みつめよう一人ひとりを 平成31年1月改訂 大阪府教育センター  表紙の絵は、府立高槻支援学校中学部(平成27年度)植田 恵生さんの作品「地球の生き物」です。 はじめに  大阪府においては、「ともに学び、ともに育つ」教育を基本とし、すべての子どもが互いを尊重し、ちがいを認め合いながら、そして、地域社会の中で関わりながらともに自立した生活が送れるよう、子どものもてる力を最大限に高める教育を進めています。  国においては、平成26年1月に「障害者の権利に関する条約」を批准し、「特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものである。そのため、(中略)特別支援教育を発展させていくことが必要である。」との認識のもと、特別支援教育を充実させる施策を進めています。  すべての学校園において、支援教育(*1)をすすめるにあたり、子ども一人ひとりの障がい(*2)の状態や発達の段階を丁寧に把握するとともに、一人ひとりの教育的ニーズに応じた適切な指導・支援を行うことが大切です。  この冊子は、障がいのある子どもの障がいの状態や発達の段階を把握すること、そして、子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じた指導・支援の参考となる資料として、すべての学校園の教職員に活用いただくことを目的として作成しました。  すべての子どもが自信を持ち、自己肯定感を高めることのできる教育がさらに充実することを心から願っています。  大阪府教育センターカリキュラム開発部支援教育推進室 (*1)大阪府では、幼児児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを明確にした適切な「支援」を行うとともに、小・中学校、高等学校等の要請に応じて「支援」を行うセンター的な機能を果たすことが求められていることから「養護学校」を「支援学校」に名称変更しています。また、国で言う「特別支援教育」については、大阪府においては、「支援教育」と呼んでいます。(平成20年4月から)(小・中・高等支援学校初任者研修の手引より引用) (*2)大阪府では、「障害」という言葉が、前後の文脈から人や人の状態を表す場合は、「害」の漢字をひらがな表記としています。(障計第1993号) もくじ 第1章 支援教育の理念 1 支援教育の理念 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 2 インクルーシブ教育システムの構築に向けて ・・・・・・・・・ 4 (1)インクルーシブ教育システム (2)支援教育の推進 (3)合理的配慮 (4)「個別の教育支援計画」と合理的配慮の充実 3 自立活動の指導 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 (1)自立活動の指導内容(6区分27項目) (2)指導上の配慮事項 第2章 障がいの特性理解と指導・支援の在り方 1 視覚障がいのある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6 (1)視覚障がいの特性 (2)指導・支援のポイント 2 聴覚障がいのある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・ 10 (1)聴覚障がいの特性 (2)指導・支援のポイント 3 知的障がいのある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・ 14 (1)知的障がいの特性 (2)指導・支援のポイント (3)特性に応じた教育的対応 4 肢体不自由のある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・ 18 (1)肢体不自由の特性 (2)指導・支援のポイント (3)重複障がいのある子どもへの支援 5 病気のある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 (1)病弱とは (2)病気のある子どもを取り巻く状況 (3)指導・支援のポイント 6 発達障がいのある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・ 26  (1)発達障がいとは (2)自閉症のある子どもの指導・支援のポイント (3)ADHD(注意欠陥多動性障がい)のある子どもの指導・支援のポイント (4)LD(学習障がい)のある子どもの指導・支援のポイント 7 言語障がいのある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・ 32  (1)言語障がいの特性 (2)指導・支援のポイント 8 精神障がいのある子どもの教育 ・・・・・・・・・・・・・・・ 36  (1)精神障がいのある子どもの理解 (2)主な精神疾患 (3)精神障がいのある子どもの指導・支援のポイント 付録 参考となるウェブページ一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 第1章 支援教育の理念 1 支援教育の理念  支援教育とは、子ども本人の将来の自立や社会参加に向けて、本人の主体的な取組を支援するという視点に立ったうえで、子ども一人ひとりの教育的ニーズを把握して、適切な指導及び必要な支援を行うものです。  この基本理念は、すべての子どもに対する教育理念に通ずるものであり、支援教育は、特別な支援を必要とする子どもが在籍するすべての学校園において実施されるものです。 2 インクルーシブ教育システムの構築に向けて (1)インクルーシブ教育システム  インクルーシブ教育システムとは、共生社会の実現をめざして障がいの子どもと障がいのない子どもが共に学ぶ仕組みであり、次のことが必要であると考えられています。  @障がいのある者が教育制度一般から排除されないこと  A自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること  B個人に必要な「合理的配慮」が提供されること  (「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」中央教育審議会初等中等教育分科会より引用) (2)支援教育の推進  支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものです。子ども一人ひとりの教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行う教育を進めていくことにより、障がいのある子どもにも、障がいがあることが周囲から認識されていないものの学習上又は生活上の困難のある子どもにも、更にはすべての子どもにとっても、良い効果をもたらすことができるものと考えられます。  (「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」中央教育審議会初等中等教育分科会より引用) (3)合理的配慮  合理的配慮とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」(障害者の権利に関する条約第2条より)をいいます。また、障害者差別解消法では、合理的配慮の不提供は差別にあたるとしています。  教育分野における「合理的配慮」とは、子どもの学習機会を確保するため、学校園が子ども一人ひとりの状況に応じて個別に行う変更・調整のことであり、学校園の実施者に対して過度の負担を課さないものをいいます。  学校園における合理的配慮の観点としては、学習内容・方法(教材の工夫、ICT活用など)、支援体制(障がいの理解啓発など)、施設・設備(教室環境整備など)が挙げられます。  各学校園においては、国や都道府県、市町村、学校等が行う教育環境の整備(基礎的環境整備)を基に、障がいのある子ども一人ひとりに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供することとなります。   (4)「個別の教育支援計画」と合理的配慮の充実  これまでも、各学校園においては、障がいのある子どもへの配慮は行われてきました。しかし、障がいのある子どもが十分な教育が受けられるために合理的配慮を提供できているかという観点から評価することが重要であり、合理的配慮の内容についても研究していくことが求められます。  例えば、個別の教育支援計画、個別の指導計画に明記した合理的配慮について、各学校園において計画に基づき実行した結果を評価して定期的に見直すなど、PDCAサイクルを確立させていくことが重要です。 3 自立活動の指導  障がいのある子どもには、日常生活や学習場面において様々なつまずきや困難が生じることから、小学校、中学校等の子どもと同じように心身の発達の段階等を考慮して教育するだけでは十分とは言えません。このため、支援学校等においては、小・中学校等と同様の各教科等のほかに、特に「自立活動」の領域を設定し、その指導を行うことによって、人間として調和のとれた育成をめざしています。  自立活動の指導は、個々の子どもが自立をめざし、障がいによる学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服しようとする取組を促す教育活動であり、個々の子どもの障がいの状態や発達の段階等に即して指導を行うことが基本です。そのため、自立活動の指導にあたっては、個々の子どもの実態を的確に把握し、個別に指導の目標や具体的な指導内容を定めた個別の指導計画を作成します。  その際、6区分27項目の中からそれぞれに必要とする項目を選定し、それらを相互に関連付け、具体的に指導内容を設定します。  なお、自立活動の指導は、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものであり、特設された自立活動の時間はその一部です。各教科、道徳科、外国語活動、総合的な学習の時間等においても適切に指導すべきものなのです。 (1)自立活動の指導内容(6区分27項目) 1.健康の保持 (1)生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。 (2)病気の状態の理解と生活管理に関すること。 (3)身体各部の状態の理解と養護に関すること。 (4)障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること。 (5)健康状態の維持・改善に関すること。 2.心理的な安定 (1)情緒の安定に関すること。 (2)状況の理解と変化への対応に関すること。 (3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること。 3.人間関係の形成 (1)他者とのかかわりの基礎に関すること。 (2)他者の意図や感情の理解に関すること。 (3)自己の理解と行動の調整に関すること。 (4)集団への参加の基礎に関すること。 4.環境の把握 (1)保有する感覚の活用に関すること。 (2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。 (3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。 (4)感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握と状況に応じた行動に関すること。 (5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。 5.身体の動き (1)姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。 (2)姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。 (3)日常生活に必要な基本動作に関すること。 (4)身体の移動能力に関すること。 (5)作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること。 6.コミュニケーション (1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること。 (2)言語の受容と表出に関すること。 (3)言語の形成と活用に関すること。 (4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。 (5)状況に応じたコミュニケーションに関すること。 (2)指導上の配慮事項  ア 個々の子どもの実態(障がいの状態、発達や経験の程度、興味・関心、生活や学習環境など)を的確に把握して、指導計画を立てます。  イ 指導計画の作成にあたっては、長期的及び短期的な観点から指導目標を設定し、それらを達成するために必要な指導内容を段階的に取り上げます。  ウ 具体的な指導内容を設定する際には、次のことを考慮します。  (ア)子どもが、興味をもって取り組み、達成感と自己肯定感を感じることができるような指導内容を取り上げる。  (イ)子どもが、障がいによる学習上又は生活上の困難を改善・克服しようとする意欲を高めることができるような指導内容を重点的に取り上げる。  (ウ)子どもの発達の進んでいる側面を更に伸ばすことによって、遅れている側面を補うことができるような指導内容も取り上げる。  (エ)子どもが、活動しやすいように自ら環境を整えたり、必要に応じて周囲の人に支援を求めたりすることができるような指導内容も計画的に取り上げる。  エ 子どもの学習状況や結果を適切に評価し、指導の改善に生かすよう努めます。  *参考文献  「特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編」 文部科学省 平成30年3月  「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」 中央教育審議会初等中等教育分科会 平成24年  「特別支援教育の推進について(通知)」19文科初第125号 文部科学省 平成19年 第2章 障がいの特性理解と指導・支援のあり方 1 視覚障がいのある子どもの教育 (1)視覚障がいの特性  ア 視覚とは  「見える」ということは視覚を用いて認識することです。外界の光の刺激を眼球の網膜で受け取り、その刺激が視神経を通って大脳の視覚野に運ばれ、そこで情報処理が行われ、初めて「見える」という状態にいたります。視覚の機能は、視力、視野、色覚、順応、両眼視、輻輳・開散、調節、眼球運動、眼圧等に分類されます。  イ 視覚障がいとは  視機能の永続的な低下により、学習や生活に支障がある状態をいいます。視機能が低下していても、それが何らかの方法もしくは、短期間に回復する場合は視覚障がいとはいいません。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  ウ 盲と弱視  視覚障がいには、「弱視」(「見えにくい」状態)、「盲」(「見えない」状態)とがあります。また、弱視の状態を表す「ロービジョン」ということばも使われています。  視覚障がいのない状態の人を表すときは「晴眼者」ということばを使うことがあります。「盲」という状態の中には、全盲、光覚(光が分かる)、手動弁(目の前で手が動くことが分かる)、指数弁(目の前に示した手の指の数がわかる)等が含まれています。「弱視」の場合、0.01程度から0.3未満が範囲となりますが、視力が0.1未満の者を強度弱視、0.1以上0.3未満の者を軽度弱視という場合があります。  一般的に、人が外界からの情報を得る場合、80%は眼(視覚)から取り入れていると言われています。また、視力が低下した場合も、視力0.4以下になると外界から取り入れる情報の量が急激に減ることも知られています。よって、視覚に障がいのある人は、盲と弱視にかかわらず得られる情報が少なく、日常生活や学習に様々な困難が生じ、障がいが発生して以降、学習や生活、職業にさまざまな制約や制限が生じます。  エ 視機能の障がい  主に弱視の場合について、視機能の低下による見え方の例を以下に示します。  (ア)視力障がい  a 晴眼者 b 弱視者   (イ)視野障がい  未熟児網膜症等で網膜の一部に障がいがある場合、視野の欠損を生じる場合が多くあります。また、以下のような特定の眼科疾患に特徴的に起こる視野障がいがあります。  a 求心性視野狭窄(網膜色素変性症)  b 中心暗点(レーベル病、黄斑部変性)  (ウ)光覚障がい  a 暗順応障がい(夜盲)  b 明順応障がい(アルビノ、無虹彩)  *( )内はその状態になることがある病名等を示しています。  オ 盲の子どもの行動などにみられる傾向  (ア)まわりの環境を把握することが難しいので、行動が制限され経験が乏しくなる。  (イ)視覚情報が得られないので、概念の形成や知識の習得に制約を受ける。  (ウ)視覚的な模倣ができないので、動作や技能の習得に難しさが生じる。  (エ)言葉と事物や事象との対応関係が難しい。  カ 弱視の子どもの行動などにみられる傾向  弱視の子どもの見えにくさの主な要因としては、濁り、ぼやけ、視野の欠損、まぶしさ、暗さなど様々なものがあります。  このような見えにくさのため、次のような学習上の困難がみられます。  (ア)小さいものや細かい部分がよく分からない。        (イ)大きいものの全体像を把握することが難しい。  (ウ)全体と部分との関係をとらえることが難しい。  (エ)境界がはっきりつかめない。  (オ)立体感・遠近感をつかみにくい。  (カ)速く動くものの認知が難しい。  (キ)視覚と運動の協応動作が難しい。  (ク)運動・動作の模倣が難しい。 (2)指導・支援のポイント  ア 盲の子どもの指導  視覚による情報が得られないので、聴覚情報(音声)や触覚情報(点字・実物)に置き換えて提示します。子どもは点字教科書を用い、点字でノートをとって学習します。指導に際しては、時間がかかっても何度も繰り返し練習する態度を養うことが大切です。また、安心して学習できる環境を整備することも重要です。  点字教科書  点字タイプライター  点字器  (ア)聴覚情報への置き換え  ・周りの環境や活動状況について説明する。その際、簡潔で分かりやすい言葉を用い、人や物の名前や位置を具体的に示す。  ・言葉だけを伝えるのではなく、その内容を具体的な事物・事象と結びつける。実際の事物を触る、または体験などを通して指導する。  【指導例】  小学校の国語で「たぬきの糸車」を学習する際、言葉を聞いただけでは理解しにくい「糸車」の実物を準備し、子どもはそれを実際に触り、また動かしてみます。  できるだけ実物を準備します。それを触らせ、それについて説明しながら授業を進めることにより、子どもの興味を引き出し、知識や概念への理解を深めます。  (イ)触覚情報への置き換え  ・日頃から手を使う経験(遊びや日常生活)を通して、積極的に事物に触れる態度を養う。  ・動作の学習においては、背面から実際に手をとって教える、または教員の動作を触らせて理解させるなどの手だてが有効である。その際、必ず言葉による説明も加え、動作と言葉が一致するように指導する。  (ウ)安全な学習環境の整備  ・校内の廊下等に物を置かないなど、安心して移動できる環境を整備する。  ・校内や通学路を安全に移動するのに必要な歩行技術(手引き、伝い歩き、白杖歩行)を身につける。  イ 弱視の子どもの指導  「弱視」の子どもの見え方の状態には大きな個人差があります。弱視の子どもへの指導や支援を考える上で、こうした見え方の個人差を理解することが、まず大切です。そして、子ども一人ひとりが保有する視覚を最大限に活用することが重要です。そのために、子どもにとっての見やすい条件を整え、子どもの「見る」力を引き出し高めていくことが必要になります。また、安全な学習環境(特に移動において)を作ることも大切です。  【指導例】  弱視の子どもは、見え方がそれぞれ違うことから、まずその見え方の特徴をしっかりとつかむこと(アセスメント)が大切です。どのような目の病気(眼疾患)か、視力はどのくらいか、視野の欠損はないか、まぶしさを感じるか、日常生活や学校生活でどのようなところに困っているのかなど、子どもの実態把握をしっかりと行います。  (ア)見やすい条件を整える  ・小さいものや細かい部分を大きくする。【拡大】  ・大きなものの全体像が視野内に入るようにする。【縮小】  ・境界や輪郭をはっきりさせる。【コントラスト】  ・不必要な視覚情報を排除し、見せたい情報だけを強調する。【単純化】  ・明るさを調節し、個に応じた照度に調整する。【明るさ】  ・机や椅子の高さを調節し、必要に応じ書見台を利用するなど、読書や書字の姿勢を良好に保つ。【疲労しない学習環境】  拡大教科書  書見台  (イ)見る力を高める  ・見ることの楽しさを味わい、見ようとする意欲を高める。  ・系統的・継続的な指導を通して視覚的認知能力の向上を図る。  ・必要に応じて視覚補助具(弱視レンズ・拡大読書器・タブレット端末等)の活用ができる力を養う。          (ウ)安全な学習環境の整備  ・校内及び学校周辺を安全に移動できるように環境を整備する。  ・通学等の安全のために、白杖やフラッシュライトの活用技術を必要に応じて身につける。  拡大読書器  弱視レンズ  *参考文献  「四訂版 視覚障害教育に携わる方のために」 香川邦生編著 慶應義塾大学出版会 平成22年  「視力の弱い子どもの学習支援」  香川邦生・千田耕基編 教育出版 平成21年  「視覚障害教育入門」 青柳まゆみ・鳥山由子編著 ジアース教育新社 平成24年  「視覚障害児・者の理解と支援」 芝田裕一著 北大路書房 平成19年  「見えにくい子どもへのサポートQ&A」 氏間和仁編著 読書工房 平成25年 2 聴覚障がいのある子どもの教育 (1)聴覚障がいの特性  ア 聴覚障がいとは  身の周りの音やことばが聞こえにくかったり、ほとんど聞こえなったりする状態をいいます。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  聞こえを補うため補聴器などを装用すれば、日常生活にはさほど支障がなく、話しことばも聞き取りやすい程度の難聴から、補聴器の装用によっても身の周りの音や話しことばの聞き取りが困難な程度の難聴までを含む幅広い概念です。  聴覚障がいがあると、その程度により、周囲の音や話しことばの聞き取りが難しくなります。個人差はありますが、そのことが、ことばの発達に影響を及ぼし音声によるコミュニケーションに支障をきたすことにもなります。そして、そうした状態で生活してきたことで、行動などで次のような傾向がみられることがあります。  (ア)ことばの発達につまずきがみられることがあります。これは、ことばの理解だけでなく、表出の面でもみられ、話しことばにおける発音、書きことばにおける文字などに表われやすいといえます。  (イ)自分の周りの状況などを把握が十分にできないため判断を誤りやすかったり、周りからは自分勝手な行動と受け止められ、対人関係の中でトラブルが出たり、逆に、受け身的な行動になりやすかったりします。  (ウ)学習面では、特に、抽象的な内容の学習に遅れをきたすことがあります。  イ 聞こえの程度(聴力レベル)  オージオメーターを使用して聴力レベルを測定します。数値が大きいほど聞こえにくい状態を示します(図1)。  図1 環境音や音声の大きさ   深夜の郊外 ささやき声 0dB   静かな事務所 静かな会話 30dB   静かな事務所 普通の会話 50dB   静かな車の中 60dB   騒がしい事務所 大声の会話 70dB   せみの声 80dB   叫び声 90dB   電車の通るガード下 30cmの近くの叫び声 100dB   車の警笛 110dB   ジェット機の騒音 30cmの近くのサイレン 120dB  図2 聴覚器官  ウ 聴覚障がいの種類(図2)  (ア)伝音(性)難聴  外耳から中耳までの難聴で、補聴器が有効です。医学的な治療により回復できる場合もあります。  (イ)感音(性)難聴  内耳から聴神経、大脳皮質聴覚野に至るまでの間に障がいが起こります。