1.はじめに
我々は,平成6年からパソコンと自作比色計を用いた環境調査の教材開発を行い,本誌1)2)に開発した教材の紹介と実践事例を報告した.また,当センターの研修においても紹介し,これまでの2年間に小・中学校の先生方を中心に作成された比色計の数は200
台を越えている.これらを用いて,学校周辺の大気汚染の調査や河川の水質調査が理科の授業で行われ,理科における環境教育の一つの手段として役立てられてきた3)〜5).
この間,本比色計の製作が難しく製作に時間がかかることや,作成者の製作技術力により作成した比色計の精度にばらつきが生じること,また使用できるパソコンがNEC社とエプソン社の機種に限定されており,学校に導入されている様々な機種で利用できないことなどの問題が指摘された.
そこで,次の点をねらいとして改良を行い,現在新しい型の比色計を公開しているので紹介する.
[改良のねらい]
@:構造を簡単にし、製作を容易にする.
A:バラツキを少なくし、精度を高める.
B:インターフェースをNEC以外のDOS/V機でも使用
できるように変更する.
2.比色計の改良
これまでの比色計は,500p3ポリ製試薬瓶とフィルムケースを本体として作製しており,試薬瓶の側面にフィルムケースの入る大きな穴を2つ空ける作業が困難であった.また,発光ダイオードと光センサーの光軸を揃える必要があり,2つの穴の方向がずれると,比色計の精度に大きく影響した.今回,本体に試薬瓶を使わず,水道管に用いるT字型の塩ビチューブ(径25×16mm)を用いた(図1).この径では,発光ダイオード及び光センサーを装着したフィルムケースがちょうどチューブの中に入るので,両者の光軸を簡単に揃えることができた.また,試薬瓶の本体に穴を空ける必要がなく,フィルムケースに発光ダイオードと光センサーを装着する作業がケースの外側からになって簡単になった.このため,約5時間かかっていた製作時間が,およそ3時間に短縮できた.
図1 改良型の比色計

3.改良型比色計の作成
(1) 比色計の部品
水道管用T型塩ビチューブ(径25×16mm),塩ビチューブ(径20×長さ100mm),塩ビキャップ(径
20mm),塩ビ板(厚さ3×縦125×横75mm),光センサー(CdS,浜松p368),発光ダイオード(緑色,GL5G8),フィルムケース(できたら黒)4個,赤と黒ビニール線(12芯,約60cm×2本ずつ)
(2) 製作手順
@T型チューブの上の口に,長さ10cmのチューブを塩ビ用接着剤で接続し,その回りにテープを巻いて固定する.
A塩ビ板にT型チューブを図2のとおり,接着剤で固定する.この時,垂直にチューブを立てる.
Bフィルムケース(白色ケースの場合は,底に黒テープを貼る)を半分程度切って短くし,底の中央に千枚通しで5mm
間隔の二つの穴(ビニール線が通る程度)をあける.光センサーの足を 2cm程度にした後,黒と赤のビニール線を接続する.これをフィルムケースの穴と,ふたに穴をあけて通す.その後,光センサーを接着剤で固定する.
C同じく半分に切ったフィルムケースの底の中央に径5mm の穴をあける.発光ダイオードの足に,極性に注意して黒と赤のビニール線を接続する.発光ダイオードが出るようにフィルムケースの穴に通す.また,引っ張っても抜けないように,ケースの中でビニール線に結び目をつくって,ふたに穴をあけて通す.その後,発光ダイオードを接着剤で固定する.
D底の部分を1cm程度残して,フィルムケースを切り,底の中央に6mm程度の穴をあけたものを2つ用意する.T型チューブの左右の口から,底が奥になるように挿入して接着剤で固定し、発光ダイオートの光量を調節する。
E光センサーと発光ダイオードを装着したフィルムケースを両側の口から図3のように挿入して,接着剤で固定する.
図2 組み立て図 図3 完成図
4.マウスインターフェースの変更
比色計で測定したデータをパソコンに入力する方法として,従来はマウスインターフェース6)を用いた.しかし,市販されているマウスプラグは
NEC系の機種にだけ使用できるもので,他社の機種では使用できなかった.そこで,各社の
DOS/V機で比色計を使用するために,杉本が開発したRS−232C端子のCOM1のシリアルポートを利用するインターフェースを用いた.この方法は,電源として,4ピンからの8mA程度の電流を利用するため,図4のように回路を変更した.なお,発光ダイオードに流れる電流が
8mA程度でも,光センサーが受光を感知し,吸光量を測定するのに十分である.
また,測定に使用する制御ソフトは,従来のMS-DOS版N88日本語BASIC(86)から,Quick
BASIC Ver.4
を用いて作成した.
図4 回路図

5.おわりに
小学校や中学校では,安価で簡単に作れる教材が望まれており,今回の改良によって,精度のよい比色計が簡単に製作できるようになった.また,NEC 以外の多くの機種でも利用することが可能となり,本教材を用いた環境調査の広まりが期待される.今回の改良が,環境教育の発展の一助となれば,幸いである.
本研究は平成8年度文部省科学研究費補助金基盤研究(C)課題番号08680220,及び平成8年度日本生命財団研究助成を受けている.
引用文献
1)紺野昇:大阪と科学教育,9,23(1995)
2)紺野昇:大阪と科学教育,10,27(1996)
3)紺野昇,大塚淳子,杉本良一:日本理科教育学会 研究紀要,36,11(1995)
4)杉本良一,紺野昇,鳥海重治:鳥取大学教育学部 研究報告,37,1(1995)
5)紺野昇,山本伊津子:日本科学教育学会年会論文 集,20,261(1996)
6)杉本良一:化学と教育,41,558(1993)