図書館報『あづさ』より「私の薦める一冊」

『夜のピクニック』 恩田 陸 著

校長 桝井 則子 

 高校生活の行事。ふだんとは、ちがう時間が流れています。一緒にいる友だちに励まされたり、先生と話し込んだり、しゃべったことのないクラスメートの別の顔にふれたり、同じ場所で過ごしているはずの人たちと、ちょっとちがう時間を一緒に過ごします。

 『夜のピクニック』は、ある高校の行事「歩行祭」の話です。全校生徒が夜を徹して八〇キロを歩き通す、その二四時間の出来事が書かれています。主人公の貴子は、自分のことを「冴えない高校生」だと思っています。そんな貴子は、硬式テニス部のクールな男子、融(とおる)が気になっています。きっかけがつかめないので、ずっと話せていないのですが、同じクラスになってから毎日意識しています。融も意識しているようですが、なにか冷たいまなざしを感じます。貴子の友だちのみわりん、融の友だちの忍(しのぶ)、今はもう転校して米国にいる杏奈。そんな友人たちに囲まれた日常のなかで、高校最後の行事「歩行祭」が近づいてきます。そのとき貴子はある決心をします。

 みんなで取り組む「歩行祭」のなかで、不思議なことがおこります。それぞれの思いが交錯して時間が流れ、歩き続け、朝を迎える頃、ある奇跡が起きます。

 貴子は、ぼそっと文句を言った(中略)

「あたしなんか、部活もしてなかったし、勉強も今いちだし、何も起きない、冴えない高校生だったよ」

「そういうもんかね」

「大部分の高校生がそうなんじゃないの」

「そうかなあ。他人は青春しているようにみえるんだよな」

「でも、今、してるじゃん」

「え?」

 融がきょとんとすると、貴子は小さく笑った。

「これって凄く青春ぽくない? 高校生活最後の行事。歩行祭の、一番終わりの頃になって、ようやくこれまで口きいたことのない、憧れのクラスメートと話してる」

 融は絶句したが、つられて笑った。(中略)

 融は、ふと真顔になり、遠くを見た。

「でも、現実は、これからだもんなあ」

 貴子は融の視線の先を見た。

 世界に光が降り注ぐ。

 みなさんも行事でちょっとちがう時間を、いつも一緒の人たちと過ごせますように。そのことが、あたり前の日常を輝かせますように。

金剛高校では、2月に耐寒訓練がありますね。長時間の街歩きという点で、「歩行祭」に似ています。

 

融は言っています。

「もっとちゃんと高校生やっとくんだったな」

 映画もあるけど、やっぱり原作の本を読んでみてね。

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