医学的治療により聴力を回復させることは難しいです。聞こえにくさには様々なタイプがあり、補聴器の効果には制限があります。  (ウ)混合(性)難聴  (ア)(イ)の障がいの状況が混合している場合をいいます。  エ 補聴器と人工内耳  (ア)補聴器(図3)  音を大きくして鼓膜に伝える機器です。近年は、マイクに入力された音声をデジタル処理し、より聴力の特性に合わせられるデジタル補聴器が普及しています。また、補聴器には箱(ポケット)形・耳掛け形、耳穴形などの種類があり、その使用にあたっては専門家による一人ひとりの「聞こえ」の状況に応じた調整が必要です。                箱型補聴器  耳かけ型補聴器  耳穴型補聴器  FM補聴器(送信機)  FM補聴器(受信機)  (イ)人工内耳(図4)  人工内耳は手術により蝸牛内に電極を挿入し、電気刺激を直接聴神経に伝えて音を感じさせる装置です。音に対する反応は改善されますが、難聴が治るわけではないので、術後も引き続き学習や支援が必要です。  図4 人工内耳 (2)指導・支援のポイント  近年、新生児聴覚スクリーニング検査が整備され、早期の段階から医療や教育・療育機関の支援を受ける場合が増えています。しかし、一人ひとりの年齢、発達の状態、聴力の程度や生活環境などにより、学習や生活上で様々な個人差が生じています。このため、聞こえにくさに伴う課題に対する包括的な支援が必要になります。  ア 聞こえについて  聴覚障がいについての基本的な知識や補聴器や人工内耳などの補聴機器についての知識や扱い方などを理解します。また、子どもの補聴器や人工内耳の活用の状態を把握します。  イ コミュニケーションの手段について  子どもの障がいや発達の状況を考慮して、聴覚や視覚的な様々な手段を選択・活用し、コミュニケーションが円滑にいくようにすることが大切です。  ・聴覚口話法  聴覚を活用し話ことばでコミュニケーションします。ことばの読み取り(読話)をします。  ・手話・指文字   手の形、動き、位置、向き等に身振り・表情を加えて概念や意思を伝える手話と、仮名文字を指の形で表す指文字を使用しコミュニケーションします。  ・キュードスピーチ   子音を表す手の形や動き(キューサイン)を併用して読話の補助とする口話法の一方法です。  ・トータルコミュニケーション法  聴覚活用、発話、読話、手話、指文字、文字などのすべてのコミュニケーション手段を相手や場所などに応じて適切に組み合わせて用います。その中には、日本語に対応した手話を使用する同時法があります。  ウ 話しかけ方について  ・補聴器や人工内耳が、きちんと聞こえているか確かめてから話し始めます。  ・注目を促してから話し始めます。  ・子どもと視線を合わせて話すことが基本です。口元(読話のため)や顔を見せて話します。板書し(後ろを向き)ながらの話はわかりません。(図5)  ・話しかける時、口の形を誇張する必要はありませんが、はっきりと心持ちゆっくり話します。  ・文が長くなる時は、適切な文節の箇所で多少の間をおいて話すとわかりやすいです。  ・子どもが聞き取りや読話をする上で、内容を推測しやすいように、「〜のことだけど」などまず小見出しから話し始めます。また、視覚的な手段を併用すると効果的です。学習の流れ、テーマ、新出語などは板書(視覚的に提示)します。(図6)  ・静かな環境作りやわかりやすい話しかけ方を周りの人に理解してもらえるよう、啓発的な取組みを行います。学年の進行や子どもの気持ちの変化、成長に応じて繰り返し行う必要があります。  ・子どもの発音が比較的明瞭であると、聞こえているものと誤解されやすいので注意が必要です。    エ 環境整備について  ・補聴器や人工内耳は、周囲の雑音も同時に増幅してしまうので、静かな環境作りが大切です。教室内の騒音対策(机などをひきずらない、椅子や机の脚にテニスボールをはめるなど)をします。(図7)  ・聞こえにくさや読話に配慮した座席配置にします。(一般的に前から1〜2列目で、光を背にする、やや窓よりの席が適しています。人工内耳を装用している側が教員の方にくるようにします)  ・聴覚活用のための機器(集団補聴器、FM補聴器など)や、発音・発語のための機器・視聴覚機器も使用すると効果的です。(図8)  ・FMマイクを使用すると、周囲の雑音や距離に関わらず話している人の音声を直接補聴器に届けられるので効果的です。ただし、マイクや電池の保持管理に注意が必要です。  ・視覚的な機器(プロジェクター、電子黒板)などの使用は効果的です。提示する情報の取捨選択や提示の仕方、見やすい位置や画面などの工夫が必要です。  オ 具体的な指導方法  (ア)写真・絵カード  ・話の内容を伝えたり、子どもに行動の理解を促したりするための視覚的な手掛かりとして使用します。(図9)  (イ)絵話  ・子どもが経験した共通の出来事を数枚の絵にまとめます。それを基に、話し合いを進め物事の因果関係や経緯を考えていけるようにします。  (ウ)絵日記  ・家での日常生活で子どもが経験したことを、絵と文にまとめていく事を習慣化させていきます。(図10) *引用・参考文献  「教育支援資料」文部科学省 平成25年  「聴覚障害児の教育と方法」 草薙進郎 四日市章 コレール社 平成7年  「教師と親のための補聴器活用ガイド」大沼直紀 コレール社 平成8年  「特別支援教育の基礎・基本 新訂版」国立特別支援教育総合研究所 ジアース教育新社 平成27年  「きこえのハンドブック」堺聴覚支援学校 通級指導教室 3 知的障がいのある子どもの教育 (1)知的障がいの特性  ア 知的障がいとは  一般に、同年齢の子どもと比べて、「認知や言語などにかかわる知的機能」が著しく劣り、「他人との意思の交換、日常生活や社会生活、安全、仕事、余暇利用などについての適応能力」も不十分であるので、特別な支援や配慮が必要な状態をいいます。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  知的障がいの多くは、胎児期、出生時期及び出生後の比較的早期に起こります。  イ 知的障がいの学習上の特性 (ア)学習によって得た知識や技能を相互に関連づけて活用することが難しく、実際の生活に活かすことに困難さがみられます。 (イ)成功体験や一人でやり遂げた達成感の少なさなどから、自分の意志・判断で行動しようとする意欲が十分に育っていないことがあります。 (ウ)家庭や学校園などにおいて、生活経験や社会体験の機会が少ないことがあります。 (エ)(ア)〜(ウ)を踏まえ、学習内容は、抽象的な内容より、実際的・具体的な内容の指導が効果的です。 (2)指導・支援のポイント  ア 子どもを理解する  子どもの行動を理解するには、その行動が起こる因果関係や背景要因等を詳細に調べ、その内面を読み取ることが大切です。情緒不安定になる原因も、人や場面を含む環境との関係でみていくことが必要です。また、不適切な行動をどうやめさせるかよりも、望ましい・新しい行動を増やしていくという視点をもつことも大切です。  イ 個に応じた指導 (「個別の指導計画」の作成と活用)  子どもの良さと課題の両面を捉えて、個別の指導計画を作成します。この計画は、集団指導の中での配慮や個別的な指導も含み、一人ひとりの教育的ニーズに応じて作成します。  ウ コミュニケーション環境を整える  知的障がいのある子どもは、言語発達の遅れを伴うことがあります。学校園生活全体において、視覚情報を提示するなど、わかりやすい指示等を工夫することが大切です。また、表出言語だけに依存せず、身ぶりや手ぶりを使うなど、多様な手段でコミュニケーションする力を育てることが大切です。  エ 自己選択・自己決定ができるように  可能な限り自分の意思で選択・決定し、行動できるようになることは、自立に向けた重要な力になります。子どもが自己選択・決定できる場面設定や意思を表出する手段を配慮・支援していくことが大切です。具体的には子どもの特性に応じて、絵や写真カードで選択・意思表出できるように練習していくこと等が考えられます。  オ 子どもの興味・関心を引く教材・教具を作成・工夫し、活用する  指導を効果的にするために、子どもが興味・関心を持つような教材・教具を活用することが大切です。又、子どもの実態に応じた適切な教材を作成することがより有効です。 (3)特性に応じた教育的対応  ア 個々の子どもの実態把握を的確に行い、実態等に合った指導内容を選択・工夫します。  【指導例】  行動観察・情報収集(保護者・前担任からの引き継ぎ等)・発達検査及び諸検査等から実態把握を行い、適切な支援(例えば「パニック等の原因に気づき、対応する」「言葉での説明だけではなく、視覚支援を交えての説明を行う」など)を行います。  ☆ 始業式、校歌に身振りをつけて歌う。校長先生のお話はプロジェクターを用いて。  イ 子どもの実態に合った、規則的でまとまりのある学校生活が送れるように支援します。  【指導例】  「規則的でまとまりのある」ということが理解しやすいように、授業の流れを視覚支援を用いて示したり、一日の流れを絵カード等を用いて示したりします。  ・授業の流れの示し方(スケジュール表)  ・一日の流れの示し方(時間割表等)  ウ 子ども一人ひとりがそれぞれに適した、自立や社会参加をめざし、日常生活や社会生活に必要な知識、技能及び態度が身につくように支援します。  【指導例】  ・人と話したり、話を聞いたりするときは、相手の顔を見ます。  ・SST(ソーシャルスキルトレーニング)の学習を通して、「挨拶のしかた」、「自己紹介のしかた」「実習先で社長さんに声をかけられたときの対応のしかた」「急に体調が悪くなったとき、会社の人にどのように伝えるか」などを学びます。  エ 体系的なキャリア発達段階内容表を用いるなど、個々の障がいの状態に応じたきめ細かい指導・支援の下で、発達の段階に応じた適切なキャリア教育を行います。    【指導例】  実習先での仕事をするときと同じような環境(長時間の立ち仕事、定位置、作業着の着用、要求されるエチケット(帽子の中に髪を入れる等)を取り入れます。  オ 学習活動は、生活に結びつく実際的で具体的な活動を設定し、個々の子どもの実態に合わせて指導します。  【指導例】  『自立活動の時間における指導』の授業の中の「健康の保持」グループで  ・高等部の男子生徒に洗顔や髭剃り、体の洗い方の一通りの流れを教えます。  ・簡単な調理とカロリー摂取量やダイエットのための食事の進め方などを知らせます。  カ 子ども一人ひとりの生活に適した、様々な生活体験を十分に経験することにより生活の質が高まるように支援します。  【指導例】  ・校長や教頭に担任から頼まれた伝言を伝えに行きます。  ・日曜日に友達の家に公共交通機関を使って遊びに行きます。(家庭との連携のもと)  ・土、日曜日にはトイレの掃除をします。  ・教科学習(買い物学習)で、広告等をみて自分の担当の商品の値段を調べ、一番安い店を見つけ買い物に行きます。  キ 子どもが興味関心を持ち、自発的に取り組もうとする教材教具を精選し活用するとともに、子どもが目標を達成しやすいように、個々の実態に合わせてスモールステップの指導を行うように工夫し、学習活動への意欲・態度を育てます。  【指導例】  ・タブレット端末等の情報機器を活用して、ひらがなの書き順を覚えます。  ・キャラクターを用いたカード等を活用して、絵合わせゲームや言語指導を行います。  ・「好きな歌手の歌を友だちと歌えるようになる」を目標に、歌詞を読み書きする学習から始め、友だちとパートを分けて歌います。(言語指導)  ク 子どもが成功体験を積み重ねることで、自信や自己肯定感が持てるような支援と配慮を行います。また子どもの自発的・自主的な活動を大切にし、主体的に活動しようとする気持ちを育てます。  【指導例】  ・不明瞭な発音の生徒に、簡単な電話での会話を行い、「言いたいことは伝わったよ」と褒め、自発的に電話をかけようとする意欲を育てます。  ・生徒が教員役となり、教員と共に友だちに紙芝居を行ってみせます。  ケ 子ども一人ひとりが集団において、それぞれの課題や特性に適した役割につけるように工夫し、その活動を自らの力でできるようになるように支援します。  