャッチフレーズは、ものすごく単純なもので「じゃあ、読もう。」これだけです。私は、本を読む楽しみをみんなに伝えたいし、「じゃあ、読もう。」を一年でやめるのも大変にもったいない。また、昔の人が「明日起こってくる問題を知るためには、どうしても読書しなくてはならぬ※」と、いいこと言っているけど、現代のように将来を見通しにくい時代だからこそ、読書が大切。明日を読むにも、本を読む必要があるんだということを知っておいてもらいたいと思っています。

※ 城山 三郎著『男子の本懐』の中で、主人公の一人(井上準之助)が語っている読書論です。

 終わりに、今学期には、1・2年生は進級、3年生にとっては高校を卒業するという当面の大目標があります。要するに、一人ひとりの総決算を迎える重要な学期です。健康や事故に注意して、悔いを残さぬように持てる力を発揮して、見事な進級・卒業を達成してください。

 追記

 最近は電子書籍という方法もあるし、いつでも、どこでも、手軽に本を読む『読男・読女(どくだん・どくじょ)』というのが2011年の流行となるかもしれない、と「成人の日(1月10日)」にテレビを見ていたら、ある人が言っていました。こまめに、気軽に本を読む、学校にもそんな雰囲気をつくりたいものです。

平成23年1月4日      畑中校長だより 第48号

年 頭 言


 新年、明けましておめでとうございます。

 今日は「仕事始め」です。天気もよし。学校に来たところでとにかく校内を軽く一周してみました。グランドからスタートして、ハンドボールコート、テニスコート、その後で体育館内のフロアーを覗きます。この日、サッカー部は初蹴りの日。昔からOB会を開く日として設定されているとのことで、午後には元顧問も顔を見せて、伝統の連なりを感じます。そのために今日はグランドを明け渡している陸上部も、ハンドボールコートで先輩を交えての体づくり。テニス部は初打ち。体育館の中では男子バスケットボール部とバドミントン部。選手たちのきびきびした動き、シャトルを打ち合う響き、そこここに初春の匂いが漂う気がしました。今に全てのクラブが動き出すと思えば、自然と心の引き締まる思いがしました。

 今年も年頭に当たり、職員を始め、内外の関係者から多数の年賀状をいただきました。個人的にはお返ししているのですが、公的な立場からのメッセージとして、ここで私からの年賀状の一部を紹介しておきます。

 〜 吹田高校で3年目。大変だけれど、関係者の結束とやりがいも手応えもある仕事に恵まれた日々に感謝しています。『吹田から世の中へ』のスローガンの下で、今年は
 @ グローバルとローカルの二つの観点から保育系の人材を育てる『こども未来専門コース』の開設
 A 創立60周年を記念して整備された視聴覚室『くわいホール』での白熱授業≠フ実現
 B 始業前10分間の『朝ガク』の進化・発展
 C 吹田市立博物館との『高博連携』事業の展開etc.
を計画しています。〜

 冬休み中に、あの≪もしドラ≫(岩崎夏海著・もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)を読みました。さすがに小説、サクサクと読めましたが、その一節「・・・みなみ(主人公)は、今こそが機会だととらえた。今こそがチャンスなのだ。今こそが「成長」の時なのだと、みなみは確信した。/『マネジメント』には、こうあった。/ 成長には準備が必要である。いつ機会が訪れるかは予測できない。準備しておかなければならない。準備ができていなければ、機会は去り、他所へ行く。」

 別の一節「『マネジメント』にはこうあった。/ ・・・成果とは何かを理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。・・・成果とは打率である。・・・人は、優れているほど多くのまちがいをおかす。優れているほど新しいことを試みる。」/ みなみは、正義(野球部の補欠部員)のやろうとしていることの良し悪しは分からなかったが、それが「新しいことを試み」ているというのはよく分かった。だから、彼の「意欲」や「士気」を大切にしようとしたのだ。」

 読書の働きの一つが未知の発見だけではなく、既知の再発見や既存の再認識であるとするならば、我が吹田高校という組織が60周年というタイミングでやってきたことは、まさに成長のための準備であって、やってみるべきは将来の成果のために計画された新しい試みである。≪もしドラ≫が私に教えてくれたのはそのような読み方でした。

 前記の年賀状計画@〜Cは、何れも本校がこれまでの議論で決定、校内で周知もしくは実践の基礎があり、今後、教職員が結束して『吹田から世の中へ』向けて発信しようとするものばかりです。併せて、世に問う(打って出る)という一方向だけではなく、世の中(とりわけ地域)とつながりをもって、そこからの反応や働きかけを積極的に受け入れ、吸収していく逆方向性もある「アクティブな循環」を創りたいもの。関係者の皆様には何卒引き続いてご支援のほど、心からお願いを申し上げます。

平成22年12月28日      畑中校長だより 第47号

世の中と触れ合った日


 久しぶりの「校長だより」です。

 12月20日は、吹田高校にとって、ちょっと特別な一日でした。この日は予めホームページ他で広報してあったのですが、吹田高校創立60周年記念事業の一つ「ダンスパーティ in 吹高!“ Shall We Dance ?”」が開かれた日でした。

 本校では、昨年度から全国で初めて社交ダンス【ボールルームダンス】を体育の授業(3年「ライフスポーツ」)の一部で取り入れる試みを行ってきました。男女ともパートナーへの思いやりや大人のマナーを学ぶよい機会だと考えていますし、(少々自賛気味かもしれませんが)本校らしくとても先端的で、新鮮な取組みと言ってよいと思います。授業での練習の後にはもちろん発表会があり、その様子を見ていると、吹高生のペアがボールルーム(舞踏室)ならぬ剣道場で、限られた時間の割にさすがのリズム感で結構上手に踊れるのは驚きでもありました。

 さて、今年。前述のような素地のうえに、地域との一層の交わりを深めたいとの60周年の思いが重なって、ダンスパーティの企画が持ち上がりました。とはいえ、選択の関係でダンスとバドミントンの授業を交互にやらねばならず、担当者の苦労は並大抵のことではなかったはず。パーティの当日は男女とも制服の身だしなみを整え、特に男子は慣れないネクタイを着用して直前のリハーサルに緊張の汗(?)を流している間に、外来のお客様達が次々に来校。それぞれの更衣を済ませてから、ダンス会場である体育館フロアーへ。そこは、《何ということでしょう》ワルツやチャチャチャを始めとするダンス音楽が流れる異空間。申し分のない広さを持った体育館は、想像以上にダンス会場に適しているなと感じました。(もちろん床を傷めぬように、ダンスシューズにはキャップの使用をお願いしました)

 大人のフリータイムが終わって、11時40分からは発表会。サンバ・マンボ・(季節がらサンタの衣装での)チャチャチャと続いて、ワルツとサンバのペア(後者は、今回大変お世話になった本校OBで、ダンススクールを主宰されている児島ご夫妻のペア)のデモンストレーションの時には、登場の瞬間から華麗な衣装に賛嘆の声が生徒達からあがり、ダンスの動きにも魅入られたように真剣な眼差しを注いでいました。


 その後でとうとう、ようやく吹高生が登場する番です。どうか余り恥ずかしがらずにという私の気の小さな心配を他所に、彼と彼女のペア20組余りは、吹奏楽部の生演奏のもととても堂々とワルツを楽しんでいました。中にはわざわざご来訪いただいた渡嘉敷奈緒美前衆議院議員の手を取ってダンスに誘う積極派の男子もいて、快く応じて生徒とのペアで踊っていただいた渡嘉敷さんには深く感謝いたします。会場を取り巻く大勢の地域の方々(60名超!!)から、近くを踊る生徒ペアに盛んな拍手をいただいたことは大変に嬉しいこと。人生をゆとりをもって楽しんでいる大人達の表情や態度を間近に見て、本校生が学ぶことも少なくなかったはずです。最終の演舞には本校教員もペアに加わって、ダンスタイムは無事にお開きとなりました。実際の模様は、ホームページ上に掲載する写真で是非ご覧ください。

 ご来場の方々(私事ですが、その中にはご近所にお住まいで、昔、とてもお世話になった元校長先生も、このイベントの話を聞いたと言って訪ねて来てくださいました)には、何せ慣れぬことゆえ十分な御もてなしはできませんでしたが、玄関に誰かがそっと小さなクリスマスツリーを飾るなど、本校スタッフの心配りの一端をご理解いただければ幸いです。

 実は当日、ダンスパーティと時間帯が重なって、岸辺第一幼稚園から30数人の園児と先生達も、恒例の家庭科調理実習室での「吹田くわい」クッキーづくりと交流のために来校されていました。こちらも3年生の「フードデザイン」選択者や家庭科部員が中心となって園児らのお相手で大奮闘。手作り紙芝居『おせち一家のお正月』の読み聞かせもあって、小さな子どもたちと若者の代表である高校生が触れ合う素敵な時間となりました。

上の二つの催しとも、本校ならではの地域と密着した取組み。これらを通して私が強く感ずるのは、熟年世代と子ども世代の両方から寄せられる高校生への関心は高く、期待も大変に大きいこと。吹田高校の今後の60年のあり方を考えるとき、地域に住む人々と共生するという視点が欠かせないという思いを新たにした一日でもありました。

 最後に、この一年お世話になりました。どうか良い新年をお迎えください。

 【追記】 @ 「鳳志会」からはこの度のパーティでも多大のご援助をいただきました。感謝申し上げます。
A 終了後に、児島ご夫妻から早速お便りがあり、楽しい一日への謝意、「こんなおもしろい学校見たことない」との感想、「あの子達がかわいくてもっと早く教えてあげたかった」といったコメントをいただきました。また、そんな機会がきっとあると思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。
B 「ダンスパーティ in 吹高!“ Shall We Dance ?”」を取材した「大阪日日新聞」には、12月26日(日)付けの紙面でこの度の企画を大きく記事に取り上げていただきました(見出しは『お相手は地域の先輩=| 社交ダンスで交流』)ので、ご紹介させていただきます。

平成22年10月14日      畑中校長だより 第46号

創立60周年記念式典  式辞


 我等が母校、大阪府立吹田高等学校は、1950年に開校以来60年間の歴史を刻み、本年、これをよき節目として一層の飛躍をするべく、創立60周年記念事業を行うこととなりました。本日は、ここに全校生徒と教職員が集まり、事業に携わった本校の同窓会である鳳志会、後援会、PTAの代表者をお招きして、ともにその慶びを分かち合う日です。

 最初に、生徒の皆さんに、今回の記念事業の目的を説明しておきたいと思います。一つめは、過去の歩みを振り返り、記録として整理、保存することです。このため、式典の後で配付される記念誌を発行することとしました。二つめは、現在本校にある施設や設備の状況を改善して、皆さんを応援するためによりよい教育環境を整えることです。具体的には、授業・部活動・学校行事の三つを支援の対象として、この後紹介される大変立派な設備や備品を寄贈していただくことになりました。すでにそれらの活用は順次始まっていますが、今日あらためて報告をし、関係者のご厚意に深く感謝したいと思います。(ありがとうございました。)そして、三つめの目的は、人間でいえば還暦に相当する60周年を機に、過去と現在の向こうに未来の60年を見据え、吹田高校を取り巻く人々の絆をつくろうということです。

 学校の宝は、何と言っても人、人間です。つい先日、校内大会のドッヂボールで思いっきりはしゃいだ1年生、「先生、修学旅行、最高に楽しかったわ」と言って、笑顔で空港に帰ってきた2年生、自分の進路実現に向けて今一番真剣に取り組んでいる3年生、そして、日々、一生懸命練習に励むクラブの生徒たち。そんな君たちには無条件で応援する価値がある。この度の記念事業の関係者一同は、2年間、その思いで一緒に働いてきました。また、生徒の皆さんにも、クリアーホルダーのデザイン他では協力をしてもらい、60周年が吹田高校らしい人の和による、手作りの記念事業になったことを心から喜んでいます。

記念品目録贈呈  これまでに母校を巣立っていった卒業生の累計は22,088名。この数字の積み重ねこそが、歴代教職員と生徒との間に交わされた教育の営みの成果であり、大きな誇りとするものです。その間、先輩から後輩へ語り継がれる「ナニクソ」という言葉で表わされる反骨の精神は、時代を超えて継承され、いつまでも本校関係者の生き方を支えていくことでしょう。しかし、受け継いでゆかねばならぬものがある一方で、将来の発展のために革めていかねばならぬものもあります。グローバル化に代表される社会の大変化によく対応していく力を養うためには、新しい教育も必要です。今回、寄贈していただいた設備や備品は、そうした目標実現に大いに役立つものと考えています。生徒諸君、どうか60年目のプレゼントに込められた思いを受けとめ、自分をもっともっと磨いていってください。
 『吹田から世の中へ』のスローガンのとおり、今後とも吹田高校は、地域と相互に連携・交流しながら、広く世の中で活躍できる人づくりを目指していきます。関係者の皆様には、これからも変わらぬご支援のほど、よろしくお願いいたします。

平成22年10月4日      畑中校長だより 第45号

吹田から北の大地へ

― 修学旅行の『栞』巻頭言 ―
校 長   畑中  利明

 過去、何度か北海道へ行った。また、修学旅行にも、自分が高校生の時以外に、教師になってから8回行っている。それぞれの旅に思い出深い感動があり、楽しくない修学旅行は一度もない。
有珠山から洞爺湖を臨む  今回の60期生の旅行先は、地域的にいうと「道央の西部」である。最初の滞在先のニセコ町は北緯42度52分に位置する内陸部にあって、平均気温は摂氏6.3度。日の出、日没だって、大阪よりは大分早い。そんな遠い大地へ、2年生は学年を挙げて旅立つわけだ。
 現地でのメニューは、ラフティングや農業体験等の体験プログラムを中心に、自然や都市での観光と散策、そしてクラスや全体でのレクリエーションと盛り沢山。行くまでの時間は待ち遠しいが、行ってしまえば4日間はあっという間に過ぎてしまうに違いない。

 経験上の独断で言えば、最も思い出深いものとなるんじゃないかと想像されるのが3日目の農業体験(ファームビジット)だ。予想の根拠は、大阪のような都市部にいるとなかなか味わえない土と、何よりその土地に生きる家族【人々】と親密に触れ合えるからだ。この人間的な触れ合いが、吹高生の心に響く何かを与えてくれることを確信している。
 ともあれ、日常を離れての旅は、君たちに思いがけない発見をもたらすだろう。見知らぬ土地での発見、今まで気づかなかった友達同士の間での発見、そして、自分自身にも再発見があるかもしれない。学校に帰って来てからちょっとした「成長」に気づくのを楽しみに待っている。

 ただし、修学旅行は大規模の集団生活。自ずと「やるべき」ことと「やってはならぬ」こと【ルール】があるし、「やってもいいこと」には判断と責任が伴う。そのことを忘れないで、安全に、思い切り楽しんできてほしい。

平成22年8月30日      畑中校長だより 第44号

2学期始業の会 式辞


 お早うございます。さあ、今日から2学期が始まります。

 とはいえ、この夏、大阪では2週間連続で猛暑日。今日も更にそれを更新しそうな気温ですし、この後、沢山のクラブ表彰が控えています。 できるだけ短い時間の話にしたいと思いますので、協力をしてください。

トンネルアート作画中 さて、この式の冒頭に校歌の伴奏をしてくれた吹奏楽部は、8月の初め、メイシアターでのコンクールに出場していました。 そんな高校生の室内音楽会に対して、「生き物(くま、うさぎ、カエル、キリギリス)たちの野外音楽会」とでも名付けたらよい壁画が、 この夏、君たちの通学路でもあるJR岸辺駅南側の地下道の壁に、イラスト部・美術部員によって描かれました。 もちろん、勝手に描いたものではありません。それどころか、市内の企業や学校からボランティアの個人まで、そして大人から子どもまで、 広く地域有志が協力をして作成した、長さ120mものトンネルアートの一部にちゃんと調和する絵として、作画されたものです。 延べ500人以上の参加者の中で、周囲とのコミュニケーションを繰り返し、色々と配慮の苦労も学びながら、 自分たちの個性を発揮したその壁画は、今後永く、トンネルを通る人々の眼を楽しませるはずです。 現場を通るたびに声をかけ、励ましてくれた人たちもまた、隠れた協力者といってよいでしょう。 昨日(8月29日)のトンネルアート完成式では、吹田市の阪口善雄市長から、関係者とともに吹田高校の名前をあげ、 直々に感謝の言葉をいただきました。市民が参加する街づくりの取り組みとして、社会的意味を十分に認められたというわけです。

原画と共に1 原画と共に2 こんな風にイラスト部・美術部員は、実に多くの市民と関わり合いを持ちながら、その責任を果たしました。 この「生き物たちの野外音楽会」は、勝手に描かれたものではないと言いました。 描きたい、表現したいという強い気持ちを持ちながらも、それだけで描くことを許されるものではない。 なぜなら、トンネルアートには異なる事情をもった多くの参加者があるので、それらを理解し、受けとめる努力が必要であり、 また、これから毎日、一般の人々の眼に触れ続ける作品として描かれなければならぬものですから、 実際はかなり厳しい条件と制約があったと考えられるのです。つまり、作画の時にやってはならないこと、 やらねばならないことの両方のルールがあったはずですし、やってもやらなくともいい自由の中でやったことには責任が伴ったはずです。 だから簡単じゃない。だから、大変だった。そして、部員たちは偉かったな、と私は思うのです。

 話の最後です。今日から2学期。学校生活、集団生活の再開です。当たり前のことですが、学校は勉強をするところです。 だから、みんながそれに気持ちよく取り組めるように、ルールを定め、マナーを守ることを求めます。 時間のルール、頭髪、服装のルール、集会のマナー等々はこれに当たります。君たちにはこうした必要性をよく理解してもらい、 今学期も生徒全員にとって有意義な高校生活が送れるよう、心から期待しています。

平成22年7月20日      畑中校長だより 第43号

1学期終業式 式辞


 お早うございます。

 梅雨が明けて、本格的な夏がこれほど一気にやってきた年も珍しいように思います。さて、1学期も今日で終わり。今学期を振り返ってみて、私の眼にもっとも印象的なものとして残っているのが色々なクラブの活躍です。

校歌を演奏する吹奏楽部 今日、この場で校歌を生で伴奏してくれた吹奏学部もその一つです。吹奏学部は6月の初め、千里南公園での野外コンサートでもすてきな演奏を聞かせてくれましたし、今年は秋以降も校外で活動する予定があるそうです。

 昨日は、野球部が強豪の大阪桐蔭を相手に全力でぶつかりました。また、3日前には吹田市制施行70周年記念事業として行われている吹田市立博物館『夏季特別展』のオープニング・イベントで、家庭科部が「吹田くわいの歌」を堂々と披露。阪口吹田市長を始めとする出席者から大変に感謝されていました。

女子ソフトテニス部60周年を迎えた本校では、「吹田から世の中へ」というテーマで学校づくりを進めていますが、こうした様々なクラブが積極的にチャンスを活かし、世の中へ打って出る姿勢は君たちを必ず成長させるものと思います。勝ち負け等の結果も大切ですが、時の運もあります。それ以上に、たとえどんなことでも一所懸命に取り組めば、自分たちの嬉しさも悔しさも深まりますし、それらはきっと将来の財産となります。何よりも一所懸命の周りには、君たちの力を認める人、応援する人がきっと現れてきます。

 明後日(7月22日)は、既に校門の所で横断幕を掲げているように、女子ソフトテニス部が近畿大会に出場します。場所は舞洲、試合は9時15分からです。そこで、この終業式の場を借りて、ソフトテニス部の代表から全校生徒の皆さんへ一言、試合前のメッセージをお願いしたいと思います。
 【 ソフトテニス部選手6名が壇上に整列 + 代表の挨拶 → 激励の拍手を 】

陸上競技部 空手道部 男子バスケットボール部 ダンス部

 式辞の最後に。期末考査が終わった後、教頭先生から全クラブ員を対象に、今後の部活動中の事故防止について、大切な話をしてもらいました。そこで話があったように、今学期途中にはプールでの重大な事故があり、37年前にはグランドでハンマー投げの鉄の球が当たって野球部員が死亡するという痛ましい事故が本校で起こっています。また、熱中症の可能性は運動部、文化部を問いませんし、さらに交通事故の危険性等は全ての生徒に関わってきます。ルールや注意を真面目に守ることでほとんどの事故、事件は防げます。どうか安全に十分気をつけて、一人ひとりが良い夏休みにしてください。

平成22年4月27日      畑中校長だより 第42号

クラブ紹介


 4月22日(木)、生徒会役員選挙の立会演説会が行われました。生徒を中心に据えて行事を運営するという顧問団の一貫した姿勢に応えて、会長以下の執行部、そして生徒全体がその場を自分達自身のこととしてとらえるという雰囲気が、これまで以上に強く感じられました。

生徒会執行部の生徒  演説会に先立って、昨年度後期生徒会長による活動報告が行われましたが、その中で新入生向けのクラブ紹介に力を入れたとの報告がありました。会長としても手ごたえのあった取り組みだったのでしょう。そこで、少し時間が経ってしまいましたが、4月13日(火)の午後に実施された今年度のクラブ紹介のことを私自身も振り返っておきたいと思います。

 実は、本校のクラブ加入率は、2年前に50%台の後半であったものが、昨年度は半数を割り込んでしまいました。裏腹に、昨年10月に実施した本校の生徒実態調査では、「放課後は主に何をして過ごしていますか」という質問に対して最も多かったのはアルバイトという回答(30%弱)でした。現在の社会状況や経済不況の下、単純に過去と比較したり、アルバイトの全てを否定したりするつもりはありません。ただ、生活時間の配分の仕方は学校として気になるところ。そもそも部活動というのは、文化系・体育系を問わず、活動の継続性が前提ですから、放課後の時間を日々アルバイトに使うこととの両立は困難です。

