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日仏教育学会 論述型大学入試に向けた指導法 公開シンポジウム

 10月26日(土)、立命館大学で日仏教育学会の2019年度研究大会が開催されました。その内容の一部に、基調講演・公開シンポジウムとして「論述型大学入試に向けた指導法」が企画されていましたので参加してきました。フランスの教育を研究されている大学の先生方には、フランスの高卒認定及び大学入学試験であるフランスバカロレアについて勉強させていただいています。昨年度は、大阪大学とフランス教育学会が共同で主催した「思考力の育成と評価~論述型試験フランスの大学入試"バカロレア試験"の事例から考える~」にコメンテーターとして登壇させていただきました。

 なぜ、今フランスバカロレアが注目されるのか?それは、このテストが究極の論述試験の形をしているからです。因みに国際バカロレアとフランスバカロレアは違います。国際バカロレアは、世界の様々な大学へ入学できる試験ですが、フランスバカロレアはフランス国内の大学に入学できる入試です。

 さて、フランスバカロレアですが、200年以上続く論述試験です。詳しいことは、ネット上に様々な解説が記載されているので、そちらの方に譲りたいと思うのですが、とにかく日本のセンター試験のようなマーク式の問題は一切出題されません。ひたすら記述です。その中でも哲学の問題は特に有名です。試験時間は4時間。どんな問題が出題されるかというと、2019年度は、以下のような問題が出題されました。フランスバカロレアは、文学部門、経済社会部門、科学部門の3つの分野に分かれているのですが、それぞれの部門は、3問出題されたうち1問を選択し、4時間の時間をかけて論述するのです。

文学部門

1、時間から逃れることは可能か

2、芸術作品の説明は何に役立つのか

3、ヘーゲル(Hegel)著『法の哲学』(原題:Grundlinien der Philosophie des Rechts 仏題:Principes de la philosophie du droit)からの抜粋を解説せよ

経済社会学部門

1、道徳は政治において最良であるか

2、労働は人々を分裂させるか

3、ゴットフリート・ライプニッツ(Gottfried Leibniz)が論考した「デカルトの『哲学原理』(原題:Principia philosophiae)への気づき」を解説せよ

科学部門

1、文化の多様性は人類統一の妨げとなるか

2、義務を認識することは、自由を放棄することであるか

3、ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)著『幻想の未来』(原題:Die Zukunft einer Illusion 仏題:L'Avenir d'une illusion)からの抜粋を解説せよ

https://info.ensemblefr.com/news-429.htmlより引用。)

出題された問題からわかるように、知識を習得していることは当たり前、その習得した知識を如何に活用し、思考し、表現するかが問われる試験です。日本の高校生が求められている力とは、全然違うことが分かると思います。

 基調講演では、フランスの高校の地理の先生であり、かつ地理バカロレア試験の参考書の著者でもあるフレデリック・ヴィエノ氏が「バカロレア試験で問われる力とその採点・育成方法:歴史・地理を例として」の演目で講演されました。フランス語での講演ですので、英語でもおぼつかない私にとっては全然内容が分からず、ひたすら訳を聞き、読む(事前に講演内容が日本語訳されていました)という状態でした。それでも、フランスの地理教育が、様々な資料を生徒に提示し、その資料を比較検討、批判的に思考するというものであることは十分に理解できました。日本では、「暗記科目」と思われがちな地理とまったく違う様相を呈していました。

 シンポジウムで興味を惹かれたのは、元京都府立園部高校の先生である田中先生の実践です。先生がおられた当時、園部高校には様々なコースが設定されており学力差もかなりの差があったようですが、英語を使って論理的に思考する方法を取り入れることで、学力差があった生徒たちの論述力の差がかなり縮まってきたという報告がなされました。実際に生徒たちが書いた入学当時の初期の英文と、園部高校での学習を積み上げた後での英文の差には歴然とした違いがあり、その成長ぶりにびっくりさせられました。

 ここからは、私の意見も含めた感想です。最初にも述べたように、フランスバカロレアは200年以上の歴史があります。自分の考えを論述するための学習を小学校時代から積み上げている歴史があります。誤解を恐れずいえば、フランスの小・中・高の勉強は、このバカロレア試験に合格するための積み上げをやっているように思うのです。だから、あの哲学のとんでもない問題(日本人の大人でもかなり論述に苦しむでしょう)にでも、立ち向かえると思うのです。

 日本の場合。次年度の大学入学共通テストから記述の問題が国語と数学に導入されますが、その量をフランスバカロレアに比べると、比べるのが恥ずかしくなるような量です。まだまだ、日本の教育は、知識の積み上げ型の教育を行っており、その積み上げた知識を如何に活用し表現するかまでは至っていないと思われます。それでも、この論述志向型の入試への流れは変わらないでしょう。何故かといえば、欧米の先進国だけではなく、OECD加盟の多くの国々が思考力・判断力・表現力などを育てる教育に舵を切っているからです。

 2週間ほど前に2学期の中間テストが終わりました。生徒の皆さん、どんな勉強をしましたか?テスト前になって、ひたすら頭に知識を詰め込んで、テストの時にそれをテスト用紙に吐き出す。そして、試験が終われば、きれいさっぱり頭に詰め込んだ知識は、忘れ去ってしまう。そんな勉強になっていませんか?おそらく、このような勉強スタイルは、どんどん古くなっていくでしょうね。身に着けた知識を如何に活用するか?そのことが問われるようになると思います。

 欧米の若者(最近ではアジアの若者も)が自分の意見をきちんと述べることができる背景には、このような教育があるということが、改めて確認できたシンポジウムでした。