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スーパーサイエンスハイスクール

大学研究室訪問

この夏休み、SSH課題研究生はいくつかの大学の研究室を訪問し、日本の最先端技術の現場を見せていただいたり、基礎理論を講義していただきました。高校生には難解な部分もありましたが、丁寧な説明に熱心に聞き入っていました。
訪問させていただいた先生方と講義内容を紹介します。

8月3日(月)
京都大学 学術情報メディアセンター
研究開発部教育支援システム研究部門情報教育システム教育分野 喜多一教授

喜多研究室 大学での教育や研究には先進的な情報技術を利用しますし、そのために、基礎的なコンピュータ利用から高度なプログラミング、そして安全に情報技術を利用するモラルや倫理についての教育を展開しなければなりません。京都大学の情報環境機構では学生のための情報環境として、1000 台を超える PC 端末を2万人以上の学生や教職員が利用できる環境をわずか数人の職員で運用できるような大規模情報システムを設計し、運用しています。
喜多研究室では、このようなシステムの設計や運用を支援しつつ、人工知能や情報セキュリティの技術を背景に大学での情報教育や教育への情報技術の利用について研究しています。具体的な例を挙げますと、社会や経済の問題を人のようにふるまうプログラム (ソフトウェアエージェント)でシミュレーションしつつ、実際に自身も参加できるようなシステムの開発とその教育への応用、知的なエージェントを構成するための学習や進化などの人工知能技術の開発、複数の利用者で場を共有しながら共同して使えるコンピュータの開発、コンピュータのプログラミングについての効果的な教授法の開発などを進めています。

8月4日(火)
大阪市立大学大学院 工学研究科 化学生物系専攻
化学バイオ工学 生体材料工学分野 田辺利住教授

田辺研究室 生体材料工学研究室では、タンパク質、核酸、多糖などの生体高分子を利用して、医薬あるいは医療用の材料を作る研究を行なっています。代表的なテーマを以下に紹介します。
@ 再生医療に用いる細胞足場の研究
 ES細胞やiPS細胞から組織や臓器の細胞を作り、病気の治療に使おうという研究が進んでいます。細胞だけで治療ができる場合もありますが、臓器の欠損部分を補ってやる場合など、欠損部の形状をした細胞足場に細胞を接着させたものを使います。私たちは羊毛からケラチンというタンパク質を取り出し細胞足場を作る研究をしています。細胞をより多く維持するため、足場は小さな穴があいたスポンジ状の構造にするなど、様々な工学的工夫を行なっています。
A 核酸マシンの研究
 ガン細胞は殺すけれども正常細胞は殺さない、つまり細胞を見分けることのできる抗ガン剤ができれば理想的です。私たちはDNAやRNAの性質を上手に使って細胞を識別できる核酸医薬を作ろうとしています。

8月5日(水)
大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻
社会基盤工学 社会システム学講座 国土開発保全工学領域 出口一郎教授

出口研究室 古くから我々は沿岸域を高度に稠密に利用してきた。特に第2次世界大戦以降の開発は顕著で,沿岸域の自然環境も大規模に破壊された。これらの開発により,我々の社会経済活動は沿岸域に広がると同時にしばしば大規模な災害をこうむってきた。沿岸域をより安全で快適な場とするための保全・利用・防災の方法を目指した教育研究を行っている。海の中で発生する波(風波,うねり,津波,・・)と流れ(潮流,波によって引き起こされる沿岸流・離岸流など)及びそれらを外力として発生する海底での砂の動きと,海底地形の変形予測が研究対象。特にここ6年は,海上保安庁などの協力を得て,極浅海域の波と流れと水深変化の相互作用の解析を精力的に行っている。この一環として,離岸流発生機構の解明と発生予測を行っている。

8月6日(木)
大阪市立大学 理学研究科・理学部 数物系専攻
数理構造論 金信泰造教授

金信研究室 結び目理論の研究をしています。わたしたちが普段何気なく使っている結び目が,現代数学の主要な研究対象の一つになっています。結び目を分類したり,さまざまな結び目の性質を調べる数学が結び目理論です。結び目理論は位相幾何学(トポロジー)とよばれる“やわらかい”幾何学の一分野として研究されてきました。トポロジーでは連続的に図形を変形してもそれは同じ図形であると考えますので,高校で学ぶユークリッド幾何学のように,長さ,角度などはあまり意味がありません。実際,あやとりではいろいろ複雑な形を作りますが,結び目理論ではすべて結ばれていない『自明な結び目』であると考えます。また,最近解決されたポアンカレ予想も結び目理論とも深く関係しています。さらに,結び目理論は数学以外のDNAの研究,高分子化学,素粒子物理等のさまざまな分野とも深く関わっていることがわかってきました。

