卒業証書授与式・式辞

 まず最初に、新型コロナウイルス感染症の件です。日々変わる情勢の中、本日の卒業式挙行の是非も、二転三転しました。本来ならばこの会場にお越しいただけたはずのご来賓、例えば堺市東区の区長さんやダンス部のアカネさんもご遠慮下さり、また皆の卒業をしっかり目に焼き付けてもらいたい在校生、さらに入場や退場の時に音楽で華を添えてくれる予定だったトミスイこと吹奏楽部の姿もない中での卒業証書授与式となりました。悔しいですね。しかしコロナウイルスの患者数は、日々増えています。皆さんの安全を確保するためにも、ひいてはこの地域の方々を救うことにもなると思っての判断です。どうぞ卒業生の皆さん、そして保護者の皆様、本日の運営形式にご理解のほどよろしくお願いいたします。では式辞を読ませていただきます。

 本日ここに、大阪府立登美丘高等学校 第68回卒業証書授与式を挙行いたしましたところ、保護者の皆様には多数ご出席を賜り、誠にありがとうございます。ここにめでたく、お子様の栄えある卒業をお迎えになりましたこと、心よりお祝い申し上げます。この栄誉は、保護者の皆様が、お子様を励まし、温かく育んでこられた賜物であり、ご覧のとおり、お子様は大変頼もしい若者に成長しました。この間に寄せられました本校へのご支援に対しまして、また、このたび卒業記念品として大型冷風扇を寄贈していただき、重ねてお礼を申し上げます。熱中症の予防として、安心安全な高校生活が送れるよう大切に使わせていただきます。ありがとうございました。

 さて、ただ今卒業証書を授与しました355名の卒業生のみなさん、おめでとうございます。

 皆さんと出会った去年の春、私は、登美丘高校の先生方全員に「登美高生がつけるべき力は何でしょうか?」と聞きました。21世紀の幕開けに生まれた皆さん、人生100年時代、皆さんの多くが21世紀を過ごしきる、生き抜く人材となります、2101年に100歳ですから。今、世の中を見渡すと、まず、たった一カ月半で世界が一変したコロナウイルス。その他にも気候変動。グレタさんに言われるまでもなく、猛烈に暑かったり、とんでもない台風が来たり、オーストラリアでも尋常ではない山火事が起きました。次いで経済。バイオテクノロジーやAIの進化。AIの美空ひばりが歌を歌い、手塚治虫が新作を描く時代になりました。皆さんが大人になったときに、自動車にハンドルはついているのでしょうか。更に社会。日本の平均年齢はいくつで、貧富の差はどこまで広がっているのでしょう。とんでもない大きな変化が連続する、その世の中を生き抜くために、皆さんはどのような力が必要でしょうか。皆さんを3年間見てくれた先生方はこう言いました。「自主的であって欲しい」「挑戦して欲しい」「自分の力を出し惜しみしない」「自分から動いてほしい」「優しい気持ちを忘れないで」。僕にはこう聞こえました。「『思いやりの心』と『挑戦する心』を両方持っている事。そうすれば登美丘の子は大丈夫。」 1年間皆さんを見てきて、私もそう思います。

 「思いやりの心」とは何か。AIが発達して今ある仕事の半分がなくなると言いますが、例えば、駅員さんは切符を切る仕事がなくなっても、昔はなかった車イスの方を電車に乗車してもらうために板を敷く仕事ができました。人を思いやることが仕事になっています。またアメリカのITサービス大手「コグニザント」という企業は、「歩き仲間/話し相手」という新しい仕事ができると言っています。今はどうお金になるかがイメージしにくいけど、確かに、そんな人がいてくれたらいいですよねえ。それにも思いやりの心は必須です。どうぞ登美高生の強みである「思いやりの心」を大切にしてください。ちなみに本当の優しさや思いやりの心は、みなが元気な普通の毎日ではあまり響きません。でも今のような非常時、普段でない、苦しい時に、普段通りの優しさ、思いやりが示せるかどうかがとても大切となります。皆さんも苦しい時に、嫌な顔しないでさりげなく親切にしてくれる人は信頼できるでしょう。だから実はこういう苦しい環境の時は、思いやりや親切心を磨くチャンスなんです。今はチャンスなんです。そう考えてください。

 もう一つ、「挑戦する強さ」についてです。皆さんは、次の進路を夢見てこの一年頑張ってこられましたし、今も歯をくいしばって頑張っている方もおられます。そんな皆さんに、夢と志の違いについてお話します。夢と志の違いとは何か?例えば「看護師さんになりたい」のは夢です。「〇〇大学に行きたい」のも夢。「ユーチューバーになりたい」のも夢です。志とはちょっと違う。「僕はユーチューバーになるという夢があります」とは言いますが、「僕はユーチューバーになるという志がある」とは、あまり言いません。「看護師さんになる」のは夢。「看護師さんになって、病気で不安に思う人を勇気づけたい。安心して病院に行ける世の中を作りたい」というのは志です。ソフトバンクの孫さんも言っています。「夢は漠然とした個人の願望であり、志は個々人の願望を超えて、多くの人々の夢を叶えようとする気概です。夢はこころよい願望だが、志は厳しい未来への挑戦です。」と。なので、みなさん、どうぞ志をもって、未来に挑戦していってください。

 この、挑戦する力、例えば今のように不自由や困難を目の当たりにしたとき、「『目の前の人』のために自分に何ができるだろうか」と考えられる力でもあります。今回の来賓の件でアカネさんと話していた時、アカネさんは「今まで、ずっと走り続けていたのでとれなかった家族との時間を大切に過ごします。そしてしっかり休養できたら、今自分ができることを始めていきたい」とおっしゃっていました。この時期は立ち止まること、家族と過ごすこともまた大切です。 その後自分にできることを考えて、ちょっとワクワクさえするような人は、たぶん今後何が来ても大丈夫です、やっていける。

 「挑戦する行動力」と「人を思いやる親切さ」を両方持っていれば、きっと皆さんの未来は明るいと確信しています。

「挑戦する強さがあるから、人を包む優しさを持てる。あの子はそういう子だ。」

 そんな風に思ってもらえる、素敵な人になってくださいね。

 保護者の皆さま、改めてご卒業おめでとうございます。たくましく成長されたお子様の姿に、皆さまの胸にも熱き思いがあふれていらっしゃることと存じます。68期生は、これから大人の世界、厳しい世界に旅立ちますが、きっと大丈夫と思っています。この厳しい状況からのスタートです。あとは良くなるしかありません。卒業生の皆さんのご活躍、ご多幸を祈ります。

 2023年には本校は創立百周年を迎えます。『強いから優しい』皆さんとどこかでお会いできること、活躍を耳にすることを楽しみにして。卒業式の式辞といたします。

頑張ってください。

令和2年3月2日 大阪府立登美丘高等学校 校長 山本哲哉