平成から令和へ

 4月30日から5月1日にかけて、天皇陛下の退位と皇太子の新天皇への即位の儀式が行われ、私もテレビ中継で見ていました。30年前の昭和から平成に改元されたときとは、街の雰囲気が大きく違い、多くの国民が、今回の生前退位を歓迎しているように思うのですが、皆さんはどう思われますか?と言っても、今宮高校の高校生は、初めての改元を体験するわけで、過去とは比べようがありませんね。保護者の方は、どう感じられましたか?

 さて、平成の時代が終わりました。この間、多くのマスコミで「平成の時代」を振り返る取り組みが報道されました。私は、昭和35年、1960年生まれです。物心がついた頃に覚えているのは、私の家にあるテレビは白黒テレビで、冷蔵庫もありませんでした。古い家は、茅葺の家で台風が来るたびに家の前にある小学校に避難していました。そんな、まだ戦後を感じさせるような時代から、高度経済成長が始まり、世の中が新しく変わっていくことを子供心にも実感できたと思います。やはり、一番印象に残っているのが、10歳の時に体験した大阪万博です。この万博に行って覚えているのは、「動く歩道」。今では当たり前ですけど、びっくりしました。それにどのパビリオンに行っても感じたことは、「未来は明るい、21世紀は楽しい」ということです。

 そんな昭和の時代が終わり、平成を迎えたのが30年前、21世紀も近づいてきたときでした。私は、この平成の時代を「戸惑いの時代」だと思っています。昭和の時代に経験しなかったこと、予期しなかったことが、次から次に発生ました。それは、国際的にも国内的にもです。

 私が新婚旅行に行った国は、もう今は無い国です。それはソ連です。珍しいですよね。ソ連の教育と芸術を鑑賞する旅に参加しました。エルミタージュ美術館に行きたかったのです。あの当時、ゴルバチョフ氏が、ペレストロイカを掲げ、ソ連は改革の動きを進めており、街もなんとなく活気に満ちていたように思います。そう、平成に入って最初に驚いたのは、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が無くなり、冷戦が終結したことです。ペテルブルグで新年を向かえるときに、ゴルバチョフ氏の力強い演説が、ソ連全土に流れてきました。あの時のゴルバチョフ氏の思いが、このような結末になるとは、だれも予想しなかったと思います。

 その後、世界は、民族対立・宗教対立が激化し、テロが横行します。2001年に発生したアメリカ同時多発テロは、全世界を恐怖に陥れました。私もテレビの映像でみながら、あまりの衝撃に鳥肌が立ったことを覚えています。高校時代の同級生が、あの崩落したビルで働いていたことも、後程知りました。ちょうどその日は休みを取っていて、難を逃れたと言っていました。

 「IS」の台頭は記憶に新しいと思います。彼らの極端なまでのイスラム教の過激思想が、なぜ多くの若者の心を掴むのか、私には理解できませんでした。ただ、危惧したのは、日本に住むイスラム教徒への差別意識が助長されないかと心配しました。実現こそしませんでしたが、いまこそ、イスラムの人々の生の声を、生徒たちに聞かせるべきだと思いました。日本の学校現場で宗教を取り上げるのは、難しいですね。でも、宗教教育は必要だと思います。宗教教育は否定されていませんからね。きちんと理解していくことが必要です。

 国内では、バブルが崩壊し、長い低迷の時代を迎えました。「日本の証券会社、銀行がつぶれるなんて!」と思いました。昭和の人間からすると、銀行や証券会社に勤めるのは、ある種のステータスだったのですから。やがて、日本のGDPは中国に抜かれ、世界第3位になりました。世界を席巻したSONYは、Apple社にその地位を譲りました。

 そして、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震と自然災害が多く発生します。気候変動の影響か、毎年自然災害が発生するようになりました。そして、人口減少です。とうとう、それまで増え続けてきた日本の人口が減少に転じたのも平成の時代です。

 そう、やはり平成という時代は、わたしにとっては「戸惑いの時代」です。予期せぬことを目の前にして、どうすればよいかわからないまま、立ちすくんでいることが多くあった時代です。

 しかし、これから始まる令和の時代は違うでしょう。私が大阪万博に参加した時のような、楽観的な明るさを持った時代では決してないと思います。平成で感じた戸惑いは、そのまま令和の時代に引き継がれ行くでしょうから。ただ、はっきりしていることは、私たちが立ち向かわなければならない課題が見えているということです。これが平成の時代とは大きく違います。挑むべき課題が見えています。

 ★世界のだれも経験していない急激な少子高齢化社会にどう立ち向かうか?

 ★G7でもG20でもない、G0(ジーゼロ)と呼ばれる世界の中で日本の立ち位置をどうするか?

 ★AIが日常生活で活用され、ソサエティ5.0というすべてがネットで繋がる時代のなかで、人としての生き方をどうすべきか?

 ★いつかは必ず来る大震災に対して、何をすべきか?

これらの課題には、誰も「正解」を教えてくれません。自分で正しいと思う解を導き出さなければならないのです。そんな創造力が求められます。昨日のように今日を生き、今日のように明日を生きるのではなく、常に変化を意識して生きることが求められます。

 私が、今宮高校の生徒たちと関わることができるのも、そんなに長くありません。目の前の課題は困難だけど、ただ戸惑うだけではなく、果敢に挑戦する令和の時代を生きる若者を育てるために、残された時間を使いたいと思います。

令和元年 5月3日、令和最初の憲法記念日に際して。