クラブのアピールをする  ともあれ、部活動は学校の勢いにつながります。放課後、また春・夏・冬の休み中等に沢山のクラブ生徒があふれる学校は、学校らしい学校と言えます。そのため、吹田高校は全校で部活動を支援し、参加を奨励することを本年度の重点目標の一つとすることにしましたし、現在進行形の60周年記念事業でも、その振興にご協力をいただいているところです。でも、社会や経済の状況は急激に改まらない以上、現役の部員(すなわち先輩)が、いかにクラブの魅力を活き活きと新入生達に伝えられるかということは、クラブ参加者を増やす最大の決め手となります。
 そこで、生徒会では「クラブ紹介」のやり方を従来とは随分と違ったものに改めて本番に臨みました。これまでは、全てのクラブが一定の時間を与えられて順番にPRをする文字通りのクラブ紹介形式でしたが、今年は違う。全てのクラブではないが、生徒会執行部と二つのクラブが全2・3年生を代表して新入生を歓迎するアトラクションを演じ、3人のクラブ員が全クラブの気持ちを代弁して、部活動で得られたもの、つまりその魅力を生徒の言葉で語るというやり方に改めたのです。

ダンス部 吹奏楽部  体育館に集合した1年生を前に、ダンス部の演技、吹奏楽部の演奏が終わるとそれぞれ盛大な拍手が湧きました。二つのクラブはともに、昨年、日頃の練習の成果を校外でもアピールする機会を得て、高く評価されたクラブです。そんな自信が動きの中にも感じられる素敵なアトラクションでした。
 その後は、家庭科部(女子)・サッカー部(女子マネージャー)・バドミントン部(男子)の順で、部活動で得たものを語る場面です。それらは、友達ができる、周囲への配慮ができる、責任感ができる、そしてやればできるようになったといった自らの成長がきちんと語られる内容でした。会場に座る1年生は昨年以上によく見て、よく聞いていました。執行部によって最後に行われたクラブ加入手続きの説明の時に、1年生のほとんどがパンフレットの該当ページを開いて、聞き入っていたのがとても印象的でした。

 今月中は仮入部の期間です。その間、1年生はスタンプラリーのように複数の部活動の現場を体験できます。生徒会の工夫が実り、1年生自身が見つける吹田高校での居場所の一つとして、やってみたいクラブを発見してほしいと願わずにはいられません。少しでも多くの生徒が部活動に参加できますよう、ご家庭のご理解、ご協力を併せてお願いしたいと思います。

 蛇足ながら、1年生の若手の担任の先生に「クラスはどうですか」と聞いたら、即座に「楽しいですよぉ」と気持ちのこもった返事が返ってきました。これからが楽しみとなる思いで4月の日々を私は過ごしています。

平成22年4月9日     畑中校長だより 第41号

1学期・始業式 式辞


玄関前のしだれ桜  お早うございます。進級した君たちにとって、新しい年度がいよいよ始まります。

3年生は、吹高生として、残すところあと1年。高校生活の総仕上げであり、自分の進路を自分の意志と努力で決めていかねばなりません。当たり前のことですが、進学であれ、就職であれ、どちらも大変に厳しいことを覚悟しておくこと。

 2年生は、昨年1年間の経験に自信をもって、また、慣れに決して油断することなく、高校生活の真ん中で日々の充実を目指してください。

 さて、このフレッシュな春は、日本ではまた、別れと出会いの季節でもあります。今日の午後には入学式。君たちの後輩となる61期生(320名)が、期待と不安の両方を抱いて、吹田高校へやって来ます。そして、君たちを支援する先生の方も、4月1日付の人事異動によって離任したり、新しく着任したりして、大幅な顔ぶれの入れ代わりがありました。私にとっては、こうした新しい仲間への期待というか、嬉しさの方が断然に大きい。嗚呼、このメンバーでまた新しい何かができる、さあやるぞという気持ちなのです。

 つい先日、とくに男性の先生の頭を見てふと気づいたのですが、何人かの先生方が散髪をしてこの年度を迎えているのです。そうしなければならないという決まりがあるわけではありませんが、校長という立場からすると、その行為に心地よい緊張と前向きの意志を感じて、やはり嬉しく思いました。これは、ささいな例に過ぎないけれど、フレッシュな季節にはやはり大切にしたいことなのです。たかが外見でそんなに大事なことではないと思い勝ちでしょうが、つい先日の新聞でも、社会人の服装に関して、「『中身で勝負』というのは甘えでしょう。中身は当然あるものとして、それをきちんと人に伝えるために外見も磨かねばならない」というアドバイスの記事(4/3 朝日・「あなたの安心」より)を見かけました。世の中というのは、細かいことに気のつくものなのです。形が正しくないと、仕事も正しく行かないと考えるのが現実です。だから、ボタン一つが留まっていないだけでも、ビジネスにも隙があるように感じられるのです。まして、現在、中身を鍛えている途中の君たちには、学校は服装や頭髪の指導を通して先ず形の正しさを教える必要があると考えています。

 今年度はまた、吹田高校にとって記念すべき創立60周年の事業を実施する年でもあります。いずれ記念誌を発行して、君たち全員に配布する予定ですし、既に一部の事業では学校に素晴らしい設備が寄付されていますので、この場で紹介しておきます。今回の記念事業では、授業・部活動・学校行事の三つを支援の対象として、君たちのために、@視聴覚教室の一新、Aトレーニング・ルームの充実、B音響機器の整備が進められています。どうかこれらを大いに活用して、また、どうか大切に扱ってください。それが、事業に関わった人たちに感謝の気持ちを伝えることにもなります。

根性桜取材中  最後になります。本校の先生方は、学校説明会等で、吹高生の良いところとして「元気がある / 挨拶ができる / やさしい」の三つを必ずあげています。今後、君たちは、午後に迎える新入生に対してよい手本を示して、吹田高校の良さを後輩たちに伝えてください。君たちには、そんな責任がありますので、よろしくお願いします。

【追記】今朝(4/8)から、朝日放送のカメラが、本館玄関脇のヤシに寄生しているサクラを取材するために、本校に入っています。玄関の周りには、シダレザクラ、ソメイヨシノ、そして、ヤシの樹に咲く(多分)ヤマザクラ ― このホームページでは「根性桜」と呼んでいます ― の三種類のサクラがありますが、今年は珍しく三つの花が同時に咲きそろっています。皆さんも一度、花の実物をご覧ください。

入学式 式辞


入学式  春のさわやかな風に吹かれて、玄関の周りにある三種類の桜(ヤマザクラ・ソメイヨシノ・シダレザクラ)の花々が咲きそろったこのよき日に、平成二十二年度 大阪府立吹田高等学校入学式を挙行いたしましたところ、大阪府教育委員会ご代表様をはじめ、大阪府議会議員 上の 和明様、同じく阿部 誠行様、PTA、後援会、同窓会であります鳳志会他の地域のご代表の方々、並びに多数の保護者の皆様のご列席を賜り、高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

ただ今、入学を許可いたしました新入生の皆さん、先ずは入学おめでとうございます。教職員一同、皆さんの入学を心から祝福し、歓迎いたします。皆さんは、言うまでもなく自分の意思で吹田高校を選び、自分の努力で大変に厳しかった入学者選抜に合格されました。保護者の方々のお喜びも一入のこととだと思います。

 本校は、昭和二十五年(1950年)、ここ吹田市に府立高校の設置をという地元の熱い願いのもと、当時の新制高等学校の第一番目の高校として創設されました。以来、その歴史のなかで二万二千名を超える卒業生を世に送り出し、社会に必要な存在であることを自ら証明しつつ、足跡を刻んでまいりました。そして本日、ここに第六十一期生となる三百二十名の諸君を迎え、伝統の豊かさにまた新しい息吹が吹き込まれますことに、学校を代表して大いなる期待を表明したいと思います。

野球部 皆さんが今日から学ぶ吹田高校について、最近の様子や取り組みを予め少しだけ説明しておきましょう。本校では、すべての授業がチャイムと同時に始まります。授業の中には、クラスを分けて少人数で行ったり、二人の先生がチームを組んで担当したり、様々の情報機器を使ったものもあります。また、外国人のアシスタントが手伝う英会話の授業もあります。皆さんが意欲をもって学習することができるように、漢字や英語やワープロといった各種の検定試験に挑戦したり、専門学校との連携でホームヘルパーのような資格を取ることもできます。施設としては、校内の日本庭園に、新しく郷土の伝統野菜である「吹田くわい」を栽培する池と、環境に配慮した緑のカーテンができました。この施設は、吹田市の保存会等、地域の方々との連携のもとで活用されます。また、皆さんは、今年度に実施される創立六十周年記念事業として整備されたばかりの視聴覚教室やトレーニングルームを使うこともできます。放課後になれば、伝統と実績の野球部や陸上部、優れた成果が高く評価されている家庭科部など、全部で三十近くあるクラブで興味や関心に合わせた自主活動に取り組むことができます。中には、地域に出かけて壁画を制作し、大変に感謝されている美術やイラスト部のようなクラブもあります。これらは、ほんの数例にすぎませんが、吹田高校の三年間で無駄になることは一つもありません。要は、あなた達の取り組み方一つなのだということを覚えておいてください。

 次に、新たな高校生活のスタート台に立っている皆さんに対し、二つの言葉を紹介しておきましょう。なぜなら、今日、胸を打つ言葉とともにスタートを切れたら、上々であると考えるからです。
 一つ目は、吹田高校を卒業して、現在、ある大学で教員をされている大先輩から伺ったのですが、本校での在学中の経験から、吹田高校の魂を表わしているのは「ナニクソ」という言葉なのだそうです。辞書によれば、「ナニクソ」とは、くじけまいとして気持ちを奮い立たせるときに発する言葉(『明鏡』国語辞典)とあります。あるいは、「ナニクソ」とは、新しいことに挑む時に自分に言い聞かせるべき言葉であり、負けない心を支える言葉です。本校の豊かな伝統の中には、逆境に負けず、何か新しいものを生み出す特別な力があるということも今日ここで知っておいてください。

 二つ目は、私が以前に見たある写真に添えられた言葉です。どうかこの場で目を閉じて、ある光景を自分の頭の中で想像してみてください。写真には、一人の人間が両腕を天に向け、Vの字に伸ばして立っています。そのずうっと向こうには見えるのは、蒼い空だけをバックにてっぺんに少しだけ雲をからませた姿の、大きな大きな富士山です。そんな写真に添えられた言葉とは、「あなたができることを、あるいはできるようになりたいと夢見ることを、今すぐ始めてみるといい。大胆であること自体に、力や魔法がある。」(ゲーテ)というものです。人間というのは、夢を抱き、決意して選択した瞬間に飛躍するものなのです。

 創立以来の六十年間、本校は、社会の実に様々な分野で活躍する人々を育ててきました。『ホームレス中学生』で知られるコメディアンの田村裕さんも本校の卒業生ですが、彼が高校生活を楽しむきっかけとなったのは、秋の文化祭でのクラス演劇と、それを当時の担任の先生がほめてくれたことであったそうです。新入生の皆さんには、何事にも積極的に取り組んでみることで、吹田高校を楽しみながら自分の可能性を発見し、育てていってほしいと思います。学校というのは、そんな積極的な取り組みを促し、時には失敗をすることがあっても、その失敗を許し立ち直れる場所でもあります。どうか「ナニクソ」の魂を持って、「できるようになりたいと夢見ること」を始めてみてください。本校が用意する沢山のチャンスを思い切って活かしてくれるよう念願しています。

入学式  皆さんが入学した吹田高校は、これまで、地域に学び、地域に誇りを持ち、そして地域に貢献できる人間を育成することを基本として教育を行ってきました。この方向性は今後も変わることはありませんが、同時にこれからの本校が目指すのは、グローバルな視野を持ち、世の中の変化に対応しながら地域社会で活躍するというように、一層柔軟で、たくましい人間を育てることです。私は、そのような使命を果たすためにも、「わかる」から「できる」へ授業の質を高め、「吹田から世の中へ」をスローガンに、社会とつながる学校づくりを進めたいと考えています。

 さて、最後になりましたが、保護者の皆様、あらためてお子様方のご入学を心よりお祝い申し上げます。吹田高校では、すべての教職員が、大切なお子様を無事卒業されるまでお預かりし、その人としての成長を支援したいものと心から望んでおります。その実現のためには、最近の大きな問題である携帯電話や薬物防止への指導を例にとっても、学校と保護者の皆様との信頼関係が必要不可欠であることは言うまでもありません。今後、多感な時期を過ごされるお子様の行動に今まで以上に注意を払い、もっとも身近な大人として厳しさと優しさを併せ持ってご指導ください。また、学校から発信される各種の情報に是非とも関心をお持ちいただいて、本校の教育方針にご理解を賜るとともに、積極的な応援とご協力をいただきますよう、重ねてお願いを申し上げます。なお、ご意見やご要望などがございましたら、各担当職員に何なりとお聞かせいただければ幸いでございます。

 結びに、本日、ご多用中にも関わりませずご臨席を賜りましたご来賓の皆様におかれましては、本校が地域の教育機関としてその社会的責任を全うし、今後ますますの発展充実が叶いますよう、一層のご指導、ご支援をお願い申し上げて、式辞といたします。

  平成二十二年四月八日
大 阪 府 立 吹 田 高 等 学 校
校  長   畑 中  利 明

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平成22年3月15日      畑中校長だより 第40号

3学期終業式 式辞

― 五本締め ―

 お早うございます。

 今日で3学期、そして君たちにとってはこの1年間が終わろうとしています。事の区切りがつくということで、いつもの話に代え、最初は生徒会執行部の手を借りて五本締めをやってみたい。

 吹高生諸君は、「五本締め」というのを知っていますか?三本締めや一本締めならやったこともあるのでしょうが、ひょっとしたら五本締めというのは聞いたことがないかもしれません。実は私も、以前に勤めていた学校の生徒から、初めてこれを教えてもらいました。ただ、やり方はごく簡単。すべて三本締めのリズムで、始めは両方の人差し指だけ、次に人差し指と中指の2本、その次は人差し指と中指と薬指の3本、また次は人差し指と中指と薬指と小指の4本でというように、指を一本ずつ増やしながら、最後は親指を含めて手のひら全体を使って拍手をするというだけのことです。では先ず執行部5人のお手本を聞いてもらいましょう。************************ もうやり方は大丈夫ですね。

 ただし、生徒の皆さんには、先生方とも一緒にやってみる前に、頭と心の中で理解しておいてほしいことがあります。この五本締めは、本年度を打ち上げるという意味合いでやるけれども、併せて、一人ひとりの責任を自覚すること、そして一致協力することの大切さを表現することで知るものです。例えば、このような大勢で話を聞く場で、一人ひとりは小さな声でしゃべっていても、全体ではどれぐらいの大きさになるか。また、本校の大きな問題である遅刻も、一回ずつの積み重ねでどれほどの数になり、学校の雰囲気を悪くするか。そして、皆が力を合わせた時には、吹田高校がどれくらい素晴らしい力を発揮するか。これらを拍手のリズムを通じて理解してほしいと思っています。

 では、みんなでやってみましょう。 (始めは人差し指で三本締め、次は人差し指と中指の2本で、次は人差し指と中指と薬指の3本で、次は人差し指と中指と薬指と小指の4本で、最後は手のひら全体を使って拍手)
  ○○● ○○● ○○● ○○● ○○●

 最後に、締めくくりの話をします。式の後のホームルームでは、担任の先生から受け取る通知表で学習面での評価をよく確認してください。通知表は一枚の紙に過ぎませんが、そこに記された数字の裏側には、それぞれの1年間が見え隠れしているはずです。無事に進級できたことには安心を、成長したことには自信を、後悔や反省すべきことがあれば謙虚さをもってふり返り、来年度に立ち向かってほしいと思います。とくに、不認定科目がある人は必ず追認がされるように、気を引き締めて4月を迎えてください。また、明日からの春休み中は、大麻他の禁止薬物には絶対に近づかない等、この後の生活指導部からの注意を守って有意義な期間としてください。どうか高校生である自分がかけがえのない存在であることを自覚し、人としての可能性をお互いが大切に育てていってください。

 新学期、上級生となった君たちと、ここで再び元気に顔を合わせることを楽しみにしています。

平成22年2月26日      畑中校長だより 第39号

卒業式 式辞


 空から降るものが雪から雨に変わるという雨水の時季を迎えた今日、ここに大阪府立吹田高等学校 第五八回卒業式を挙行いたしましたところ、公私ご多用にも係わりませず、大阪府教育委員会 ご代表様、大阪府議会議員 上の和明様、地元の吹田市立各中学校の校長先生、さらにはPTAを始め本校が常日頃よりお世話になっております多数の皆様のご臨席を賜り、心から厚く御礼申し上げます。

 保護者の皆様。お子様のご卒業、誠におめでとうございます。皆様方がこの日を迎えるまでに注がれました愛情とご苦労に立派に報いて、お子様達は栄えある卒業を勝ち取られました。ここにご報告と心よりお祝いを申し上げますとともに、この間寄せられました本校へのご支援に対し、学校を代表して深く感謝を申し上げます。

 そして、第五八期生の皆さん。今しがた、君たち二四五名に対して卒業証書を授与いたしました。あらためて本当におめでとう。皆さんにとって、三年間という時間は同じでも、その内容や意味は一人ひとり違ったものであったと思います。普通といわれる人生を送る人間なんて、実際は一人としていないのですから、それぞれに特別な三年間であり、その間におそらく小さくはない山も谷もあったはずです。それらを乗り越えた今、吹田高校が求めた学業を達成した証しに、すべてを等しい一枚の紙に託して、先ほど君たち全員に卒業証書を授与しました。

卒業生代表に卒業証書を授与 さて、本校は一九五〇年に開校し、ご存知のように今年度創立六十年の節目を迎えました。その歴史のなかで育まれ、先輩から受け継いできた魂ともいえる言葉を、先ずは君たちへのはなむけとして贈りたいと思います。その言葉は、「ナニクソ」という感動詞です。

 あるいは少々品のない物言いにも聞こえるかもしれないこの表現を、辞書では「くじけまいとして、気持ちを奮い立たせるときに発する」言葉と説明しています。私は以前、同窓会である「鳳志会」の先輩から偶然にこれを伺って以来、本校が受け継いでいくべき魂を宿す言葉として、機会があれば関係者に語り、また、時には自分自身の心の中の叫びとして、何かに耐える力をもらってきたように思います。皆さんが卒業後に世の中の困難と直面して、絶えざる変容と対応を求められた時、まさに必要なのがこの「ナニクソ」という言葉の力です。

去年本校で収穫した吹田くわい 本校では、今年度も保存会のご協力のもと、ナニワの伝統野菜の一つである「吹田くわい」の栽培や調理に取り組み、ささやかながら地域に貢献する教育活動として、その普及にも関わってきました。この吹田くわいは、名前のとおり吹田原産とされている植物ですが、もともとは田んぼに自然に生えていたものを採取していたと聞いています。この歴史から、吹田くわいは環境の影響をまともに受ける野生でもなく、人間の都合のよいように品種改良された栽培でもない「半栽培植物」という特色を持つようになりました。だから、吹田くわいはきびしい条件下に放置しても、時期がくれば芽を出して生育する強さを持っています。昨年末に収穫したその小さな粒の頂からしっかりと伸びる芽が、「ナニクソ」という反骨心、本校の魂をそのままイメージしているように私には見えました。吹田高校の六十年の歴史から生まれ、受け継がれた伝統の中にも、新しい時代を生き抜くためのDNAが宿り、将来の君たちの活躍によって、くわいの芽のごとく世の中に現れる力が潜んでいると思っています。

 現在、カナダのバンクーバーで冬のオリンピックが行われていますが、競技への関心とは別に、スノーボード男子ハーフパイプの代表選手が、服装問題で注目を集めたことを知っている皆さんも多いことと思います。感情の表現は器用ではないとされるその選手は、競技が済んだ後のインタビューで「自分のスタイルを出せた。いろいろあったけど、応援してくれた人には感謝している。」と素直な人柄を覗かせています。私には、君たち吹田高校生にも彼と同じ若者としての共通点を見るといえば誤解があるでしょうか。大人や世の中は若者をすぐには理解できず、若者はそんな大人に反抗する。古今東西でくり返されてきたことです。反抗の中で心に傷も残るでしょうが、いずれ古い周囲の方を見返してやろうといった気持ちが湧き起こり、そうした感情さえもバネにして伸びていけるのが彼や君たち若者の特権なのです。その場合にもやはり「ナニクソ」という強い意志が不可欠であることは言うまでもありません。あるいは、グローバル化や高齢化などに代表されるこれまで通りでは立ち行かない、変えてゆかねばならない状況が目の前にあるからこそ、若い君たちが持つ豊かな感性や知恵が発揮しやすいとも考えてください。

「校歌斉唱」 振りかえれば、あっという間のような三年間が過ぎ去りました。昨日、皆さんに渡された卒業アルバムを、ほとんどの人が思い出とともにじっと眺めたことでしょう。紺色の表紙を開くと、懐かしい顔、楽しそうな顔、少し緊張した顔、そして生き生きした顔が一編に目に飛び込んできます。また、遠足、体育祭、文化祭、秋の北海道を満喫した修学旅行などの場面が鮮やかに蘇ってきます。今後の日々の忙しい生活の中ではどうしようもなく疲れてしまう時が、人間ですから誰にでもあると思います。あるいは、大人になり、様々な人生の岐路に立った時は、言葉の力ばかりでなく、青年期までの経験や思い出に励まされたり、勇気を与えられたりすることがあるはずです。そんな時こそ、心のアルバムも開いて、母校での思い出を上手に取り出してください。

校歌を歌う卒業生 もう一度、話を言葉の世界に戻しましょう。なぜなら、そろそろ式辞の中では「さよなら」を告げる時が近づいてきたからです。「人はだれでもさよならをいうときには希望をいだく」という詩人(寺山修司)の言葉があります。その意味は、「さよなら」は単に過去を「捨てること」ではない。むしろ、「さよなら」を言えた時、人は次の自分のあるべき姿を描けるのだということです。社会が先の読めないようなきびしい状況であることを前に触れました。仮に、将来の見通しが全くつかないお先真っ暗のような状態であるとしても、私は、若い君たちの可能性の中にこれからの社会を照らす希望の光を見出したいと考えています。自分のもつ可能性を一杯に拡げるためには、世の中に出て、困難に立ち向かいながらも誠実に戦う人々に出会い、自分もこういうすごい人になってみたいという内側から湧き上がるような気持ちを感じてほしい。君たちの本物の大人たちへの憧れが過去の自分に「さよなら」を告げ、あるべき自分を目指す力強い行動となる時、世の暗がりの先に明るい光がさして来る、その時を信じて母校からの応援を続けたいと思っています。では、第五八期生諸君、本当に「さよなら」。