【指導例】  ・係活動や給食当番等を行うことで、自分の得意な力をさらに伸ばし、苦手なことは少しずつできるようになります。  ・自分から話しかけることが苦手な生徒に「挨拶活動」の一員を任せ、毎朝決まった場所で友達と共に、全校児童生徒に挨拶を行います。  コ 子ども一人ひとりの発達の偏りや心理的な安定などの課題に応じた指導を徹底します。  【指導例】  ・リラクセーションを体験して、緊張が弛み、リラックスしたときの体の状態を感じたり、気持ちが高ぶった時の気持ちの落ちつけ方を教員と見つけたりします。  ・自分で自分のいいところを見つけたり、友だちとお互いのよさを話し合ったりします。  ・肩にギュッと力を入れてダランと抜く  ・援助に合わせて、背中や肩などの緊張を弛める  ・緊張していることに気づき、自分で弛める *参考文献  「障害のある子どもの教育の広場 3.知的障害教育 」 国立特別支援教育総合研究所HP  「知的障がい者のためのガイドヘルプサービス支援マニュアル」 大阪府 平成20年  「医療機関等における障害者配慮ガイドブック」 大阪府  「特別支援学校学習指導要領解説−自立活動編」 文部科学省 平成21年  「一人一人を大切にした教育−障害等に配慮して−」 文部科学省 平成16年  「特別支援学校教員専門性向上研究協議会」 国立特別支援教育総合研究所 平成15年 4 肢体不自由のある子どもの教育 (1)肢体不自由の特性  ア 肢体不自由とは  身体の動きに関する器官が病気やけがで損なわれ、歩行や筆記などの日常生活動作が困難な状態をいいます。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  イ 運動・動作面  自分の身体が意図した通りに動かず、子どもによって次のような困難があります。  ・力が入らなくて動かせない  (例)立つ、歩く、手を動かすための力が入らず、日常生活上のさまざまな動作に支援が必要。  ・力が入りすぎて思うように動かせない  (例)字を書く時やものを操作する際に、力が入りすぎて、思った方向に動かせず、うまく操作できない。  ・動かしたくないのに動いてしまう  (例)触りたいものに向かって手を伸ばす時に、手が大きく横に揺れてしまい、なかなか目的物を触れない。  ・安定した姿勢がとれず、ふらつく  (例)学習時に座っている姿勢を保っていられない。なんとか歩くことはできても止まっていることができない。  ウ コミュニケーション面  生活経験が少なくなりがちなことから、自分から人に関わろうとする意欲が少なく、表現することを苦手とすることがあります。  また、声を出すことやことばの発音に困難があり、うまく伝えることができない失敗体験が重なってしまうと、表現意欲の低下につながってしまうこともあります。   エ 感覚・認知面 (ア)触覚等の感じ方の違い  感じ方が非常に敏感で、手のひらや身体に触られることを極端に嫌がる子どもがいます。そのため、物をしっかり握れず指先だけを使ったり、手を床につこうとしなかったりすることがあります。逆に刺激を感じにくい子どももいて、身体感覚がわかりにくいようです。 (イ)視知覚認知の困難  眼球をうまく動かせないために、視線を動かして対象物を追うことが困難な子どもがいます。また、形や大きさの把握、背景と図との見分け、空間での位置関係の認識などが困難なこともあります。その場合、本読みで行を飛ばしたり、戻って読んでしまったり、字を覚えることが難しかったりなど、学習上の困難がおこります。                     オ 健康・安全面 (ア)てんかん発作  てんかんを併せ有する子どもが多いので、事前に発作時の対応について理解が必要です。  また、発作の前兆がある場合は、教員間で共有し、転倒などの二次的な事故を防ぐようにしましょう。 (イ)食べる・飲むことの困難  食べ物をしっかり噛んで飲み込むことに困難がある子どもがいます。姿勢や食べ方によっては、誤嚥(食べ物が気道へ流れる)や窒息の危険を伴うこともあります。教員が、正しい姿勢や食べ方の知識を持って対応する必要があります。 (ウ)呼吸  鼻から喉にかけての気道の狭さや胸郭の動きの不十分さから深い呼吸ができないことが あります。また、痰が多く、自分ではうまく出せずに呼吸が荒くなることもあります。姿勢を工夫すると楽になることが多いので、よい方法を見つけることが大切です。     (2)指導・支援のポイント  ア 姿勢作り   <学習時>  学習時に適切な姿勢をとることは、疲労しにくいだけでなく身体操作のしやすさが学習内容の理解を進めるのでとても重要です。身体に合うように、机と椅子の高さを調整しましょう。(図1)  <車椅子での姿勢>  身体をまっすぐに保てず、どちらかに傾いてしまう場合は、胸にベルトをしたり、腰や脇にパットをはさんでみましょう。  また、付属のテーブルをつけることで、腕をついて身体を支えることができるようになります。(図2)  <リラクセーション時>  身体を起こし続けていることで余計な緊張が入ることがあるので、床で寝転んでリラックスできる時間もあるとよいでしょう。枕やクッションを入れることで身体の緊張が緩み、呼吸も楽になります。(図3、図4)  図3 仰向け(仰臥位) 頭・腕・膝の下に枕やクッション  図4 横向き(側臥位)下になった肩に負担がかからないよう高めの枕、腕と足の間にクッション  <食事場面>  身体の延長線より頭が反ってしまうと食べ物が気道へ入るリスクが高まります。頭は身体の延長線より少し前に傾けます。(図5)  どんなに良い姿勢でも長時間同じ姿勢が続くと苦痛になります。子どもに合わせて、数十分おきに姿勢を変えましょう。                           イ 動作の学習  ・日常的に自分から身体を動かす機会が少ないので、運動学習を取り入れ、日常生活の中でも自分でできる動作を積極的に促進していきましょう。  (例)立ち上がり、つかまり立ち、カバンから物の出し入れなど ・進行性筋ジストロフィーなど、疲労が筋肉にダメージを与えてしまうので運動に注意が必要な場合があります。主治医や保護者とよく相談して取り組みましょう。  ・脱臼や骨折しやすい子どもたちもいます。姿勢変換や抱きかかえの際に、関節や骨に負担をかけないよう注意が必要です。  ウ 補助具や代替手段の活用  <移動時>  歩けなくても、自分の持っている力で移動できる道具を使って主体的な活動に取り組むことで、達成感・自己肯定感を育てることができます。  図6 電動車椅子  図7 歩行器  図8 杖(クラッチ) <学習時>  座位保持椅子や自助具等を使い、子どもの力を発揮しやすいよう援助しましょう。  図9 姿勢を保ち作業しやすい カットアウトテーブル  図10 見やすく書きやすい斜面台  図11 握りやすいペンホルダー      エ コミュニケーション支援 (ア)指導の前に  ・コミュニケーション意欲が起こるためには「伝わるとうれしい、楽しいことが起こる」という経験が大切です。どんなことが伝わるとうれしいのか、よく考えましょう。  ・表出の難しさはわかりやすいですが、どの程度ことばの理解が進んでいるかは、わかりにくいものです。学習を積み重ねていくためには、ことばの理解面をきちんと評価しておくことが大切です。 (イ)コミュニケーション手段  ・ことば、発声、ジェスチャー(サイン・手話を含む)、視線、あるいは、これらを組み合わせた手段。  ・文字盤、実物やカード(写真、イラスト、シンボル等)の選択で伝える手段。  ・コミュニケーション機器やパソコン、タブレット端末等の活用。  子どもの好きな遊び道具を写真にとり、コミュニケーションボードを作ってみましょう。遊びの場面で、どれがいいか本人に選択を促します。伝え方は、指さし・視線などで選んでも、教員が一つずつ聞いて子どもが表情などで応えても構いません。選択肢は、二つから始め、選択できたら徐々に選択肢を増やしていきましょう。 (ウ)発声・発語の促進  発音が聞き取りにくい場合は、呼吸練習や顔・口・舌の体操に取り組みましょう。  息を長く吐く練習・・・笛、吹き戻し、ティッシュペーパー吹き  「イ」と「ウ」を繰り返し言う、唇を突き出す、舌を前後上下に動かすなど。       オ 感覚・視知覚認知の困難への支援  ・感覚刺激の体験を積み重ねましょう   いろいろな感触の物に教員が一緒に手を添えて触れる練習をしましょう。少しずつ感覚を受け入れられるようになっていきます。  ・眼球運動のトレーニングをしましょう  注目しやすいものを数秒間じっと見たり、動くものをゆっくり目で追う練習をしてみましょう。顔が動かないように気をつけて。  ・点をつないで文字や図をつくる練習をしてみましょう  見本を見ることで同じ位置の点をさがすことは苦手でも、端から点を数えるという手立てを使えばできるようになります。 (3)重複障がいのある子どもへの支援  興味関心のあるものを教材に活用することで取り組みやすくなります。じっと見る、聞く、笑顔になる、動きが止まるなど子どもの様子から関心のあるものを見つけましょう。面白い音、綺麗に光るもの、ブルブル振動するもの、触れ合い遊びでの揺れなど感覚に働きかける活動で、子どもからの要求を引き出しましょう。  軽くスイッチに触れただけでおもちゃが動き出したり音が鳴ったりするような、自分の動きで変化が起きる体験をしましょう。その際、足や頭など一番動かしやすいところで操作できるようにしましょう。 *参考文献  「障害児の医療の手引き」 日本肢体不自由児協会 HP    「特別支援学校学習指導要領解説」 文部科学省編  教育出版  平成21年  「食べる機能の障害」 医歯薬出版 平成9年 5 病気のある子どもの教育 (1)病弱とは  病弱という言葉は医学的用語ではありませんが、心身の病気のため弱っている状態を表しており、このような状態が継続して起こる、又は繰り返し起こる場合に用いられています。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  また、学校教育の立場から、病気が長期にわたっているもの、または長期間にわたる見込みのもので、その間継続して医療又は生活規制を必要とする状態をいいます。  *「生活規制」とは、健康の維持や回復・改善のために必要な運動、食事、安静、服用等に関して守らなければならないことが様々に決められていることをさします。  表1 病気のある子どもの学習の場  ・支援学校(病弱)及び支援学校分教室   病気で入院している子どもを対象とした支援学校で、病院に隣接、併設されていることが多い。大阪府内に3校設置されている。  ・支援学校訪問教育   支援学校(分教室)や支援学級がない病院に教員が派遣され、授業を行う。   自宅療養が長期間になる場合、自宅で教員が授業を行う。  ・小学校・中学校 病院内に設置された支援学級   病気で入院している子どもを対象としている。  ・小学校・中学校 支援学級(病弱)   小学校、中学校の校内に設置されている。   退院後も引き続き、医療または生活規制が必要な子どもや、通常の学級でのペースに体力がついていかない子どもを対象としている。  ・小学校・中学校 通常の学級   長期間にわたって病気とつきあっていかなければならないが、何らかの配慮があれば通常の学級で学習できる子どもに授業等を行っている。特に小児慢性疾患のある子どもの多くは、ここで学んでいる。 (2)病気のある子どもを取り巻く状況  病弱教育の対象は入院中の子どもだけではありません。最近は「入院期間が短くなり、入院回数が増加する」という傾向にあり、病気のある子どもの学びの場は表1のように多様化しています。つまり多くの子どもは、病弱支援学校や院内学級に在籍するのは一時期で、退院後は通院等の治療を続けながら、小中高等学校の通常の学級にもどることになります。また病弱支援学校に在籍する子どもの病気の種類は、医療の進歩に伴い年々変化しています。近年では喘息などの呼吸器系の疾患や腎臓疾患の割合は減り、心身症や精神疾患のある子どもが増加傾向にあります。子どもの心の問題は病弱教育において大きな課題の一つとなっています。 (3)指導・支援のポイント  ア 子どもの病気について知る  子どもの病気に関する基本的な情報は知っておくようにします。