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スーパーサイエンスハイスクール

平成22年度 大学研究室訪問

この夏休み、SSH課題研究生はいくつかの大学の研究室を訪問し、日本の最先端技術の現場を見せていただいたり、基礎理論を講義していただきました。高校生には難解な部分もありましたが、丁寧な説明に熱心に聞き入っていました。
訪問させていただいた先生方と講義内容を紹介します。

8月6日(金)
生物班
京都大学大学院 生命科学研究科 統合生命科学専攻
環境応答制御学講座 分子情報解析学分野 竹安邦夫教授

 我々の基本的立場は「ゲノム構造を‘まるごと’から見て、生化学的に真似ることによって、その構造構築機構を明らかにする」ことであった。そこで、原子間力顕微鏡によるナノスケールイメージング法を用いてゲノム構造の基本単位を解析する一方、それを生化学的に再構成する方法を開発し、現在までに、「真核生物のゲノム高次構造は、基本的には原核生物のゲノム高次構造と同様な原理で、すなわち、DNAの物理的性質とDNA・タンパク質相互作用のバランスの上に構築される」という作業仮説に至った。ここでは(1)黎明期から発展期へと育ってきた「プローブ顕微鏡法を用いたナノバイオロジー分野」の未来について、(2)高次クロマチンファイバーの生化学的再構成系から明らかになったことについて、(3)ヒト培養細胞におけるゲノムの核内存在様式の解析について、(4)大腸菌の核様体関連タンパク質の変異株・欠損株における構造解析について報告し、ゲノム高次構造構築メカニズムの普遍性と特異性を明らかにしたい。

8月6日(金)
数学班
大阪市立大学大学院 理学研究科
数物系専攻 数理構造論 金信泰造教授

 結び目理論の研究をしています。わたしたちが普段何気なく使っている結び目が,現代数学の主要な研究対象の一つになっています。結び目を分類したり,さまざまな結び目の性質を調べる数学が結び目理論です。結び目理論は位相幾何学(トポロジー)とよばれる“やわらかい”幾何学の一分野として研究されてきました。トポロジーでは連続的に図形を変形してもそれは同じ図形であると考えますので,高校で学ぶユークリッド幾何学のように,長さ,角度などはあまり意味がありません。実際,あやとりではいろいろ複雑な形を作りますが,結び目理論ではすべて結ばれていない『自明な結び目』であると考えます。また,最近解決されたポアンカレ予想も結び目理論とも深く関係しています。さらに,結び目理論は数学以外のDNAの研究,高分子化学,素粒子物理等のさまざまな分野とも深く関わっていることがわかってきました。

8月6日(金)
化学班
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻
化学工学分野 分離工学グループ 吉田弘之授教

吉田研究室 亜臨界水で有機性廃棄物を資源・エネルギーに転換
 我が国で年間4億7千万トンという大量の廃棄物が発生している。その70%以上が有機性の廃棄物であり、多くは含水率が高いという特徴がある。大半は大量のエネルギーを投入して焼却処理されたり埋め立て処分されたりしており、最終処分場の確保も含め、自治体にとって大きな重荷となっている。 我々の研究室では、亜臨界水(臨界点以下の高温高圧の水)を用いて、有機性廃棄物を小さな分子に分解してその中から有価物を分離し資源として利用、残渣をメタン発酵してエネルギーとして回収し、もとの有機物の大部分を利用しつくす地域分散型ゼロエミッションプロセスの研究を行っている。その基礎研究としては○亜臨界水処理、○分解物から有価物を分離回収するための分離工学、○有価物を分離した後の残渣のメタン発酵、○過熱水蒸気炭化による高性能メタン吸着材の開発。応用研究として、亜臨界水処理、メタン発酵装置、ガス発電、メタンガスモーターバイクや自動車など一連のパイロットプラントを設計建設し、実証実験も続けている。

8月6日(金)
物理班1
大阪市立大学大学院 理学研究科 数物系専攻
物性物理学講座 超低温物理学 畑徹教授

 超低温研究室では、絶対零度に限りなく近づく中での新しい現象の発見を目指した研究を行っています。絶対零度はー273.15℃ですが、熱力学的の法則より、我々人類は絶対零度に限りなく近づくことはできますが、絶対零度そのものには到達できません。さて、こんな低い温度を作っても自然が凍りつくだけで何も起こらなければこのような分野の研究は必要がなかったのですが、低温に冷やしていく過程で、室温では想像もできないような新しい現象が20世紀の初めに見出されました。それが、超伝導、超流動という現象です。超伝導は金属中の電子が電気抵抗ゼロで流れることができるような状態になることです。一方、超流動は液体ヘリウム(ヘリウム元素は1気圧のもとで絶対零度まで液体状態で存在できる唯一の元素です)が流れの抵抗即ち粘性なしに流れることができる現象です。このように、常識的には信じがたい現象が低温で起こります。研究室では主に超流動に関する研究を進めています。このような現象が起こる原因は、大学に入って習う粒子のもつ波の性質を記述する量子力学によって説明されています。

8月10日(火)
物理班2
京都大学大学院 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻
物理学第二分野 原子核・ハドロン物理学 永江知文教授

永江研究室 原子核物理学の実験的研究を、国内外の加速器実験施設を使って行っています。物質を構成している原子は、中心に正電荷を帯びた原子核があり、その周りを負電荷をもつ電子が回っています。原子核は、正電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子という粒子から成り立っています。これを結びつけているのが核力という強い力です。高エネルギーの加速器を利用すると、陽子や中性子の仲間の粒子であるラムダ粒子、シグマ粒子、グザイ粒子と呼ばれる不安定な粒子を生成することが可能になります。これらの粒子は、「奇妙さ」と呼ばれる新しい性質をもっています。このような粒子の間にも核力が働いて、新しい種類の原子核を形成します。この新しい原子核の性質を調べることにより、「奇妙さ」をもった新しい核力のことを理解することが可能となります。これは、「奇妙さ」をもった未知の原子核の世界を解明する手がかりとなるものです。