卒業証書授与式

 平成29年3月4日(土)10時より本校体育館において卒業証書授与式を行いました。槻の木高校らしい凛として、品位ある卒業式を執り行う事ができました。ご来賓の皆様、保護者の皆様、関係者の皆様ありがとうございました。校長の式辞は下記の通りです。

(式辞)

 厳しい寒さが和らいで、ようやく春が感じられる本日ここに、大阪府立槻の木高等学校 第12回卒業証書授与式を挙行する事ができました。この佳き日に、大阪府教育庁ご代表をはじめ、多くのご来賓の皆様、保護者の皆様のご臨席を賜り、高い席ではありますが、厚くお礼申し上げます。

 また、保護者の皆様には、多感な時期を経て、今晴れやかに巣立つ子供たちを見て、感慨もひとしおと拝察されます。教職員を代表して心よりお喜び申し上げます。また、入学より三年間、本校の教育活動に対して、ご理解とご支援をいただきました事、改めて感謝申し上げます。

 さて、卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんは、本校の教育目標である「知・徳・体」のバランスのとれた人格形成のために、基本の徹底、規範の遵守、継続を旨として日々努力してきました。早朝より時間厳守の毎日、始業から終了まで完全50分の授業、分刻みのスケジュールをこなしてきました。さらに、それであっても「当たり前の事を当たり前に」と当然として行いました。このような日常を勉学や部活動や生徒会活動や学校行事等で続けました。私は、皆さんを誇りに思いますし、皆さんも、かけがいのない青春の一時期を完全燃焼させ、晴れて卒業の日を迎えました。これは、もちろん、皆さん一人ひとりの努力の賜物ですが、温かい愛情をもって励ましてくれた保護者の皆様、友人、先生、皆さんを温かく見守って頂いた地域の方々のお陰でもあります。感謝の気持ちを忘れず一層努力してください。

 私は卒業生の皆さんに、三つの点で思いを伝えたいと思います。

 その一つは、今皆さんは恩師の下から離れますが、それには大きな意味があるという事です。これからは学びの質が変わります。私は、昨年、槻の木文庫にヘルマン・ヘッセの「シッダールタ」という小説を推薦しました。この小説も、若き修行僧「シッダールタ」が尊敬しつつも仏教の師ブッダの下から去っていく事から始まります。理由は、師ブッダから「悟り」の教義を教えてもらっても、「シッダールタ」は悟れないからです。「悟り」は「教え」で理解するものではなく、自分で実感して分かります。師ブッダから丁寧に知識として教えてもらっても、分からず悟れず、そして師の下から去ったのです。師からの教えには、限界があります。これから皆さんが求める「人生の目的」や「人生の幸福」は知識として教えてもらっても分かりません。それよりも、失敗や挫折によって、社会の知恵を身につけて学びます。そのために、師から離れ、人々と協調しながらも、ひとりで学ぶ覚悟をもってください。

 二つ目は、時間の問題です。これから皆さんは、自分で管理できる時間と自由を手に入れます。明日、突然、海を見たいと思って、見に行く事も可能です。槻の木高校の毎日からすれば、時間がゆっくり流れていると感じるかもしれません。海を見に行く事も大事ですが、自由な時間ほど管理しにくいものはありません。ある哲学者は、「人間は、時間が分かる唯一の存在である。」と言いました。そして、人間は過去や未来という時間の広がりも分かります。特に、未来はワクワクするような夢が実現するかもしれません。しかし、そのような時間も人の生命とともに限りがあります。時間は限りある可能性です。時間は自由であろうが、なかろうが、限りあると思って大事にしてください。

 三つ目は、倫理観や思いやりの精神を持ち続けてください。日本は資源がなく、さらに世界の約10%の地震が発生するなど災害大国です。しかし、戦後、幾多の大震災や経済的困難を乗り越えてきました。阪神大震災では発生直後にも関わらず、友や親類を助けるために、リュックに水や食料を入れて、大阪から神戸まで徒歩で歩いた者が多くいました。そして、現在、日本では薬や水などの医療や環境、また建設や交通のインフラ技術など、「安全や信頼」を輸出しています。このように世界から一目置かれる思想や技術も、バブル経済崩壊や大震災を乗り越えて学び取った日本の知恵です。その基盤が、倫理観や利他の精神にあるという事を忘れないでください。

 今、皆さんに三点言いました。学びの質を変える。時間は限りある可能性である。倫理観を持ち続ける。そして、結びです。私は、本校に着任して間もなく皆さんの修学旅行に付き添いました。その初日のオリエンテーリングで草原の斜面を全力で疾走している姿を見て感動しました。着任前から聞いていましたが、何事にも真摯で前向きで互いに思いやりのある姿は素晴らしいものです。また、今年も見事に「受験は団体戦」をみんなで戦いました。皆さんが共に過ごした三年間は人生の中で最も純真で美しく輝いていると思います。

 そして、卒業後も、そのように心美しい生き方をしてください。周りに流されず、枠にとらわれず、社会や人々のために、自分を肯定できる生き方をしてください。それには、スキルやハウツーは必要でなく、苦しい経験から身につけた知恵や倫理観が基盤となります。先ほどお話しした「シッダールタ」もブッダの下を去った後、落ちぶれたり、富豪となったり、世間の喜怒哀楽を経験しながら、最後に悟りを求めて川の渡し守になります。そして、人生を生き抜いてきた知恵によって、ひとりで心の平安をつかむのです。心美しい生き方は、教えられるものではなく、皆さんが人生を賭して、つかみ取っていくものです。これからの人生は順風満帆ではないでしょうが、逆境も味方にして、自分の運命を愛してください。皆さんが、人生の目的を得られんことを祈っています。

 最後に、保護者の皆様には、重ねてお礼申し上げます。私たち教職員は、このような素晴らしい若者とご縁を結ぶ事が出来た事に感謝しております。そして、卒業生の皆さんには、末永く幸多からんことを祈り、式辞と致します。

           平成29年3月4日

              大阪府立槻の木高等学校長   竹下 健治