平成9年度、「大阪と科学教育」  


パソコンを用いた自作比色計による環境調査W
− インターネットによる授業実践の紹介と
環境ネットワークづくり −

紺野 昇


 1.はじめに
 パソコンと自作比色計を用いた NO2測定等の環境調査の教材1)は,大阪府下の小・中学校に多数利用されてきた.現在も様々な研修で紹介し,小学生でも簡単に定量的な調査が行える教材としてその利用は広まっている2).平成8年に本教材による環境調査を実施した学校は30校を越えた.このような環境調査の広まりとともに,自分達の学校周辺だけの測定ではなく,各学校が測定したデータや環境に関する情報を相互に共有することで,広い視点に立った学習が可能となってきた.
 一方,現在の高度情報化社会を象徴するパソコン通信やインターネットの急速な普及で,学校教育におけるネットワークの活用が今日的課題となっている.そこで,パソコン通信及びインターネットを利用して,環境調査を実施した学校間の情報交換を目的とする環境ネットワークの構築を行った3).
 今後,大阪府下にとどまらず,積極的にインターネットを活用し,より広い視点で環境教育を推進するためにも,全国レベルでの環境調査を実施したいと考えている.



 2 構築した環境ネットワーク

(1) 環境ネットワークのねらい
 環境教育の基本的な考え方4)には,地域の実態に対応した課題に取り組むことと,地球規模で考え,足元から行動することがあげられている.実際に子どもたちの周りの環境調査を行う場合,自分たちの地域の問題として環境を考えるだけではなく,より広範囲な視点が求められる.
 ネットワークを用いて,他校の測定データや環境情報を利用すると,環境教育の考え方である全体的視野や地球規模の視野の育成が期待できる.そのため,環境調査を行う学校をパソコン通信Nitfy-Serve及びインターネットで結び,環境ネットワークを構築した.

(2) 本環境ネットワークの概要
 本ネットワークは,当センターを中心とした図1のような構成である.

図1 環境ネットワーク構成図


 本ネットワークで開いているホームページは,URL=http://www2j.meshnet.or.jp/~kankyo/kankyo0.htmで接続できる.また,本ネットワークでの情報発信と情報受信の内容は,次のとおりである.

@学校からの情報発信
 測定したデータや環境に関する情報(画像を含む)をセンターに発信する.その手段として,インターネット上のホームページへの書き込み,またはパソコン通信のメール送信を用いる.

A学校での情報受信
 インターネット上のホームページからのダウンロードまたは,パソコン通信のメール受信により,集約された他校の測定データ及び環境情報を受信し,学習に利用する.

Bセンターでの情報受信
 送信される測定データや,各種の情報を集約し,測定校へフィードバックするためにデータの編集や統合を行う.

Cセンターからの情報発信
 編集及び統合した環境情報を統合データとして,パソコン通信で個別に送信する他,インターネット上のホームページに掲載し,広範囲に発信する.

(3) ネットワーク協力者
 現在,府内の小・中学校を中心に約20校の教員をネットワークで結んでいるが,その数は毎年増加している.



 3 インターネット上の環境ホームページ

(1) 環境ホームページのねらい
 環境ホームページは,環境調査の実践を行った学校間の情報交換の場とする他,これから環境調査を始めようとする教員への情報提供の場でもある.
 情報交換の場としては,大気汚染調査と河川の水質調査に分類してそれぞれの学校での授業実践を紹介し(図2),また測定した学校からのデータや情報を書き込むためのフォーム(図3)を準備した.さらに,情報提供としては,環境調査で用いる比色計の製作方法や測定方法を紹介し(図4),ダウンロードにより情報が得られる仕組みである.

図2 ホームページ上の環境調査実践例 図3 ホームページ上の情報書き込みフォーム



(2) 掲載している実践例と地域環境教材例
 平成8年12月末現在,掲載している大気汚染調査の実践例と地域環境教材は12件であるが,平成9年4月までには約20件を掲載する予定である.

図4 パソコンによる環境調査を紹介したページ



@環境調査の実践例の一部
・羽曳野市立高鷲小学校6年3クラスの大気調査
・寝屋川市立梅が丘小学校の大気汚染マップづくり
・富田林市立藤陽中学校の選択理科での環境調査
・大阪狭山市立第七小学校の学校内外の大気調査
A地域環境教材の例の一部
・羽曳野市内主要幹線道路の曜日別大気汚染の違い
・羽曳野市立の全小学校による羽曳野市の一斉調査
・長居公園とその周辺の大気調査,植物浄化の調査
・環境ネットワークによる第1回大阪府下一斉調査
・大和川水系のCOD及び亜硝酸イオンの水質調査
・大阪府下での酸性雨の調査



4.おわりに
 教育におけるネットワークの利用は始まったばかりであるが,現在までの利用を見ると,情報の受信を中心としたものである.しかし,ネットワークの最大の利点は,情報の相互交換であり,情報の伝達・発信という点にある.本実践は,このような形態の一つの切り口と考える.
 本研究は平成8年度文部省科学研究費補助金基盤研究(C)課題番号08680220,及び平成8年度日本生命財団研究助成を受けている.

引用文献
1)紺野昇:大阪と科学教育,9,23(1995)
2)紺野昇大塚淳子杉本良一:日本理科教育学会研 究紀要,36,11(1995)
3)紺野昇山本伊津子:日本科学教育学会 年会論文 集20,261(1996)
4)文部省:環境教育指導資料(事例編),9(1996)