 なお、本日は、創立六十周年記念事業においてご寄付いだきました音響設備一式を、初めてこの会場で使用させていただいております。どうもありがとうございました。また、ご多用中にも係わりませずご臨席を賜りましたご来賓の皆様におかれましては、今後とも卒業生に対するご支援をいただきますよう、また併せて、本校がその社会的責任を全うし、将来ますますの発展充実が叶いますよう重ねてご指導のほどお願い申し上げます。

 最後に、「吹田から世の中へ」旅立つ卒業生の前途に幸多かれと祈念して、式辞の結びとします。

                                           平成二十二年二月二十六日

                                           大 阪 府 立 吹 田 高 等 学 校
                                             校  長   畑 中  利 明

平成22年2月9日      畑中校長だより 第38号

吹田くわい発表会

― オープニングのご挨拶 ―

 こんにちは。本日は吹田高校の「吹田くわい発表会」にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。

 本校は、『吹田から世の中へ』というスローガンを掲げ、学校発展の方向性を定めるとともに、地域に貢献できる人間の育成を目指して教育実践を重ねております。この吹田くわいに関する取り組みもその一環ですが、昨年は文部科学省の「豊かな体験活動推進事業」の指定を受け、「吹田くわいプロジェクト」としてこれを行いました。今年度は、後継事業として、大阪府教育委員会の「学校提案型個性化推進事業(GP事業と呼ばれています)」により、改めて吹田くわいの栽培・収穫・調理、さらに普及活動に取り組んで参りました。本日は、この一年の成果を、広く市民の皆様に展示やプレゼンテーションによって公開いたします。

 今回の発表会で皆様にご注目いただきたいことが二点あります。一つは、吹田くわいという郷土野菜に関わる高校生から大人や交流相手である幼稚園児や高齢者に及ぶ人の輪の広がりです。生徒達は、くわいについて保存会の方々を始めとする大人に教えられ、若者ならではの感性を活かしながら、老人ホームに暮らす高齢者の方々の口に合う、また一方で幼稚園の子ども達に喜んでもらえる新しいくわいの調理法を一所懸命工夫してきました。実はくわいの苦味が苦手な高校生ですが、お年寄りや子ども達から「おいしいね」といってもらえることで、このGP事業の目指す<豊かな感性>は確実に育まれていると思っています。そして、このような地域に人のつながりを作ることが、地域を再生していくことでもあると私は考えています。

 二つ目は、環境の問題を考え、守るという人類が避けて通れない大きなテーマへのアプローチとしての意味合いです。本校の生徒達が扱うくわいは、まことに小粒な植物です。その吹田くわいの最大の特色は、野生でもない、栽培でもない、中間性にあると聞いています。だから、とてもたくましい植物でもありますが、一時はほとんど見られなくなったこの吹田くわいを守っていくことは、この地域の環境を守ることにつながっていきます。そして、環境を考えることは、高校生に地球規模の思考を育てます。

 このような二点に注目いただきながら、この後、本校を代表して7人の家庭科部の女子生徒達(「くわいガールズ」と呼んでおきましょう)が行うプレゼンをお聞きください。実は彼女らは、昨日(2月6日)も吹田市主催の「環境学習発表会」で小学生や中学生に混じって高校生らしい発表を行っております。
歌の練習をする家庭科部の生徒 発表会 発表会

 最後に、こうした取り組みを今後とも継続・発展していくために、本校は大阪府教育委員会の「平成21年度 スクールカラーサポートプラン集中支援事業」対象校に選ばれ、先日、校内の日本庭園内にくわいの池とゴーヤを育てる緑のカーテンを設置する工事がほぼ完了しました(その様子は本日の展示の中でも紹介しております)。次はこの新しい施設を使って自ら栽培し、食材として調理する「地産地消」を実践するとともに、地域社会とのつながりを一層深めていきたいと考えていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 では、どうか本日の「くわい発表会」を十分にお楽しみください。

   平成22年 2月 7日
   吹田市・メイシアターにて
 

 当日、会場にお越しになった多数の市民の皆様には、ご清聴をいただき、また、アンケートにもご協力いただきましたこと、重ねて御礼申し上げます。発表の詳細な模様については、当ホームページに別途紹介をいたしますので、是非ご覧ください。

 なお、渡嘉敷前衆議院議員よりお祝いのメッセージを頂戴いたしました。併せて感謝申し上げます。

平成22年1月8日      畑中校長だより 第37号

3学期始業式 式辞


 明けましておめでとうございます。生徒の皆さんは元気に新年を迎えられましたか?

東アジア地図  今日は、昨年暮れの12月19日から、元旦をはさんで明日1月9日まで、22日間にわたって東南アジアのマレーシアに留学している二人の女子生徒の話です。二人とも、去年、台湾への海外修学旅行を経験した2年生で、偶然にも女子バスケットボール部の部員です。

 この度の海外派遣は、地元の「吹田江坂ライオンズクラブ」が結成15周年を記念してこれからの時代を担う高校生を世界各地に派遣し、国際感覚と英語力を養ってもらおうという趣旨で行う事業に、彼女らが選ばれて実現したものです。ちなみに、今の季節は「寒」と言われるように冬の寒さが一番厳しい時期なので、大阪の今朝の最低気温予報は2℃。一方、2人が行っているマレーシアの首都クアラルンプールの予報では、最低が24℃、最高は34℃でした。こんな気温の差以上に、現地の言葉と生活習慣の違いからくるショックはとても大きいだろうと私は想像していましたし、出発前は当の本人たち自身が不安であったと思います。

 ご家族から実際に聞いた話を紹介します。二人ともそれぞれのホストファミリーに温かく迎えられ、元気に過ごしているようです。でも、現地に到着して3日間くらいはご飯が口に合わなかったり、電気製品の充電ができなくて困ったりもしたそうです。さらに、正直なところ一番心配された言葉の問題ですが、何日か経つと、家族には電話で「心配しないで」と伝えてきたそうですし、自分の誕生日だった大晦日の日にバースデーパーティーをやってもらって嬉しかった、買い物や海へ泳ぎに連れて行ってもらったりするうちに、向こうが言うことは分かるようになってきたというふうに、かなり現地に慣れてきた様子がうかがえます。

 学校というところは、社会にあるチャンスを平等に伝えたり、与えたりするところです。今、紹介した二人の生徒は、自ら手を挙げて今回の海外派遣のチャンスを得ました。たぶん、この経験は彼女らが次の人生のチャンスをつかむことにもつながってくるはずです。話を聞いているみんなも、これからの時代を担う高校生であることは全く同じ。本校のスローガンである「吹田から世の中へ」の目標をもつ君たちは、新たな一年、自分を育てる機会はどんなことでも積極的につかもうという気持ちを常に用意してください。

 終わりに、今学期は、1・2年生には1年間の締め、3年生にとっては高校生活最後の、また総決算の重要な学期です。一人ひとりが悔いを残さぬよう、今日から気持ちを引き締めて、見事な進級・卒業をめざして下さい。
平成22年1月8日      畑中校長だより 第36号

くわいの如く 2010

― 新年のご挨拶 ―

 明けましておめでとうございます。

 年の初め、吹田くわいにちなんだ年賀状をお二人からいただきました。一通は「保存会」のOさんから。 「【吹田くわい】の保存に関わることができて、生涯の喜びと感じています。」との言葉が記されていました。  もう一通は本校のあるスタッフから。昨年末に校内で収穫されたくわいの実が七つ、写真入で届きました。ピンと芽を伸ばしたそのつややかな実は、生命と新春の喜びにあふれて光り輝いています。
くわい池工事中 くわい池工事中

 さて、1月5日、私は吹田市の「新年懇談会」に出席しました。冒頭の阪口市長の講演では、約1500人もの参加者を前に、市制70周年の節目の年、さらなる飛躍へ向けた意気込みをうかがいました。その後1時間半足らずの間に、偶然居合わせたPTAの小島会長の計らいで、私は思いがけず多くの方々とご挨拶や名刺の交換(19枚!!)をさせていただくことができました。その内訳は、上野府議を始め、地元に密着して活躍されている本校OBから、吹田市議会や市の行政当局者、吹田市教育委員会、吹田市文化会館(メイシアター)、吹田市立博物館の各関係者、連合自治会長や『吹田イラストレーター育成塾』といった市民活動の担い手の方々まで、実に多彩なものです。

 とりわけ印象的であったのは、地下道等での壁画【トンネルアート】を企画する『現代美術を愉しもう塾』の代表者お二人でした。開口一番、「校長先生とお会いしたこの機会に言っておきたいことがある。去年の夏、自分たちが岸辺駅南(岸辺第一小学校の前)の地下道で作業をしている時に、トンネルを走ってくる生徒の自転車が危なくって・・・。高校生も一緒に壁画を描いてくれたら、危ないのがよく分かると思う。」とのご意見。受けてたつ格好の私は、本校のイラスト部や美術部は「ことぶき保育園」でこども達のための壁画を描いたりしてるんですよ、との紹介をしながら、吹田高校に対する地域の強い関心をあらためて知る思いがしました。

 今から60年前、本校は地元の熱い期待のもとに創立されました。その期待は今も途切れることなく、グローバル化や高齢化といった社会の変遷を踏まえ、かえって強まってきている。「きつい」注文がつくのはその証拠でもある。地域は基本的には善意のまなざしで、ただし本校の出方を窺っている。これが、懇談会当日に接した多くの方々から理解した私の読みです。

 学校と地域は【積極的な共存】の関係にあります。つまり、「いい学校」は「いい地域」にできるし、「いい学校」を作ろうとみなで一緒に「汗をかく」ことで「いい地域」が形成される(金子 郁容『日本で「一番いい」学校』より)というわけです。そのために、先ずは本校が働きかけましょう。≪吹田から世の中へ≫というスローガンがもつ意味の一つはここにあります。こちらから与えるものがなければ、地域も世の中も面倒を見てくれる道理がありません。

 幸い本校には地域連携の確たる取り組みが根付いています。地産地消や地域の活性化につながる吹田くわいに関するプロジェクトはその象徴です。今後は、こうした地域に固有の価値を再発見して、身近な教育資源として活用しながら、地域の課題解決にも取り組むという姿勢の延長線上に、新たな専門コースの構想を展開していきたい。将来のよき地域社会の形成者を育てることこそが吹田高校の使命であると私は信じています。

くわい池工事中  現在、本校の日本庭園(中央館と北館の間)の一角で、平成21年度スクールカラーサポートプラン集中支援事業による吹田くわいの池の工事を、ゴーヤで作る緑のカーテンの施設とともに進めています(緑のカーテンは、吹田市も各地の公共施設等で先導的に実施中です)。郷土野菜のくわいが吹田の土や水を離れられないように、吹高も地域社会から遊離しては立ち行きません。働きかけ、認められ、そして支えられていく必要があります。

 本年も、吹田高校をよろしくご支援のほど心よりお願い申し上げます。
平成21年12月24日      畑中校長だより 第35号

2学期終業式 式辞


 お早うございます。以前、こうして吹田高校生全員を目の前にして話をしたのは、今学期の「始業の会」の時でした。

 それ以来(2学期を通じて)、学校としてみんなを叱ったり、厳しく注意をするしかないことも時々ありました。 アカンものはアカンと、教えねばならないからです。けれど、一方で「よくやった!! 」「さすが吹田の生徒達」と言わせることも、 とても沢山私は見てきました。今日の終業式では、是非ともそうした褒められるべきことの数々を、できる限り取り上げてみたいと思っています。

 吹高生の活躍の幾つかは、その時々に本校のホームページで紹介されています。みんなは、自分の学校のホームページを見てみたことがありますか?

家庭科部と老人ホームの交流会  そこで紹介されているなかでも代表的なものは、各クラブの活躍でしょう。この秋でいえば、 女子ソフトテニス部の大阪ベスト8入り吹奏楽部のブロック音楽会への出演ダンス部の吹田市ヤングフェスティバル最優秀賞等がトップページを飾りました。 他方で、ホームページには載っていなくても、イラスト部と美術部が、近くの「ことぶき保育園」で子ども達のための絵を描いていることや、 家庭科部を中心とする生徒達が、吹田くわいを使って老人ホームや幼稚園と交流していることは、 いずれの現場からもとても感謝されている取り組みです。こうした各クラブの活動の成果は、その傍で誰かしらの先生の支援を受けながら、 君達自身が「世の中」へ積極的な関わりを求めて得られた結果であって、どれも大変に価値の高いものばかりです。

 もう一つ、よかったなぁと思った話を付け加えておきます。皆さんは、吹田高校では、在学中にワープロや漢字、ペン字等の 様々な検定試験で合格できるように、先生方が熱心に指導、応援していることを知っているでしょう。 また、1級に合格すれば卒業の時に単位を認定したりもしています。そんな検定試験の一つに、今月も行われた家庭科技術検定がありますが、 そのうち、和裁と洋裁と調理のすべてで1級に合格した者 ― つまり「三冠王」 ― が今年も誕生しました。 しかも、そのうちの一人は今年の春に既に本校を卒業した女子生徒だったということで、みんなの先輩に当たります。 彼女は在学中、三つの部門のうち洋裁でだけ1級を取れなかったそうですが、最後の一つは言わば忘れ物のようなものでした。 この先輩は来年の春からある専門学校に進学する予定だそうですが、一年間、アルバイトをして自分でその学費を貯めながら、 取り残した資格試験に合格するため、本校での検定講習にも参加していたとのことです。 卒業生の頑張りを吹田高校の誇りとしてこの場を借りて紹介しておきます。

 この後、引き続いていつもより多くの表彰が行われます。みんなの代表者達の見事な成果を、みんなで喜んであげたい。 心からの大きな拍手をお願いしておきます。

 また、表彰の後には、明日からの冬休みを前に、とくに注意してほしいことを二つ、担当の先生から話をしてもらいます。 一つは、最近、府立高校生の事件としても報道された大麻や覚せい剤、麻薬といった薬物に関する注意です。 薬物は、使用した時はもちろん、持っていても、用意しただけでも犯罪として処罰されます。 つまり、絶対に関わってはならないものということです。あと一つの注意は、交通事故に関するものです。 若い高校生が事故の被害者にも、加害者にもならぬことを、学校も、地域も強く願っています。 どちらの注意も、静かに聞いて、真剣に心に留めておいてください。

 では、私からの話を終えます。どうか健康に気をつけて、よい年を迎えてください。

平成21年10月27日      畑中校長だより 第34号

59期生 台湾修学旅行報告

― 友誼長存 ―

 出発が近づくほどに、インフルエンザ、そして台風(17・18号)の接近という重大な心配があった今年の修学旅行。 両方をすり抜けて無事に終わってしまうと、あれだけの心配はなんだったのか、という気も・・・。 いやいや、二重、三重の対策を用意したからこその無事である、本当にそうであると冷静に回顧しています。

華江高級中学の歓迎式  10月6日、元気に関空へ集まった吹高生。いよいよ離陸した瞬間の歓声が旅の始まりを告げました。 飛行中に時計を1時間遅らせ、一日が25時間となった初日以来、現地からの速報は逐次学校へ送信され、 日ごとホームページ【修学旅行速報ページ】にアップされましたので、既にご覧になった方々も多いことと思います。 (後で聞くところでは、この間のホームページへのアクセスは普段の3倍ほどもあったとか。 それだけ皆様からの関心が高く、また保護者としてのご心配が大きかったものと考えております)。 旅行前からのご理解、ご協力を併せて深く感謝いたします。

 さて、各場面の詳細は写真や生徒諸君からのお土産話に譲るとして、 修学旅行に関する各種アンケート類の集計ができたのを機に、私なりのまとめをしておきたいと思います。

大歓迎の中、華江高級中学の玄関をくぐる  今回の計画は、本校の60年の歴史上始めての海外修学旅行ということで、 学年団が前年度からの実質2回の下見を経て、大きな意気込みをもって取り組んできたものです。 それだけに行く所も見る所も盛り沢山で、いわば目一杯積極的なプランなのですが、 最大のテーマと言えるのは現地での「交流」でした。その意味では、 【第2日目】台北市立華江高級中学との学校交流、【第3日目】真理大学生と組んだ市内班別行動の二つは、 もっとも重要なプログラムであったといえます。修学旅行全体の印象とともに、 生徒諸君と交流相手方の双方にどんな反応があり、どんな感想が出てくるのか、とても気になっていました。

 事前・事後のアンケートの結果を見ると、実は、直前でも生徒達の間の台湾修学旅行への期待値は 高いものではありませんでした(「期待している」が41%、「あまり期待していない」「まったく期待していない」 「何とも思わない」が計59%)。それだけに、事後アンケートでの最初の問い「全体として台湾修学旅行は楽しかったですか」 に対して、合計85%の生徒が「とても良かった(46%)」「良かった(39%)」と回答してくれたのは、 見事な逆転劇(?)といえます。内容的にも、華江高級中学でのグループ交流(76%・「とても良かった」「良かった」の合計、 以下同じ)、生徒の印象(87%)、そして班別行動(88%)、大学生のガイド(87%)がそれぞれ高い評価を得ており、 国際「交流」という旅行のねらいが当たったことを示しています。

両校生徒でゲーム対決! やったあ!  華江高級中学は日本の高校との交流経験もあり、今回も学校を挙げての歓迎ということで、 我々は徐校長先生を始めとする関係者の皆様からの手厚いもてなしをお受けするばかりであったのですが、 公式の訪問というあらたまった雰囲気のなかでも、音楽、ダンス、武術の披露が硬さをほぐし、 短い時間の共有だけで打ち解けられたのはともに高校生らしい柔らかな若さの証明です。 今回の校長だよりのサブタイトル『友誼長存』とは、華江高級中学から贈られた記念品のプレートに刻まれた言葉。 この度の訪問が、両校の生徒が今後とも相通じ合える切っ掛けになったことを喜びたいと思います。

 班別行動を案内する真理大学生(64名)は、元々日本語を学ぶ若者達ではありましたが、 ホテルで初めて対面する高校生とは、お互いに微妙な距離があったように感じました。 それが丸一日、朝から晩までの冒険的な″s動を共にすることで、ホテルに帰りついてからの お別れの写真撮影後は涙ぐんでいる女子学生も。また、大学生自身がアンケートに書いてくれた吹田高校生の印象には、 明るい、親切、礼儀正しい等々、我々にとってもありがたいとしか言いようがない言葉が沢山並んでいます。 中には、電車の中でお年寄りに席を譲っていたといった具体的な記述も含まれていました。
淡水でガイドさん(右端)と
 一旅行者としての眼から見た台北の街は、とても気さくで好意にあふれ、しかも経済的に発展するアジアを 象徴しているかのような活気に満ちています。また、街中のあちらこちらで見かける青天白日旗(国旗)は、 国家の存在が身近にある社会ということを自ずと感じさせます。こうした大阪の日常では得がたい雰囲気が直接的に 経験できた意義も小さくはないはず。多くの生徒諸君は滞在中、遠慮と天真爛漫さを交錯させながら 懸命の適応行動をしていたように思います。

 新しい経験をすることの今ひとつの意義は、日常やこれまでの経験を相対化できるという点にあります。 振り返って私自身が強く心に残ったことの一つは、以心伝心の社会から飛び出し、未知の外国を経験する以上、 我々が現地通訳ガイドさん達(大学生も)の支援なしには立ち行かなかったのは当然とはいえ、 必要なのは言葉の障壁への対応力(つまり語学力)ばかりではない。グローバル化する社会で基本的に必要なことは、 自分の考えをきちんと主張し、その意思表明に責任をもつ姿勢や態度である。本校生の将来のために、 学校の生活(=教育)で先ず養う必要があるのもそうした姿勢や態度であるに違いない、ということでした。

 最後になりましたが、歓迎し、通訳し、対応し、交流の成功にご協力いただいた現地の皆様すべてに、 吹田高校から厚く感謝を申し上げます。

平成21年10月5日      畑中校長だより 第33号

『交流の第一歩』


 59期生の台湾修学旅行(10月6日〜9日)では、現地2日目に学校交流会を予定しています。 以下の文章は、その際の歓迎式でのスピーチ原稿として用意したものです。


『交流の第一歩』

 台北市立華江高級中学の先生方、生徒の皆さん、こんにちは。

 私は、大阪府立吹田高等学校の校長 畑中 利明です。本日は、第59期生である2年生、約300名、及び13名の教職員とともに、 台湾修学旅行の最も大切なプログラムである貴校との学校交流を行うために参りました。

 初めに、新型インフルエンザの世界的流行や台風による大きな災害 ― 被害に遭われた方々には心からお見舞いを申し上げます ― といった心配事があったなかで、今回の交流を快く受け入れていただきました華江高級中学の校長先生、並びに諸先生方、 そして、我々の訪問に合わせて様々な準備をしてくださった生徒の皆さんに、学校を代表して深く感謝を申し上げたいと思います。

 華江高級中学は、すでに日本の京阪神の高校とも豊富な交流経験をお持ちの学校ですが、 吹田高校は創立以来初めての海外修学旅行であって、本格的な国際交流の第一歩を貴校において印すことに、 我々一同、大きな感激と喜びを感じております。

 この後の時間では、貴校のご好意により、音楽やダンス、武道、また、ゲームといった色々の方法と場面で、 両校の交流の成果があがるものと期待しています。とりわけ、この度の交流が、台湾と日本の高校生がお互いの 言語や文化の「違い」を肌で知るとともに、両者がそれらの違いにも拘らず「同じ若者」であり、 将来においても「相通じ合える」ということを学ぶ貴重な機会になるものと私は確信しております。

 それでは、最後までどうかよろしくお願いいたします。

2009年10月7日  
大阪府立吹田高等学校  
校長  畑中 利明  


【付記】学校交流会を始めとする修学旅行の様子は、現地からできるだけ早くこのホームページ上でお知らせしますので、是非ご覧ください。
平成21年10月2日      畑中校長だより 第32号

いざ台湾

― 修学旅行の「栞」巻頭言 ―

 もう準備はできているだろうか?

