校長通信

2月24日(金)
第30回卒業証書授与式 式辞

 ひときわきびしかったこの冬の寒さの中に、微かながらも確実に春の兆しを感じる今日、大阪府立金剛高等学校第30回卒業証書授与式を挙行するにあたり、大阪府教育委員会ご代表をはじめ、たくさんのご来賓の臨席を賜りました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。
 また、保護者の皆様には、お子様のご卒業を心からお慶び申し上げます。心身ともに大きく成長する時期のお子様の健やかな成長を願いつつ、見守り支え続けて来られた保護者の皆様には、感慨もひとしおのことと拝察いたします。同時に、本校の教育方針、教育活動にご理解をいただき、ご支援くださいましたことに心より感謝申し上げます。

 30期生のみなさん、卒業ほんとうにおめでとうございます。
みなさんを迎えた日が、つい昨日のことのように思える半面、とてつもなく遠い日にも思えます。それは、みなさんが金剛高校で過ごしたこの3年の間に、世界があまりにも大きく変わっていったからです。ヨーロッパEUの経済危機や「中東の春」と言われる独裁体制の崩壊とその後の混乱、予測もつかなかったことが次々と起こり、グローバリズムの中、私たちの生活はそれらと無関係ではいられませんでした。そして、昨年3月11日の東日本大震災は、あまりにも大きな課題と試練を、私たちにつきつけました。

 皆さんの中に、卒業後進学し、就職したらそこがゴールだと思っている人はいませんか? これからの社会でそのようなことはありえません。働き始めたら益々、君たちは学び続け、考え続けなければなりません。正解のない難問に挑み続けなければなりません。
 これからの社会を生きる君たちに必要なのは、何が起こっても、どんな状況がやってきても、力を合わせて苦難を乗り越え、未来を切り拓いていく力です。

 今日はそんな君たちに、一人の先輩の生き方を紹介します。その人は建築家です。名前を三木万貴子さんといいます。
 三木さんは、金剛高校を卒業後、短大に進学して大手企業に就職しましたが、もともと持っていた夢の実現のため、大阪芸術大学に入学し、建築士となって建築事務所に勤めました。そんな頃、阪神大震災が起こりました。

 以下は、三木さんが8年前に、金剛高校生に送って下さったメッセージからの抜粋です。

『夕方4時ごろ、ホッとしてテレビを見て一瞬目を疑い驚愕しました。神戸の街が真っ赤に燃えていたからです。大変なことが起こっている! 被害状況が刻々と報告されるにつけ、何とかしなくては!と思いました。次の日に阪神地区で過去に事務所で設計した住宅などに被害がないかを手分けして調べました。私も何かしたかったのですが、目の前の業務があり、まだ見習いのためにそれをこなすので精一杯でしたし、専門知識も乏しかったので建築分野で社会の役に立つことができませんでした。震災から1カ月後に救済物資の仕分けボランティアで、神戸に入ったときには、ほんとうに涙が出ました。自分の無力さに無念を感じました。
 あれから10年がすぎ、私は被災建物応急診断士という資格を取り、災害の時に被害にあった建物の安全性を診断することができるようになりました。人にはそれぞれ使命があると感じています。生れて来たからには必ずその人が世の中に貢献する役割があると。それは家族を大切にすることかもしれないし、仕事で人の役に立つことかもしれない。つまり、いかに生きるかということです。』と。

 テレビに映し出される阪神大震災の惨状に三木さんは「大変なことが起こっている!被害状況が刻々と報告されるにつけ、何とかしなくては!と思いました。」と当時を述懐しています。昨年の3月13日(東日本大震災から3日めの日曜日)、校長室にやってきた君たちもまた、「テレビを見ていて、じっとしていられなくなりました。何とかしなくてはと思います。」と私に訴えました。真剣なまなざしでした。その後は、みなさんが知っているとおりです。終業式で全校生徒に呼びかけ、仲間を募り、エコル・ロゼでの吹奏楽部のコンサートとコラボして地域に発信し、あちこちで募金活動を展開しました。部活動を中心にたくさんの人が参加しました。みなさんの熱い心と行動力を私は誇りに思いました。

 さて、震災から一年が過ぎようとしている今も復旧への道のりは困難を極め、多くの人たちが未だきびしい生活を強いられています。募金も一頃ほど集まらなくなっているといいます。そんな中、関西の大学生たちの創造的な支援活動が注目を集めています。
 台風12号で被害を受けた和歌山県特産の梅と東日本大震災で被災した岩手県の酪農を結びつけたジェラート(アイスクリーム)を村の第三セクターと共同開発した和歌山大学経済学部の学生たち。東北への観光で地域経済の復興に協力できるのではないかと東北六県の魅力を紹介する観光ガイドブックをつくり、大阪市内で「東北大観光展」を開いた関西大学社会安全学部の学生たち。彼らの支援はみなさんと同じ「何とかしなくては」という思いから生まれています。同時に大学での自らの学びを活かしたものであること、人と地域をつなぎ、現地の経済活動や雇用につながるものであること、そして何より彼ら自身が軽やかで楽しそうであることに、私は未来への希望を感じています。

 三木さんのことに戻ります。彼女は建築家として名をなし、多くの賞を受賞し、成功をおさめた今も、京都大学の大学院で世界中から集まった学生とともに学び続けています。もちろん講義はすべて英語です。また、地元富田林の寺内町にアトリエを持ち、地域の振興にも力を尽くしておられます。

 災害はこの国に多くの困難をもたらしました。しかし、「何とかしなくては」という思いで学び、学ぶことでまた多くの人とつながり、地域や社会を変えるエネルギーを産み出していく人たちがいます。
 どうかみなさんも、生きるために学び、学ぶことでつながり、「共に生きる」ための英知を寄せ合いながら、地域や社会の中で、金剛高校の卒業生として、誇り高く生きていってください。

 最後に、本日卒業証書を授与したすべての人の未来が、幸せなものとなることを心より願って、式辞といたします。


            平成24年2月24日

              金剛高等学校校長  前 比呂子






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