病類別の支援冊子なども出されているので参考にします。合わせて主治医や保護者を通じて、学校生活上での配慮事項等を確認します。同じ病名でも治療方法や配慮事項が異なる場合があります。  【指導例】  慢性腎疾患がある小学3年 Aさん  (ア)病気に関する基本情報を調べる  病類別支援冊子「腎疾患」(全国特別支援学校病弱教育校長会)で調べました。(図1)腎疾患にはいくつか種類があり、慢性腎炎はそのうちの一つであることがわかりました。  生活規制については、その重症度によって違います。慢性腎炎の治療は、薬物療法、食事療法、生活指導が治療の3本柱です。  (イ)主治医から聞いたAさんへの配慮事項  慢性腎炎に関する基本的な情報を知った上で、Aさん個人の配慮事項も確認します。  ・薬の副作用で顔が丸くなること(ムーンフェイス)への、周囲の理解と本人の心理面へ配慮すること。  ・運動制限は特にないが入院により体力や筋力が低下しているので、徐々に慣らしていく。  ・免疫力が低下しているので、手洗いやうがいをする、人混みを避けるなど、感染症に気をつける。  イ 授業時間数の工夫  体調不良や受診のため、欠席が多くなりがちです。欠席による未学習部分や体調を把握してから、指導計画を考えます。学習時間が十分確保できない場合は、子どもの実態に応じて学習内容を精選します。  【指導例】〜Bさんの算数の指導計画を考える〜  ぜん息のため、入院前から欠席しがちだった小学2年 Bさん   (ア)地域校の担任から欠席状況や学習の様子を聞き取る  小学2年の9月に入院。同時に病弱支援学校に転籍しました。地域校では小学1年の時に約30日、小学2年では1学期で約40日の欠席があり、学習空白が大きいことがわかりました。  (イ)到達度を実際に確認する  小学1年で学習するくりあがりやくりさがりのある計算でつまずきがみられました。  (ウ)指導計画をたてる  主治医より入院予定期間は約3ヶ月であることを確認しました。退院時に地域校の進度と合わせられるよう、内容を基礎基本に精選し指導計画をたてました。小学1年で未学習となっていた「くりあがりくりさがりのある計算」の単元は、小学2年の「たしざんひきざんの筆算」と合わせて学習するようにし、つながりをもたせました。基礎基本にしぼった、単元目標の例の一部を表2に示します。  表2 第2学年「1000までの数」単元目標の例(学校図書 小学2年生 算数 評価基準より)  学習指導要領にもとづく単元目標  ・十進位取りの記数法の仕組みをもとに。1000までの数について、数えたり書き表したりすることができる。  ・3位数を合成したり分解したりして表すことができる。  ・10を単位とした、加法や減法が確実にできる。  学習指導要領にもとづく単元目標のうち、基礎・基本を精選した単元目標。Bさんにはこちらを選択  ・十進位取りの記数法の仕組みをもとに。1000までの数について、数えたり書き表したりすることができる。  ・10を単位とした、加法や減法ができる。  ウ 教材や教具の工夫  学習場所は子どもの病状により、教室、ベッドサイド、子どもの自宅など様々です。また学習場所のスペースや設備等も病院によって違います。訪問教育の場合は、教材を持って各病院や自宅を訪問することもあるので、それぞれの学習環境に対応できるよう、教材や教具に工夫が必要になります。  【指導例】〜ICT機器の活用〜   白血病などでは、感染症を防ぐために無菌室で過ごしたり、無菌室を出てもしばらくはベッドサイドでの授業になったりします。行動範囲や友だちなどとの面会も制限されるので、寂しさを感じたり、退屈な時間を過ごさなければなりません。またベッドサイド授業では実験や作業などを伴う学習は許可されないことも多いです。  こういった状況から授業が単調になりがちですが、様々なデジタルコンテンツやプレゼンテーションアプリなどを活用することで、子どもの意欲や関心を引き出す工夫ができます。また、タブレット端末は指先で簡単に操作できるので、筆記など体力的に負担がかかる作業を軽減することもできます。その他、インターネットを使って支援学校や地域校とをつないでリアルタイムに授業や交流をすることもあります。  デジタルコンテンツをいくつか紹介します。  ○NHK for school  ○国立特別支援教育総合研究所 教育コンテンツ 「特別支援教育に役立つweb教材コンテンツ」  ○大阪府教育センター 学べるリンク(子どものためのページ) など  エ 病気の自己理解や自己管理力をつける指導(自立活動)  病気について理解することや自己管理力をつけることは、治療の効果を高めます。人体の構造や働きについて、病状や治療方法について、健康状態を維持したり改善したりするために必要な生活習慣などについての学習を行います。ただし、子どもが病名を知らされていない場合もあるので、病気に関する学習を行う場合は医療や保護者と連携し、計画的に進めるようにします。  【指導例】〜食物アレルギー〜  右図(図2)は食物アレルギーの自己理解のための教材の一つです。パネルシアターや食品のパッケージなどを使い、子ども自身が考えながら学習を進めます。  「免疫とアレルギーについて」「栄養と食生活の基本について」「誤食の予防?食品表示の見方?」「症状が出た時にどうすればよいか」などについて学習します。  内容については、定期的に病院の監修を受け、必要に応じて改訂していきます。  図3 病気の理解のための教材  食物アレルギー編(府立羽曳野支援学校作成)  オ 心理的安定に関わる活動(自立活動)  入退院による環境の変化や生活規制のため、ストレスや不安を感じやすく、社会体験も乏しくなりがちです。またストレスや不安が続いた結果、病気になる場合もあります。これらが要因となり、行動面や対人関係上の難しさをみせることがあります。拒否的、攻撃的な言動がみられた時は、その言動を表面的に捉えないようにし、その背景を理解するようにします。また不安やストレスを軽減するような活動や関わりを工夫します。  【指導例】〜音楽活動〜  適応障がい、強迫神経症、反応性愛着障がいなど、精神疾患のある小学部・中学部の子ども集団です。子どもの実態は、次のようでした。  ・対人関係に葛藤があり、大人との個別の関わりはできるが、子ども集団には入れない。  ・自己肯定感が低く、活動への動機付けが乏しい。  ・困難なことへの耐性が低い。  ・集中力が極端に短い。  図4「音楽発表会」  授業を一切拒否していた子どもの「勉強は嫌やけど、ギターだったら…」という発言から、音楽活動がスタートしました。練習を始めたものの、地道な練習が必要なため、すぐにあきらめようとし、指導は困難が続きました。様々な試行錯誤の中から教員集団が以下のような点に配慮し、音楽発表会に参加できるまでになりました。(図3)  1)本人の自発性を待つ無理のない導入を行うこと  2)意欲を持続させるために、課題を細分化したり、短いフレーズの繰り返し練習などでステップアップしていくこと  3)教員があせらず、とことん子どもにつきあうという姿勢をみせること  4)子どもの興味や意欲を引き出す、専門性の高い音楽教材の準備や指導を行うこと  (各子どもの力量に応じた編曲と、状況に合わせて臨機応変に演奏構成を変えられることなど)  カ 発達障がいなど、他の障がいや学びにくさを併せ有する場合  発達障がいや知的障がいが、学習面や行動面の困難の要因となっている場合があります。多面的な実態把握を行い、子どもの発達の段階や特性に応じた指導を行うようにします。  【指導例】〜漢字指導〜  小学5年 Cさん  病名はアトピー性皮膚炎で、入院予定期間は約2ヶ月です。入院後、かゆみなどの症状はかなり改善してきました。しかし、苦手な教科の時にかゆみを訴えることが続き、特に本読みや漢字の練習を面倒がります。  読み書きに関するアセスメントを実施したところ、単語をまとまりで読む力や単語の音を操作することの苦手さ、見たものの形を記憶することなどに苦手さがあることがわかりました。アセスメントを基に指導計画を見直すことにしました。  目標:3年生の漢字30字が書ける。5年生の教科書の物語文がすらすら読める。  てだて:(1〜5は漢字の書き、6は音読に関するてだて)  1)漢字に使われるパーツ10種をカードにし、形を見てパーツ名を言う。(図4)  図5「パーツカード」  2)すらすら言えるようになったら、パーツ名を聞いてパーツを書く。  3)10個の漢字の読みを聞いて、その漢字に含まれるパーツを書く。  4)10個の漢字の漢字パズルを自分で作成し、全て混ぜて、正しく組み合わせる。  5)10個の漢字の読みを聞いて書く。10個合格したら同じ手順で次の10個を覚える。  6)教科書の本文のリライト教材を使う。(分かち書きにする、ふりがなをつける、フォントの大きさを大きくするなどして、読みやすくしたもの) *参考文献  「病気の子どものガイドブック」 全国特別支援学校病弱教育校長会編著 ジアース教育出版 平成24年  支援冊子「病気の児童生徒の特別支援教育〜病気の子どもの理解のために〜」全国特別支援学校病弱教育校長会発行・編集  「読み書きが苦手な子どもへの<基礎>トレーニングワーク」 村井敏宏他著 明治図書 平成22年 6 発達障がいのある子どもの教育 (1)発達障がいとは  「発達障害者支援法」では、「この法律において『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。」と定義されています。  なお、発達障がいは、複数の障がいが重なって現れることがあり、障がいの程度や年齢、生活環境などによっても異なる症状を示すことがあることに留意する必要があります。 (2)自閉症のある子どもの指導・支援のポイント  ア 自閉症とは  自閉症とは、@ 他人との社会的関係の形成の困難さ、A 言葉の発達の遅れ、B 興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする発達の障がいです。その特徴は、3歳くらいまでに現れることが多いのですが、小学生年代まで問題が顕在しないこともあります。中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されています。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  【自閉症の特性】  ○社会性における困難さ  他者との社会的関係、相互社会的交流に困難さがあります。相手の気持ちや状況がわからず自分中心に活動しているようにみえることがあります。また、関わり方が一方的になったり、仲間関係をつくったり、相手の気持ちを理解したりすることが難しい場合があります。  ○言語・コミュニケーションにおける困難さ  話し言葉の発達に遅れがみられる場合があります。相手の言った言葉をそのまま返したり(反響言語)します。流暢に話していても、話が完全には通じていなかったり独特の言い回しや自分の好きなことを一方的に質問し続けたりすることがあります。  ○想像力の障がいとそれに基づく行動の障がい  先を見通すことや変化への対応に困難さがあるため、特定の習慣や順序や配列、物や記号への強いこだわりがみられることがあります。また、手や指をひらひらさせたり、身体を前後にゆすったりといった常同的・反復的な行動がみられることがあります。  *アメリカ精神医学会作成の『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』では、自閉症は、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)」としてまとめられました。  イ 指導・支援のポイント  自閉症の特性とそれに基づく行動上の課題を十分に考慮する必要があります。特性を理解した上で無理な指導は避け、安心できる関係を築くことや環境づくりを行いましょう。  (ア)社会性における困難さへの指導・支援  ・楽しい雰囲気でコミュニケーションがとれるような機会を多くつくる。  ・本人が好む行動を設定したり、生活上必然性のある活動や遊びの機会を利用して、適切な行動を模倣したりして、実行させるような指導をしていく。  ・強引に他の子どもと接触させたり集団の中で活動させないで、関わる人が徐々に接近したり、接触したりするように配慮する。  ・子どもに応じてロールプレイなどを用いたソーシャルスキルトレーニング(SST)や、ソーシャルストーリー(Gray 1995)などによる指導も考慮する。  (イ)言語・コミュニケーションにおける困難さへの指導・支援  ・既に獲得している子どものコミュニケーション技能に応じて、コミュニケーションの形態を選択したり、目標を設定したりする。  ・音声言語でのコミュニケーションにとらわれず、写真やシンボルのカード、スマートフォンやタブレット端末も含めたコミュニケーション支援機器の活用も考慮する。  ・知的障がいの程度が境界域や正常範囲にある子どもであっても、言葉の意味理解が微妙にずれていたり、比喩や冗談の理解が難しかったりすることに留意する。  ・子どもの言語理解力や運用力を細かくアセスメントして、誤って学習している言葉や、慣用表現などについて特に注意深く指導する。最近ではコミック会話(Gray 1994)による指導が効果的であることが指摘されている。  (ウ)想像力の障がいとそれに基づく行動の障がいへの指導・支援  ・安心して行動できるように、見通しを持たせる。  ・説明は、ひとつひとつ短いことばで端的に行う。視覚的な手がかりを用いて伝えることも有効。  ・予定の変更などは早めに伝える。  ・常同的な行動や反復的な行動、自己刺激行動などについては、それらを引き起こす原因を調べ、それを取り除くための工夫を行う。  上の3つの特性に沿った指導・支援に加えて感覚の過敏性や過度の鈍感性などにも留意することが重要です。 (3)ADHD(注意欠陥多動性障がい)のある子どもの指導・支援のポイント  ア ADHDとは  おおよそ、身の回りの特定のものに意識を集中させる脳の働きである注意力に様々な問題があり、又は、衝動的で落ち着きのない行動により、生活上、様々な困難に直面している状態をいいます。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  症状は7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されています。  【ADHDの特性】  ○不注意  ・学校での勉強で細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをしたりする。  ・課題や遊びの活動で注意を集中し続けることが難しい。  ・面と向かって話しかけられているのに、聞いていないように見える。  ・指示に従えず、また、仕事を最後までやり遂げることができない。  ・学習などの課題や活動を順序立てて行うことが難しい。  ・気持ちを集中させて努力し続けなければならない課題を避ける。  ・学習などの課題や活動に必要な物をなくしてしまう。  ・気が散りやすい。  ・日々の活動で忘れっぽい。  ○多動性  ・手足をそわそわ動かしたり、着席していても、もじもじしたりする。  ・授業中や着席すべき時に、席を離れてしまう。  ・あらたまった場面等きちんとしていないといけない時に、過度に走り回ったり、高いところによじ登ったりする。  ・遊びや余暇活動に落ち着いて参加することが難しい。  ・じっとしていない。または何かに駆り立てられるように活動する。  ・過度にしゃべる。  ○衝動性  ・質問が終わらないうちに出し抜けに答えてしまう。  ・順番を待つのが難しい。  ・他の人がしていることをさえぎったり、じゃましたりする。  *「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」(平成14年2月実施)の質問項目より  イ 指導・支援のポイント  ADHDのある子どものつまずきの背景には、セルフコントロールの問題があるといわれています。時々、周りの人には、不適切な行動を「わざとやっている」という印象を与えますが、うまくセルフコントロールできないために起こる行動であって、本人も苦しんでいることを理解することが必要です。したがって、不適切な行動に対して厳しく叱責したり、強制的にそれを抑えたりしても問題の根本的な解決にはつながりません。  指導・支援は、「子ども自身のセルフコントロールの力を高める指導・支援」と「環境の調整(周囲の人の理解も含む)」の両面から考えることが基本となります。  また、一部のADHDには、薬物治療が有効であることが知られています。医療との連携を図り、薬物治療の可能性を検討することも重要な視点の一つです。  (ア)子ども自身のセルフコントロールの力を高める指導・支援  ADHDのある子どもが学校園や社会の様々な場面に柔軟に適応していくためには、自身のセルフコントロールの力を高めていく指導が大切です。セルフコントロールにかかわる知識、スキル、そして、それらの運用の仕方を整理して学習していくことが効果的だと言われています。  ・望ましい行動や結果など、将来のことを見据えて計画を立てる。  ・やればできることを子どもと一緒に確かめ、目標とする行動をできるだけ絞り込む。  ・わからない時に助けを求める方法を決め、練習する。  ・ビデオなどを使って実際の自分自身の行動や周囲の状況を振り返ったりする。  ・その子どもの長所をみつけて、それを評価する。  (イ)環境の調整  子どものセルフコントロールを助ける枠組みやてがかりを提供するために環境を調整します。また、周りの人の理解を進めることも環境調整の重要なポイントです。  【指導例】  ・落ち着いて学習できる環境を設定する。(座席の位置の工夫や刺激の除去)  ・注意を向上させたり、内容が伝わりやすくするために、言語的な指示は簡潔で具体的なものにする。  ・動作や絵、図、文字などの視覚的に分かるものを多く取り入れる。  ・自分が予想していなかった事態に直面すると混乱しやすいので、事前に見通しがもてるように工夫し、結果についての指導をていねいに行う。  ・パニックや衝動的な行動を起こす前の予兆となるサインを見逃さない。  ・注意の持続が短い場合、一回の課題時間を短くして繰り返し課題を行うようにする。  ・即時的に、かつ頻繁に賞賛を与えていく。  ・立って活動してもよいといった条件を授業等の中で設定する。 (4)LD(学習障がい)のある子どもの指導・支援のポイント  ア LDとは  LDとは、学習に必要な基礎的な能力のうち、一つないし複数の特定の能力についてなかなか習得できなかったり、うまく発揮することができなかったりすることによって、学習上、様々な困難に直面している状態をいいます。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  学習に必要な基礎的な能力とは、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する、などを示しています。  その原因として、中枢神経系に何らかの機能障がいがあると推定されますが、視覚障がい、聴覚障がい、知的障がい、情緒障がい等の障がいや、環境的な要因が直接的な原因となるものではありません。  *「LD」という言葉は、Learning Disabilities の頭文字をとって「LD」と表しています。文部科学省は平成15年3月に公表した「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」で「学習障害」を「LD(学習障害)」とし、以降、「LD」が一般に受け入れられる用語となってきました。  *平成25年DSM-5が改訂され、平成27年にはICD-11が出されます。それぞれの改訂、日本語訳が出された際に、教育、医学、心理、福祉領域で共通に使われる用語の使用法に変化がある可能性があります。  イ LDのある子どもにみられる学習上のつまずき  以下のうち、ひとつまたは複数について学習上のつまずきがみられます。  聞く・話す  ・聞こえていても、言葉の意味を理解することが困難。  ・自分の言いたいことを、表現することが不得意。  読む・書く  ・字や行をとばして読んだり、読めるが意味を理解したりすることが困難。  ・文章をすらすらと読むことが困難。  ・鏡文字になったり、形の整った文字を書いたりすることが不得意。  ・漢字の読み書きが困難。  計算すること・図形や位置関係をとらえること  ・繰り上がりや繰り下がりの計算でのつまずき。  ・数字の桁をそろえるのが不得意。  ・計算はできるが、文章題が不得意。  ・図形の模写が困難。  ・時間や空間の概念を理解することが困難。  学習上のつまずきと併せて、次のような注意集中の困難や多動、社会性や運動面の困難などがみられる場合があります。  ・一つのことに集中できる時間が短い。  ・周囲のちょっとしたことに気をとられやすい。  ・突発的な行動が多くみられる。  ・運動するときに、ぎこちない動きになる。  ウ 指導・支援のポイント  一人ひとりの子どもの認知特性や学習スタイルに配慮した、ニーズに応じた指導・支援を行うことが基本です。  また、「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」を活用し、それに基づく指導の結果を評価して、改善につなげる工夫を行うことが大切です。 (ア) 聞く・話すことへの対応  ・注意を促してから、話しかける。  ・一度にたくさんの、多段階の指示を出すのではなく、分かりやすい言葉を使い、一つ一つ確認しながら指示を出す。  ・音声だけでなく、動作や絵や写真などの視覚情報も併せて提示する。  ・自由に話せる雰囲気を作る。話しやすい身近な話題を取り上げる。  ・「いつ」「誰が」「どこで」「どうした」といった5W1Hに関した質問をし、それにあわせて話をするようにさせる。  ・連想ゲームやなぞなぞなどのことば遊びをする。 (イ)読む・書くことへの対応  ・文字を大きくしたり、行間を広げたりする。1行だけが見える補助紙を用意し、活用する。  ・子どもが関心を持ち、読みやすい文章を選んで、音読するように促す。  ・文章に関係のある絵や写真を提示するなど視覚的支援を併用する。  ・書きやすいように、十字の点線が入った用紙などを利用する。  ・文字の特徴(形、線の長さ、方向、筆順、意味等)に注意を向けるよう促す。  ・字を覚える時に、語呂合わせなど聴覚的な記憶も利用する。 (ウ)計算することや図形や位置関係をとらえることへの対応  ・つまずいているところを明確にし、段階的にきめ細かく対応する。  ・位取りを間違える場合は、マス目のあるノートやプリントを用いる。  ・文章題では、具体物を操作したり図解するなどして、内容の読み取りに時間をかける。  ・文章題の中のキーワード(「あわせて」、「残りは」等)にアンダーラインを付け、演算子(+−等の記号)に置き換えさせる。  ・ことばで形の特徴を説明することで、形を弁別する際の手がかりを得られるようにする。  ・作図については厳密さを求めるには限界があるので、大まかな特徴をつかんでいれば正解や準正解にする等の配慮を行う。 *参考文献  「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 文部科学省 平成15年  「ADHD及びその周辺の子どもたち―特性に対する対応を考える―」尾崎洋一郎他 同成社 平成14年  「改訂新版LD・ADHD・高機能自閉症の子どもの指導ガイド」国立特殊教育総合研究所 東洋館出版 平成25年  「障がいのある子どもの教育の広場」国立特別支援教育総合研究所 http://www.nise.go.jp/cms/13.html  「改訂版 特別支援教育基本用語100」 上野一彦他編 明治図書 平成26年 7 言語障がいのある子どもの教育 (1)言語障がいの特性  ア 言語障がいとは  発音が不明瞭であったり、話しことばのリズムがスムーズでなかったりするため、話しことばによるコミュニケーションが円滑に進まない状況であること、また、そのため本人が引けめを感じるなど、社会生活上不都合な状態であることをいいます。