六甲山麓の土石流災害

谷崎潤一郎 「細雪」より
「・・・たとえば住吉川の上流、白鶴美術館から野村邸に至るあたりの、数十丈の深さの谷が土砂と巨石のために跡形もなく埋まってしまったこと、国道の住吉川に架した橋の上には、数百貫もある大きな石と、皮が擦りむけて丸太のようになった大木とが、累々と積み重なって交通を阻害していること、その手前二三丁の南側の、道路より低い所にある甲南アパートの前に多くの死骸が流れ着いていること、それらの死骸は皆全身に土砂がこびり着いていて顔も風態も分からぬこと、神戸市内も相当の出水で、阪神電車の地下線に水が流れ込んだために乗客の溺死者がかなりあるらしいこと-これらの風説には憶測や誇張も加味されていたに違いないのであるが、・・・」
                              細雪(中) 谷崎潤一郎 新潮文庫(1955)  p57



  1. 概要
  2. 降水量分布
  3. 天気図
  4. 被害状況
  5. 災害の記念碑と現在の河川状況
    1. 芦屋川
    2. 住吉川
    3. 生田川
    4. 宇治川

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概要

 1938年(昭和13年)6月28日から7月5日にかけて、台風崩れの熱帯低気圧が梅雨前線の活動を活発化させ、豪雨をもたらし、関東地方から近畿・四国地方に被害を発せさせた。近畿地方では、神戸市において、すべての河川が氾濫し、六甲山地の南側山麓(表六甲)一帯に土砂災害(山津波)が発生した。
 神戸市では7月3日から5日にかけて300mm以上の雨が降った。神戸植物園での記録では、3日間で総雨量616mm、7月4日の日雨量が352mmであった。
 雨は4日の夜に小康状態になったが、5日の早朝再び激しくなり、午前10時頃に各地で崖崩れが発生した。その結果、河川に大量の土砂と流木があふれ、家屋の流失や浸水をもたらし、多数の人命が失われた。
 
 上述の「細雪」では、この土砂災害の様子がたくみに描かれている。
 
 六甲山の山麓では扇状地が重なり合っている。本来、扇状地は洪水のたびに山地の土砂を平地への出口に堆積させる。六甲山は短い急な谷が多く、谷間で発生した土石流は直に扇状地に達し、扇状地の発達に大いに寄与していた。また、六甲山は全山花崗岩で、地下深部まで風化が進み、豪雨の際に、風化部に山崩れが頻発しやすい。


 神戸市の平地部の59.3%の176万㎡が何らかの被害を受けた。家屋の被害は全家屋の72.1%の約16万戸、被害人口は全人口の72.2%の約70万人におよび、死者は616人だった。

 神戸市では1967年(昭和42年)にも土石流災害にみまわれた。台風崩れの低気圧と梅雨前線の活動による豪雨によるもので、7月7日から10日にかけて九州北部から関東地方にかけて大きな被害をもたらした。
 神戸市では9日六甲山系を中心に局地的に大雨が降った。降雨のピークは16時~18時頃と20時~22時頃で、その直後に崖崩れが集中して発生した。日雨量は300mmを越えた。
 大きな河川は1938年の災害後改修作業が進み、その流域では被害がほとんどみられなかったが、小さな河川沿いや崖崩れの直撃で被害がでた。神戸市での被害は死者・行方不明者91名、家屋の全壊・流失88戸、床上浸水5201戸、床下浸水30510戸、崖崩れ241か所であった

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降水量の水平分布

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天気図

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被害
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記念碑と現在の河川


芦屋川


芦屋川決壊之碑
芦屋川左岸、開森橋下流

芦屋川決壊之碑
側壁の説明文

芦屋川の流域の様子
阪神「芦屋駅」付近から上流を望む

芦屋川の流域の様子
業平橋から下流を望む

JR神戸線の上を通る河床

芦屋川の流域の様子
開森橋から上流を望む

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住吉川
                                           


「有備無患」の碑
東灘区西岡本3丁目 野寄公園内  
当時の内務大臣末次信正により書かれた碑

「有備無患」の碑の裏側
碑の裏側に建設工事関係者名が記されている

「水災記念」の碑
東灘区住吉山手6丁目 落合橋上流

「水災記念」の碑の説明文

被災したときの最高水位
      台座の東側中央の線が最高水位を示す。東側
     を流れる現在の川底から約8mの高い位置に
 相当する                 

三面張りの河床のレキ
東灘区住吉本町 甲南小学校前付近

天井川がなっている住吉川
東灘区住吉本町 JR線付近

砂防用堰堤と雨量計
東灘区住吉山手3丁目付近

堰堤設置の記念
東灘区住吉山手3丁目付近
水害後施工された住吉川第2号堰堤

土砂災害防止の法面工
東灘区西岡本7丁目

大谷砂防ダムの看板
東灘区住吉台付近

砂礫で埋まった砂防ダム
東灘区住吉台付近

大谷橋付近の土砂災害防止工事
東灘区住吉台付近

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生田川


水害復興記念碑
神戸市中央区加納町2丁目にある碑

水害復興記念碑
阪神大水害の被害や復興作業の様子が記さ
れているが、現在は読み取りにくくなっている

生田川の下流域

生田川の下流域

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宇治川


「流石之碑」
神戸市兵庫区楠谷町にある水害記念の碑

宇治川の流域の様子
神戸市兵庫区楠谷町付近

雨量計・水位計のテレメータ
神戸市兵庫区矢部町

川が暗渠化されている部分①
神戸市中央区楠町付近・上流側から

川が暗渠化されている部分
神戸市中央区楠町付近・下流側から

川が暗渠化されている部分③
神戸市中央区楠町付近・下流の商店街から

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