この文書は、門真高校における中国渡日生の指導の指針として、職員会議などでの論議を経て作成されたものです。

      本校の中国渡日生の取り組みは、この指針に基づいて進められます。

                                                            

 

                  中国帰国生の教育に関する「指針」

                     −私たちは、中国帰国生にどう関わるか−

1.基本的な考え方−私たちは、中国帰国生のアイデンティティの確立にどのように寄与できるか?

1)私たちは、中国帰国生を一方的に、「中国人」「日本人」という枠でとらえません。

中国帰国生は、いわゆる「中国残留邦人」の家族で、その3世や4世にあたります。そのため、「中国残留邦人」の家族(たいていは孫)であるのだから「日本人」であると考えがちですが、帰国生は中国で生まれ育ち、中国国籍を持っています。また、帰国生の母または父のどちらかが「残留」邦人の子ですが、他方は中国人であるという事実も忘れることはできません。私たちは、中国帰国生の「ルーツ」をどこに求めるかという視点をとりません。

2)中国帰国生が「中国で生まれ、中国人として育ってきたこと」を尊重します。

日本で生活しながら、自分の生まれた土地のことについて語れない、また日本に来るまでの間の中国での経験や生活について自信をもって友人らに語ることができないという状況は不幸であると考えます。私たちがやらなければいけないことは、帰国生たちが「中国で生まれ中国で育ったこと」を自信をもって語れるよう援助することです。これが私たちに与えられた責務であると考えます。

3)中国帰国生のアイデンティティと私たち

中国帰国生が、今後どのような生き方を選択するのかは分かりません。日本社会の中で、中国人として生きていく、あるいは中国系日本人として、または日系中国人として自己確認しながら生きていくのかもしれません。さらに、中国へ帰っていく帰国生もいるに違いありません。「私たちは日本と中国の架け橋になるのだ」という帰国生の言葉もよく耳にします。

私たちが、中国帰国生のアイデンティティを決定することはもちろんできません。また、日本人になることを薦めることも間違っています。私たちにできることは、中国帰国生が自己を確立していくことに、できる限りの援助をすることであると思います。

なお、中国帰国生が卒業後、日本社会で生きていくのか中国へ帰っていくのかは分かりませんが、帰国生がどのような生き方を選択しても困らないよう、中国藷の学習も含めて保障していきます。

4)「中国帰国生」という呼び方

「中国帰国生」という言葉は、中国から(日本人が)日本へ帰ってきたという意味合いを持つ言責です。ところが実際には、中国帰国生のほとんどは中国国籍であり、先に書いた通り「日本人」として括ることのできない存在です。中国「残留」邦人の祖母(または祖父)を一方に持つからと言って「日本人」と決めつけることはできません。「中国帰国生」という呼び方は、これらの生徒たちを一方的に「日本人」化していくことを意味するので適切でないと考えます。一方、「渡日生」という言葉もありますが、これもこれらの生徒たちをうまく言い表しているとは思えません。ほかにいい言葉がありませんし、「中国帰国生」という呼び方が一般化しているので、私たちは便宜上この言葉を用いますが、決して「中国帰国生」を「日本人」として扱うということではありません。

今後、東南アジアや南米などからの渡日生徒が入ってくることも十分予想されますが、そうした渡日生徒に対しても、中国帰国生に対する私たちの経験が役立つと思われます。基本は、それぞれの文化を尊重し、渡日生徒の持つ母語・文化的背景を損なうことなく、それに自信を持たせることを通じて日本で生きていく力をつけさせることにあります。決して、「日本で生活するのであるから日本人化する」ということではありません。

 

 

2.本名の使用について

〔基本方針〕

本名で入学してきた帰国生はそのまま本名を使用する。
日本名で入学してきた生徒については、本名で生活することをすすめるが、本
人・保護者の意思を尊重する。

 

 日本社会で生きていく上で、本名の方が「楽」であると思われます。たとえば、日本語が不自由な場合、相手の人はそのことを不思議に思い、あれこれ詮索することもあります。そうであるより、中国人であることをはっきりとさせた方が生きていきやすいと考えています。中国から来たのだから日本語が下手なのは当たり前です。