(「教育支援資料」文部科学省〔平成25年10月〕より引用)  イ 対象となる主な言語障がい  (ア)構音障がい  構音障がいとは、話しことばを使う中で「さかな」を「たかな」、「はなび」を「あなび」というように、一定の音をほぼ習慣的に誤って発音する状態をいいます。構音障がいには、口唇や舌、歯などの構音器官の構造や機能に問題があって生じる「器質的構音障がい」(口蓋裂などによるもの)と、これらの器官に問題がみられない「機能的構音障がい」(学習上の発音の誤り)があります。  <音声的な特徴からみた分類>  *音声的な特徴、状態、例の順に記す。  置き換え  ある音が他の音に置き換わります  「さかな」〔sakana〕→「たかな」〔takana〕  省略  必要な音を省略して発音します  「はなび」〔hanabi〕→「あなび」〔anabi〕  ひずみ  ある音が不正確に発音されている状態で、日本語にはない音として発音されます  〔ta〕と〔ka〕の中間的な音(音声記号で表すことが難しい)  (イ)吃音  自分で話したい内容がはっきりとしているにもかかわらず、また構音器官の構造や機能に問題がないにもかかわらず、話そうとする時に、同じ音の繰り返しや引き伸ばし、声が出ないなどの症状が現れることをいいます。  <症状からみた分類>  *症状、状態、例の順に記す。  連発  語頭音を何回も繰り返し話します  「ぼ、ぼ、ぼぼ、ぼくは・・・」  伸発  語頭音を長く引き伸ばして話します  「ぼおーーーくは・・・」  難発  話の始めだけでなく、途中でも生じる場合があり、声や語音が非常に出にくく、身体を必要以上に動かすなど随伴症状を伴うこともあります  「あのー」「えーと」などを非常に多く挿入したり、長すぎる沈黙があったりします  (ウ)言語発達の遅れ  話す、聞くなどの言語機能の基礎的事項の発達が年齢相応ではなく、コミュニケーションがうまくできない状態をいいます。言語発達の遅れや偏りには様々な要因があり、聴覚障がい、知的障がい、肢体不自由、視覚障がいなど、他の障がいに伴って生じる場合もあります。 (2)指導・支援のポイント  ア 構音障がいのある子どもへの指導・支援  (ア)構音器官の運動機能の向上  構音器官の運動機能が不十分な場合は、呼気をコントロールする力の習得や舌、口唇、顎などの動きの向上によって、構音の基礎をつくっていきます。  ○ 呼気をコントロールする練習  ・ろうそく立て(5連のものなど)を使用し、ろうそくをリズミカルに吹く、強く吹く、弱く消えないように吹くなどいろいろな息の出し方を練習します。(図1)  ・吹きもどしを使って、ゆっくり吹いたり、長く息を出したりします。(図2)  ・机の上からピンポン玉を吹いて落としたり、できるだけ遠くまで吹いて転がしたりします。   ・笛やハーモニカなどの楽器を用意し、音の長さやリズム、大きさを変えて吹いてみます。  ○ 舌、口唇、顎の動きを高める練習  ・口を開けたりすぼめたりします。(図3)  ・口を開けてから下顎を左右に動かします。(図4)  ・唇をつき出したり横にひいたりします。(図5)  ・舌をつき出したり口の中に戻したりします。(図6)  ・舌先を唇の両端につけたり唇にそって回したりします。(図7)  子どもが教員の口形や舌の動きを模倣しやすいように、大鏡の前で一緒に並んで練習するとより効果的です。舌の動きがうまく模倣できない場合は、ウエファーや米菓子などを唇の周りに少量つけて、それを舌でなめ取るようにします。  (イ)音の聴覚的な認知力の向上  正しい音と自分の発音している誤った音との区別が困難な場合は、聞く力を高める取組を行います。一般的に音の聴覚的な認知は単音、単語、文の順で難しくなるため、練習を組み立てる際には、容易な課題から難しい課題に向けてスモールステップで取り組めるよう配慮する必要があります。  ○ 特定の音を聞き出す練習  教員が単語や文を示し、目的となる音があれば手を挙げるなどして答えます。  ○ 音と音を比較し、判断する練習  教員が正しい音と誤った音を含む二つの単音や単語を示し、その音が同じか異なるかを答えます。  ○ 誤った音と正しい音を聞き分ける練習  教員が正しい音と誤った音を含む二つの単音や単語を示し、その音が正しいか誤りかを答えます。  (ウ)構音の指導  誤った構音の方法を覚えてしまったり、適切な構音の方法を知らなかったりする場合には、正しい構音の方法を習得させるための指導が必要です。構音の指導では、すべての音の土台となる母音の習得から始めて、子音の練習へと進んでいきます。  ここでは、子音の練習で取り組まれることの多い、サ行(シ音除く)を例にあげます。  ○ サ・ス・セ・ソ音の練習  ・水を入れたコップとストローを用意します。  ・舌先と上の歯茎との間にストローの先(1pぐらい)を挟んでくわえ、コップの中の水をぶくぶくと泡立てます。(ストローをはさむ際、唇でくわえたり歯でかんだりしないよう気をつけます。)(図8)  ・静かに息を出せるようになったらコップを取り、代わりに自分の掌をストローの先に近づけて、息を感じながら同じように吹きます。  ・吹いているストローを静かに抜き取り、その後も続けて「スー」と息を吹き出す練習をします。(この時の「スー」が子音の〔s〕)(図9)  ・〔s〕の音が安定して出せるようになったら、母音の「ア」を続けて言います。  ・はじめは「sーアー」とゆっくりと発音し、次第に短くつなげながら「サ」と一つの音として発音できるようにします。  ・他の「ス」「セ」「ソ」についても同じように練習します。  イ 吃音のある子どもへの指導・支援  (ア)自由な雰囲気で楽に話す経験  吃音のある子どもの話し方に注意を向けて聞くのではなく、話そうとしている内容に注意を向け、子どもが話したいと思えるような楽しい雰囲気をつくることが大切です。子どもの好きなあそびなどを通して、教員はかかわりの中で主体的な発話を促すようにします。  (イ)流暢に話せたという自信をつける体験  流暢に話せたという経験の積み重ねが、子どもの話す意欲を高め、症状にもよい変化をもたらすということがあります。国語教材などを教員と一緒に読む、その際、リズムをつけたり速度を変えたりしていろいろな読み方を楽しむといった工夫が考えられます。  (ウ)難発の状態から話すことにつなげる方法の獲得  最初の音を引き伸ばして話す方法や、声がつまった時に口の構えを一度解消して始めからやり直す方法、息を少しずつ吐き出しながら話す方法などがあります。ただし、これらの方法は誰にとっても有効というわけではなく、個別に方法を考えていく必要があります。  (エ)不得意なことばや場面に対する緊張の解消  過去の失敗経験から特定のことばや場面に不安を抱いている子どももいます。子どもの不得意とする場面を想定し、教員との温かい人間関係の中で特定のことばを繰り返し練習する、緊張の低い場面から高い場面へと段階的に練習を行うなどの方法が考えられます。  (オ)日常生活におけるコミュニケーション態度の育成  練習時には流暢に話せても実生活ではうまくいかない、効果が一時的であるといった経験をしている子どももいます。実際の生活場面を利用しながら学校生活を含め、日常生活におけるコミュニケーション態度を育てる配慮が必要です。そのためには、教員や保護者が「吃音は悪いことではない」という共通認識をもち、子どもが時につっかえながらでも伝えたいと思っている内容を汲み取ることが大切です。  (カ)自己肯定感を高める  吃音があることで話すことや人とのかかわりに自信をなくし、自己を肯定的にとらえられないといった問題が生じることも少なくありません。吃音が生き方にまで負の影響を及ぼさないように、子どもの自己肯定感を高める指導・支援を行っていく必要があります。例えば、日常の出来事に絡めながら、子どもと教員の間で吃音の話をしたり、具体的な場面での悩みに対して一緒に対策を考えたりします。また、他の吃音のある子どもと出会い、語り合える場を設定するなど、将来に向けて支え合っていける仲間づくりを支援する取組も重要です。  ウ 言語発達の遅れや偏りのある子どもへの指導・支援  (ア)コミュニケーション態度や意欲の育成、向上  話す、聞くなどの言語機能の基礎的事項を学習するための前提として、子どもが周囲の人と一緒にいて、やりとりすることを楽しめることが必要です。そこで、低学年であれば、あそびや生活体験的な活動の中で、高学年であれば、話し合い活動や子どもの興味関心に基づく学習課題を設定する中で、ことばでのやりとりを活発にしていくことなどが考えられます。  (イ)言語活動の楽しさを知る取組  基礎的な語彙力があり、基本的な文法の理解はできても、実生活の中で使用することが少ない子どもには、ことばや文字を使うことの楽しさや便利さを実感させる必要があります。例としては、低学年であれば絵日記、高学年であれば調べ学習などを通して、子どもが興味関心のある事柄を周囲の人に紹介する活動があげられます。また、子どもの実態に合わせて、パソコンの文書作成機能を使用する学習も考えられます。  (ウ)話す、聞く、読む、書くなどの言語スキルの向上を図る取組  子どもの実態に応じて個別指導を実施することも大切です。具体的な内容としては、ことばと具体物や絵カード、実際の体験などを照合させて、話したり書いたりする、起承転結のある絵をもとに、場面の理解や人物の気持ちを考えたり、文を書いたりするなどが考えられます。書くことが不得意な子どもには、マス目のノートを用意し、文字表記のコツや留意点を指導することが必要です。 *参考文献  「障がいのある子どもの教育の広場6言語障害教育」 国立特別支援教育総合研究所 http://www.nise.go.jp/cms/keywords/1.-.kwstring.10.html  「教育支援資料 〜障害のある子供の就学手続と早期からの一貫した支援の充実〜」文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 平成25年  「改訂版 特別支援教育基本用語100」 上野一彦他編 明治図書 平成26年 8 精神障がいのある子どもの教育 (1)精神障がいのある子どもの理解  思春期は、大人への成長がみられる途中の、精神的に不安定になりがちな時期といえます。そのため、その時期に精神疾患を発症することも少なくありません。精神疾患は、できるだけ早く発見して治療を始めることが望ましいですが、現れる症状は様々であり、その見極めは難しいものです。保護者や教員は、子どもの状況が普通の悩みであるのか、怠けているのか、それとも病気であるのかを見分けることは容易ではありません。その意味でも、教員が、思春期によくみられる主な精神疾患の基礎的な知識を持ち、複数の教員で子どもの変化に気づく体制を整えることが大切です。また、発症していると思われる場合は、保護者とも十分に連携をとり、保護者の思いを受けとめながら、医療機関への受診を勧めることも必要となります。  医師による診断の有無に関わらず、支援が必要な場合は、本人や保護者の不安な気持ちに温かく寄り添うことが大切です。本人が困っていることや気にしていることに対して、教員がともに解決していこうとする姿勢は、本人や保護者にとって大きな支えになり、症状が緩和されることもあります。  学校生活における具体的な支援をどうするかについては、子ども一人ひとりに対する個別の配慮が必要になります。医療機関にかかっている場合は、本人や保護者の了解を得た上で、主治医とも十分に連携をとることが大切です。  *「精神疾患」や「精神障がい」についてはさまざまな定義があり、国際的にも、まだ統一されていません。精神障がいについて、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」では、「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有するもの」(第5条)と定義しています。 (2)主な精神疾患  教員が、主な精神疾患の特徴と症状を理解することは大切です。精神疾患の症状は、重なって現れることもあります。  ア 統合失調症  (ア)主な特徴  知覚、思考、感情など、様々な精神の機能に症状が現れる。発症年齢は10代から30代が中心で特に青年期の発症が多い。小児で統合失調症を発症することは非常にまれであるが、小児期に起こる場合は、通常は7歳から青年期の始まりの間に発症する。