1. はじめに
電流と磁界の単元では,物質とのかかわりにおいて指導を行うことが少ない.しかし,物質中の電流の流れ方や,物質と磁界の相互作用など興味深い現象も多く,たとえば,マクロな磁石の振る舞いをミクロな原子や電子の働きから考察する過程で,電磁気の法則等をも理解させていくことができる.電流や磁界に関わる基本的な実験を通して,現代の自然認識につながるミクロな物の見方ができ,我々と自然や物質とのかかわりに興味・関心を持たせることができる.
授業の中で,自然科学の先端的研究や技術に触れ,また,そこで行われている実験や新しい物質の製作を行うことで,科学的基礎研究,科学技術に対する理解を得ることが可能となる.さらに,教科書の先端分野の記述をより具体的なものとして提示し,物理の内容をより深いものとすることができる.
ここでは,10年程前に話題1)となった高温超伝導物質の製作を行い,その電気的性質や磁気的性質を調べる.そのプロセスを通して物質の原子及び電子レベルのミクロな振る舞いを理解させることを目的とする.
2. 金属の抵抗の温度変化
金属や半導体の抵抗は温度に伴い変化する.導線に用いられる金属は温度が高くなるとその抵抗は大きくなり,逆に温度が低くなると小さくなる.これは,図1の実験で定性的に示すことができる.具体的には,直径
0.1 mm の導線(例,銅線)を角材に 100回程度巻き付けたものを抵抗とし,これに豆電球を直列に乾電池と接続する.巻き線を液体窒素を入れた魔法瓶に浸けて冷却し,電流の変化を観察する.この実験により,電子及び原子の熱運動と電流の関係を想像させ,電流のモデル(図2)を考える.まず,電流を電気を持った粒子の運動と考えてモデルを立てる.そのモデルから,抵抗や発熱の原因,電流と電圧の関係を予想させる.さらに進めて,電流と電圧を測定し,導線の長さ,直径から抵抗率を求め,金属の抵抗の温度依存性をみる.
3. 超伝導現象とは
熱運動が無視できる温度では,どのような電流の振る舞いが見られるだろうか? 金属や半導体では,低温で電気抵抗が零となる現象がみられる.この超伝導現象は,1911年オランダのカマリン・オネス2)により,液体ヘリウムの温度下(4K)の水銀で発見された.この現象は,銅や鉄などでは見られず,鉛や錫などにおいて発現する.室温では原子の熱運動(格子振動)が無秩序であり,電流の担い手の電子は運動方向を不規則に曲げられ,いわゆるブラウン運動2)を行う.電場を加えなければ,電子の運動方向はランダムで平均速度は0である.電場を加えると,伝導電子はその方向に加速され,電流が現れる(図3).熱運動が無視できる低温では,伝導電子がエネルギーの最小状態に存在し,位相が揃った運動を行い,電気抵抗が零となる.
最近,ある種の金属酸化物のセラミックスでこの超伝導現象が発見された.この物質が発見されたことで,超伝導現象が身近な存在として考えることができるようになった.
4. 酸化物超伝導体の製作と実験
ここに紹介する酸化物のセラミックス超伝導体は,YBa2Cu3O7−d(0.5≦d≦1)である.酸化イットリウム(Y203),炭酸バリウム(BaCO3),酸化第2銅(CuO)の原料を
1 : 4 : 6 のモル比(重量はそれぞれ1.1g,2.4g,3.9g)で混合する.乳鉢でよく混合し,これを直径
10 mm 程度の円筒状に加圧成型し,電気炉で900℃前後において焼成する.炉の温度が1000℃を越えると緑色の物質(Y2BaCuO5)が生成されるが,これは超伝導を示さない.一定の酸素雰囲気で焼成を行うのが望ましいが,空気中でもよい.また,炉の昇温を急に行うと,一部に液相を生じ組成がずれる.500℃前後で酸素を吸収するが,炉冷を早く行うとその酸素の吸収率が悪くなる.以上のことに注意しながら,3時間から10時間焼成を行う.長時間焼成を行うことにより超伝導転移温度が上昇する.円盤状の試料を細長く切り出し,細い銅線を巻き付け,銀ペーストで固定する.電流を流す端子と電圧を測る端子を図4のように離して付ける(4端子法).電流を1mA程度流し,電圧をマイクロボルトメーターで測定する.XYレコーダーのX端子に試料の面に貼り付けた熱電対の出力をつなぎ,Y端子にマイクロボルトメーターの出力をつなぐ.それぞれの出力の大きさが適当な値となるようにオペアンプで増幅しておく.マイクロボルトメーターの出力の温度依存性を記録計に描かせ,超伝導の転移を観察する.その例を図5に示す.
抵抗は0℃における値R0の2分の1程度まで単調減少し,TC付近で急激に0となった.TCは超伝導
転移温度を表し,今回の測定では80〜90Kの範囲であった.次に,完全反磁性を示すかどうかを調べるために,磁気浮遊の観測を行った.強力磁石を図6のように配置し,液体窒素で冷却した試料をその上に静かに置く.試料が超伝導状態のとき浮遊し,温度が上昇すると常伝導状態にもどり浮かなくなるのを観察した.逆に,液体窒素で冷却した試料の上に薄い円盤状の強力磁石(希土類磁石)を浮かしてみることもできた.このような実験から,超伝導物質の完全反磁性の起こる理由を推測させ,同時に電磁誘導との関わりにも触れることができる.
5. まとめ
超伝導体の製作を行い,その電磁気的性質を調べることから,電磁気の学習を行う例を示した.先端研究で開発された種々の電気的磁気的材料は,他にも興味深いものがある.具体的には,アモルファス材料,希土類磁石などがある.このような先端材料に触れ,その不思議さを知ることで,知的興味を持ち関心を抱き,正しい物質観が育まれることを期待する.
引用・参考文献
1)高野幹生:希土類 No.25(1994) 29(日本希土類 学会)
2)中嶋貞雄:超伝導入門(新物理学シリーズ 9 培風館 1971)