第72回卒業証書授与式が挙行されました!

 本日2月29日(土)、第72回卒業証書授与式が挙行されました。今回の卒業式は、新型コロナウィルス感染拡大防止のために、初めて尽くしの卒業式となりました。式辞は文書印刷で配布、PTA会長、自彊会会長の祝辞は割愛、PTAによる花束贈呈も割愛、在校生の出席は無しという状況でした。それでも、「いい卒業式でした!」という声を臨席していただいた来賓の皆様からもいただき、大変良かったと思っています。それも、総合学科22期生の生徒の皆さんの気持ちが一つになっていたからではないかと思います。

 22期生が選んだ卒業生の歌「正解」。卒業生が歌うのを聞きながら「いい歌詞だな...」と思いました。思えば、学校というところはずっと「正解」を教えてきました。でも人生の生き方に正解はありません。「喜びが溢れて止まらない夜の眠り方」や「悔しさで滲んだ心の傷の治し方」、「傷ついた友の励まし方」、このようなことほど、人生を歩んでいくのに必要なことですね。これからはあなただけの「正解」を追い求め、探し続けてください。もし、探し続けて疲れたり、道に迷ってしまったら、少し後戻りして今宮高校を訪ねてください。これからは、先生と生徒ではなく、人生の先輩として一緒に「正解」を探したり、悩んだりできると思います。22期生の未来に栄光あれ!

 式場では、私はあなたたちに最後の言葉を述べることができませんでした。残念です。ここに式辞を掲載します。中村哲さんの話、人生の大先輩として参考にしていただくとありがたいです。

=式辞=

 暖冬が続いたこの冬の中、春本番の到来の兆しを感じる今日、大阪府立今宮高等学校第72回卒業証書授与式を挙行いたしましたところ、大阪府教育委員会ご代表 松本 諭史様をはじめ、地域の中学校の校長先生方、また、自彊会、PTAのみなさまなど、多数のご来賓の御臨席を賜りました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

ただいま、230名の皆さんに、卒業証書を授与いたしました。

 保護者の皆様方には、お子様が本校での課程を無事修了され、本日の晴れの卒業の日を迎えられましたこと、さぞ、およろこびのことと存じます。

 教職員を代表し、心からお祝い申し上げますとともに、本校にお寄せいただいたご理解とご協力に対しまして、深く感謝を申し上げる次第でございます。

 さて、総合学科二十二期生のみなさん、卒業、おめでとうございます。

みなさんにとっては、ついこの間、今宮高校の門をくぐったという思いがあるのではないでしょうか。

 皆さんは今日を境に、それぞれの道に進んでいくわけですが、高校生活で学んだことを糧として、確かな足取りでこれからの人生を、歩んでほしいと思います。

 それでは、卒業にあたり皆さんの前途を祝し、私の思いを述べさせていただいて、餞の言葉にしたいと思います。

 私が皆さんに話をするのは、昨年行われたラグビーワールドカップの話でもなく、今年行われる東京オリンピックの話でもありません。また、2025年に開催される大阪万博の話でもありません。一人の日本人の話をしたいと思います。それは、昨年12月4日にアフガニスタンで銃弾に倒れた中村哲さんの話です。

 中村哲さんは、医者としてハンセン病患者の治療のためにアフガニスタンで医療活動を続けられていました。ところが、気候変動による大干ばつが起こり「医療よりも水だ、水があれば多くの命が助けられる」と水路の建設に乗り出します。そして、全長25kmを超える用水路を建設し、砂漠だった土地に緑を蘇らせることに成功し、約10万人の農民が暮らせる基盤を作りました。恥ずかしながら私は中村さんのことを12月4日まで知りませんでした。「すごい日本人がいる。これが人に尽くすということなのだ」と改めて思いました。そして、彼がこのような活動を行う原点は、一体何なのだろう、彼は何か特別な体験をして、このような人生を歩むようになったのだろうかということが知りたくなったのです。