 旅立ちを前に地図を見た。日本列島は南北に細長いとよく言うが、 実際はほぼ北東から南西に走っている列島の中央軸をまっすぐに延長していくと台湾がある。 よく見ると、台湾は、日本最西端の島、与那国島のほん根際(ねき)にあることがわかる。それくらい近いということだ。

 地図をさらに眺める。太平洋を台湾から日本列島の方向に、黒潮の大きな流れがある。 はるかな昔、この海流が東南アジア方面からの文化を日本にもたらしたと言われている。 黒潮という川を下ったり、時にさかのぼったりしながら、歴史はつながってきたのだ。

   要するに二つの国は古くからの隣どうしの間柄で、その間に長いお付き合いがあり、親しみが生まれ、 関係がもつれた時代もあった。

 間もなく出発の日が来る。飛行機に乗ってしまえば、関空(大阪)から桃園国際空港(台北)までは2時間半余り。 始めて行く現地の空気はどんな匂いがするのだろうか。かつて北の高山に登った時、 私は空気の密度の違いを感じた。また、南の離島に行った時には、空気にこもる光と熱の強さを感じた。 台北では、きっと人々の暮らし方の匂いがするのだと想像している。

市立華江高級中学  今回、台北市内では故宮博物院他の見学、市立華江高級中学(日本では高校)訪問・交流、 真理大学生の案内による市内観光etc.といったとても盛りだくさんのメニューが予定されている。 楽しくない修学旅行はない。しかし、より多く楽しむためには、皆の健康と集団行動でのルールとマナーを守ることが前提だ。 荷物の準備とともに、体調管理と心がけの用意もできているだろうか?

 われわれを出迎えてくれる台湾側の歓迎と交流への思いは、新型インフルエンザの流行があっても、 何ら変わっていない。当局や関係者の熱意と度量に感激するばかりである。

 創立60年目を迎えた吹田高校は、『吹田から世の中へ』という展望を描いている。 本校の歴史上初めての海外への修学旅行は、そのテーマにふさわしい企画だ。 この旅行中、君たちはなじみの大阪、いつもの日本を離れて、台湾でどんな違いに出会い、 思わぬ共通点にも気付いてくれるだろうか。3泊4日の後に、君たちが少し大きく見えるようになればと期待している。

平成21年9月15日      畑中校長だより 第31号

2009年度 文化祭(吹高祭) 講評


 9月12日(土) 雨もよいの曇り空の一日、第59回文化祭が予定通り開催されました。
 生徒会による今年のテーマは、『信・義・文化祭 ~文化祭は青春の縮図である~ 』でした。

 本校では、当日の催しがすべて終了し、生徒会の閉会宣言が出される前に、放送による講評の時間が設定されています。  実際のところ、様々な企画を全部、また、じっくりと見ることは不可能なので、前評判を知る現場の先生方に「見物は何ですか」 といった多少の取材をしながら、それを参考にあちらこちらの会場を私は覗きました。  講評や審査のためということもあり、多少とも機械的にしか楽しめないのがつらいところです。

それはさておき、以下が放送した短い講評の原稿です。


 まだ祭りの後のざわめきの途中かもしれませんが、少しの間聞いてください。
文化祭でソーラン節を踊る  今年の文化祭は、ダンスのようなアクション、合唱や演奏のような音楽、ゲームや屋台周辺の大変な賑わいがある一方で、 お茶室でのとても静かな時間や、廊下や階段で出会う展示の個性的なアピール等、とても多彩な内容でした。
 また、生徒会が企画した災害の被災地募金のような社会的な活動も忘れてはなりません。
 文化祭の各内容には、クラブの日頃の練習やクラスの取り組みの成果がよく表れていたと言えるでしょう。
 生徒の皆さんには、こうした活動を通して、何かよい結果を生むためには、 知恵と汗と手間ひまを惜しんではならないこと、皆の協力がもっとも大切であることを学んでくれたらと思っています。
 最後に、本日の文化祭を温かく見守ってくださった保護者の皆様、地域の皆様に心から感謝いたします。ありがとうございました。


 しばらく「校長だより」を更新できませんでした。その間、吹田高校にお知らせするべきことやメッセージが何もなかったわけではありません。近々、いくつかを振り返りながらご報告したいとは考えています。
 でも、過去よりも未来の方に、知ってもらいたいことが沢山出てきてほしいもの。 「校長だより」を含む当ホームページのコンテンツが、次々と新しい吹田高校の様子をお届けできるよう、今後ともがんばりたいと思います。

平成21年7月24日      畑中校長だより 第30号

1学期終業式 式辞


 お早うございます。

いつもの年より約一週間遅い1学期の終わりとなりました。暑い中ですが、少しの間、静かに話を聞いて、夏休みの前に考えてみてください。

6月末に、市内に住んでいるKさんという見知らぬ女性の方から、一通の葉書が届きました。内容を簡単に紹介すると、一月ほど前(6月25日)の木曜日の午後3時半頃、Kさんがこの近所でバス停への道が分からず迷っていたところを、一人の少年が大変親切に教えてくれて、「とてもさわやかに感じて」、「もしかしたらお近くの吹田高生さんではと思い」、「感謝をお伝えできたら」というものでした。

今学期の始めにも、本校の野球部員が電車の中で親切に席を譲ってくれたことに対して、感謝の電話をいただいたことがありましたが、野球部の場合は、ユニフォームに学校名が書かれています。それに対し、先ほど紹介した葉書は、あくまで本校の生徒であると思われる若者に親切にしてもらったということで、吹田高校と確かめられた話ではありません。しかし、私自身は、これはきっと君達のなかの誰かがやってくれたことと信じていますし、もっと大事なのは、世の中の人が、近所でこうした親切な行為をやってくれたのは吹田高校生であると考えてくれるということです。

もう一つ、今月の10日にある保護者の方からいただいたメールを紹介します。

雨の日、校門前の信号を待つ生徒 書き出しは、「梅雨時でうっとうしい日々、ちょっと残念なことがあります。」です。「雨が降りそうな日、子供が傘を持って行って、教室の前の廊下にある傘立てに傘を入れておき、帰り時、雨が降っている時など、傘がなくなっています。」朝、見送る時に「今日は雨降ると天気予報でゆうてたから、傘を持っていきや」「この間から、傘、学校に忘れているの違うの?持って帰っといでや」と言うと、「とられた」と一言。「ちなみに、今日は傘を持っていかずに濡れて帰ってきました」「朝から雨の日は盗られないのですが・・・」「なんとかならないものでしょうかねぇ・・・」

 こちらは、とても悲しいことですが、現実のことです。

 ともあれ、この2つのたよりから、私は、吹高が「いい」学校になるためには不可欠の、地域からの当たり前の関心とつながりに恵まれているな、ということを感じています。

明日からは夏休みです。その間も、どうか世間の眼の温かさや期待、一方で厳しさや人の心の痛みを忘れない人間でいてください。事故や、新型インフルエンザ等には十分気をつけて、元気に過ごしてください。できたら、本も一杯読んでください。

以上、1学期の式辞とします。

平成21年6月30日     畑中校長だより 第29号

鳳志会総会にて(ご挨拶)


鳳志会総会にて  鳳志会会員の皆様、こんにちは。ただ今、ご紹介いただきました吹田高校校長の畑中です。先ずは、本日の総会開催、誠におめでとうございます。

いつも感心するのですが、『鳳志会プレス』の発行や会員名簿の管理といった日常の活動、ゴルフコンペ等のイベント、そして、毎年の盛大なる総会開催と、これほど見事な同窓会運営をされている府立高校というのは実は稀なものです。それだけに、会長様のご配慮、また、平素、鳳志会と学校をしっかりと結びつけてくださっている副会長様他、役員の皆様のご苦労は一方ならぬものと拝察いたします。本校へのご援助に対し、この場をお借りして御礼申し上げます。

 さて、すでにご承知のように大阪府立吹田高等学校は、吹田市内に府立高校をという熱い願いを受けて、昭和25(1950)年に開校以来、この4月には第60期生が入学、というわけで、お蔭様で60年の歴史を刻むことができました。これも偏に卒業生を始めとする地域の皆様のご支援の賜物と重ねて感謝申し上げます。

 これまでの本校の歩みを振り返るとき、その開校の原点である願いからして、地域に学び、地域に誇りを持ち、地域に貢献できる人材を育成してきた学校という性格を見て取ることができます。

本校の現状について、いくつか数字でご紹介させていただきます。本校と地元吹田市と結びつきを示す指標の一つは、市内からの合格者数ということになろうかと思いますが、(今春の市内合格者の比率はどれくらいだと思われますか?) この春は、280名の定員中120名、率に換算して42,3%。これは前年よりも1,4ポイント高くなっております。因みに志願者の倍率の方は、前年が1,31倍、今年が1,40倍となっており、学区内から広く期待を寄せられ、また、極めて大きな社会的責任を有する学校となっております。

 一方、近年の卒業生の進路は、4大・短大・専門学校への進学が約8割に対して、就職が約2割といった比率となっております。46期生の田村裕さんが、ベストセラー『ホームレス中学生』の中で、就職指導の確かさが本校の優れたところと書いておられましたが、実際に吹田市立中学校の校長先生からも、こうした進学から就職までの対応が、幅広く、かつ実質的にできる学校の存在は強く求められているところです。

 では60年目以降は、という話になりますが、この点につきましては、今年の5月19日付けで23期生のS様という方から、「これからの吹高発展に向けた一提言」というA4版で7ページに及ぶご意見書を、学校代表メールの方に頂戴いたしました。S様、本日はいらっしゃっていますか?中身は一私見と断っておられ、公表の了解も得ておりませんので差し控えますが、現状の分析に始まり、更なる発展に向かうための施策をびっしりと展開されておられます。この総会の場をお借りして、S様へのあらためての御礼(いつも応援いただき、ありがとうございます)と、学校の責任者としての感想なり述べさせいただければと思います。その中には大変に興味深い、またありがたいご提案もありますし、すぐには採用しかねる部分も含まれております。とは言え、かつてマザーテレサが言ったように「愛の反対は無関心」であるとすれば、S様の場合にはすべてが吹高への強い愛着による多大の関心の具体的な表れとして、全文を拝読いたしました。S様、一部を紹介してもよろしいでしょうか。(この点につきまして、当日ご出席のご本人から、快く了解をいただきました)

 例えば、「卒業生の半分は京阪神に在住し、そのまた半分が吹田市に在住している現状から、時間的に地域の高校に関わりを持つことは難しいことではありません。」生徒たちには「如何に勉強したことが社会に役に立つことか、真理を探求することが如何に面白いことかを経験者が話して聞かせることが大事と思います。」「幸い、鳳志会会員は二万有余人も世間で活躍しています。」「講演会などで卒業生の力を借りて生徒諸君のやる気を喚起することは直ぐにでも取り組める施策です。」といったご提言等は、大変魅力的なものであると考えております。

 実は、今年、60年目を迎えた本校が、これからの60年を考える際の方向性であり、目指すべき学校づくりのキーワードは、やはり地域との高度なつながりにあると確信しております。私は、まもなく刷り上ってくる新しい吹田高校のパンフレットに掲げるスローガンとして、従来のものに≪吹田から世の中へ≫という表現を付け加えました。これは、本校が今後育てるべき生徒が、グローバルな視野と社会の激しい変化にも対応できる力、言わばたくましさと柔軟性の両方を併せ持って地域社会で活躍できる人間である、との認識とリンクするものです。そのためにも、S様のご意見も参考として、地域とのつながりを基盤としつつ、広く≪世の中≫との相互交流を深めることは不可欠の課題であります。

吹田高校校章(高の字とペンの図柄の背には鳳の翼がデザインされている) こうした課題に対応するために、本校では今年、「フェニックス委員会」という新しい機関を立ち上げました。これは、学校説明会を始めとする「開かれた学校づくり」に取り組むとともに、吹田高校が大阪府等の新たな施策を積極的に活用、獲得するための戦略を行う機関です。名前の直接の由来は、皆様もご存知の本校のシンボルツリーの一つ、本館前のカナリーヤシ、つまりフェニックスの樹から採りました。また、フェニックスはエジプトやギリシャ神話に出てくる不死鳥であり、還暦を迎えた吹田高校の再生のシンボル、さらに言えば、それを日本語に直す時には「鳳凰」という言葉が当てられますが、校歌に「鵬のしるしぞ」とあり、鳳志会の名にも通ずる吹田高校の象徴でもあります。実際に、このフェニックス委員会から提案した郷土野菜である「吹田くわい」の栽培・調理・普及に関するプロジェクトが、早速、大阪府教育委員会が行う学校提案型個性化推進事業(GP事業)の一つに指定されました。

話の最後に、本校の創立60周年を記念する事業を今年から来年度にかけて、鳳志会を含む関係者のご理解とご協力の下、実施、展開していくこととしております。半世紀に一度の50周年記念に対して、10年後の今回の事業は、還暦に因んで次の60年のための基礎をつくる事業と位置づけるのが相応しいとも私自身は考えております。実行委員会を組織して、今後皆様のお知恵をお借りし、ご協力を得たいと思いますが、何卒長い目で、熱きご支援を母校吹田高校にいただきますようよろしくお願いいたします。

本日は、誠におめでとうございます。

【付記】本総会におきまして、今年度も引き続き校内の日本庭園整備や60周年記念事業の支援を行う計画等が承認されましたことに対し、学校を代表して深く感謝申し上げます。

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平成21年6月2日     畑中校長だより 第27,28合併号

5月の嵐 (メイ・ストーム)


休校中のグラウンド&校舎  今日は一週間延期となった中間考査の最終日。新型インフルエンザと臨時休校の影響が気にかかるところですが、そろそろ、また、今のうちに休校期間(5月17日〜24日)中の出来事を検証しておくべきとの思いでキーを叩くことにしました。

 新型インフルエンザの感染者が近隣の市で確認されたらしい ― 私が、そんな未確認の情報を聞いたのはPTA総会のあった5月16日(土)の夜でした。すると、日付も変わった17日(日)零時過ぎ、府教委から携帯に電話 ― 午前7時過ぎに校長あて緊急の連絡が入るので待機するようにとのこと。以下は、それからの学校サイドの動きです。


 17日(日) 朝、自宅への連絡はなし。学校にならば何か情報が入っているかも、との期待から、ともかく家を出る。途中、これから予想される事態と対応について思案しながら、10時半頃、学校着。吹田市教委からのFAX(7:58着信)あり。「吹田市では、感染の拡大を防止するため、5月17日(日)から23(土)まで市立の各学校園を休業します。貴校についても適切な対応をお願いします」との内容。地域的な問題でもあり、直ちに市内府立高校長に電話で連絡。続いて、教頭、事務部長、首席、各部・学年主任、養護教諭、更にメルマガ担当者へ、非常召集を連絡。午後にかけて、該当職員(計12名)が順次集合。14:40 府教委から、豊中・吹田・茨木市内の府立学校に当面7日間の臨時休業を行うとの通知あり。臨時の運営委員会にて、状況を報告、今後の対応策(中間考査の日程を一週間延期する等)を練り、他の教職員、そして全生徒への連絡内容の確認と方法を決定。直ちに学年主任から担任へ、家庭連絡の内容を伝達。担任は、それぞれすぐに使用できる通信手段によって、臨時休業のお知らせと健康状況把握を実施。PTA会長に連絡、養護教諭から学校医へも報告(以後、学校医とは随時相談を行い、助言を請う)。校門の休業掲示、ホームページへの掲載、メールマガジンの送信等を分担して実施。20時半を過ぎて、学校に出ていた担任が最終の生徒への電話を終了、全職員退校。

 18日(月) 府域の全ての高等学校を本日より24日(日)まで臨時休業とする旨、教育委員会が通知。9:00 臨時職員会議。これまでの情報を共有するため、経過と状況等を報告したうえで、この後の基本的手順を指示。10:00 クラス別、学年別に昨日来の健康状態を集約。感染が確認された生徒はいないことが判明する。10:10 体育祭の日程等の再検討を始め、問題を洗い出し、対応策を検討するため、分掌ごとに会議。11:30 各分掌からの案を整理する目的で運営委員会を開催する。13:15 2回目の職員会議。各分掌の原案を承認する。15:30 直前に府教委から届いた生徒の健康観察チェック票と明日から24日(日)までの報告様式を基に、「対策会議 ― 校長・教頭・首席・学年主任・養護教諭(保健主事兼任)で編成」で、生徒の健康状況の再度の把握、各家庭に依頼する内容を検討、連絡マニュアル案を作成する。16:40 対策委員会の案を基に、3回目の職員会議。保護者、生徒に対して、急性呼吸器症状等がある場合、必ず学校へ報告してもらえるよう周知する方法に関し論議する。また、周知の手段としてメルマガの機能を活用(発信と返信)することとし、併せて、全職員への緊急連絡に携帯等へのメールを利用するため、アドレスを集約、発信の試行を実施。ホームページに、17(日)〜24日(日)までを休業期間とする告知(第2報)を掲載。

 19日(火) 始業時から終日、担任、副担任が手分けして、全家庭への2回目の連絡を実施。前日のメルマガ(442通)に対する返信数は計316通(10時時点の返信率71.5%)。それ以外の家庭への電話連絡の徹底を期す。午後、地区校長会へ出席(14:00 三島高校)。非常時こそ情報の交換、収集、関係校の協力の意義は大きいはず。16:44 教頭よりメール。生徒で、発熱相談センターへの相談のみが2名。陽性件数0。ここまで、臨時休校とその対応の決定、生徒への連絡が一日早かった(多くの府立高校では18日から)ことで、非常体制が比較的円滑に機能しているのを感ずる。

 20日(水) 8:45 昨日相談、受診した生徒について、養護教諭より報告。解熱を確認したが、以後も担任による状況把握を継続することとする。13:15 職員連絡会を召集。本日正午現在の健康観察チェック結果、地区内他校の状況、19日現在の臨時休業に関する府教委の考え方等を校長から全職員に説明する。

 21日(木) 正午時点での健康観察チェック結果は、17日からの通算で相談のみ3件、陽性件数は0件。13:30 対策会議。学校医の助言に基づいて、今後の対応について協議。土・日の電話受付体制、中間考査に備えてマスクの用意等を確認。

 22日(金) 9:30 運営委員会。続いて、11:15 職員会議 5月25日の臨時休業解除を前提に、今後の対応を説明。とくに、1限目の授業担当者による生徒の健康観察(声かけ)を、当面、毎日実施することを決定する。

 23日(土) 12:38 府教委より、5月25日(月)から、学校園等を再開する旨、通知あり。8:30 〜 17:15の間、家庭から学校への電話連絡はなし。

 24日(日) 前日と同様、終日、電話連絡なし。明日配布予定の「臨時休業の解除、及び学校の再開について」、文書を用意。PTA会長にも再開を伝える。


5月25日朝の中庭  最後にお断りしておきたいことが2点あります。1点目は、ここに書いてきたのは、この前後8日間の各ご家庭や生徒諸君の様子ではなく、あくまで本校の「内側」での事実に過ぎません。先述の記録を見ても、当初3日間の対応には多くのエネルギーが費やされていますが、その後は、受動的に連絡を待つこととなり、動き自体は急速に減っています。それだけ落ち着いてきたとも言えるし、同時に強いられた辛抱によるご家庭内のストレスは確実に溜まっていったことと拝察しております。2点目は、本校では、非常時への対応を必要なだけ機敏に実施しつつ、同時にもう一方の軸足を先々のための取り組みにも置いて、会議(新プロジェクト委員会や60周年関連委員会)等はできるだけ予定どおりに行いました。理由は、必要(状況)に応ずることと平時の着実さは何れも重要であるからです。実は、休業解除後も、普段の学校を取り戻すのだから、とりたてて言うほどのことはしない、ただ、学校医の助言により、感染予防に効果的とされることはきちんとやろう(毎日の健康観察を実施する、手洗い場ごとに薬用液体石鹸を配置する等)という姿勢で臨みたいと考えています。生徒や保護者の皆様には、何卒ご理解をいただきますようお願いいたします。

 週明けの5月25日(月) 朝の一番乗りは待ちかねた野球部員だったようです。7:30 校門の所に前日残して帰った「臨時休業」の立て看板を撤去した時、私の体中に学校を再開できるという実感が湧き上がりました。

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平成21年4月30日     畑中校長だより 第26号

60年目の4月に


中庭のメタセコイアとツツジ  新しい年度が始まってはや一ヶ月が経とうとしています。

月の前半、本館前では桜が次々と ― ヤマザクラ、ソメイヨシノ、枝垂桜の順で ― 満開となり、華やかに散っていく。入れ替わるように、グラウンドの傍の棚に藤が花穂を垂れ、甘い香りで虫たちを誘い出す。中庭では、メタセコイアの葉が眼に見えて繁っていく。こんな季節の移ろいの速さとは対象的に、玄関脇のカナリーヤシ(フェニックス)は、ヤマザクラの寄生を許しながら、案外何事もなかったかのように突っ立っている。多くは吹田高校の象徴となる樹(シンボルツリー)であり、その春を代表する風景となっているものです。

 同じ時期、人事異動で新たに本校へ赴任したメンバーと280名の60期生を迎えて、新学期のスケジュールが慌しく消化されていきます。学校生活の基礎となる健康診断、人間の理解のための担任との懇談、そして生活規律の定着を図る強調週間といった大切な取り組みが、授業の開始と併せて予定通りに進められました。生徒諸君には、こうした動きの中で自ずと本校でのよりよい生活リズムを身につけていってほしいと願っています。

この間の観察で気がついたことの一つは、生徒から返ってくる挨拶の反応です。朝、校門で遅刻指導に当たる立ち番の先生から少し離れた場所に立って、「おはよう」という声をかけていますが、一緒に立っている教頭先生の大きな声の効果もあるのでしょうか、反対に挨拶(声で、または仕草で)が返ってくる割合が、昨年と比べても随分高まったように感じます。いや、朝の場面だけではなく、帰りや校外ですれ違うときにも、生徒からの挨拶は増えています。このことは、単なる習慣以上に、お互いが相手に真っ当な関心を払う人間関係の第一歩として、とても喜ばしいことだと考えています。

