ことばの基礎 |
文字を読み書きできるための前提条件として、4,5歳レベルの日常会話や語彙理解の言語発達が基盤となり、4,5歳頃に発達してくる「音韻認識」の力が必要となってきます。
音韻認識とは、ことばがいくつの音でできているか、始めの音は何かなど理解できる言語の音韻の単位を操作する能力のことです。音韻認識が弱いと、幼児期に見られる「でれ」など似ている音の聞き誤りや、「スパゲッティ→スタベッキィ」などの言い誤りがよく起こります。
仮名文字(ひらがな・カタカナ)は、文字と音の対応が規則的で、特殊音節などの例外を除いて、1文字-1音の固定的な関係で、音の単位(モーラ・拍)に準拠して作られています。例えば、「すいか」は3音節で「す」「い」「か」と3モーラ(拍)で数えます。
しかし、特殊音節の場合、促音、撥音、長音は1モーラなので、例えば、「きっぷ」は「き」「っ」「ぷ」と3拍で数え3モーラになります。拗音では2文字で一塊にするので、「びよういん(美容院)」は5モーラですが、「びょういん(病院)」は4モーラになります。
音韻の単位は、最小のものが音素で、英語の話しことばの音の単位は音素です。ひらがな「こ」が対応するモーラ音「ko」は、日本語では1個の音ですが、英語では2個の音素の塊「ko」になります。また「k」は「c」でも表すことができ、1音2文字対応となります。
このようにアルファベットはひらがなよりも音の単位が小さく、音と文字の対応が複雑なため、英語は日本語よりも習得が難しい言語と言えます。
一方、仮名文字は一音対応で学習しやすいので、文字と音の対応学習が難しい音韻性読み書き障がいの多くは、ひらがな46文字の読みは学習がしやすいと言われています。
また、漢字は意味の単位で文字が作られ、音読みと訓読みがあるため音と文字との対応が複雑なので習得が難しくなってきます。
幼児期にモーラへの気づきがなく、ことば遊びや文字に興味を示さなかったりする場合、読み書きに困難を示す可能性が高くなってくると考えられます。読み書きにつまずきが見られる場合、読み書き中心の学習だけでは、学習意欲や自尊感情の低下を引き起こしかねません。
読み書きの困難な要因には、音韻性と視覚性が挙げられ、音韻認識のつまずきが考えられるなら、「ことば遊び」などを通して、ことばの音に注意を向ける力をつけ、文字学習の基礎を養っていく必要があります。 |
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ひらがなの読み |
会話等、語彙に多く親しむ環境の中で、ひらがなを意味のある文字のまとまりとして読むプロセスが小学校低学年ごろにかけて発達します。
子どもがひらがなを覚えていくためには、4,5歳レベルの日常会話や語彙理解ができるという言語発達がベースになっていると言われています。
その中で読みの困難さが現れる要因としては、視覚情報による文字と聴覚情報からの音の変換が苦手であったり、意味のある文字のまとまりとして読むことが苦手であったりすることが考えられます。
また、文章として流暢に読むためには、1字ずつではなく、2~5文字程度を一度に読み取る力とその読み取る時間が一定である必要があります。
読みの困難に対して、一人ひとりの実態に合わせて音韻の認識や文字の形の認知処理、空間構成の力を養う必要があります。 |
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逐次読み |
読みが困難という課題の中で、逐次読みになるという子どもの実態があります。
音読の際に文字を一文字ずつ追いながら読むため、詰まりながらの読みになったり、読むのが遅かったり、読んでも意味を理解できていなかったりすることがあります。
つまずきの理由としては、以下のようなことが考えられます。
①文字を追う視線と発声が一致しない。
②単語をまとまりで捉えることに課題がある。 等
本人は正しく読んでいるつもりでも周りから「真面目に読みなさい」「わざとやっているの?」等という言葉をかけられてしまうことがあるため、本人の自尊感情や意欲が低下してしまうことがないよう、注意が必要です。
教材を工夫し、本人の読みやすい形を見つけてあげることで、自信もって音読等の課題に取り組むことにつながります。 |
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飛ばし読み
勝手読み |
読み困難の背景には、視覚認知・短期記憶・情報処理など様々な要因が考えられます。