 中村さんは、福岡県の生まれです。昆虫が大好きで野山を駆け巡る少年でした。そんな中村さんの幼少期に大きな影響を与えたのは、祖母のマンさんです。中村さんは、その著書で「祖母の説教が、後々まで自分の倫理観として根を張っている。弱者は率先してかばうべきこと、職業に貴賤がないこと、どんな小さな生き物の命も尊ぶべきことなどは、みな祖母の教えを繰り返しているだけのことだと思うことがある」と述べています。

 私が思うにこの祖母マンさんの教えというのは、明治生まれの人が、誰しも持っていた倫理観のように思います。中村さんは言っています。「明治の世代は去りつつあったが、かくしゃくとした風貌は健在で、太平洋戦争の戦火をくぐった人々がまだ社会の中堅にいた。日本の文化や伝統を日本人として誇り、平和国家として再生する意気込みが、一つの時代の色調をなしていた」と。さて、今の私たちはどうでしょう?このマンさんの教えにあるような明治・大正・昭和と生きた人たちの気概というのは、どれだけ引き継がれているでしょうか?これから令和の時代を生きるあなたたちに、もう一度考えてほしいと思っています。

 もう一つ、中村さんの生き方の原点になったと思われることがあります。それは、宗教です。中村哲さんは、小さいころに父親から論語を読まされます。儒教の教えです。中学校は、キリスト教のミッションスクールに通い、その当時内村鑑三の「後世への最大遺物」という本を読み大いに感銘を受け、洗礼を受けクリスチャンになるのです。そして、イスラム教の世界で活動をするという非常に多彩な宗教色の持ち主です。このことについて中村哲さんは次のように述べています。「論語を読んでいるときには意識をしなかったですけれど、儒教的な教えは、キリスト教、そしてイスラム教にも出てきているわけです。『この宗教ではこういう表現を使うけれども、仏教徒はこう言い、我々キリスト教徒はこういう』というような共通の何かを感じることがあります。」と。中村哲さんは、アフガニスタンで活動する中で、現地の人と一緒に活動するときに、宗教に対する理解が「非常に力になった」と述べられています。

 私は、あなたたちにキリスト教徒になれとかイスラム教徒になれなどという気持ちは毛頭ありませんが、今の日本の中で宗教に対する理解がどこまでできているのだろうかということは、大人も含めて疑問です。現在のようなグローバルなボーダーレス社会を生きていくあなたたちにとって、宗教に対する理解は不可欠だと思います。それは、違う文化を持ち、違う宗教観を持つ人へのリスペクトと多様性の尊重だからです。この意味で、中村哲さんの宗教観はとても示唆に富んでいるのではないかと思います。 

 2019年12月4日まで、ただひたすらアフガニスタンの人たちのために尽くしてきた中村哲さん。その偉業は、簡単に語れるものではありません。これから、様々なところで、いろいろな人生を送るあなたたちに、中村哲さんが若者に向けて放ったメッセージを伝えたいと思います。

 「人間にとって本当に必要なものは、そう多くはない。少なくとも私は『カネあれば何でもできて幸せになる』という迷信、『武力さえあれば身が守られる』という妄信から自由である。何が真実で何が不要なのか、何が人として最低限共有できるものなのか、目を凝らして見つめ、健全な感性と自然との関係を回復することである。」「だまされてはいけない。『王様は裸だ』と叫んだ者は、見栄や先入観、利害関係から自由なこどもであった。それを次世代に期待する。」

 中村哲さんは、アフガニスタンで人に尽くし、社会に尽くし、人々の命と平和を守り続けました。そんな日本人がいたことを皆さんの記憶にとどめておいていただければというのが、私の願いです。

以上が、私があなたたちに贈る最後の言葉です。

本日卒業証書を授与したすべての人の未来が、幸せなものとなることを心より願って、贐の言葉といたします。

令和2年2月29日 

今宮高等学校校長    上野 佳哉