 私自身のことで、昨年と比較して変わったことといえば、外へ出る(出張する)機会が多くなったという点でしょうか。たとえば、先週(4月第4週)の場合はこんな具合です。
4/20(月)【初任者研修実施校連絡協議会】 本校にも2名の初任者が着任しており、将来の大阪の教育を支える彼らを育てる研修についての説明会です。
  21(火)【校長協会生徒指導委員会】 校長も様々な専門委員会や部会に分かれますが、私は本校にもっとも必要な情報が得られるところをと考えて、この委員会に所属しています。
  22(水)【吹田江坂ライオンズクラブ事業説明会】 今年の冬休みに、市内の府立高校生の海外短期留学を支援しようという同ライオンズクラブ15周年記念事業(本校からも2名の推薦が可能です)の説明会。その後、関西大学教職支援センターへも廻りました。
  23(木)【教育委員会・教務グループへ】 本校の新規事業計画の説明と働きかけのための訪問です。
  24(金)【府立学校「評価・育成者」研修】【コンプライアンス研修】 教職員の評価・育成システムと学校のコンプライアンス(法令順守)に関わる研修で、後者の冒頭では橋下知事の訓示もありました。
 不在の間には教職員がきちんと対応してくれますから、今後とも、本校にとって意義のあるところへ(その意義が直ちには現れないとしても)出て行くことは厭わないつもりです。

授業公開中の廊下  最後に、振替授業日となった4月25日(土)には、生憎の雨の中を、授業公開(105名)と3年生保護者対象進路説明会(76名)に多数ご来校いただき、誠にありがとうございました。進路説明会での挨拶で申し上げた要点のみ再掲させていただきます。― 自らの進路が進学であれ、就職であれ、これから求められる理解力、思考力、表現力等の「人間力」は、高校生活全般の中でこそ身につくものです。本校の教職員は様々なキャリアと専門知識を持っていますので、とにかく学校を利用尽くしてほしい。カリスマ(神様の与えたもの)を持っているイチロー選手でも、「小さなことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただ一つの道」と言っています。どうか自分の夢を定めて、学校の日常で小さなことを積み重ねて「とんでもないところ」へ行ってみてください。応援すると約束しますから。

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平成21年4月9日     畑中校長だより 第25号

1学期・始業式 式辞


体育館前の桜  お早うございます。

 今日からまた、新しい学年と新しい学期が始まります。以前とは違ったクラスの顔ぶれとなり、最初は戸惑うこともあるでしょうが、すぐに慣れると思います。「慣れる」ということも人生では大切なことですし、新しい環境と新しい出会いの中でどんな素敵な経験ができるのかという期待をもつことは、前向きの自分を創ります。今日は気持ちを新たにして、この学年で吹田高校での生活をもっと有意義なものにするぞと、自分によく言い聞かせてください。

とくに、3年生は最終学年です。自分の進路を選択し、希望を実現するための精一杯の努力が求められます。百年に一度とも言われる経済危機のなかで、学校や保護者は心配し、応援することまではできますが、それ以上のことはできません。そこから先は、夢をかなえるために頼れるのは自分自身だけです。この現実に対して、どこまでやれるのかという自分への挑戦をやってみてください。

 また、2年生は、今年の秋、吹田高校では始めての海外(台湾)修学旅行に行く学年です。そのための準備も、実際の経験も、間違いなく君たちを成長させることでしょう。但し、現地では2年生一人ひとりが日本代表となります。その自覚をもって、毎日の生活の中で改めるべきは改めていってください。

 今日の午後には、節目の第60期生となる新入生が入学します。君たちは新入生の先輩として、彼らを指導し、高校生活をともにする中で本校のよき伝統を伝える責任を負っています。また、60周年の記念行事は来年の計画ですが、今年度を含めて2年間、本校が行う教育活動の幾つかは60周年記念の事業として取り組んでみたいと考えています。生徒諸君も60年目の吹田高校にふさわしい企画を、生徒会や部活動等の中で考えて、実行してみてください。

 さて、学校は勉強するところです。吹高生はみんな集中して勉強に取り組んでほしいと思っています。「勉強」とは、もちろん授業で学ぶことが基本ですが、辞書では、「現在素直にありがたいとは言えないが、将来の大成、飛躍のためにはプラスとなる経験」(新明解国語辞典)とより広い意味でも説明されています。その意味では、吹田高校での生活に無駄なことは一つもありません。3年生はあと1年間、2年生はあと2年間しかありませんから、その間本校で一所懸命に勉強してください。

この際、私から日々の勉強方法について、三つのことを注文しておきます。一つ目は、新聞をよく読むこと。二つ目は、辞書をよく引くこと。そして三つ目は、人の話をよく聞くこと。とくに、授業での先生の話は、既に一旦理解している人から要点を説明されるわけで、よく聞くということは、自分で一から学ぶよりもずっと効率のいい勉強法です。

今、みんなに聞いてもらっている式辞も、一部、辞書を引きながら用意しました。ここで、新聞からも紹介しておきます。一昨日のものですが、この季節の「新入社員に贈る言葉」として、「がんばってください。あなたにとっての宝物も、すべて未来に埋まっている」という文言に出会いました(4月6日付け「日本経済新聞」夕刊 かんべむさし氏の『旅の途中』より)。最後に、これをもらって、改めて新学期の吹高生に贈ります。「がんばってください。あなたにとっての宝物も、すべて未来に埋まっている」のだから。


入学式 式辞


入学式  春のさわやかな風に、玄関に花開いた枝垂桜が軽やかに揺れるこのよき日に、平成二十一年度 大阪府立吹田高等学校 入学式を挙行いたしましたところ、大阪府教育委員会ご代表 様、大阪府議会議員 上の和明 様、PTA、本校の同窓会であります鳳志会の方々、並びに多数の保護者の皆様のご列席を賜り、高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 ただ今、入学を許可いたしました新入生の皆さん、先ずは入学おめでとうございます。教職員一同、皆さんの入学を心から祝福し、歓迎いたします。皆さんは、言うまでもなく自分の意思で吹田高校を選び、自分の努力で近年稀に見る厳しい入学者選抜に合格されました。保護者の方々のお喜びも一入のことだと思います。

 本校は、昭和二十五年(1950年)、ここ吹田市に府立高校の設置をという地元の熱い願いのもと、当時の新制高等学校の第一番目の高校として創設されました。以来、その歴史のなかで二万名を優に超える卒業生を世に送り出し、まさに社会に必要な存在であることを自ら証明しつつ、足跡を刻んでまいりました。そして本日、ここに節目の第六十期生となる二百八十名の諸君を迎え、伝統の豊かさにまた新しい息吹が吹き込まれますことに、学校を代表して大いなる期待を表明したいと思います。

 皆さんが入学した吹田高校は、これまで、地域に学び、地域に誇りを持ち、そして地域に貢献できる人間を育成することを基本として教育を行ってきました。この方向性は今後も変わることはありませんが、同時に六十年目の本校が目指すのは、グローバルな視野を持ち、世の中の変化に対応しながら地域社会で活躍するというように、一層柔軟で、たくましい人間を育てることです。私は、そのような使命を果たすためにも、「わかる」から「できる」へ授業の質を高め、「吹田から世の中へ」をスローガンに、社会とつながる学校づくりを進めたいと考えています。

 今、新たな高校生活へのスタート台に立っている皆さんに対し、この場を借りて吹田高校が諸先輩から受け継いできた伝統の精神、あるいは魂と呼ぶべきものを紹介しておきたいと思います。およそ学校がその歴史の中で形成してきた伝統というものは、眼に見える形にはなりにくいので、伝統の精神を発展的に継承させるというのは、実はとても難しいことです。しかし、古いことを調べて、新しい知識や考えを得るという意味の「温故知新」という言葉があるように、今後の本校が目指すべき姿や将来の展望への確かな手がかりは、長年にわたり築かれてきた伝統の中にこそ潜んでいると私は常々信じております。だから、具体的な先輩の言葉や行動に見出される精神や魂を、誰かが折りに触れて語り継ぐ必要があります。

 例えば、卒業生で、式の冒頭にも紹介させていただきました府議会議員の上の和明さんは、ある所で、吹田高校の陸上部での体験が今日の自分の根性を作ってくれたのだと語っていました。政治家である上野さんの、困難で責任の重い今の活動を支えているのは、「やれば出来る。あきらめたらあかん」ことを教えた高校時代であったというわけです。また、ある大学で教員をされている別の先輩は、「ナニクソ」という言葉が本校の魂を表わしているのだと言われました。「ナニクソ」とは、逆境にあって、奮い立つ時に発する言葉です。「やれば出来る。あきらめたらあかん」も「ナニクソ」も、新しい何事かに挑む時、誰もが自分自身に言い聞かせるべき言葉、負けない心を支える言葉です。本校の伝統の中には新しいものを生み出す力があるということを、新入生の皆さんは是非知っておいてください。

 こうした本校のよき伝統は、授業を始め、学校行事や生徒会活動、部活動など、あらゆる領域に生きているはずです。「ホームレス中学生」で知られるコメディアンの田村 裕さんもまた本校の卒業生ですが、彼が高校生活を楽しむきっかけとなったのは、秋の文化祭でのクラス演劇と、それを当時の担任の先生がほめてくれたことであったそうです。新入生諸君には、何事にも積極的に取り組んでみることで、吹田高校を楽しみながら、自然とその精神を身に着けていってほしいと思います。学校というのは、そんな積極的な取り組みを促し、時には失敗をすることがあっても、その失敗を許し、立ち直れる場所でもあります。どうか、本校が用意する沢山のチャンスを、思い切って活かしてください。

 さて、最後になりましたが、保護者の皆様、あらためてお子様方のご入学を心よりお祝い申し上げます。吹田高校では、すべての教職員が、大切なお子様を無事卒業されるまでお預かりし、その人としての成長を支援したいものと心から望んでおります。その実現のためには、当面の課題とされる携帯電話への対応一つをとっても、学校と保護者の皆様との信頼関係が必要不可欠であることは言うまでもありません。今後、多感な時期を過ごされるお子様の行動に今まで以上に注意を払い、もっとも身近な大人として厳しさと優しさを併せ持ってご指導ください。また、学校から発信される各種の情報に関心を持っていただき、本校の教育方針にご理解を賜るとともに、積極的な応援とご協力をいただきますよう、重ねてお願いを申し上げます。なお、ご意見やご要望などがございましたら、各担当職員に何なりとお聞かせいただければ幸いでございます。

 結びに、本日、ご多用中にも関わりませず、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様におかれましては、60年目の本校がその社会的責任を全うし、今後ますますの発展、充実が叶いますよう、一層のご指導、ご支援を切にお願い申し上げて、式辞といたします。

  平成二十一年四月八日
大 阪 府 立 吹 田 高 等 学 校
校  長   畑 中  利 明

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平成21年3月13日      畑中校長だより 第24号

3学期終業式式辞


 お早うございます。

 今日で3学期、そして君たちにとってはこの1年間が終わろうとしています。 校舎玄関付近式の後、ホームルームで担任の先生から通知表を受け取って、学習面での評価を確認してください。通知表は一枚の紙に過ぎませんが、そこに記された数字の裏側には、それぞれの1年間が見え隠れしているはずです。無事に進級できたことには安心を、成長したことには自信を、後悔や反省には謙虚さをもって、来年度に向け少しずつ気持ちを切り替えていって下さい。とくに、不認定科目がある人は、必ず追認がされるように、気を引き締めて4月を迎えてほしいと思います。また、明日からの春休み中は、大麻等の薬物には絶対に手を出さない等、この後の生活指導部からの注意を守って、元気で有意義な期間としてください。

 さて、先日、この体育館で卒業式が行われ、そこに出席した人を含む在校生全員に吹田高校の伝統が先輩より引き継がれました。入れ替わりに、第60期生となる新入生の志願書受付が終わり、倍率は昨日の新聞で発表されたとおり1.4倍という高さで、本校への大きな期待が表れたものとなりました。このような本校への思いをよく伝えるメールを、ある卒業生の保護者の方からいただいたので、君たち生徒を見つめる親の眼を知ってもらいたいとの気持ちもあって、ここで一部を紹介しておきます。

 「吹田高校入学は予定外のことで、親子ともどもためらいながらの入学式を迎えたのを覚えています。/ 性格的なこともあり、なかなかクラスに馴染めず、通学が苦痛の時期もあったようです。病気欠席を数日はしたものの無事卒業が決まり、感慨深く式に出席させていただきました。/ 1年生の時は親として本当にひやひやしながらの毎日でした。/ 2年生では、先生のパワーに時としてたじろぎながら、修学旅行も無事参加し、一回り大きくなった時期だったと思います。/ 3年の時のクラスは、中学・高校を通し一番楽しかったそうです。/ 吹田高校は素敵な学校でした。/ これからも皆さんの活躍をホームページを通し拝見しながら、応援を続けていきたいと思います。」

 少し前に、『おくりびと』という映画がアカデミー賞を受賞したことを知っている人も多いと思います。そこでは、本木雅弘さんが「納棺師」を演じていますが、作品の原作者である青木新門さんという人は、「葬儀というものは死者から生者に≪いのち≫をバトンタッチするゾーン(場)だと思っています」と語っています。また、『おくりびと』のアメリカでの題名は“DEPARTURE”ですが、この言葉を英和辞典で引くと「立ち去ること」、つまり「出発」という意味が先ず出てきます。卒業式であれ、今日の終業式であれ、君達が、これまでどのような人々から見守られてきたかを知り、過去とは決別しながら、これからどのような出発をすべきかを語り、考えるよい機会です。どうか、高校生である自分がかけがえのない存在であることを自覚して、可能性を大切に育てていってください。

 新学期、上級生となった君たちと、ここで再び元気に顔を合わせることを楽しみにしています。

平成21年3月2日      畑中校長だより 第23号

卒業式式辞


 寒々と硬かった大地がゆるみ、花々の開花を誘う雨に潤う今日、ここに大阪府立吹田高等学校 第五十七回卒業式を挙行いたしましたところ、公私ご多用にも係わりませず大阪府教育委員会ご代表様、大阪府議会議員 上の和明様、地元吹田市立中学校の校長先生方、更には、本校が常日頃よりお世話になっております多数の皆様のご臨席を賜り心から厚く御礼申し上げます。

 そして、保護者の皆様。お子様のご卒業、誠におめでとうございます。皆様方がこの日を迎えるまで注がれました愛情とご苦労に立派に報いて、お子様達は栄えある卒業を勝ち取られました。心よりお祝いを申し上げますとともに、この間寄せられました本校へのご支援に対し、学校を代表して深く感謝を申し上げます。

卒業式  さて、第五十七期卒業生の皆さん。先ずは、卒業本当におめでとう。君たち二百五十余名の中には、以前、紹介したこともありますが、バトントワリングで世界的な活躍をした人もいます。また、昨日、表彰したように、毎朝の数学の勉強に三年間休まず参加した努力の人もいます。皆一人ひとりの三年間があり、その間におそらく小さくはない山も、谷もあったはずです。それらを乗り越えた今、吹田高校が求めた学業を達成した証しであるとともに、それぞれの高校生活の価値をすべて等しく一枚の紙に織り込んで先ほど、君たち全員に卒業証書を授与いたしました。

 皆さんは本日、母校となる吹田高校から、実社会へと旅立つこととなりました。これから飛び込んでいく世の中は、すでに承知しているように「百年に一度」といわれる経済危機の状態にあります。しかも、現在、われわれが生きているのはどんどんと変わっていく社会です。だから、その危機と変化に対応して、個人も社会も絶えず計画を変え続けることがとても大切になってきました。そうした困難な現実から思わず目をそらすか、一歩引いてしまいたいところですが、よくよく考えてみると人間も社会も永久に不完全な存在です。だからこそ、われわれは永久に完全さを求めて前に進むことができる存在なんだ、ということを心に留めておいてください。あるいは、これまで通りでは立ち行かない、変えてゆかねばならない状況が目の前にあるからこそ、若い君たちが持つ知恵や力が発揮しやすいと考えてください。

 そんな希望と期待を踏まえて、私は、本校が先輩から受け継いできた魂ともいえる言葉を、君たちへのはなむけとして贈りたいと思います。昨年、同窓会である「鳳志会」会員の集まりで、今はある大学の教授をされている先輩から聞いたその言葉は、「ナニクソ」という感動詞です。

 「ナニクソ」と言えば、あるいは少々品のない表現に聞こえるかもしれません。辞書では「くじけまいとして、気持ちを奮い立たせるときに発する」言葉と説明されています。私はこれを伺って以来、本校が受け継いでいくべき魂を宿す言葉として、何度かは関係者に語り、また、時には自分自身の心の中の叫びとして、耐える力をもらってきたように思います。皆さんが直面し、絶えざる変更を求められる社会に何とか対応しようとする時、まさに必要なのがこの「ナニクソ」の叫びです。吹田高校の長い歴史から生まれ、受け継がれた伝統の中に、新しい時代を生き抜くためのDNAが宿り、将来の君たちの活躍によって、世の中に現れるのを待っているというわけです。

 また、本校では、ホームページでも紹介をしていますが、今年度、保存会等のご協力のもとに、ナニワの伝統野菜の一つである「吹田くわい」の栽培、調理、普及に取り組み、ささやかながら地域に貢献する教育活動として位置づけてまいりました。この吹田くわいは、オモダカが進化した、名前のとおり吹田原産とされている植物です。更に、吹田くわいは、もともとは栽培されていたのではなく、田んぼに自然に生えていたものを採取していたという長い歴史を持ちます。この事実は、環境の影響をまともに受ける野生でもなく、人間の都合のよいように品種改良された栽培でもない「半栽培植物」として伝わってきた大変貴重な植物であることを意味します。だから、吹田くわいは、厳しい条件下に放置しても、時期がくれば芽を出して生育する強さを持っています。昨年末に収穫したその小さな粒の頂からしっかりと伸びる芽が、「ナニクソ」という反骨心、本校の魂をそのままイメージしているように私には見えました。

 振りかえれば、あっという間のような三年間が過ぎ去り、明日でもうこの二月も終わろうとしています。旧暦では、二月のことを「如月」と言いました。その意味はよく、寒いので着物をさらに重ね着るということであると聞きますが、これは誤りであって、 本当は草木がよみがえることであるそうです。つまり、自然界では、如月の本来の意味どおり、寒さの底から春が兆す、あるいは、暗い土の中にこそよみがえりの準備がなされます。一方、人間の世界でも、社会が先の読めない厳しい状況であることを先に触れました。仮に、将来の見通しが全くつかないお先真っ暗のような状態であるとしても、私は、若い君たちの可能性の中にこれからの社会を照らす希望の光を見出したいと考えます。自分のもつ可能性を一杯に拡げるためには、世の中に出て、困難に立ち向かいながらも誠実に戦う大人に出会い、自分もこういうすごい人になってみたいという内側から湧き上がるような気持ちを感じてほしい。本物の社会人を発見し、皆さんの憧れが力強い行動となり、世の暗がりの先に明るい光がさして来る、その時を信じて母校からの応援を続けたいと思っています。

 なお、本日、ご多用中にも係わりませず、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様におかれましては、今後とも卒業生に対するご指導、ご支援をいただきますよう、また併せて、本校がその社会的責任を全うし、将来ますますの発展充実が叶いますよう、重ねてご支援のほどお願い申し上げます。

 最後に、卒業生の皆さんの前途に幸多かれと祈念して、式辞の結びとします。

                                           平成二十一年二月二十七日

                                           大 阪 府 立 吹 田 高 等 学 校
                                             校  長   畑 中  利 明
 

平成21年2月13日      畑中校長だより 第22号

吹田くわいプロジェクト

― 発表会の段 ―


 既に当ホームページではご案内、ご紹介をしていますが、2月7日(土)、メイシアターの展示室で、本校がこの1年間取り組んできた「吹田くわいプロジェクト」の発表会を開催いたしました。

 当日の開場は午前10時。予め『市報すいた』や『シティライフ』、『千里タイムス』といったコミュニティー紙にも開催情報を掲載してはいただいたのですが、実際にどれほどのお客様がお見えになるものか・・・。発表の主役である家庭科クラブの生徒達(女子7名)の動きを横目に、内心は少々不安でした。

 ところが、時間とともに次々とお客様がお見えになり、室内の展示物や活動風景の映像を熱心にご覧になります。当日のお客様の顔ぶれは、本校の学校協議会委員の皆様を始め、吹田くわい保存会の会員の方々、NPO法人すいた市民環境会議のメンバーの方々、吹田市立岸辺第一幼稚園の園長様等のプロジェクト支援者の皆様、家庭科クラブの外部指導者の先生方、西島前校長(現千里高校長)、そして、吹田市立博物館の館長様他のこの発表会に広く関心を寄せていただいた方々など、実に幅広いものでした。お蔭で11時からの発表前には追加の椅子席を用意するほどの入り様。さらに、お二人の議員の方からは思いがけない祝文(会場入り口に掲示、披露させていただきました)まで頂戴しました。

くわい発表会  さて、生徒7人による発表の開始です。先ずは、吹田くわいを始めとするナニワの伝統野菜を紹介する紙芝居から。自分らで手を加えた台本に基づき、くわい、だいこん、なんきん等をかたどった可愛らしいハンドパペットも登場するユーモラスな話が、観客すべてを引きつけます。合間には、保存会の北村会長から急遽お借りしたテーマ曲「吹田くわいを知ってる?」のテープを流して、試食用にくわいクッキーをサービス。続いて、まとめとなる活動成果のプレゼンテーションでも、写真パネルを使ってとても落ち着いてやってのけます。そして、説明に対する「吹田くわいを生で齧ったことがありますか」を皮切りとする多くの質問にも、彼女らはたじろがずに応答していました。プレゼン終了後、そのチームワークの良さと多彩な活躍に会場から盛んな拍手が送られたのは言うまでもありません。沢山の皆様に見守られた彼女達7名の態度は、贔屓目でなく、誠に堂々としたものであったと思います。どうかその場の詳しい様子を、2月10日更新の吹田くわいプロジェクトのページや、2月13日から吹田ケーブルテレビジョンで放送される《お元気ですか ! 市民のみなさん》の中でご覧ください。