その中でも語句を抜かしたり行を飛ばしたりする飛ばし読みの要因を考えてみます。
まずは、眼球の動きをうまく調整できず、文字をたどっていくことに困難がある場合。
すると読むべき語を飛ばしてしまったり、行末から次の行頭へうまく視線を送れなかったりして飛ばし読みになってしまいます。
また、今読むべき所と周囲にある文字が区別できず、読んでいる場所が分からなくなる場合。
この場合は読んでいる行と他の行が区別できなくなり、違う行に飛んでしまうことになります。
また注意力不足の場合もあります。
この場合はしっかり文字を捉えず読み間違ったり、どこを読んでいるか分からず飛ばし読みをしてしまったりします。
いずれにしても、背景に合わせた支援が必要となってきます。
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日本語は、「あ」ならば「a」と発音するように、1文字に対してひとつの音が対応しています。
しかし、小さい「っ」(促音)や、小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」(拗音)などはこのルールが適用されません。
例として「かけっこ」という言葉で考えてみます。
文字としては「か」「け」「っ」「こ」の4文字ですが、音としては小さい「っ」は発音せず、3音になります。
また、「しゅくだい」という言葉は文字としては「し」「ゅ」「く」「だ」「い」の5文字ですが、音としては「し」と「ゅ」が合わさり、「shu」というひとつの異なる音を生むので4音になります。
特殊音節は、他の仮名文字のように文字と音が1対1に対応していないため、頭の中で音と文字を対応させたり、操作したりすることが困難な子どもにとっては、読んだり書いたりすることがむずかしいと考えられます。
参考文献 「多層指導モデルMIM 読みのアセスメント・指導パッケージ ガイドブック
(海津亜希子、学研、2010年)
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カタカナの読み |
カタカナはひらがなと同じく表音文字であるため、漢字と違い、字そのものに意味はありません。
字そのものに意味がないということは、覚える手がかりがなく、覚えにくいということになります。
また、カタカナはひらがなに比べて使用頻度が少ないことや、ひらがなに比べて一般的に学習時間が少ないため、定着しにくいという側面もあります。
ただし、カタカナを学習する際は、ひらがなは覚えているという前提があるため、カタカナの読みを習得する際に、ひらがなを活用して覚えることが考えられます。
さらに、意味を持たないカタカナに意味づけをするために、児童生徒にとって身近なものをイラストとして扱い、そのイラストの名称をカタカナであらわすといった方法が考えられます。 |
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漢字の読み |
小学校で習う漢字は1006字あり、画数については、ひらがなは4画までですが、漢字は最大20画あり、形も複雑です。
ひらがなは表音文字で、清音や濁音などの読みは一字一音対応ですが、漢字は一字一語を表す表意文字で、一つの漢字に、音読み・訓読みの複数の読みがあります。熟語になると、「一日:ついたち」のように読み方が変わったりする複雑さもあります。
ひらがな文の音読から読み困難が見られた子どもは、漢字の読みも苦手になることが多いです。 漢字の読み困難の背景の一つには、聴覚記憶の弱さもあり、抽象的な漢字単語や熟語の場合、聴覚記憶や想起に弱さがあると、読みの習得が困難になってくることが予想されます。
こういった困難背景から、漢字単語の読み支援は、イラストなどを手がかりに、視覚的イメージを高める学習が効果的です。また、視覚的イメージを形成することが難しい漢字単語については、具体的な活動の中で、文脈を手がかりに意味を理解していくように読み学習していくとよいでしょう。
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読解 |
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ひらがなの書き |
