第2章 水溶液の調整   


 4.計量容器と秤量器具の取り扱いに関する
   基本的心得



 4-1 計量容器のいろいろ

 @ 実験でよく使う計量容器にはメスフラスコ、メスシリンダー、ピペット、

 ビュレットがある(図3)。計量容器ではないが、ビーカー、フラスコ、スポ

(駒込ピペット)などにも目盛りは付いている。

A 材質の面からいえば、ガラス製とプラスチック製とがある。前者は透明で化学薬品にも侵

 されにくいが、割れやすいという欠点をもつ。後者は特殊な薬品を除いて耐薬品性があり、

 かつ割れにくいという利点があるが、熱に弱く変形しやすいという欠点がある。したがって、

 水溶液をつくるときに発熱するような場合、ガラス製の器具を使う方がよい。

B 計量容器はそこまで入っている内容積を示す器具(受用量器)と、別の容器に溶液を移し

 たときの流出量を示す容器(出用量器)とがある。メスフラスコは前者であり、メスシリン

 ダー、ピペット、ビュレットは後者である。

C 溶液をつくる際、溶液が発熱したり吸熱したりするときは、温度変化による体積変化が溶

 液だけでなく容器にも生じているから、液温を室温付近に戻してから容器の所定の目盛りに

 合わせる。

D 目盛りを読む視線の方向は、液面に水平な方向から液面の最下部を読む。また、目盛りを

 読み取る場合は、付してある目盛りの一桁下の位まで読むことを原則とする。



4-2 メスフラスコ

@ 50〜250cm3用で、体積許容差が 約±0.12cm3の精度である。

A 固体の試薬を入れる場合は、メスフラスコにロートを取り付け、それに試薬を落とす。

B 次に、それを水で洗い流し、フラスコにおよそ半分の水が入ったら振り混ぜて溶解させる。

C 目盛り(標線)の少し下まで水を加え、栓をしてフラスコを上下にして液を混ぜる。

D 最後は、液の温度が室温に戻っているのを確かめてから、液面を標線に合わせるべく水を

 追加する。(図3)



4-3 メスシリンダー

@ 精度は、50、100cm3用で、体積許容差0.5cm3である。しかし、小・中学校での水溶液を

 つくる容器としてはこれで十分である。なぜなら、日頃使用する薬品の純度や濃度に、1〜

 2%の誤差があるからである。

A メスシリンダーから試薬を取り出すとき、内壁を濡らしている分までは流し出さない。そ

 れは、メスシリンダーが出用量器だからである。

B メスシリンダーは肉厚で耐熱性に乏しいから、熱水は入れない。したがって、激しい発熱

 があるときは、ビーカー類で調合する。

C メスシリンダーを転倒させて破損させることが多いので、破損防止キャップをつけるなど

 の工夫が望まれる。使った後はすぐに洗い、横にしておくのもよい。(図3)


4-4 ピペット

@ 目盛りが一ヶ所に付けてある全量ピペット(精度は1〜25cm3用で、体積許容差が約±0.02

 cm3)と、小刻みに付けてあるメスピペット(精度は1〜5cm3用で、体積許容差が約±0.02

 cm3)とがある。

A 溶液を取り出すときには、いずれも内壁に付いている分までは流し出さない。

B ピペットを使って液を口で吸い上げるときは、ピペットの先端をビーカーやフラスコの底

 まで深く突っ込んで、液を吸うよう心がける。そうしないと、液を吸う方に意識が注がれて

 液面低下に気づかず、試薬を口の中に吸い込んでしまうことになる。このことをイメージし

 にくい人はそれがどんなことかを一度水道水で体験するのがよい。もしクラブ活動で児童・

 生徒に扱わせることがある場合は、彼らには是非一度水道水で練習させたい。

C 名前の似た器具で駒込ピペットというのがある。これは目盛りつきのスポイトであって計

 量容器ではない。(図3)

     



4-5 ビュレット

@ 精度は5〜25cm3用で、体積許容差が 約±0.02cm3と思えばよい。酸・アルカリや酸化剤・

 還元剤の溶液の濃度を決めるのに使われる。

A 形式としては、ガラスコックが付いていて、その回し具合いで液の流量を調節するものと、

 ガラスコック部分がゴム管になっていて、ピンチコックまたはガラス球で液量を調節するモ

 ール形とがある。

B 使用にあたっては、不都合なことが起こらないかを、あらかじめ少量の溶液をビュレット

 に入れて調べる。例えば、ガラスコック付きの場合は、ワセリンによる目詰まりがないかと

 か、すり合わせの悪さからガラスコック部分からの溶液の漏れがないかなどを調べる。また、

 モール形を利用するときには、ゴム管がまだ使用に耐えうるかを調べる。

C 洗いたてのビュレットを使うときには、これから使う溶液を少量入れその液でビュレット

 の内壁を洗う。この操作を2、3回繰り返したら、ビュレット内は新しい溶液に置き換わっ

 たと判断してよい。すなわち、乾燥させた清浄なビュレットと同じと見なせる。

D 滴定をするときは、溶液を入れるのに使ったロートは外しておく。そうしないと、ロート

 とビュレットの間にたまった溶液が、しばしば誤差の原因となる。(図3)



4-6 ビーカー、フラスコ、その他

@ これらは計量容器ではないので付けられた目盛りはおおまかである。およその濃度の水溶

 液をつくるときはこれでよい。目盛り付き試験管の目盛りもあてにはならない。その他に、

 調理用カップ、赤ちゃんの哺乳びん、お酒のカップ容器などにも目盛りが付いている。

A これらは計量容器としては使えないが、児童・生徒に容積の感覚を養うのには役に立つ。

 積極的に利用させて欲しいものである。


4-7 秤量

@ 小・中学校の理科教育では、上皿てんびんで十分であるが、最近は0.1gまではかることの

 できる安価な電子てんびんが市販されているので理科室に一台備えておくと便利である。

A まず、皿の上に直接試薬を乗せたり、こぼしたりしないようにする。必ず、薬包紙かビー

 カーのようなものを置いて秤量する。水酸化ナトリウムのような吸湿性を持つ試薬は、少な

 い場合は時計皿で、多い場合はビーカーに入れて秤量する。

B 液体を秤量する際の量加減の調整は、スポイトで行うとよい。液体の比重が分かっている

 ときは、メスシリンダーで体積を計り取ってもよい。

C 上皿てんびんの皿に、あまりにも不釣合いな大きな容器を乗せない。  

D 机の端の方や不安定な台の上に置いて使用してはならない。

E 試薬が分銅につかないように注意する。分銅は手でさわらず、必ず専用のピンセットを利

 用する。

F 秤量中に飛び散った試薬は、秤量後に必ずきれいに掃除をしておく。そうすれば、分銅が

 さびるのを少しでも避けられる。もちろん、てんびん自身の耐用年数を伸ばすのにも役に立

 つ。