 会場で発表を聞いてくださった北村会長の「嬉しかった」というお言葉に、私は、本校がこのような機会を持てたことの幸せを強く感じました。その場に集まった人々はみな、吹田くわいという不思議な植物に深い愛着を持つと同時に、次代を担う高校生が地域の伝統野菜を取り上げるということに大きな期待を寄せている人々でもある、これが私の心に留めたいその日一番の印象です。吹田高校が「高校生の社会奉仕活動推進校」として取り組んだ「くわいプロジェクト」。それは正に、地域に学び、地域の文化に誇りを持ち、地域で活躍できる人材を育てたいという本校の教育を象徴する活動でした。これからもまた、この方針を堅持、発展させていきたいものと考えています。

 最後になりますが、この日、発表会場に来られたお客様の中には、前回の『校長だより』(第21号)でご紹介した『寿楽荘』のおばあちゃん、お二人も含まれていました。お二人とその車椅子を押す中学生ボランティアを連れてきてくれたのは、もちろん『寿楽荘』職員のnさん達です。これまでの本校との結びつきに加え、プロジェクトでのくわいの調理、試食の交流活動が友好関係を一層深めたものと理解しております。ご来場いただき、本当にありがとうございました。

平成21年2月10日      畑中校長だより 第21号

進路が見える日


 1月29日(木)は、3年生が学年末考査(第2日目)、2年生が終日、校外で進路体験学習、1年生がホームルーム時に(将来の仕事に関する)校内ガイダンス、そして、放課後には希望者を対象にインターンシップの大学生による進路指導(AO入試の体験談等)という具合に、学校全体が卒業あるいは卒業後の夢を手に入れようと取り組んだ一日になりました。

美容体験実習  この日、2年生は、バスを利用して実際に大学(4校)や専門学校(12校)を訪れ、見学や実習を、また近隣の老人福祉施設や保育・幼稚園には自転車で出向いて実地体験を行いました。1年生の校内ガイダンスでは、22のテーマ別に講座を設けて、それぞれの分野の専門学校から講師をお招きしました。また、放課後のインターンシップ生の場合は、今年度のスタディールームでの学習支援の締めくくりとして、学年の枠を超えて入試や大学での生活について語ってもらったものです。

 私自身は2年生の体験学習の中の二ヶ所 ―『特別養護老人ホーム 寿楽荘』と『吹田市立ことぶき保育園』― にお邪魔しました。どちらも過去、さまざまな機会に本校と交流をもった施設ですが、今回もまた大変親切に吹高生を受け入れていただきました。私が訪問した折にも、「この日の体験が将来、高校生が介護福祉士や保育士をめざす切っ掛けになれば」という思いで、積極的に協力していただいていることがよく判り、ありがたいという気持ちで一杯です。また、お年寄りにも、園児にも、吹高生がとても人気者であったことが印象的でした。

 当日、私は『寿楽荘』での実習の付添に時間の大半を充てました。『寿楽荘』で実習を行うのは女子生徒のmさん一人。自宅にお年寄りはいないという彼女と私がお邪魔した時は、丁度夜勤と日勤との交代の時間帯(9:30−10:00)で、入所者一人ひとりの今朝までの状況について、詳細な引継ぎが行われていました。その雰囲気が、仕事は真剣勝負であるということを無言で納得させます。その後、mさんは、施設スタッフのnさん(女性)に付いてホーム内をあちらこちらと見学。初めは緊張した様子のmさんも、nさんの落ち着いた案内で少しずつホームのこと ― その仕組みやいろいろな工夫について ― が理解できてきたようです。入所者は全部で50名。nさんはお年寄り達に「今日は、吹田高校の生徒さんが勉強に見えましたよ」とmさんのことを丁寧に紹介してくれます。少しゆるやかに流れている施設の時間の中で、nさんはお年寄りとの会話をmさんに促します。この日、mさんと一番話ができたと思われるヤマダさん(仮名・女性)からの「がんばって下さい」という言葉に、私は高校生(若さ)への無限の期待とこの上なく温かい励ましを感じました。

 当日の実習は午後3時まで。最後のまとめの時間に、nさんに介護の仕事に就いた動機を尋ねてみました。興味津々の答えは、身近にお年寄りがいなかったから「好奇心で」というもの。それが今は「大事な仕事」になったのだそうです。mさんの方は、3月、再びインターンシップ(就業体験・3日間)のために『寿楽荘』を訪れる予定です。

 2年の学年担当者からは、他の現場でも授業以上に講師の先生の話を真剣に聞く態度が見てとれ、少しは自分の進路について考えているな〜と安堵したとの報告が入っています。本校のこの企画は、体験を通して「自分の進路」を考えるとともに、「地域社会」との交流を深め、生徒が活躍する機会を設けようとするものでもあります。今後、二つの意図が日々の学校生活によく活かされることを心から願っています。

平成21年1月26日      畑中校長だより 第20号

吹高版『食育啓発指導計画』


 1月16日(金) 放課後、家庭科の調理教室で「朝食試食会」が開かれました。調理に当たったのは家庭科クラブ。試食したのは、生徒保健委員、保健部の教員、スクールカウンセリング・スーパーバイザー(臨床心理士)の先生らと私(校長)の31人です。週が明け、そのアンケート ― <食べやすさ>と<味>の二つの面を点数化して、メニューごとの順位をつけた結果 ― がまとめられたので紹介をしたいと思います。なお、(  )内は参加者のコメントを適当に抜書きしたものです。

豆腐のスコーン 1位  ピロシキ
 (最強においしかった。カレー味がスパイシーで昨日のカレーの残り等で簡単においしく できそう。味は四つの中で一番いいが、朝からカレー味は食べにくいと思う)
2位  マフィン
 (バナナが入っていておいしいと思った。甘さがほんのり効いていて紅茶とマフィンでア フタヌーンティーを楽しむことができるなーと思った。アルミホイルがはがしにくい)
3位  野菜ジュースのスコーン
 (にんじんの発色がよく食欲をそそった、野菜嫌いでもOK。ぱさぱさしているので水分が ほしい。そんなに野菜の味がきつくないのでいいと思った)
4位  豆腐のスコーン
 (あっさりしていたからどんどんいける。温かいときバターと合わせたらいいかもしれな い。温かいうちに食べるとよいが、これより冷めるとぱさぱさするかも)

 これらを見ると、個人的な好みは別にして、味わいに関する生徒達の批評の的確さには驚くばかりです。(私は、ミルク等の飲み物とのセットメニューとして考えられたらいいと思いました)

 食育への関心が高まる中、「目の前の吹高生は食事をしっかり摂っているのだろうか?」は私のとても気になることであり、現実を踏まえたうえで生徒の食環境を少しでも向上させたいというのは、以前からの大きな願いでした。というのも、内科健診時の問診や、保健室来室者へのアンケートから、本校生の欠食(特に朝食)や偏食が少なくないことが分っていたからです。そこで、生徒が健康で安全な高校生活を送るため、また、生涯にわたる健康づくりの基礎を築くために独自に取り組んだのがこの『食育啓発指導計画』です。昨年の秋以降、@各学年生徒を対象に食生活に関するアンケートを行い、欠食率や朝食摂取の現状を把握する → A栄養バランスがよく、簡単に作れて食べやすい朝食献立レシピを考える → B実際に作った献立を料理、試食し、作りやすさ、食べやすさを再検討するといった内容を実施、今後は以上の結果をもとに、2月の学校保健委員会での発表や、全校的な啓発活動を予定しています。これは、本校の生徒【保健委員会と家庭科クラブ】と教員【家庭科、情報科(アンケートの処理を担当)、保健部】が自ら持てる力を組み合わせ、意図的、組織的に取り組んだ優れた教育活動であると、私は考えています。

 なお、昨夏、耐震化工事の終わった食堂に、この月末、新しいテーブルや椅子がそろうことになっており、これもまた日々の食環境の具体的な改善につながります(食堂設備の更新にご理解とご支援をいただいた内外の関係者には、ホームページを借りて深く感謝を申し上げます)。生活習慣と体力、学力の相関が注目される昨今、これからも学校における教育活動(ソフト)と環境整備(ハード)の両面から本校の価値を高めていくつもりです。

平成21年1月8日      畑中校長だより 第19号

3学期始業式 式辞


 新年 明けましておめでとう。こうしてまたみんながそろって3学期を迎えられることを、心から喜びたいと思います。

 さて、12月の終業式の際、私は君達に「どうか、よく聞き、よく話そうと努力できる人になってください」というお願いをしました。新学期に当たり、若い君達には、現在のまた身近なことばかりでなく、未来の世代やはるかに遠い世界のことまで、大きなスケールでよく知ろうと努力する人になってくださいということを付け加えたい。

 二つの材料からよく知ろうとすることの大切さを説明したいと思います。

授業風景  一つ目は、正月、私がテレビで何度も見たある会社のCMです。それは「石油の時代は終わった、地球を救うのは太陽です」というものでした。この太陽光発電のCMの背景にあるのは、100年に一度といわれる今の経済危機でも環境問題は先送りができない、だから、経済危機を克服するビジネスのチャンスは環境(エコ)というキーワードの中にあるという考えです。ただし、そのビジネスが成功するためには、みんなが環境の危機をよく知ったうえで、現代人ばかりでなく遠い将来の子や孫も「われわれ(自分達)」の一員である、子孫を含めた「われわれ」が生きるためには環境を守っていくことが大切なんだという積極的な関わり方がどうしても必要です。

 二つ目は、中東のガザというところでこの瞬間にも起きているイスラエルとパレスチナの争いに関する新聞記事(1月6日付・朝日「天声人語」)です。そこには、「愛の反対は憎しみではなく無関心だ」というとても印象的な言葉 ― これは、教科書にも出てくる人物であるマザーテレサのものだそうです ― が使われていました。中東という遠くのできごとを「われわれ」に関係があることとは考えにくいかもしれませんが、争いの当事者自身には断ち切れない憎しみを和らげるのは、関心を抱く第三者の積極的な関わりです。

 私達は「われわれ」という言葉が誰から誰までを指すのかがとてもイメージしにくい時代に生きていますし、何がやれるかという答えも簡単なものではないと思います。ただし、知らない人、無関心な人は、ものごとの深刻さが分かりませんし、できることをしようとはしません。だからこそ、明日起こってくることを理解し、必要な時に自分も何がやれるのかを考えるためには、今日、知っておく必要があるのです。吹田高校での勉強は、君達に知ってほしいことを沢山伝えてくれるはずです。

 終わりに、今学期は、1・2年生には1年間の締め、3年生にとっては高校生活最後の、また総決算の重要な学期です。一人ひとりが悔いを残さぬよう、今日から気持ちを引き締めて、見事な進級と卒業をめざして下さい。

平成21年1月7日      畑中校長だより 第18号

新年のご挨拶

― 慈姑(くわい)に寄せて ―


 明けましておめでとうございます。

 旧年中、吹田高校に賜りましたすべてのご支援に深く感謝いたします。

 今年も本校の教育活動へのご理解とご協力のほど、心よりお願い申し上げます。

 さて、本校の「くわいプロジェクト」については、ホームページのほか、様々な場面でその取り組みの紹介に努めています。ところで、何故、吹田くわいなのでしょうか。

 この季節、くわいと言えば、お目出度い正月のおせち料理に使われるのが一般ですが、本校では、暮れの幼稚園児やお年寄りの方々との交流行事に用いるため、校内で栽培していた吹田くわいの収穫を行いました。晩秋から初冬にかけて、栽培容器の中のくわいの株はどれも立ち枯れてしまったかのように見えます。その根元の土の下から、家庭科クラブの生徒達が塊茎を掘り出し、丁寧に水で泥を洗い流すと、青みがかった光沢のあるくわいの粒がころころと現れてきます。

吹田くわい 吹田くわいは地域に根ざした植物です。本 校の「くわいプロジェクト」は、この伝統野菜の栽培や利用、普及に取り組むことにより、生徒や教職員が吹田という地域(の人と自然)に直接的につながることを象徴しています。吹田に育ち、そこで守られる郷土の野菜を扱うことで、地域の知恵や文化への尊敬が生まれ、われわれがささやかでも社会に貢献するという経験は、地域社会で活躍できる人間を育てるという本校教育の目標の一つに近づくことでもあります。プロジェクトの実践を通して本校自身の存在意義への自覚を高められれば、と願わずにはいられません。

 吹田くわい保存会の北村英一さんの説明によると、普通のくわいに比べ小粒な吹田くわいは、もとは水田で自然のままに成長したものを採取していたという歴史から、野生と栽培の中間の「半栽培植物」とされる貴重な存在。小さな粒の頂からしっかりと芽を伸ばしている姿は、環境の影響をまともに受ける野生でもなく、人間の都合のよいように品種改良された栽培でもないこの植物特有の強さを無言で示威しているようです。以前のたより(第16号)で、本校が受け継いでいくべき精神(魂)として「ナニクソ」という言葉を同窓生から教えられたことを紹介しましたが、水田に放置しても、時期がくれば発芽生育するという吹田くわいの粒に「ナニクソ」の反骨心のイメージを重ね合わせることも、本校関係者ならではとお許しいただけるのではないでしょうか。

 慈姑(くわい)への思案を巡らせつつ、すべて(教育も、経済も、政治も)が変化し激動することが当然であるこの時代に負けず、元気であれと祈念しながら新しい年を迎えています。

 本年も『校長だより』をご愛読のほどよろしくお願いいたします。

平成20年12月24日      畑中校長だより 第17号

2学期終業式 式辞


 お早うございます。

 2学期も今日で終了、また、年の暮れ、この一年ももうすぐ終わりです。この季節に自ら過去を正直に振り返り、褒めるべきは褒め、反省すべきは反省することは、次の新しい日々をよりよく生きるためにとても大切なことだと思います。後で担任から渡される通知表も、君達の学習面での評価を伝え、自覚と反省の材料を与えるものですから、その意味を充分に理解し、3学期に活かしてください。

新竹女子高校のみなさんを迎える さて、この2学期には様々な行事が行われましたが、11月の始め、本校に台湾の高校生が訪れ、1年生は学年として、また、放課後はクラブ活動に参加して交流するという機会があったことを覚えていますか。今日は、その後で採ったアンケートから、君たち自身の声を少し紹介しましょう。

 全体としては、この国際交流が「とても良かった・良かった」という回答が半数を大きく上回り、「楽しかった」「盛り上がった」という声も沢山記されていました。外国からの訪問者を迎えるための本校の企画と準備が生きた結果として、素直に喜びたいと思います。

 また、心配された言葉の壁も、相手が「日本語が通じないから英語で言葉を交わしたりして、部活に積極的に参加してくれた。ちょっとの間やったけど楽しかった」という意見もあって、積極的な態度がコミュニケーションの可能性を開くことを教えてくれました。

新竹女子高校のみなさんとの記念写真  一方で、最初の挨拶などが行われた全体会については、その他はよかったのにとしながらも、「せっかく台湾の学校から吹高に来てくれていたのに、周りの人たちは自分勝手にしゃべりまくっている情景は非常に残念でした」、「静かにしないとダメなときにできなかったことが恥ずかしかったと思う」という自分たち自身に批判的な意見が、生徒の皆さんの中から出ていました。

 昨日のある新聞で、私は「届かない言葉のハンランは、人びとをコミュニケーション貧乏にする。・・・お金の貧乏よりも、コミュニケーション貧乏はずっとこわい」という文章(12月23日付『朝日新聞』・天野祐吉「CM天気図」)を見つけました。コミュニケーションの基本形は、聞くと話すという行為によって、人間同士が互いに理解しようというところに成り立ちます。ただ、聞く力も話す力も鍛えなければ衰えてしまいます。学校は、君たちがコミュニケーション貧乏にならないための訓練の場の一つです。どうか、よく聞き、よく話そうと努力できる人になってください。

 さあ、明日からは冬休みです。その間、健康と事故の両面に各自が気をつけて、何か心配なことがあれば、必ず先生に連絡をしてください。新しい年を、みんなで元気に迎えましょう。
平成20年11月27日      畑中校長だより 第16号

本校の授業から


 今月初め、吹田高校に一枚の表彰状(写真参照)が届きました。これは、以前のたより(第13号)でも触れたとおり、本校が平成20年度全国学校体育研究優良校に決定したことに対して授与されたものです。今回は先ず、研究資料集の一部を抜粋しながら、その内容についてご報告したいと思います。(ホームページでの紹介にあたっては予め学体研事務局の承諾をいただいております)

表彰状  「互いに学び合う保健授業実践 − ピア・エデュケーション −」と名づけられた本校の研究は、平成18年度〜19年度の2年間にわたり、生徒自身が興味・関心を持つ保健・健康問題について「調べ」「まとめ」「発表」し、互いに学びあう授業づくり、また、プレゼンテーションの手法を学ぶことで自らの意見や考えを論理立てて伝えることができる力や、他の発表を聞く態度の育成を目標にして取り組まれました。
 研究の実践には、2年次の第3学期に実施できるように保健体育科教員全員で協議、全7クラスで2〜3人ずつ、男女共習でグループを構成して、各クラス7時間が当てられました。練習を踏まえ、第6時間目には1グループ3〜4分間での発表及び他のグループによる発表手法・内容の評価が行われます。
 資料集に掲載された研究の成果は次のようなものでした。



 授業アンケートの質問項目「プレゼンテーションは楽しかったか」で「楽しい」と答え た生徒が、平成18年度は43%であったのが、19年度では69%に増えた。このこと から、生徒が自らの興味・関心に基づいて学習を進め、授業に前向きに取り組むことがで きるようになったと考えられる。
 発表のための練習時間を確保することで、人前で話すことへの抵抗感が少なくなり、プ レゼンテーションを楽しめるようになった。
 また、伝達の方法を模索し、表現することの難しさを経験したことや相互評価を通し て、他者の発表を真摯な態度で聞く姿勢が身に付いた。
 さらに、「調べ」「まとめ」「発表」を行うことにより、生徒自身が健康に関心を持 ち、自己啓発を図ることができた。
 一方、教員にとっては指導法を体系化することで、効率の良い指導法を共有することが できるようになり、ベテラン教諭と若い教諭とが互いに連携して、授業力を高めていくこ とができるようになった。


 授業形態や生徒の「知る喜び」を「学ぶ喜び」にまで繋げていくには、まだまだ工夫、改善の余地があります。とはいえ、生徒が、他人との共同作業や時間をかけて取り組んでいく中で確実にコミュニケーション能力をつけてきた、また、プレゼンテーションを行い評価されたことで一層の達成感を得たことは、十分評価に値するものと考えています。

 吹田高校では、以上のような例を始め、日々「わかる授業」「魅力ある授業」づくりに向けた取り組みがなされています。実は、この11月中、私自身も《そこで何が行われているのか》を知ることを主眼に、すべての授業の観察を行いました。また、教員も授業見学週間(11/17〜21)を設定し、お互いの授業から学ぼうとしています。そうした中で、授業場面での生徒や教室の実態が分かってきますし、教員間の再発見や再認識ができます。さらには、教員が一致して取り組むべきことや学校の環境整備の課題等も見えてきます。私には、後者について、プレゼンテーション活動等も可能な良好な学習施設の整備推進がとくに必要なことと感じられました。

 学校の数ある課題を解決するに当たり、最も大きな効果をあげる方法は、方向性の共有の下、教職員が日常的に様々な工夫を凝らし(創造)、組織として不断の努力を続ける(勤勉)ことです。私の最大の役割は、そうした個々の創造的勤勉を導き出し、それらを見逃さずに互いに関連付けること。授業で見えてくるのは、課題の困難さと生徒達の(やればできるという)可能性の両方なのですが、そのどちらもが関係者のやる気の源泉となります。

 最後にもう一つ、本校関係者が励まされる出来事(言葉)を記しておきます。

 先日の日曜日(11/16)、私は第8期生の同窓会にお招きいただくという幸運に恵まれました。その際、私は、本校着任以来関心のあったことがらについて、出席者のお一人に直接質問をすることができました。それは、吹田高校が受け継いでいくべき精神(魂)とは何ですかというものです。その方からいただいたお答えは、「ナニクソ」ということではないかな、というものでした。恐らく「ナニクソ」は心に秘めるべき言葉で、声に出して言う必要はないのかもしれません。しかし、それは人を動かす大きなエネルギーとなる言葉です。今後とも時折、これを自分達自身に言い聞かせながら、吹高流教育の推進に努めていくつもりです。

平成20年11月7日      畑中校長だより 第15号

国際交流行事【報告】


 11月4日(火)、吹田高校は、台湾の「新竹女子高校(正式名称は下記のスピーチ参照)」一行(校長先生及び4人の教員と56名の女子生徒達)の訪問を受けました。次に示すのは、その際の歓迎セレモニーのために私が用意したスピーチです。


 國立新竹女子高級中学の周朝松校長先生、並びに先生方、そして生徒の皆さん、本日は大阪府立吹田高等学校へようこそいらっしゃいました。学校を代表して、皆さん方に歓迎の意を表したいと思います。

 「友あり、遠方より来る、また楽しからずや」とは、日本の高校生も学ぶ『論語』の有名な一節ですが、我々はまさにそうした気持ちで、皆さんをお迎えしたいと考えております。また、今日の午前中、皆さんは本州と淡路島にかかる明石海峡大橋を見学されたと聞いていますが、この吹田高校への訪問では、アジアの隣人としての末永い友情のために、両校の間に夢の大橋をかけられることを願っています。

 この度の交流では、言葉や習慣を始めとする日本と台湾の文化の違いを知ることがもちろん大切ですが、それ以上に大事なことは、お互いが分かり合える、むしろ共通なんだなと気づくことではないかと私は考えています。日本には「スポーツの秋」という言い方がありますが、本日、吹田高校では「ミニ運動会」とクラブ活動での交流を内容とするプログラムを用意しました。スポーツで体を動かすこと、汗をかくこと、そしてともに楽しむことを通じて、お互いが同じなんだなと理解する経験ができれば幸いです。

 最後に、吹田高校は来年、創立60周年を迎える地域の伝統校です。その年の秋、本校では初めての試みとして、本日交流を深める第59期生が台湾への修学旅行を計画しております。今回の交流が、その時に生きる貴重な経験となりますことを確信して、私の挨拶を終えたいと思います。