8月10日(月)
大阪市立大学大学院 理学研究科 物質分子系専攻
分子相関科学大講座 中島信昭教授

 レーザーとは何か? 極めて上等の光
中島研究室
カメラでは瞬間を写せる.(1/1,000 千分の1秒)レーザーでは1/1,000,000,000,000,000秒(1京分の1秒)まで測れる。
光と化学:光合成,目の見えるしくみ,緑色蛍光たんぱく(下村さん,2008年ノーベル賞),たんぱく質を分析(田中さん,2002年ノーベル賞)有機化合物が発光するテレビ
研究 1. ダイオキシンを測定してみました。
2. 光で金属分離 原子力に役立てよう。(下図)
3. 地球温暖化は目に見えない熱線(赤外線,これも光)が関係している。
中島研究室

8月11日(火)
大阪大学大学院 基礎工学研究科 機能創成専攻 機能デザイン領域 
推進工学講座 流体工学グループ 辻本良信教授

辻本研究室 私たちの周りにある空気や水で代表される流体を扱う機械について研究しています。このような機械としては、水を送るポンプ、水力発電所のタービン、ジェットエンジンのコンプレッサやタービンなどがあります。これらのなかでもロケットエンジンに液体水素や液体酸素を供給するポンプやロケットエンジンのノズルの超音速流れ、水力発電所や原子力発電所で生じる不安定な流れなどを特に取り上げています。また、心臓移植を待つ間に使用する血液ポンプの開発も行っています。

8月12日(水)
京都大学大学院 工学研究科 材料工学専攻
材料物性学講座 量子材料学分野 田中功教授

田中研究室  石器,青銅器,鉄器,そして半導体,セラミックスというように文明の新しい展開の陰には常に「材料」の進歩がありました。材料科学とは,このような「材料」を物理学,化学,生物学など学域に横断的な知識を結集して,電子,原子,分子といったレベルでデザインし開拓創製する学問体系です。そして,地球温暖化や環境・エネルギー危機などの重要な社会的課題に取り組んでいます。
 わたしたちの研究室では,半導体やセラミックス材料を対象に,量子力学というミクロの世界の物理学を道具に,夢のある材料を設計開発することを目指した研究を進めています。多数の計算機を駆使して材料設計するところからはじめ,得られた材料の原子・電子レベルでの観察・解析や,その性質の評価を行っています。メンバーは教員と博士研究員が9人.大学院生が16人.学部生が6人と大所帯で,その国籍は4カ国に亘っています。

8月17日(月)
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 獣医学専攻
動物構造機能学分野 統合バイオ機能学講座 統合生理学教室 中村洋一教授

中村研究室 脳にはよく知られているニューロン以外に,ミクログリア,アストロサイト,オリゴデンドロサイトと呼ばれる3種類のグリア細胞が存在しており,その総数はニューロンをはるかに上回っている。ミクログリアは障害を受けた細胞を掃除して取り除く役割を果たすとされてきたが,最近,この細胞が異常に活性化してしまうことがニューロンを痛めつける原因となることが明らかとなってきた。一方,アストロサイトは様々な因子を放出して,ニューロンの生存をサポートしたりしていることが知られている。
 我々の研究室では,ラットの胎仔や新生仔の脳から単離培養した各種のグリア細胞を用いて,その細胞の機能を様々な手法で測定評価して,ニューロンが死んでしまって様々な障害が起こる病気,例えばアルツハイマー病やプリオン病(狂牛病)などをくい止めるための薬や治療法の開発をめざしている。