文字を書けるようになるには、文字をなぞることの繰り返しではなく、発達段階にあった練習が必要です。なぞり書きができる、見本を真似して書くことができるだけでは、「文字の形が書けるようになっている」だけで、文章を書くことにはつながりません。本人の発達段階に合わせ、意味を理解しながら書く練習も行いましょう。
文字がうまく書けない原因として、手先の不器用さがある場合も考えられます。その場合、小さな字で書くことや、とめ・はね・はらいを丁寧にすること、書き順、鉛筆の持ち方等を細かく指導することで、本人が書くことに苦手さを感じてしまい、学習がうまく進まないことがあります。本人の苦手さを理解した上で、負担にならないようにスモールステップでの指導を進めていきましょう。
ひらがなを習得する過程では、始点や終点を示すか、どのタイミングで言葉かけをするか、等の指導者の手立てによって少しずつステップアップしていくことができます。本人のひらがなに対する興味が高まってきたようなタイミングで、効果的に書きの練習を取り入れていきましょう。
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文字の形 |
文字を書く際に、その文字の形が整わなかったり、マス目の大きさに応じた文字にならず、大きくはみ出たりする場面が出てくることがあります。その要因としては、視覚的な認知の力(空間の把握・ものを見る力)が弱く、書いている時に周りが気になり注意がそれやすかったり、きちんと手元を意識して書けないため、手の不器用さからくるものなどが考えられます。文字を「書いている感覚」を意識できるように工夫すると良いでしょう。またその際には、書いているものに視線を向けて注目できているかそのつど確認し、注目できていない場合は声をかけたりして再び視線を向けるように促すようにしましょう。
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見て書く |
視写の困難さには様々な要因があると考えられています。「単語をまとまりで捉えることがむずかしい」、「黒板のどこを見ればいいのかわからない」といった事例を通してあらわれたりすることがあります。「文字の形を認識することがむずかしい」、「視線の移動がむずかしい」、「文字を音声に換える作業(デコーディング)のスピードが遅い」、また、黒板の文字を見てからノートに書き写すまでの「視空間的短期記憶」の弱さも背景要因として考えられます。視写の困難さに対する支援として、以下の教材や指導事例のほかに、ビジョントレーニングを行うことも有効であると考えられます。
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聴いて書く |
聴いて書くという一連の行動には多くのステップがあります。
耳に入ってくる音を正しく聞き取り記憶しながら(聴覚的短期記憶)、音と文字を結びつける。音と結びついた文字を、正しく書く。ステップごとに違った力が要求されます。
書くことについては、このデータベースの他の所で触れているので、この項目では正しく聞いて音と文字を結びつける所に焦点を置いて取り上げたいと思います。
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漢字の書き |
視覚認知や空間認知が弱いと、漢字の複雑な形や位置関係が捉えにくかったり、漢字の構造や規則性などの方略を考えて書字することが難しくなります。また、記憶や想起する力が弱いと、ノートや板書の視写の時に、一字や一画ずつ見ながら写すので時間がかかってしまいます。加えて、手指の不器用さや不注意・衝動性がある場合も、崩れた形になったり、線を一本書き忘れたりなど、正しい形が書けなかったりします。
漢字がうまく読めない場合は、書くことも難しくなると言われています。
視覚認知が弱い場合は、画要素を色分けしてわかりやすくしたり、へんやつくりなどの形の構成の理解を促しながら、漢字書字指導を行っていきます。また、画要素を言語化することで漢字の形を捉えることは効果的ですが、聴覚的記憶が弱い場合には、言語的てがかりは、学習課題を複雑にしてしまうので注意が必要です。
キーボード入力や音声入力、ノートや黒板を写真に写すなどの書きの代替手段を活用することが必要な場合もあります。
苦手な漢字を、繰り返し書いて練習するのではなく、子ども一人ひとりの特性に合った教材の使用や指導を行うことが大切です。
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