 吹田での午後のひと時、どうか大いに楽しんでください。



 通訳を介してのお話では、新竹女子高校は84年の歴史と高いレベルを誇る学校であり、全校生徒が2000人を越える中で、今回の「日本教育旅行」には2年生が自由意志で参加している、さらには、日本の高校との学校間交流にも強い意欲を持っているとのことでした。さすがに来校した彼女らはみな元気で、とても行儀のよい生徒達であるように思いました。

 この度の交流に当たり、外国からのお客様をお迎えするために、できる範囲で、しかしながら心のこもった沢山の工夫が用意されました。例えば、校門脇に並べられたフラワーポッド、歓迎の横断幕等の準備、ミニ運動会の運営、大阪の文化を伝える「たこ焼き」づくり、交流場面の写真を収めたCD贈呈等々。さりげないことから精一杯の企画まで、本校のおもてなしの心がきっと伝わったことと思います。

新竹女子高校のみなさんとの記念写真 この日の交流の様子はホームページの写真が伝えるとおり、本当に楽しいものでした。 とくに、放課後のクラブ体験(計10部が参加)では、新竹女子高校の生徒自身が選択したものであるだけにお互いが親しむ過程は想像以上にスムーズでした。少々内弁慶な本校の生徒達にとって、音楽、美術等の「芸術」、ダンスや空手等の「スポーツ」、パソコンという情報「ツール」、そしてたこ焼きをともに「食する」という行為に、広く言葉の壁を超えるコミュニケーションの可能性があるということを実感できたのは大変に貴重な体験でした。

 別れに際して写真を撮る光景は、今回の国際交流が、短時間ではあるけれど、お互いの心に永くとどまる思い出になるだろうことを感じさせるものでした。

 最後に、新竹女子高校側へのプレゼントの提供に快くご協力いただいた「鳳志会(同窓会)」、また、交流をコーディネートいただいた「(財) 大阪観光コンベンション協会」の関係者の皆様には、大変お世話になりました。深く感謝申し上げます。

平成20年11月4日      畑中校長だより 第14号

修学旅行〜中間考査、そしてこれから


 当ホームページの修学旅行速報、とうにご覧いただいていることと思います。北海道の現地から毎日お届けした若手教員によるフォトニュースでしたが、取れたて≠フ雰囲気が伝われば幸いです。

 10月28日のクリーンキャンペーンの写真報道も併せて、速報性を重視しているのが本校ホームページの特徴です。

 速さではかないませんから、「校長だより」では、吹田高校の考え方や校長の見方を分かりやすく説明することに力点を置くことになります。時々は立ち止まって考えたり、《あれは何だったのか》と振り返ったりしながらも、思案が極まった時に間歇泉の如く発信するメッセージ性がこの「たより」の生命線です。

 さて、前置きはこれくらいにして、58期生修学旅行という大切な行事を私なりに整理しておきましょう。この度の旅行中の天気及び当日のメインの活動は次のとおりでした。
 
10/7(1日目) 晴れ ・ 日高ケンタッキーファーム内自由行動
   8(2日目) 晴れ ・ ラフティングと班別体験活動
   9(3日目) 雨  ・ ファームビジット
  10(4日目) 曇り ・ 札幌班別自由散策

 この96時間の中の醍醐味は、あれこれの非日常との接触・交流にあります。例えば、引き締まった空気、紅葉ではなく黄葉の勝った景色、ひたすら直線の道路、川下りのゴムボートで味わう「板子一枚下は地獄」感覚、「ナマラ」耳新しい北海道言葉等々、大阪での日常にはないものとの出会いが旅行者に変化をもたらします。

花農家にて もっとも親密な接触は3日目の農家を訪問した時間中に起こりました。このファームビジットは、本校ではこれまでにやったことがない ― 「初めて」というオリジナリティーを含むかどうかは常に重要なことだと考えます ― 企画です。私が訪れた美唄市では、行政(市役所)も一体となった歓迎姿勢の下で、生徒達が農家(家族)それぞれから心のこもったもてなしを受けました。お別れに際し、「元気で」と声をかけられ、いつも以上の素直さで「ありがとうございました」と言える生徒達。見知らぬ土地で通った気持ちの温かさが、大切な成果として今もよみがえってきます。

 250名以上の大集団が、空間的な大移動を行いながら3泊4日の寝食をともにするという枠組みがあるとはいえ、そこに囲い込むばかりでその枠を超えた(自然・社会・文化の違い、未知なる人との)触れ合いや相互作用が少なければ、極めて勿体無いこと。私は、生徒用『しおり』の巻頭言に「旅行が終わった時に、君たちが少し大きくなったように感じられることを期待しています」と書いておきました。帰阪後、お土産とともにそうした子ども達の成長が届けられたら、旅行の甲斐があったというものです。

 あれから暫く、2学期の折り返しは中間考査最終日のクリーンキャンペーンから始まります。7年目にして第19回目ともなる今回は、吹田高校のボランティア活動の心を継承していくために、予め「なぜクリーンキャンペーンをするのか」という原点に帰るところから取り組みました。この営みの中にも本校と周辺地域との接触があり、一歩校外へ出てみるだけで自分達の日常や学校を見直す切っ掛けが見つかります。生徒と教職員合わせて228名の参加者が拾ったものは、ゴミだけてはなかったはず。担当教員から生徒に伝えられた「自分を成長させる為に必要なことは、意外と自分の身近なところにあるものです」という言葉には、実践を通じて得た重みを感じます。

 明けて来週(11月4日)には、台湾の「新竹女子高校」との国際交流が予定されています。この異文化との接触、そして対応から本校と吹高生がどんな変容を遂げることになるか、これからも本校の教育活動にどうかご注目ください。

平成20年9月30日      畑中校長だより 第13号

吹高、表舞台に上がる

― 最近の活躍について ―


 手前味噌な話で誠に恐縮ではありますが、今回は、私の目に付いた9月中の本校(生徒)の活躍について、ご報告をしたいと思います。

 3年生のSさんが8月のバトントワリング世界選手権で銀メダルを獲得したことは、今学期「始業の会」時に紹介しました。
 彼女は、その後、文化祭(9月13日)のステージでも演技をアピールしましたし、「日本スポーツバトン協会」からの派遣選手として、9月27・28日にはソウルで行われる日韓交流のイベントにも参加するとのこと。

 Sさんの今後の活躍にもご声援をよろしくお願いします。

 次は、9月6日(土)、茨木市民会館で開催された第二地区(旧第二学区)府立高等学校合同説明会のことです。
 21校の最後の順番で、大ホールの舞台に上がったのが吹田高校でした。最近はパワーポイントによるプレゼンテーションが主流となっており、本校のように生徒が舞台にあがって学校生活を紹介するというのは少数派です。

 しかし、ダンス部の女子3名と空手道部の男子4名は、堂々と、かつ率直に本校をアピールし、会場から温かい拍手を受けました。 また、ダンス部顧問で一緒に踊れる若手教員の存在も注目されました。 その日、個々の生徒や教職員がそれぞれ学校を代表する気持ちで協力してくれたことに、嬉しさが一杯の思いです。

 学校としてもまた名誉なことがありました。

 今月初めに、平成18・19年度の授業力向上の取り組みが認められ、 吹田高校は、本年度「全国学校体育研究優良校」として表彰されるとの通知をいただいたのです。

 これは、全国の保健体育の活動でとくに功績のあったものに対して贈られる賞です。 対象となったのは、『互いに学び合う保健授業実践報告― ピア・エデュケーション ―』というテーマの研究です。

 詳しくはまた別のところで紹介したいと思いますが、10月末の表彰を今から楽しみにしています。

 最後に、先日、ある郵便局から局員の方が訪ねてこられました。

 用件は、昨年末にアルバイトで配達業務に当たってくれた野球部員達がとても元気で、礼儀正しく、局として大変に助かった。
 ついては、是非、今年もお願いしたいとのこと。その時の部員達の動機は、合宿費を自分で稼ごうということだったそうです。

 もちろん、学校ではアルバイトを奨励したり、斡旋するものではありません。 ただし、高校生が社会で役に立つ行為の中で学ぶことの(教育的な)価値を見逃してはなりません。

 私は、名指しで求められるほど評判のよかった彼ら(あるいは女子マネージャーもいたかもしれません)の行動を素直に賞賛する気持ちをもっております。

 以上の活躍は、どれも吹田高校と生徒達の日常の一コマ一コマから生まれてきたものです。 普段【不断】の努力と表舞台に上がる(社会につながる、メッセージを送る)機会を得ることは、本校がもっとパワーアップされるために欠かせない二重の要素だと考えています。

P.S.  文化祭の日に、生徒会執行部が、岩手・宮城内陸地震の被害に対してできることをやろうと取り組んだ募金活動に対し、21,173円の義捐金が集まりました。当日ご協力いただいたPTAを始めとする多数の皆様に、深く感謝を申し上げます。  なお、集まった義捐金は、9月18日に担当者から栗原市(宮城県)の災害対策本部に振り込ませていただきました。

平成20年9月18日      畑中校長だより 第12号

文化祭講評


 9月13日(土)、今年度の文化祭が行われました。終了後の講評として述べた短い話の内容は次のようなものです。


 朝方は雨ということで心配をしましたが、天候も回復し、文化祭が無事に開催できてほっとしています。

 先ずは、今日一日、お疲れ様でした。

 今年の吹田高校の文化祭には、すべてのクラス、文化系のクラブ(ダンス部を含みます)、 有志生徒と職員、PTA、学校協議会(始めての参加でした)、さらに、主催者である生徒会執行部自身も、 本校OBである『歌続(かぞく)』のライブ企画と地震被災地募金活動で参加しました。

 私は、残念ながらそのすべての催しや取り組みを見ることができたわけではありません。 それでも、可愛らしい校門アーチを通って、校舎内の各教室から一番奥のステージまで、様々な会場を覗いて歩いた中で、 迫力あるダンスや歌に惹かれ、クラスで工夫したクイズやゲームに興じ、作法室では美味しいお茶とお菓子をいただいたりしました。 つまり、目と耳と舌で「吹高文化」を楽しんだというわけです。

 また、ある先生からは、ステージの上でクラスが一体となって参加していた 『ソーラン節』2年2組や『STOMP』(1年4組)がよかったですよ、とも聞いています。

 このような沢山の楽しみを今日まで準備してくれたすべての本校生に感謝します。 そして、この文化祭をみんなで楽しむために、生徒会執行部が大変な努力をしてくれたこと、 また、実に多くのPTA関係者や先生方が裏方として懸命に応援してくれた、 ある時には自らも舞台に立って君達と一緒に活動してくれたことを確認しておきたいと思います。

 最後にもう一度、お疲れ様でした。



 限られた時間の中で、私は感じたことのごく一部を、また大まかな言葉で表現できただけですが、 本日、吹田高校の文化祭をご覧になった皆様は、一体どのような感想を持たれたでしょうか。 本校が「ありのままに」提供したものを、「ありのままに」見ていただいたことを深く感謝申し上げます。 とくに、中学生の来校者の中には、学校の見学という意味で来られた方もおられるはずです。 やがて吹高見学会11月22日等でみせる普段の姿と合わせて、進路選択の参考となれば幸いです。

平成20年9月1日      畑中校長だより 第11号

2学期始業の会 式辞


 お早うございます。夏休みを元気に過ごせましたか。いよいよ新しい学期が始まります。

 さて、気持ちを切り替えて2学期を迎えるにあたり、私が夏の間に考えたことを少しお話したいと
思います。

 この夏の最大公約数的な話題といえば、やはり「一つの世界。一つの夢」を掲げて8月8日から24日まで開かれた 「北京オリンピック」ではなかったでしょうか。皆さんは、どんな競技、どの選手が印象に残っていますか。

 このオリンピックで日本選手団が獲得したメダルは、金9・銀6・銅10の合計25個。 最後の25番目に
獲得したのが男子400mリレーの銅メダルでした。

 実は吹田高校にも、この夏、バトントワリングの世界選手権で銀メダルに輝いた生徒がいるのですが、 それはこの後の表彰式の時に紹介しましょう。

 陸上競技の個人の短距離種目では、男女ともに決勝まで進んだ日本人選手は一人もいません。 だから、恐らくタイム的に見れば、一人ひとりの実力はせいぜい世界のトップテンに入る程度の現状ではないか。 まして、末続、朝原といった実績あるメンバーが必ずしも本調子ではなかったようですから、これは、普通に考えたらメダルなんかとても無理な話です。 しかし、男子400mリレーでは、予選3番手のタイムで決勝に残っていました。

 では、決勝で銅メダルという立派な結果を出せたのは何故か。最大の理由は世界一確かなバトンの
技術だそうです。 つまり、チームとしての力が完全に発揮されたら、たとえ走力で劣っていても、この競技では常にトップレベルを争えるということです。 これと似たようなことは、金メダルを取った女子ソフトボールチームにも言えるように思いました。

 もう一つ大事なことは、このリレーでは、アメリカを始めとする実力上位3チームが予選でバトンミスをしたという事実です。 しかし、ここが肝心なのですが、そういうことが起きるのがリレー種目なのです。

 見方を変えて、私には、人生や社会でも同じ様に思えるのです。 つまり、個人の力の向上は無論必要ですが、それを目標に向けてどのように結びつけるかが、時には結果を大きく左右する。 むしろ、個々の力のアンバランスを前提に、確かなつなぎによってチーム力を安定させる方が、 複雑な世の中で成功するより確実な方法ではないのでしょうか。

 この大会では、競技が終わってすぐに選手のインタビューがありましたね。 晴れやかな顔、悔しそうな顔、さばさばした顔。今も色んな表情が思い出されます。でも、個人競技と団体競技を比較してみると、
偏見かもしれませんが、チームで結果を出した選手の笑顔の方が少しいい笑顔であるように見えました。

 まもなく吹田高校でも、文化祭という重要な行事を迎えます。個性が違う一人ひとりがよく協力し合うことで、 文化祭が終わった時、大きな成果とみんなのいい笑顔が見られることを願っています。

平成20年8月27日      畑中校長だより 第10号

あ と 一 週 間

―夏休み雑記―


 長く、暑かった日々が峠を越して、新しい季節を感じるようになりました。
関係者の皆様は、この夏、いかがかお過ごしになられたでしょうか。

 この「校長だより」もしばらく夏休み期間をいただきました。さあ、秋に向けてというところですが、
その前に、「来し方」の清算をしておきたいと思い、キーを叩いています。

 私自身、校長として最初の夏でした。もちろん、その間も生徒の生活、吹田高校の活動は切れ目なく続いていますので、夏バテというわけにもいきません。
絶えず頭の片隅には学校のことが積乱雲のごとく立ち上がるので、悠々たる気分転換ができなかったことは正直に言って少し残念な気もします。
「これでこそ夏休みだ」という経験は、生徒諸君と教職員を問わず、本当は必要なことです。

 今夏の私の日課の一つは、朝、校内をぐるっと一廻りすることでした。
目的は、北館で進んでいる耐震化工事の現場で作業員の方に挨拶をすること、
そしてそのすぐ脇で栽培している「吹田くわい」の様子を見るためです(詳細はホームページ掲載の『吹田くわいプロジェクト』をご覧下さい)。
予めクラブや教職員の水遣り当番が決まっているので、鉢の中の水が涸れているようなことはありません。 くわいの根元を覗いて水が光るのが見える時、今日の世話をしてくれた「水遣り人(びと)」には自ずと感謝の念が起こります。

 もう一つ、家庭的な事情もあって、ほとんど遠出もしなかったかわりに、私はこの夏、自分が読みたい本を10冊読もうと考えました。
対象は、責任や義務からの文書ではなく、興味と関心からの10冊です。
現在の私の読書の動機には、「常識を養うに読書の必要はないかもしれぬ。そしてまた日常の事務を処理して行くのにも読書の必要はない。
しかし、人をリードして行くには、どうしても読書しなければならぬ」(これは城山三郎著『男子の本懐』の主人公の言葉です)というのに近いものがあり、勤勉とはいえぬ身には時に我慢も要するのですが、それでも夢中になって読んでいるうちには時間を忘れます。

そんな時、ふと、この楽しい時間をみんなで分かち合えないものか、と思うのです。近い将来に、吹田高校において、すべての生徒と教職員が読みたい本をしばし夢中になって読む、そんな時間を共有したいものと私は真剣に考えます。

先に名前を出した城山三郎さんは、いわゆる『朝の読書』によって教室中が静まり返り、「教室に入るときには、感激して涙が出そうになることもあります」という実践者の話に、心をこめた熱い拍手が起こったと記していました(『無所属の時間で生きる』)。
そんな熱い拍手を送りたい誰かは、実はほんの身近なところにいるのかもしれませんし、そんな「水遣り人」の発掘が秋の大切な仕事となります。

 ともあれ、8月23日現在の私の達成は7冊どまりで、数値目標にあと一週間でとどくかどうか(残りの3冊はもう決めていますし、どのみち本は逃げませんからプレッシャーもゼロです)。
すぐそこには、文化祭や修学旅行といった行事で学校がフル稼働し、一味違う生徒達の姿を発見できる日が近づいてきています。

平成20年7月25日     畑中校長だより 第9号

1学期終業式 式辞

―だれでも野茂に―


 7月18日(金) 今学期の終業式の日を迎えました。全生徒が集まった体育館内は、いわゆる蒸し風呂≠ナす。おしゃべりを何度か注意されてから、誰もが好まない空気の中で式は始められました。さすがにざわめきは収まらないので、こんなことを呼びかけてみました。
 1学期の終わりにあたり、私に与えられた最大でも5分ほどの間に、一度やってみたいことをやりたい。 みんなで一致協力しないとできないこと、「静けさ」をつくろう。 一人ひとりが口を閉じるだけだけれど、みんなでとなると、かなり難しい。
―――「静けさ」をつくろう。
・・・・・・・・・・
 しばしの時間の後、体育館内の静けさ指数は98程度には達したと思います。
その後に話した式辞は次のようなものでした。

 昨日、引退を表明した野茂英雄という野球選手を知っていますか。 彼は、大阪の公立高校、成城工業高校出身の偉大な投手ですが、私は、仕事がら大阪府立高校の卒業生というだけで、彼に何か近しいものを感じ、ずっと気になっていました。 彼は、どうも派手な言葉遣いが苦手のようです。 でも、彼のことを伝える新聞記事の中で、大リーグのドジャースへの入団が決まった時、「今日、自分の夢がかなえられることになって、うれしい」と言っているのを見つけました。素敵な言葉だと思います。
 夢は誰にでも持てる。ただ、その夢は社会的に価値のあるものでなければなりません。 何が社会的な価値を持つのかがわかるためには勉強が必要です。 また、それがかなえられるためには、野茂のように努力が必要です。 しかし、誰でも、野茂のように、夢がかなえられてうれしいと言える資格があります。

 明日から夏休み。どうか健康で、元気で、夢をかなえる可能性がある自分を大切にして、高校生としてすばらしい夏休みにしてください。

平成20年7月11日     畑中校長だより 第8号

「鳳志会」総会にて



 7月5日(土)、「メイシアター」で、今年度の「鳳志会」(吹田高校同窓会)総会が開催されました。
その際に、私が用意した挨拶は次のようなものです。


 本日の平成20年度「鳳志会」総会開催にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。
 先ずは、常日頃からの活発な「鳳志会」活動に対し、心より敬意を表したいと思います。
 母校の同窓会として、会員間のネットワークづくりは大切であり、また同時に大変にご苦労の多い仕事であります。

 特に先日、第5号が発行されました『鳳志会プレス』は、その充実した内容もあって、会員の皆様が毎年手元に届けられるのを楽しみにされていることと思いますが、本年4月、私が吹田高校に赴任して日も浅い時期に、その膨大な袋詰め作業を目の当たりにし、母校への熱い思いなしには行い得ない尊い仕事として、発行事務局の方々に頭の下がる思いがしました。

 なお、第5号は、「ホームレス中学生」こと46期生の田村 裕さんが表紙を飾っていたこともあって、
在校生にも大変好評であったと聞いております。また、本校の教育活動に対する多大のご支援に対しましても、この場をお借りして深く感謝申し上げます。

 近年、本校では、この場にお見えの西島前校長のリーダーシップもあり、情報機器の充実と活用を図って参りましたが、昨年10月には「鳳志会」のご配慮、ご援助を賜りました結果、第2LAN教室の床を大変美しいものに改修することができました。
 先日6月29日にも、その施設も使用して本年度のワープロ検定が実施され、1級を含む96名の在校生がそれぞれの目標にチャレンジしておりました。こうした長年の後援活動に対し、学校を代表して重ねて御礼申し上げる次第です。  

 さて、次に最近の本校の概況に触れたいと思います。
 第59期生を選抜する今春の入試は、8クラス・320名の募集に対し、1.31倍の420名の志願者がありました。
 そのうち吹田市内からの志願者は半数を割る44%となっており、その意味では、本校は「吹田の吹高」を超えた存在になっていると言えるかもしれません。

 また、出口としての進路状況は、4年制大学30%、短大15%、専門学校30%、就職20%程度の割合となっており、多様な進路希望にきめ細かく指導、対応を行っているところであります。
 入学から卒業までの学校生活では、「吹田 人間力・元気力・行動力」をキャッチフレーズとして、
特にクラブ活動の振興に力を注いだ結果、文化部12、運動部18のクラブが活動し、全体の加入率は
今年56%にまで上昇しております。

 今年の体育祭の時など、グランドにあふれんばかりの運動部員が紹介され、私自身、大変感動いたしました。

 まもなく夏の地区予選大会を迎える野球部を始め、各クラブの活躍にこれからもご声援のほど、
よろしくお願いいたします。

 また、個々の生徒の活躍に目を向けますと、この夏、3年生のSさんという生徒が、バトントワリングの
 <インターナショナル カップ>という大会に出場します。
 これは8月にアイルランドで開かれる世界選手権の日本代表の1人ということなのですが、その実力よりも私が感心するのは、Sさんが予め1人で校長室へ来て、