 また、本名を名乗ることが、中国で生まれ育ったことへの自信につながります。名前を隠すことが、自分の意識の中では「マイナス」に作用するのではないかと思います。 自分に自信を持つ事、自分をありのままに認め、肯定することが大切です。

 

 

3.母語保障について

〔基本方針〕

母語(中国語)を保障するため、放課後などの時間を使って、中国人講師による中国語の学習を行う。

 

*母語保障と日本語学習

 母語がしっかりと確立されていないと、日本語の学習も進まないと言われています。

*母語をしっかりと喋れることが自信にもつながります。

*保護者との関係

 日本語を習得するにつれて中国語を忘れていく傾向があります。しかし、帰国生の保護者はほとんど日本語を理解しません。中国語を喋れない子どもと日本語を理解しない両親との間でコミュニケーションが成立しなくなるという話もよく聞きます。日本語を習得した子どもに、日本語を理解しない両親を「軽蔑」するような意識も生まれてくる と言います。それは、生徒自身にとっても、自分の生まれた土地や過去を否定することにつながります。

 また、将来中国へ帰る(親が帰りたがることが多い)ことになった際、中国語が必要であることは言うまでもありません。

 

 

4.日本語等の学習指導(抽出授業)

〔基本方針〕

日本社会で生きていく力をつけさせる。
日本語の習得状況に応じて、授業から抽出して日本語の指導を行う。中国人講師による
指導を中心に置く。主に、「国語科」の時間を抽出する。
日本社会の基本的知識を身につけさせるため、授業から抽出する。主に、「社会科」の時
間を抽出する。

 

*日本語指導について

 日本社会で生きていくための日本語の力をつけることを目的とします。

 日常会話ができていても、学習言語が確立していないことが多いので、注意が必要です。これまでの様々な渡日児童・生徒の日本語指導の研究から明らかなように、日常会話ができ意思の疎通ができても抽象的なことを表明する言語(学習言語)が確立していないことが少なくありません。会話ができるからといって日本語の学習がいらないとは言えません。現在の日本語の力や日本へ来たときの年齢なども考えあわせながら、適切な日本語指導をする必要があります。

 系統的な日本語指導を行い、日本語検定の1級を在学中に取ることを目標とします。日本語検定1級は、大学での勉強に必要な程度です。

*日本社会の一般的知識の学習

 日本社会で生きていく上で、最低限知っておいた方がよい知識をつけさせます具体的には、日本の地理、歴史、政治経済、慣習などで、日本の高校生が知っていると考えられる程度のことは必ず知識として身につけさせるようにします。

 「中国人ならば中国のことを知っていて当たり前」という感覚が日本人にはあります。また、将来、中国へ帰ることも視野に入れたならば、中国の政治経済や歴史の基本的な知識に関する学習も必要と思われます。

 

 

5.中国文化研究会の活動

〔基本方針〕

中国文化研究会(中文研)を、中国帰国生の交流の場として育てる。
中文研の指導には、中国人講師および中国帰国生担当者を中心とした顧問があたる

 

 

*中国帰国生の「居場所」としての意味。

 日本人の中で、日本語の氾濫する教室で、なかなか自分を出せない中国帰国生もいます。思う存分、中国語で喋ることが出来る場所が必要であると思います。中文研が、そういった生徒たちの息を吹き返す場所となれば良いと考えます。

 また、日常生活の中でぶつかった問題や悩みなどを帰国生同士で話し合う場にもなります。

*中国語や中国文化の学習の場

 放課後に中国語の学習や中国文化についての研究、文化祭などでの発表を目指した中国文化(踊りや歌など)の練習を行います。

 中文研の部屋に、中国の本やビデオ、音楽テープなどを置き、いつでも触れることが出来るようにします。

 

 

6.他の高校等の中国帰国生との交流

〔基本方針〕

「中国帰国生交流会」(大阪府下の中国帰国生の交流会)などに参加し、他の高校
の中国帰国生と活発に交流する。
門真市の中学校の中国帰国生との交流をすすめる。

 