8月18日(火)
大阪市立大学 工学研究科 電子情報系専攻
電子・物理工学科 福田常男准教授

福田研究室 金属が電気をよく通すことはご存知だと思いますが、金属同士がどのぐらい離れると電気を通さなくなるでしょうか?実は金属などの導電性物質の先端が原子3−4個分離れていても電気は流れるのです!これは「トンネル効果」と言って、電子が粒子であると同時に波動でもあることのひとつの証しです。針(探針)の先端に流れるトンネル効果に起因した電流−トンネル電流−を使って、表面を探針でなぞり電流の強弱を画像として表示することによって表面を観察する「顕微鏡」を作った人々がいました。これが「走査型トンネル顕微鏡」と呼ばれるもので、発明したG. BinnigとH. Rohrerは1986年ノーベル物理学賞に輝きました。この顕微鏡を使うと、表面の幾何学的な凹凸が観察できるだけではなく、なんと表面の原子を1個1個見ることができるのです。私たちの研究室では超高真空と呼ばれる低い圧力の下で、走査型トンネル顕微鏡を用いて半導体や金属の表面の研究を行っています。

8月19日(水)
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 獣医学専攻
動物構造機能学分野 統合生体学講座 獣医病理学教室 山手丈至教授

山手研究室 なぜ、ケガが治るか考えたことがありますか?実は、その機序はまだ良く分かっていません。動物は多細胞生物で、ケガが自然に治る現象は、「調和のとれた細胞と細胞のコミニュケーション(会話)」により成り立つとされます。しかし、その会話が乱れると病気になります。私の研究室では、そのような細胞と細胞の異常により生じる動物の病気を研究しています。一つは、動物病院で悪いところが手術で取り出されますが、それがどのような病気で、なぜ異常になったのかを顕微鏡を用いて調べています。皮膚ガンなどが代表例です。他には、ラットの病気のモデル動物を用いて、その成り立ちを遺伝子レベルで研究しています。肝硬変、萎縮腎、脳奇形などの病気を調べています。高校の生物では動物の「からだ」の正常な仕組みを習いますが、私の研究室ではその逆の「異常」を研究するところです。逆転の発想が必要で、科学を違った視点から考える力がつき、生物学がもっと面白くなります。

8月20日(木)
大阪府立大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 
生体分子科学領域 生体分子論分野 岡勝仁教授

岡研究室「タンパク質の立体構造形成原理の分子論的研究」
 私たちの身体はどんな物質からできていますか。一番多いのは水で、次がタンパク質ですね。これは私たちヒトに限られたことではなく、地球上のすべての生き物に共通していえることです。生き物はタンパク質の存在なしには生きてゆけません。身体本体を作っているのはタンパク質、そして、身体を動かすのも、必要なものを摂取し作り直すのも、見る聞く考えるのもタンパク質の働きがあってできることなのです。では、タンパク質の働きはどうして生じるのでしょうか。タンパク質はたくさんのアミノ酸がつながった分子です。このアミノ酸のつながり方がタンパク質の働きを生み出しているのだと推測はされます。この「なぜ?」を解明すべく世界中で研究が進められてきましたが、未だ解明には到っていません未。私たちの生体分子論研究室では、この問題の解明に取り組んでいます。研究にはお金がかかります。十分な研究費がないと研究は無理、というのが通説です。しかし、お金をつぎ込まなくても研究は進められます。私たちの研究室の真骨頂、オツムを使ってスマートに進める研究の一端を紹介したいと思います。

8月20日(木)
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻
化学工学分野 分離工学グループ 吉田弘之授教

吉田研究室亜臨界水で有機性廃棄物を資源・エネルギーに転換
 我が国で年間4億7千万トンという大量の廃棄物が発生している。その70%以上が有機性の廃棄物であり、多くは含水率が高いという特徴がある。大半は大量のエネルギーを投入して焼却処理されたり埋め立て処分されたりしており、最終処分場の確保も含め、自治体にとって大きな重荷となっている。
 我々の研究室では、亜臨界水(臨界点以下の高温高圧の水)を用いて、有機性廃棄物を小さな分子に分解してその中から有価物を分離し資源として利用、残渣をメタン発酵してエネルギーとして回収し、もとの有機物の大部分を利用しつくす地域分散型ゼロエミッションプロセスの研究を行っている。その基礎研究としては○亜臨界水処理、○分解物から有価物を分離回収するための分離工学、○有価物を分離した後の残渣のメタン発酵、○過熱水蒸気炭化による高性能メタン吸着材の開発。応用研究として、亜臨界水処理、メタン発酵装置、ガス発電、メタンガスモーターバイクや自動車など一連のパイロットプラントを設計建設し、実証実験も続けている。