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2010(平成22)年度 第48回入学式 学校長祝辞


入学式祝辞

 うららかな春の日差しがあふれる今日の佳き日、大阪府立大和川高等学校第四十八回入学式を挙行するにあたり、ご多用にもかかわりませず、大阪府教育委員会を代表して大阪府教育センター所長川村幸治様をはじめ多数のご来賓の方々、並びに保護者の皆様のご臨席を賜り、高いところからではございますが、厚くお礼申し上げます。
 さて、ただ今入学を許可された三百二十名の新入生の皆さん、入学おめでとう。今日ここに大和川高校生として第一歩を踏み出しました。新たな自覚とともに、よし!やるぞ!という意気込みを是非とも持って欲しいと願います。

 今からお話しさせて頂くのは、「学ぶ」ということについてです。学校というところは、言うまでもなく「学びの場」であります。自分を高めるため、成長させるための舞台が様々用意されています。しかしながら、「学ぼう」「高まろう」という意欲がなければその舞台に出会うことはできません。 今から十五年前の話です。私は当時勤めていた今で言う支援学校、当時は養護学校と言っておりましたが、ある一人の生徒と出会いました。彼は、筋ジストロフィーという難病と闘う中学生でした。今は星になってしまいましたが、目を閉じるとはっきりと顔を思い浮かべることができます。小学校入学までは、友達と走り回って遊ぶ元気な子どもでした。ところが、小学校入学とともに良く躓き、転倒することが多くなりました。心配に思ったご両親がある大学病院へ精密検査に連れて行くと、一日一日時間が経つとともに筋肉が萎縮し、全身の筋肉の力が奪われていき、手足が動かなくなり、口を動かすことが困難になり、最後は心臓が動かなくなってしまうという筋ジストロフィーだと診断を受けました。高校生にはなれないかもしれないという宣告を受けたご両親のショックは言葉では表現できないくらいのものだったようです。そんな彼が養護学校の中学部に入学してきた時には、すでに電動車いすでしか移動できなくなっていました。手の力も鉛筆を自分で持つことができないほど握力もなく、口の動きもぎごちないものでした。笑顔と泣き顔がとても可愛く、良く風船サッカーをして一緒に遊んだものでした。そんな彼が中学二年生になって間もない頃、私に「先生、ぼく字が書けるようになりたい」と言い出しました。よっしゃと、車いすにアームを取り付け、そこからゴムチューブを細く切ったもので腕をつり下げ、マジックテープのバンドで筆ペンを手に固定した特性車いすを作りました。足で地面を支える力がないため非常に不安定な中で、全身を動かして字を書くものですから、それこそ一文字書くのにのにも大粒の汗を額に浮かべながら必死の形相で練習しました。彼が書いた文字は「あ」と「り」と「が」と「と」と「う」というひらがな五文字でした。なぜこんなに頑張るのか不思議に思い、これをどうするのか聞きました。すると、その生徒はこう答えました。「先生、ぼく、お母さんに手紙を書きたいんや」「お母さんに僕を生んでくれてありがとうと伝えたいんや」と。絶句しました。
 お母さんに伝えたい一心で、手紙を渡したい一心で必死になって努力する彼のその姿は本当に美しかったです。「学ぶ」ということはこういう事なんだと教えてもらいました。自分の心の底から、何かに突き動かされ、こうなりたい・・こうしたい・・という強い気持ちで頑張る姿は本当に圧倒されました。  「学ぶ」ということは「力をつけること」です。あなた方の年令の時には腕立て伏せを十回やれば十回分の力が身に付くのです。本を一冊読めば一冊分の感性が磨かれ、想像力が身に付くのです。次が大切なんです。十回でいいやと思うのも自分、よし!次は二十回やろう!と思うのも自分なんです。もうこれでいいやと思ったらそこまで。ここに、人として薫り高い「志」というものがあるのです。力を身につけるには努力しかありません。高き希に向かって努力し続けてこそ成長があり、そこには、何物にも代え難い大きな喜びがあるのです。
 「継続は力なり」という言葉があります。新入生の皆さん、どうか高校生活を努力の積み重ねの三年間にしてください。絶対遅刻しないぞ、笑顔で挨拶するぞ、でもいい、文化祭頑張るぞ、部活動頑張るぞでもいい、勿論勉強頑張るぞでもいいんです。何かに打ち込む日々が、あなたを大きく成長させてくれることは間違いありません。高き希に向かって自分を高めることにチャレンジしてください。そして高まった喜びを一人でも多くの生徒が味わってくれることを期待しています。

 最後になりましたが、保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。我々教職員一同は、中学校からのバトンを丁寧に受け取り、これからの三年間、安心と信頼をいただけるよう全力を尽くす所存でございます。どうか本校の教育方針をご理解頂きましてご協力頂きますようお願いを申し上げ、式辞とさせて頂きます。 

平成二十二年四月八日

大阪府立大和川高等学校
校 長 乾  匡

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