           「昼休みに体育館を練習に使わせてください。」

と依頼したうえで、私がその練習を覗きに行くと、

           「いつも体育館を使わせていただき、ありがとうございます。」

ときちんと挨拶ができるという点です。

 こうした礼儀を重んじる姿勢は、吹田高校の優れた伝統であると聞いておりますが、それが在校生にもしっかりと息づいていることを、本日の総会にご参加の皆様にご報告させていただきます。

 なお、私自身の抱負としては、吹田高校は今後とも地域に根ざし、その信頼に応えながら、全うな教育活動を推進して参りますということをお伝えしたい。

 また、伝統を踏まえた母校の発展こそが、在校生のみならず卒業生の皆様にとっても大きな喜びであることを肝に銘じ、当面の課題の解決に当たりたいとも考えております。

 誠に勝手なお願いかとは思いますが、やがて迎える60周年を節目とする教育施設の改善に際し、また日常の教育活動の活性化のため、言わば母校の人材バンクとして、諸先輩の豊かな経験の力をお借りしたい時には、私からの相談に快く応じていただければとの期待を込めて、この場のスピーチを終えさせていただこうと思います。

 最後に、上村会長様を始めとするすべての「鳳志会」会員の皆様のご多幸とご健勝を祈念して、結びとさせていただきます。

 本日は誠におめでとうございます。


 当日の100名を越える参加者が「我が母校(吹高)」に寄せる思いには、とにかく圧倒的なものがありました。多くの同窓生の心の声を直接に聞けたことは、校長として極めて有意義であったと思います。
 お世話をいただいた事務局の方々には、紙面を借りて深く感謝申し上げます。

    畑中校長だより 第7号

夏*チャレンジの季節

― ガンバレ、吹高生 ―


 7月に入るとすぐに期末テストが始まります。
全ての生徒諸君が、日頃の学習、そして事前の勉強で身につけた力を存分に発揮してほしいものです。

 さて、このテストより先立って、吹田高校では様々な資格検定試験が行われています。
 今期(6月中旬から7月にかけて)の主な検定は実施順に次のようなものです。
      (人数は受験者または申込者の総数)


     漢字検定     (4級・3級・準2級・2級)  計  24名

     英語検定     (3級・準2級)         計  10名

     硬筆書写検定  (3級・2級)          計 101名

     ワープロ検定  (4級・3級・2級・1級)   計  96名

     家庭科技術検定 (食物調理4級・3級・2級 / 被服製作4級・3級・和服2級) 計 83名


 このような検定の多くは土曜・日曜を利用して行われます。

 無論、合格させるためには事前の講習等も欠かせませんし、
検定の実施が教員の少なからぬ支援に支えられていることは間違いありません。

 そうした励ましを受けて獲得した資格は、きっと将来それぞれの自己実現に役立つでしょうし、
何よりも合格そのものが生徒一人ひとりの自信になります。

 ある検定中の現場を覗いた時、私はまことに真剣な表情で取り組んでいる多数の生徒の姿に出会いました。それは、われわれ関係者の方を励ます姿でもあります。

 吹高生の可能性を信じて、ガンバレと声にならぬ応援をこれからも続けたいと思っています。

 また、この夏、3年生のSさんはバトントワリングの<インターナショナルカップ>(8/1〜12・アイルランド)に出場します。
 6月も終わりに近い頃、その練習を初めて見せてもらいました。時間は昼休み、場所は体育館です。

 Sさんに操られる1本のバトンの動きは、新体操に始まり、サッカー(バトンを自在に操る動きがサッカーボールのリフティングのように見えたので)、雑技団、カンフーのヌンチャク、そして、イチローの背面キャッチと、私の印象や連想を次々に変えていきます。その間、邪魔をしてはいけないな、という心配は全く無用でした。

 見られることで集中力を乱すこともなく、ひたすら自分の向上に取り組んでいたSさん。
あなたにも、ガンバレの応援を届けたいと思います。

 チャレンジの季節です。一人ひとりの夢や目標は多様であってよい。その実現に向けて、一所懸命になれる人が少しでも多くなればと願っています。

平成20年6月18日     畑中校長だより 第6号

体育祭 観・想・記


 6月6日(金) お蔭さまで、無事、体育祭が終了しました。

 実は、(当日、学校にお越しになった皆様にはご存知のとおり)本来6月5日(木)に実施のところ、午前半ばからの降雨により中断。
 急遽、残りのプログラムを翌6日に一部順延実施としたものでした。
天候の加減とはいえ、この間の変更にご理解、ご協力をいただきましたPTA関係者、保護者、近隣地域の皆様に、深く感謝申し上げます。

 また、今回は数えて第58回目の開催となりますが、その時々の生徒達にとってはただ一度きりの体育祭。
 受け継がれた伝統のプログラムの中にも、そんな一回性に賭ける今年ならではの工夫や改良があったことと思います。

 《最初から、最後まで、クライマックス》というテーマの実現にご苦労された生徒会関係者にも心から敬意を表したいと思います。
 さて、閉会式の際の講評でも感想として触れたのですが、本校の体育祭ではすべての競技がリレーを始めとする団体種目です。

 これは正直に言うと少し驚きでした。 こうした吹高方式というか、「文化」が分かったことは私にとって一つの収穫でした。

 実は、開催前日にも、大勢の運動部員と先生方がグランドに群がり、こぞって会場の準備に当たっている光景を見ました。

 学校が一体となったその「動き」を見るだけで、私はすっかり嬉しくなり、体育祭をやる値打ちがあると思ったものです。

 「一人はみんなのために、みんなは一人のために」とはよく知られたラグビーの合言葉ですが、様々な団体行動や種目は、こうした協働・協力の精神を身をもって学ぶよい機会であり、その意味で体育祭は吹高生にとって本当に大切な行事です。
 (当日の模様は、PTA広報担当者その他から別途紹介されると思いますので、詳細はそちらをご覧ください)

 他方で、かつて、日本的経営の特質が<綱引き>に喩えられたことをふと思い出しました。

 これは、勝った、負けたの結果は明らかだが、それに関わった個人の力ははっきりとは見えないということを巧みに比喩したものです。

 むろん、体育祭には多くのリレー競技があって、懸命に走っている選手個々の能力が観客に見えますから、その限りでヒーローやヒロインは誕生しています。

 ただ、やがて生徒達が活躍してほしい実社会では、一人で自分をアピールすることも必要になってきます。

 本校の教育の質を向上させる責を負う校長としては、集団性の中で生きる力と併せて、単独で自己を表現する力も鍛えてやりたいとも考えたこの2日間でした。

平成20年6月4日    畑中校長だより 第5号

『降る日も、照る日も』


 中間考査中の5月24日(土)のことです。ちょうど雨が降り出した頃に、10名ほどの第7期卒業生の方々が、同窓会の開催に合わせて、50年ぶりに母校を訪ねて来られました。

 校舎を眺めて最初に出た言葉は「全く面影がない」の一言。それでも静かな校内をゆっくりと散策するうちに、誰からともなく蘇って来るものがあったようです。

 グランドの向こうには「エビオス」の工場があった、北側はほとんど田んぼだった、セコイヤや椰子(今は「カナリーヤシ」の札が付けられています)は昔もあった、今は目立たない桜の木がグランドに沿って等間隔に植えられていた等々、見えないものと見えるものが同じ鮮やかさで語り合われます。

 最後に、本館は当時の春休み中に火事になって焼けたといった話も出てきて、時代の証言者たちの短い見学会は終わりました。

 案内に当たった私は、半世紀を経て、もう一度訪れてみたいと思わせる吹田高校はいい学校であったと考えずにはいられませんでした。
  5月26日(月)、最後の試験が終わり、陽射しが一段と強まった午後に、18回目となるクリーンキャンペーンが行われました。

 この取り組みは、清掃活動を通じて地域に貢献しようという心意気が表われたものです。

 バックネット裏に集まった沢山の生徒達と沢山の先生方に対して、「地域をきれいに、終われば心もきれいに」といったあり合わせの挨拶を済ませ、20の班を見送れば、私も地図と清掃グッズをもって校外へ。

 出会った生徒から「先生、ゴミ袋を持ってあげる」と言われた時は、暑さの中、最高に清々しかった。

 こうしたボランティア活動は、結果を出すために長期間の継続を求められるクラブ活動と違って、ただちに地域の評価が出るのがよい所です。

 すぐにも感謝の声が聞けるものと自分では思いこんでいたのですが、一人の先生が活動中に聞かされたのは、このキャンペーンとは関係のない、生徒の交通マナーに関するクレームの声であったとのこと。

 そうか、地域に出て、地域に触れるということは、吹田高校に対するあらゆる評価にも出会うことだと改めて分かりました。

 とはいえ、予期せぬ意見も、みんなで自発的に、前向きに取り組んだからこそ。むしろ関係者へのありがたいご指摘として、真摯に受け留めたいと思います。

 明けて翌日の朝、昨日掃除したはずの道端にもう多数のゴミが落ちているのを見ました。
 クリーンキャンペーンに参加した生徒達は、きっとそんなポイ捨てを思い止まるに違いないと考えるのは私だけでしょうか。

平成20年5月21日     畑中校長だより 第4号

『挨拶は大切な仕事』


 もう何年か前のテレビの対談番組でのことです。今期もヤンキースで活躍している松井選手が、メジャーへの挑戦を決めた後輩選手に贈るアドバイスを求められて一言。

「挨拶さえちゃんとできれば、何も怖いことはないです」


迷いのない強い響きのなかに世界で活躍する人の自信が感じられ、以来、何か将来への挑戦めいた事情がある時には、自分に対しても、他人に対しても、「挨拶さえちゃんとできれば・・・」という言葉で励ますようにしています。

 校長にとって、挨拶はとても大切な仕事です。その機会は大変多く、松井選手的な魔法の言葉としてよりも、状況に応じた意味と責任のあるメッセージ性が求められます。

  先日(4月26日)も、3年保護者進路説明会でそうした機会がありました。当日、ご参加いただいた76名の保護者に対し、私はおおよそ次のような挨拶、そしてお願いをしました。

@ 人生において、睡眠(「人生の3分の1は布団の中」です)に匹敵ないしはそれ以上の存在はと言えば、職業(に関わる時間)であろう。何故なら、20歳から平均40年の職業生活を送るとすれば、80年の人生で2分の1(>3分の1)にも当たるからである。たとえ、卒業後は進学希望であっても、その先を考えれば職業と無縁な高校生はいない。これほど重大な「働く」ことの意味 ― 報酬、社会的な責任、その苦労と喜び、やりがい、職を全うするに当たっての心がけ等々 ― について、もっとも身近な大人として子供達に語っていただきたい。

A 進学希望の場合、入学試験で(主に知識の量、つまり覚えているかどうかによる)1点、2点にこだわることはやむを得ないし、塾や予備校はそうした指導は得意である。しかし、大学によっては、理解力や表現力、あるいは考える力を問うような出題を行うことがあり、そうしたケースで対応するための力は学校のなかでこそ養われる。どうか本校の教育力を信頼し、充分に活用していただきたい。

 自分(校長)もまた家庭では一人の受験生の保護者に過ぎなかったという経験を踏まえて話したつもりですが、果たしてよきメッセージとなったのかどうか。ご意見等がありましたら、どうぞお聞かせください。

平成20年5月8日    畑中校長だより 第3号

『思いのほか・・・』


 着任以来3週間が経ち、思いのほか・・・なんだなと感じることが沢山あります。勿論、吹高初心者なのだから当然なのでしょうが、いつまでも初心者で勤まる立場にいるわけではなし。かと言って、知らないことには謙虚な姿勢で臨みたいと思いますし、初心者の発見や疑問には案外本質を衝くことがあるものです。

 さて、校長室での日常ですが、思いのほか多くの人と情報の出入りがあります。職員は当然として、時には生徒や本校の身内としてのPTA、同窓会の方々、さらに学校の外からも思いがけない様々なお客様をお迎えしています。そして、電話やとりわけパソコンを介しての時々刻々の情報が伝わってきますから、メールチェックは重要な仕事となります。 (これについては本校自慢の校内メーリングリスト【ML】も一役買うことになりますが、私も先日、ようやくMLデビューを果たしました)
 なるほど校長室は内と外に開かれた吹田高校の顔だと実感しますし、私のいる限りそこは基本的にオープンな場所です。教頭時代に仕えたすべての校長先生から学び、私がとても大切なことと考えるのは、いつでも一旦仕事の手を止めて、訪れる方々に対応するという態度でした。ミヒャエル・エンデの小説『モモ』風に言えば、相手に(できる限りの、そして適切な範囲で)時間を与えることを心がけたいと思います。

 次は朝の風景です。毎日始業前、その日登校してくる生徒を迎える気持ちで校門に立ちます。教員からすれば、そこは道路を横断してくる生徒を事故の危険から守り、かつ遅刻や服装・頭髪指導という「教育」を行う場所でもあります。門の向かい側の狭い歩道には、思いのほか多くの自転車通学者が集まり、信号の変わるのが待ちきれない状況となっています。
 安全への配慮は待ったなしなので、打てる対策がないものか。また、遅刻等を叱ることと併せて、生徒が授業に余裕をもって参加できるように今までにない遅刻防止策を学校として講じてみたい等々。狭い校門を通過する生徒達に「お早うさん」と声をかけながら、思考を廻らせているところです。
 やるべき時に、やるべき場所で、やるべきことをやる責任を負った今、吹田高校で思いのほかにやりがいを感じております。

平成20年4月24日     畑中校長だより 第2号

1学期・始業式 式辞


 おはようございます。

 この度、西島前校長の後任として、後ほど紹介します新転任職員16名とともに、吹田高等学校に着任しました校長の畑中利明です。どうかよろしくお願いします。

 吹田高校の一員となり、私が先ず思ったことは、早く吹高を知りたいということでした。それは、ニューカマー、つまり新参者の正常な好奇心です。また、校長としての責任の第一歩だとも考えます。実際、すぐに目についたのは、少し時代を感じさせる落ち着きある校舎と、春休み中の部活動に励む生徒諸君や、新学期をよい環境で迎えようと校舎や教室の整備に動き回る多くの先生方の姿でした。誰しも第一印象はよいに越したことはありません。私は今、かつてクラス担任を持つときのような明るく確かな予感を感じております。

 さて、吹田高校といえば、『ホームレス中学生』の田村君ですっかり有名になりました。個人的な話になりますが、漫才コンビ「麒麟」の彼の相方、川島明君は、実は私の京都府にある出身中学校の後輩なのです。勿論、川島君の方は私を知りませんが、私が「麒麟」の二人との不思議な縁で吹田高校に親しみを感じていることも事実です。

 このコンビ名の由来をインターネットで調べると、麒麟という言葉が彼らの知っている一番難しい漢字だったとか、麒麟が将来を期待される少年を意味することから付けられたとありました。また、昔から知りたいことがあれば先ず辞書に聞けというわけで、あらためて近くの辞書で麒麟を引いてみると、牡を「麒」、牝を「麟」というとあり、中国で人間の理想である聖人の出る前に出現するとされる想像上の動物と説明されています。ならば、おめでたい言葉というだけでなく、牡の「麒」と牝の「麟」がそろって完成するというコンビ名には大変ふさわしいネーミングであることも納得でした。

 田村君は、本校の46期生ですが、彼はあるところで、「吹田高校は面白くてパワーのある人が多い。いま、僕がお笑い芸人をやっているのも、吹田高校に通った3年間があったから」と振り返っています。諸君は入学前に吹田高校を選び、そして3年間のチャンスに恵まれたわけですから、ここで幸せな高校時代を送れるように、自分自身が精一杯の努力を払ってください。全く当たり前のことですが、高校は勉強をするところです。君たちの人生をよく生きていくうえで、本校で学ぶことに無駄なものは一切ありません。吹田高校での卒業までの過ごし方が、田村君のように人生を支えるのです。そして、麒麟のコンビのように、お互いを必要とし、励ましあえる仲間が見つかるなら、人生のどんな困難にも耐えていけます。

 式辞の最後に、生徒諸君を取り巻く社会的な条件は必ずしも明るいものばかりではありません。しかし、私も、すべての先生方も、とにかくできる限りの君たちへの応援をします。自分を大切にする意味で、応援団である私たちを遠慮なく活用してほしいし、先生に相談する小さな勇気だけはみんなが持ってほしいと思います。

 以上をもって、平成20年度第1学期始業式の式辞とします。

入学式 式辞


 春のさわやかな風に、玄関の前で花開いた枝垂桜が軽やかに揺れるこのよき日に、平成二十年度大阪府立吹田高等学校入学式を挙行いたしましたところ、大阪府教育委員会ご代表をはじめ、PTA、後援会、また本校の同窓会であります鳳志会の方々、並びに多数の保護者の皆様のご列席 を賜り、高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 ただ今、入学を許可いたしました新入生の皆さん、先ずは入学おめでとうございます。教職員一同、皆さんの入学 を心から祝福し、歓迎いたします。

 本校は、昭和二十五年、ここ吹田市に府立高校の設置をという地元の熱い願いのもと、当時の新制高等学校の第一番目の府立高校として創設されました。以来、半世紀以上 に亘る時間の中で、本校より二万名を優に超える卒業生を送り出し、まさに社会に必要な存在であることを自ら証明しつつ、歴史を刻んでまいりました。そして、本日、この式場に、新たに第五十九期生となる三百二十名の諸君を迎え、伝統のなかにまた新しい息吹が吹き込まれることに、学校を代表して大いなる期待を表明したいと思います。

 皆さんは、言うまでもなく自分の意思で吹田高校を選び、自分の努力で近年稀に見る厳しい入学者選抜に合格されました。その皆さんが、これから始まる吹田高校での生活に 求められる信条は、諸先輩より「礼儀・親切・協力」そして、責任ある行動と真剣な学習にあると伝えられています。
つまり、自ら進んで挨拶をすること、他者を思いやり、共感する心をもつこと、チームの力を信じること、集団の一員であることを自覚し、マナーやルールをしっかり守るこ と、そして、何よりも大いに勉強することなどです。私は、こうした本校の関係者すべてによって築かれてきた伝統の中にこそ、実は今後の吹田高校が目指すべき姿や将来の展望の手がかりが潜んでいると信じております。いささかの飛躍をお許しいただければ、大阪府の橋下新知事が目指す教育日本一にも、本校らしさに地道に徹することで十分に貢献できるとさえ考えております。

 しかしながら、よくよく考えてみますと、いや考えれば考えるほど、伝統や精神を発展的に継承させるというのは、本当は世の中でもっとも難しいことの一つです。先ずは、周囲をよく観察し、先ほど申し上げた「礼儀・親切・協力」そして、責任ある行動と真剣な学習のあり方を、自分自身でじっくりと理解するように努めてください。本校のよき伝統は、授業のほか、学校行事や生徒会活動、部活動など、あらゆる領域に生きているはずです。「ホームレス中学生」で知られるコメディアンの田村 裕さんは本校の卒業生ですが、彼が高校生活を楽しむきっかけとなったのは、秋の文化祭でのクラス演劇と、それを当時の担任の先生がほめてくれたことであったそうです。新入生諸君には、何事にも積極的に取り組んでみることで、吹田高校を楽しみながら、自然とその精神を身に着けていってほしいと思います。

 さて、最後になりましたが、保護者の皆様方、あらためてお子様方の本校ご入学を心よりお祝い申し上げます。私事で誠に恐縮ではありますが、私自身もまたこの四月、十七代目の校長として本校に赴任したところです。吹田高校での日々を、縁あって皆様のお子様方とともに始められることに、喜びとともに大きな責任としてかみ締めております。すべての教職員が、大切なお子様を無事卒業されるまでお預かりし、その人としての成長を支援したいものと心から望んでおります。その実現のためには、学校と保護者の皆様との信頼関係が必要不可欠であることは言うまでもありません。今後、多感な時期を過ごされるお子様の行動に今まで以上に注意を払い、もっとも身近な大人として厳 しさと優しさを併せ持ってご指導ください。学校から発信される各種の情報に関心を持っていただき、本校の教育方針にご理解を賜るとともに、積極的なご支援、ご協力をいただきますよう、重ねてお願いを申し上げます。また、ご意見やご要望などがございましたら、各担当職員に何なり とお聞かせいただければ幸いでございます。

 結びに、本日、ご多用中にも関わりませず、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様におかれましては、本校がその社会的責任を全うし、今後ますますの発展充実が叶いますよう、 一層のご指導、ご支援をお願い申し上げて、式辞といたします。

  平成二十年四月八日
大 阪 府 立 吹 田 高 等 学 校
校  長   畑 中  利 明

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平成20年4月11日     畑中校長だより 第1号

始 め ま し て

― 着任のご挨拶 ―


 私はこの度、4月1日付けで西島前校長の後を受けて校長を拝命いたしました。 どうかよろしくお願いいたします。

 未だ着任後の日が浅いことは言うまでもありませんが、やがて60年の歴史を数えようとする吹田高校の伝統が何たるかを一刻も早く知りたいという思いで、先ずは主だった先生方からの聞き取りを始めたところです。

 一方、この数日間で直感的に理解された本校の良さもありました。例えば、クラブ活動に熱心に取り組み、「おはようございます」の挨拶で新参者を迎えてくれた生徒達、生徒の可能性が一層発揮されるよう、年度代わりの多忙な中、教室や校舎の環境整備に動き回る良心的な教職員集団、また、鳳志会(同窓会)という頼もしい応援団があることを早々に知ったのもその一つです。

 60年近い時間は、社会がその時代、常に吹高という存在を求めてきたことを証明しています。そして、この間に本校の関係者すべてによって築かれてきた伝統の中にこそ、実は今後の吹高が新たに目指すべき姿や確かな進路の手かがりが潜んでいると私は考えております。(上で、本校の伝統が何たるかを早く知りたいと書いた所以です。)これからも本校が社会の要請に本校らしく応えられるよう、その舵取りに微力を尽くしたいと思います。

 結びに、皆様からの吹田高校に対する一層のご支援、ご協力をお願いして、着任の挨拶とさせていただきます。

【追記】

 私自身は、北摂(茨木工業・春日丘)で24年、北河内(香里丘・東寝屋川)で6年を経て、しばらくぶりで再び北摂の地域に戻って参りました。今、この間の人と人の縁の深さに驚きと喜びをともに感じております。

校長  畑中 利明

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