38期生卒業式式辞

 冬の寒さも峠を越え、春の訪れを感じる今日、大阪府立金剛高等学校第38回卒業証書授与式を挙行するにあたり、大阪府教育委員会ご代表、高等学校課学校経営支援G主任指導主事 中川ひろみ様をはじめ、たくさんのご来賓のご臨席を賜りました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 また、保護者の皆様には、お子様のご卒業を心からお慶び申し上げます。心身ともに大きく成長する時期のお子様の健やかな成長を願いつつ、見守り支え続けて来られた保護者の皆様には、感慨も一入のことと拝察いたします。同時に、本校の教育方針、教育活動にご理解をいただき、ご支援下さいましたことに心より感謝申し上げます。

38期生のみなさん、卒業おめでとうございます。

 思い起こせば3年前の春、私はあなた方の入学とともに18年ぶりに金剛高校に帰ってきました。以来3年間、私はあなた方38期生とともに歩んできました。掛け値なしの実感ですが、私がかつていた頃の金剛高校と、今の金剛高校の違いは、一年より二年、二年より三年生の方が、明らかに力を身に着け、人間として成長させる学校になったことです。私は、ことあるごとに、後輩たちにとって「あこがれの先輩」となるよう、背伸びしなさいと言ってきました。あなた方の3年間の歩みを振り返っても、あなた方がこの金剛高校での3年間で、力をつけ、人として大きく成長したことがよく分かります。

 そのことをまず実感させたのは、二年時の修学旅行です。最初、学年集会で剣道場に集合した時、正直、大丈夫かと心配しました。しかし、何回か回数を重ねて修学旅行の準備をするうちに、あなた方の態度は、どんどん良くなりました。前日の結団式では、よし、これなら大丈夫と確信しました。実際、修学旅行中のあなた方の、規律ある行動は見事でした。誰一人自分勝手な行動をすることなく、仲間を思いやり行動しました。3日目の夜のリクレーションの講評の時、私の第一声が「成長したな」だったのを覚えていますか。私はよくここまでたどり着いたと、本当にその時、実感したのです。この修学旅行であなた方は、大きな自信を持ちました。3年生になり、四月当初からの体育祭の準備は、真剣そのものでした。誰もが団の優勝をめざして結束し、一人ひとりの役割を十全に果たそうとしていました。天候の関係で体育祭が二回、延期になった時、あなた方の不満が爆発しそうになったのも、体育祭にかける情熱の裏返しでした。体育祭当日は、規律を守った上で、そのエネルギーを完全燃焼させました。評価としても価値としても、どの団も甲乙つけがたい、素晴らしい体育祭をあなた方はつくりあげました。

 文化祭の取組もあなた方は、見事に形にしました。指定校推薦や就職選考、真っただ中でクラス劇を作りあげることは、並大抵の力ではできません。劇の出来不出来、演技のうまい、へたではなく、クラスとしての団結力が問われているのです。あなた方は、やりきりました。

 こうした学校行事や部活動だけではなく、毎日の教科授業への地道な取り組み、進路実現に向けたひたむきな努力、普通科総合選択制最後の学年としてのエリア発表会など、みなさんは金剛高校での「経験」と「学び」を通して、人間として着実に成長しました。このことをまず誇りに思って下さい。

 さて、卒業後、あなた方が、旅立つ社会はどのようなものでしょう。

今後、日本社会は人口が減少し、超高齢化社会が進行します。1千百兆円を超える国の負債の財政問題と、貧困や格差解消のための社会保障の問題の解決は、喫緊の課題です。その他、虐待、いじめ、パワハラ、ヘイトクライム、外国人の受入、働き方改革、エネルギー問題も深刻です。世界に目を向けると、民族・宗教対立、戦争、テロ、難民・移民、環境問題など、地球規模で、人類として解決すべき問題が山積しています。

 さて、こうした課題に、私たちは如何に向き合えばよいのでしょうか。

 みなさんは、SDGsを知っていますね。SDGs=Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標です。このSDGsは、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17の国際目標と、169のターゲット、232の指標を定めています。

 このSDGsに、今後のめざすべき社会の方向性が明示されています。キーワードは「平和」「人権」「環境」です。

 5年後、2025年に開催されることが決定した大阪・関西万博の開催目的は、このSDGsが達成される社会です。

 しかも、私たちの金剛高校がある富田林市は、このSDGsの「誰一人として取り残さない」とするSDGsの理念を市政に取り入れるべく、昨年「富田林版SDGs取組方針」を策定しました。