脳内の化学作用の異常から起こると考えられており、その原因は不明であるが、親の育て方の問題や子どもを取り巻く環境が原因ではない。また、復学を焦ると再発しやすいため、しっかりと休養することが大切である。  (イ)主な症状  症状には、成人の場合と同様に、幻覚、妄想、偏執症、他人が自分を傷つけようとしている、または他人が自分の考えを操作しようとしているという恐怖心などが現れる。統合失調症を発症した子どもは感情が鈍くなることが多く、声も顔も感情の変化をみせなくなる。笑ったり悲しんだりするような出来事にも反応しなくなる。  イ 気分障害  (ア)主な特徴   自分ではコントロールできないほど、気分(感情)が沈んだり高揚したりする。憂うつな気分だけの場合と、躁とうつが何度も交代する場合がある。従前は、中年期以降に発症する病気とされていたが、現在では、10歳以下でも発症するとされる。精神的なストレスがきっかけになりやすいが、はっきりしない場合も多い。原因は不明であるが、人生経験と遺伝的な要因が組み合わされて起こるのだと考えられる。  (イ)主な症状  興味や喜びの喪失、自責的で悲観的な思考、意欲や気力の低下、活動性の低下、眠れない、食欲がない、疲れやすさの増大などの症状が現れる。但し、言語が発達していない低年齢の子どもでは、大人のうつ病とは症状の現れ方が異なり、遊びが少なくなったり、頭痛、腹痛、不機嫌や反抗的態度として現れることがある。外見上は相反する症状、例えば過度の活動や攻撃性、反社会的行動などによって隠されていることがあり注意が必要である。  ウ 不安障害  (ア)主な特徴  強い心配や不安で苦しんでいる人の中で、生活する上で著しく支障がある場合を「不安障害」として、医療における治療の対象となる。不安の現れ方によっていくつかの疾患に分けられる。いずれも、10代で発症することが多い。  (イ)主な症状  ◇社会不安障害  集団の中にいると、自分が場にふさわしくない発言や行動をして嫌われてしまうのではないか、自分から出る匂いが周囲を不愉快にさせるのではないか、などと感じて、集団に入ることを避けようとする。こうした不安や緊張は、比較的少人数の集団の中にいる場合に生じ、ごく親しい人しかいない場、知らない人が大勢いる場では生じないことが多い。  ◇パニック障害  突然、動悸がして息苦しくなり、死ぬのではないかなど、強い不安や恐怖に駆られる状態になる。短時間で不安が頂点に達し、やがて治まるが、その発作が繰り返されやすい。発作がいつどこで起こるかが予見できないことから、発作を起こしていない時も、不安が持続する。助けてくれる人がいない状態に耐えられず、一人での外出を避けるようになりやすい。中には、うつ病から引き起こされたり、逆にうつ病に進んでしまうことがある。  エ 強迫性障害  (ア)主な特徴  考えないようにしようと思っても、ある考えが繰り返し浮かんできて、消すことができない。無視しようと思っても、ある行為をしなければならないという衝動から逃れられない。そうした観念や行為については、本人も合理的ではないと気づいており、症状に苦痛を感じている。  (イ)主な症状  自分が汚れたと感じ清潔にする行為を繰り返す、何度も戸締りや火の元を確認しても不安になるほか、人を傷つけてしまうのではないかという観念が消えなかったり、ある回数玄関で足踏みをしないと学校に行けないという儀式的な行為を止められないなどがある。  オ 解離性障害  (ア)主な特徴  つらい体験や考えや感情などを自分から切り離し、自分を守ろうとする無意識の試みと考えられる。  (イ)主な症状  ◇解離性同一性障害  別々の記憶や性格をもつ複数の人格が交代で表に出てくる。それぞれの人格が、異なる人格が経験したことを知らないことが多い。  ◇解離性健忘  心の傷になるような嫌な記憶を忘れるなど、ある時期の記憶を失う。これまで生活してきたすべての記憶を失う場合もあるが、食事や入浴のしかたなど基本的な生活に必要な記憶は失わない。  ◇離人感・現実感消失障害  記憶は継続しているが「考えている」「感じている」「行動している」という実感がない。自分が自分でないような感覚、自分を別の自分が外から見ているような感覚になる。    カ 摂食障害  (ア)主な特徴   十代後半から二十代の思春期・青年期の女性に多くみられ、平均的な食事量から、著しくかけ離れた量の食事をとる疾患である。やせようとするダイエットがきっかけになることが多いが、発症には、心が傷ついた体験やストレスなども影響するといわれている。  (イ)主な症状  ◇神経性無食欲症/神経性やせ症  食事の量を意図的に制限し、体重が極端に減ってくる。標準的な体重の85%以下になるようであると、注意が必要である。異常にやせていても本人はやせているとは思わない。低栄養状態が続くことで、体力も落ち、骨や内臓もダメージを受ける。栄養失調状態が長くなると、命にかかわることもある。  ◇神経性過食症/神経性大食症  食べ始めると食べることを止められず、大量の食べ物を食べてしまう。すぐに、自ら嘔吐したり、下剤を使用して、太ることに抵抗する。食欲をコントロールできないことで自信をなくし、自己嫌悪に陥ったり、うつ状態になる人も多い。  キ 睡眠−覚醒障害  (ア)主な特徴  眠りたいのに眠れない、夜寝ているのに昼間眠くなるなど、睡眠にかかわる障害である。  (イ)主な症状  ◇不眠障害  なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚める、熟睡した感じがしないなど。昼間、疲労感が残り、授業中のいねむりが増えるなど、生活に支障をきたす。  ◇概日リズム睡眠−覚醒障害  概日リズムとは、体内に備わる24時間周期のリズムのことで、このリズムのおかげで多くの人は、毎日、寝る時刻と起きる時刻が、ほぼ一定になる。概日リズム障害では、このリズムにずれが生じる。  引用文献  「障害のある子どもの教育の広場 5.病弱・身体虚弱教育 [7]慢性疾患(経過の長い病気)の主な起因とその対応 (10) 精神疾患」 国立特別支援教育総合研究所HP   「思春期のこころの病」“悩み”と“病”の見分け方 社会福祉法人NHK厚生文化事業団 平成21年  「こころの病気を知る事典 新版」大塚俊男他編著 弘文堂 平成19年  「統合失調症とつき合う」 伊藤順一郎 保健同人社 平成18年 (3)精神障がいのある子どもの指導・支援のポイント  それぞれの精神疾患の基礎知識を踏まえることは重要ですが、それ以上に大切なのは、個々の子どもがどのような特性を有しているかを観察し、それらの特性に応じた支援を行うことです。また、医療機関における治療について理解し、学校園での支援を考えることが大切です。  ○ 発症時は、特に保護者と学校園が密に連携をとる必要があるとともに、日常的に教員間で児童生徒の変化について、細やかに情報交換をする必要があります。養護教諭が把握している心身の変化の情報に留意することも大切です。  ○ 学校生活において、どうしていいか分からなくて困ったときに相談できる教員が誰か、不安が高まって疲れたときなどに休息できる場所はどこかなどを、予め当該児童生徒や保護者と話し合い、決めておく必要があります。  ○ 日常生活において、十分な睡眠がとれ、必要な休息がとれることが大切であることを、教員が理解する必要があります。病状から遅刻や欠席が続くこともあり、学校生活を送る上で、登校を促す必要が生じる場合などがありますが、休息などの重要性を十分踏まえた対応が求められます。  ○ 音やにおいに過敏になることがあり、特定の行事や教科に出席できない場合は、児童生徒がどのようなことに困っているかをよく聴き、保護者や主治医とも連携を図りながら、学校園としてできる配慮を検討することが大切です。  ○ 日常の学校生活における服薬や、宿泊を伴う学校行事における服薬については、薬を養護教諭が保管するなど、さりげなく自然に服薬できるよう配慮が必要です。  ○ 医療機関への通院や受けているカウンセリングを継続させることが大切ですが、時には児童生徒が、主治医や投薬されている薬に対する不信感等を訴えることがあります。この場合は、不信感にいたる要因等本人の訴えを十分に聴き、気持ちに寄り添いながら、解決策をともに考える必要があります。 *参考文献  「障害のある子どもの教育の広場 5.病弱・身体虚弱教育 [7]慢性疾患(経過の長い病気)の主な起因とその対応 (10) 精神疾患」 国立特別支援教育総合研究所HP  「精神障がいについての理解を深めるために」 大阪府教育委員会 平成22年  「思春期のこころの病」“悩み”と“病”の見分け方 社会福祉法人NHK厚生文化事業団 平成21年  「こころの病気を知る事典 新版」 大塚俊男他編著 弘文堂 平成19年  「統合失調症とつき合う」伊藤順一郎 保健同人社 平成18年 (付録)参考となるウェブページ一覧  タイトル  特別支援教育について  発信元  文部科学省  URL  http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm  概要  特別支援教育に関する基礎知識、全国の実施状況、学習指導要領、各種通知、答申など、さまざまな情報が掲載されています。  タイトル  国立特別支援教育総合研究所ホームページ  発信元  国立特別支援教育総合研究所  URL  http://www.nise.go.jp/cms/1.html  概要  特別支援教育に関する研究成果やインクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)、発達障害教育情報センター等、さまざまな情報が掲載されています。  タイトル  政府広報オンライン お役立ち記事 特集「発達障害って何だろう?」  発信元  内閣府大臣官房政府広報室  URL  http://www.gov-online.go.jp/featured/201104/  概要  発達障がいに関する基礎知識や支援について、分かりやすく紹介されています。  タイトル  発達障害者支援施策  発信元  厚生労働省  URL  http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hattatsu/index.html  概要  発達障碍者支援施策やパンフレット「発達障害の理解のために」等が紹介されています。  タイトル  発達障害情報・支援センター  発信元  国立障害者リハビリテーションセンター  URL  http://www.rehab.go.jp/ddis/  概要  発達障害に関する最新かつ信頼できる情報を収集・分析して、広く普及啓発活動を行うことを目的に開設されたウェブページです。  タイトル  教育・学校・青少年  発信元  大阪府  URL  http://www.pref.osaka.lg.jp/life/list3.php?ctg03_id=4  概要  大阪府の教育の状況について、このページから様々なことが検索できます。  タイトル  支援教育  発信元  大阪府教育センター  URL  http://wwwc.osaka-c.ed.jp/matters/specialneeds_top.html  概要  支援教育に関する調査研究、リーフレット等、さまざまな情報を掲載しています。  平成27年度 個に応じた指導・支援のためのガイド資料の作成に関する研究研究委員名簿  (研究協力委員)  *氏名、職名、所属の順に記す。  家門 鉄治  校長  府立泉南支援学校  村江 鉄平  首席  府立視覚支援学校  首藤 浩  教諭  府立視覚支援学校  嶋田 記枝  指導教諭  府立堺聴覚支援学校  久保 幸子  指導教諭  府立泉南支援学校  内山 誉利子  指導教諭  府立堺支援学校  白樫 麻紀  指導教諭  府立羽曳野支援学校 (研究委員)  支援教育推進室  大阪府教育センター 平成31年1月改訂  〒558−0011 大阪市住吉区苅田4丁目13番23号  TEL 06(6692)1882 FAX 06(6692)1898  URL http://wwwc.osaka-c.ed.jp