平成9年度、「大阪と科学教育」  

大気中の窒素酸化物(NOX)の吸引式測定法
 − 電池式エアーポンプを用いた簡易測定 −

*兼 田 照 久・森 本  進
* 大阪府立天王寺高等学校



 1.はじめに

 窒素酸化物NOX(NO2,NO)は主に空気中の窒素が燃焼により酸素と化合して発生する.自動車の排気ガスによるNOXの大気汚染は依然として改善されず,近年では暖房器具等の燃焼による室内空気汚染も深刻な状況にあり,注目されている1).
 教育現場ではNOXの測定はザルツマン法に基づき,大気を一定時間吸収試薬に暴露させる拡散式測定法がしばしば用いられる2).この方法は装置が軽小で広範囲の同時測定が可能だが,測定値は長時間の平均値となる.本稿では同様にザルツマン法に基づきながらも,エアーポンプにより試料空気を一定時間吸収試薬に導入する吸引式測定法を採用する.それゆえ,本稿は大気中のNOXの日時変化の測定を可能とする測定装置3)の開発が目的である.

 2.ザルツマン法4)5)
 ザルツマン法は吸引した試料空気を吸収液(ザルツマン試薬)に通し,次に示す反応により生成するアゾ色素の吸光度を測定しNOXを定量するものであ
る.NOは酸化液に通してNO2として測定する.



 この反応では2モルのNO2から反応NPQにより1モルのアゾ色素が,反応OPQにより2モルのアゾ色素が生成する.この時のNO2に対する応答率(アゾ色素の生成率)をザルツマン係数といい,上記の反応ではそれぞれ0.5と1になる.実際は両方の反応が起こり,現在では0.84と定められている.

 3.測定装置と方法
(1) 方法の概要

測定装置を図1に示す.吸引した試料空気をまず吸収液Nに通しNO2を100%吸収させ,酸化液を経て吸収液O〜Rに通す.試料空気はエアーポンプで吸引し,流速はなるべく400 /分以下とし吸収管の本数で調節する.吸引はRが発色する頃に止める.ポンプから排気した空気はまずポリ袋に捕集し,水上置換によりポリ瓶(5 )に移し体積を測定する.一方吸収液N〜Rの吸光度(545nm)を分光光度計で測定し,予め作成したNO2−標準液の検量線によりNO2−濃度(ppm)を求め,吸収したNOXを算出する.

図1.測定装置と水上置換


(2) 準備

a.器具類 ・電池式エアーポンプ 次の2機種を使用した.
 ・MP:ミニポンプMP-05CF(柴田科学)
 ・JP:JETAIR214M(ダイワ精工)
  (両機種とも電池は新品を用い,モーター寿命を越えて性能の低下したものは使わない.JPは釣具で,吸引排気部のゴム部品を取り外すことで吸引口にもチューブが差し込める)
 ・分光光度計:島津分光光度計UV-1200
 ・吸収管:4号ゴム栓に外径5mmのガラス管5cmを2本通し,一方にシリコンチューブ5cmと先を細
  くしたガラス管10cmを接続し,試験管(径21mm)  に取り付ける.
 ・細口ポリ瓶(5 :体積測定用):100 ごとに目盛りを付けておく.それに水を満たした後,ポリ瓶を逆さにして支持台にのせる.次に捕集空気からのチューブの先端を瓶の口から奥深く差し込むと,瓶内部の水圧により自然に空気が送り込まれ体積を測定できる(図1).
 ・ガス検知器:NOX 0.04-16.5ppm(ガステック):測定値の信頼性を判断する参考の一つとした.
 ・その他:シリコンチューブ(内径4mm),温度計,気圧計,透明ポリ袋(30 ),ピンチコック等

b.試薬類 次の試薬を試験管に25 ずつ入れる.
 ・ザルツマン試薬:水溶液1リットル中の試薬量. (使用直前に調製し,発色したら使わない)
   N-1-ナフチルエチレンジアミン・2塩酸塩    50mg
   スルファニル酸(溶解時加温が必要) 5g
   酢酸 50ml 
 ・酸化液:水溶液1リットル中の試薬量.
  過マンガン酸カリウム(2.5g),濃硫酸(2.5g)

c.亜硝酸イオン(NO2−)標準液
 NaNO2 0.150g(NO2−として0.100g)を純水に溶かし100 とし,さらに10を1に希釈する(10ppm). これをザルツマン試薬で適当に希釈し,0.001〜0.155ppmまで異なる濃度の溶液を32種調製し,吸光度(545nm)との検量線を作成した.

4.結果と考察
(1)結果
測定条件とその結果は以下の通りである.

計算式

非排気型ガスストーブを使用中の室内のNOXは,
交通量の多い交差点よりも4〜5倍大きい値を示す.また,NOは大気中では直ちに100%NO2になってしまうと通常考えがちであるが,測定結果は必ずしもそうではないことを示している.

(2)考察
JISの方法は,気体の流速は400 /分以下,また,
酸化液後は1回だけザルツマン試薬に通す.筆者らは酸化液後は4回試薬に通した.しかし,本法のような簡易法では,NO2の吸収率及びNOの酸化率はJIS通りには行えていないようである.それゆえ,NO2の割合は一つのめやすにすぎない.

 5.結論
はじめの目的通りNOXの日時変化を測定できる装置が開発できたと判断する.ただし,本法はNO2の吸収率及びNOの酸化率を100%としており,NOXは最少見積量である.確かにppmの濃度を簡易法で正確に求めることは至難である.現在,有効数字は概ね一桁であると判断している.

 6.おわりに
本稿は平成7年度専門研修から引き続いて取り組
んだ研究成果である.なお,これらは環境教育のみならず気体の法則に関する教材としても利用できると考える.

参考・引用文献
1)大阪府環境白書 平成8年版(1996)p.10〜12
2)天谷和夫:みんなでためす大気の汚れ,合同出版(1989)84pp など
3)化学実験テキスト研究会編:図解・化学実験シリーズ5 環境化学,産業図書(1993)p.80〜83
4)日本規格協会編:JISハンドブック環境測定,日本規格協会(1995)p.767〜780
5)堀素夫ほか:大気環境のサーベイランス,東京大学出版会(1984)p.22〜24