 みなさん方は、今後、社会の進むべき方向性を考える時、この世界の叡智の結晶であるSDGsを指針として下さい。

 ところで、みなさんはVUCAという言葉を知っていますか。

 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べて「VUCA」といい、現代は、「VUCAの時代」だと呼ばれて久しいです。 この複雑で予測困難な「VUCAの時代」、この社会を「生き抜き」「立て替える」ために、どんな力が必要なのでしょうか。

 私は、「もの」「こと」「人」に真摯に向き合い、関わる力だと思います。それが誠実さです。誠実さとは、真心を持って物事に関わり、嘘偽りがないことです。

 金剛高校の生徒は真面目で、素直、人に優しい。まさしく誠実です。あなた方は、何も恐れることはありません。「VUCAの時代」においてもこの誠実さを今後も発揮させればよいのです。

 さらに言えば、この誠実さの核にあるのが、「共感性」です。「共感性」とは、人の痛みや思いを感じ取る力のことです。あなた方は、金剛高校での様々な活動を通じてこの「共感性」を身につけました。クラススタートアップではクラスの仲間の思いに応えようとし、修学旅行では委員や班長の思いを大切にしようと行動し、沖縄の民泊の方々の心遣いには、温かな心で応え、体育祭では団長の熱い思いに自らを奮い立たせ、人権学習では、当事者の方の痛みに触れ、反差別・人権尊重の生き方への思いを強くしました。あなた方は学校生活の様々な場面で、人の痛みを感じ取り、想像をめぐらせ、人の願いや思いに応えようとしてきました。

 あなた方が金剛高校で培った「誠実」さや「共感性」は、これからを生き抜くための大きな力となります。先行き不透明な時代にあって、人から信頼される人間になることを心がけてください。

 最後に、社会に旅立つみなさんに餞の言葉を贈ります。

 みなさんは、勝海舟を知っていますか。幕末から明治にかけて活躍した人物です。坂本龍馬が、幕臣である勝海舟を斬りに行き、勝の人間としての器の大きさに魅了され、「先生」と呼んで弟子入りしたことは、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」の中の有名なエピソードです。

 その勝海舟は1868年、徳川幕府を倒すべく江戸城を攻撃しようと進軍してきた西郷隆盛と交渉し、内乱を避け、戦火から江戸の人々を守るため、江戸城を開け渡しました。後に福沢諭吉が、幕臣であるにも関わらず、戦わず、城を明け渡したのは情けないのではないかと、文句を言ったのに対し、勝は次のように答えます。

行蔵(こうぞう)は我に存(そん)す。

毀誉(きよ)は人の主張、我に与(あずか)らず我に関せずと存じ候(そうろう)。

各人へ御示し御座候とも毛頭異存(もうとういぞん)これなく候。

 意味は、「行為は私のものである。けなしたり誉めたりは人が主張することです。私には関係のないことだと思っています。なので人が様々に論評してもいっこうにかまいません。」です。

 1868年のあの時、あの場所で、勝海舟は、幕臣という自分の立場よりも、この国の将来、人々の暮らしを守ることを最優先させ、決断を下したのです。

 その責任は自分にあるので、人がその行為に対して論評を加えても、いっこうに構わないと、彼は言います。

 彼は自分の立場やプライドより、彼が信じる大切なものを守るために行動したのです。

 そしてその行為の結果を自らの責任として引き受け、他からの批判に動じない姿勢を持っていたのです。

 再度言います。「行蔵(こうぞう)は我に存(そん)す。」「毀誉(きよ)は人の主張」です。

 あなた方の「自由意志」による「行為」こそが大切なのです。人の論評には耳を傾けても、決して流されてはなりません。入学式の時にみなさんに贈った言葉、デカルトの「我思う。ゆえに我在り。」も同じことです。

 大切なものを見つめ、それを守るために決断し行為する、これがあなた方の今後の人生を切り拓くのです。

 真面目で、素直、人に優しく、誠実なあなた方は、今後もその共感性を生かして、人から信頼される人間として生きて下さい。

 同時に「自由意志」による「行為」によって、「こと」を成就させて下さい。

 あなた方一人ひとりの「行為」が、SDGsの「誰ひとり取り残さない」社会を実現させるのです。

 金剛高校はこれからもあなた方のホームスクールとして、あなた方を見守り、応援します。

 これを私からの式辞とします。

                            令和2年2月22日

                        金剛高等学校 校長 上本 雅也

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