 「中国帰国生交流会」などに参加することによって、中国帰国生同士が助け合う関係が作られています。また、いろいろな情報や経験の交換が行われ、卒業後の進路の開拓などにも役立つこともあります。春の「新入生歓迎会」には100名を越える帰国生が集まり、また2月の「春節の会」(合宿)にも70名程度の帰国生が参加しています。こうした交流会に参加し、同じ立場の友人と出会い、経験を交流しあうことを通じて、本校の中国帰国生たちも自信をつけています。

 門真市の中学の帰国生との交流は、毎年2回の門真市中国帰国生交流会(門真高校で開催、門真市内の中学および門真3高校が参加)を中心に行われています。

 高校生が自分の経験を語ることによって、中学に通う帰国生(特に高校進学をひかえた3年生)に高校進学の意欲と自信を持たせることが出来ます。そのことが、翻って、高校の帰国生の自信にもつながっています。

 

 

7.中国人講師の役割

〔基本方針〕

中国人講師を中心として、帰国生の指導にあたる。
帰国生の日本語指導、母語の学習、学習上および生活上の相談、保護者との連絡や
相談などにおいて、中国人講師の協力と助言を受ける。

 

*日本語指導、中国語の学習、教科の学習での相談

 日本語指導、中国語の学習は中国人講師が中心となって行っています。また、教科の学習についても、中国人講師が「通訳」として入ることもあります。試験前などは、放課後の教科の勉強も中国人講師の協力を得ながら行っています。

*生活相談

 生徒の生活上の相談についても、日本と中国との生活慣習の違いなどもあるので、中国人講師による相談活動が不可欠であると考えられます。

 また、保護者(ほとんどは日本語を解さない)の相談も多くが中国人講師に持ち込まれているのが現状です。本来は行政の仕事になるのでしょうが、保護者は中国人講師を頼ってきます。こうした保護者の相談の中身も、生徒が高校を続けていくことに関わることも多いので(たとえば失業したが次の職がないなど)、現状では学校が関わらざるを得ません。

*「通訳」としての仕事

 保護者懇談の通訳、様々なプリントの中国語訳など、「通訳」的な仕事を中国人講師に頼っています。

 

 

8.日本人生徒の指導

〔基本方針〕

異なる文化を尊重し、共に生きていく力を身につけさせることを基本としながら、
人権学習を中心に、中国帰国者の歴史と現状について学習する。
また、中国文化研究会の活動に日本人生徒の積極的な関わりを求め、中国帰国生へ
の理解を広める。

 

中国帰国生は、日本語がわからなかったり、日本の文化に不慣れであったりします。日本人生徒の側が、文化の違いに対するとまどいを持つ可能性も十分予想されます。しかし逆に、閉鎖的といわれる日本社会の中で、本校の日本人生徒たちが、自分たちと異なる文化に触れ、それを理解していく機会が訪れたとも考えられます。言葉や文化の違いは、お互いを隔てる障壁ではありません。異なった文化を持つ者どうしが、それぞれの 文化や言葉などの違いを互いに認めあい、尊重する―そうした関係を、中国帰国生との関わりの中から作り上げていくことは出来ないでしょうか。一人ひとり違いがあって当たり前です。その違いをお互いに認めあい・尊重しあうことが大切であると考えます。

 

 

9.指導体制

 中国帰国生の指導は学校全体でやることを基本としますが、そのまとめ役が必要です。教科指導をはじめ、進路保障、生活面での相談など、多岐にわたる指導があり、教科や分掌の協力を得ながら進めていきますが、そのまとめ役として「中国帰国生担当者」を置きます。

*中国帰国生担当者

 中国帰国生に関する指導のまとめ役、コーディネーターとしての仕事を行う。

 「中国帰国生プロジェクト」を主宰する。

*中国帰国生プロジェクト

 中国帰国生担当者と相談しながら、本校における中国帰国生の指導のセンター的役割を担う。

 構成…中国帰国生担当者、同推委委員長、中文研顧問、各学年の担当者(帰国生の担任から1名)、管理職。

 仕事内容…中国帰国生に関わる事柄について相談し、必要な場合は教科や分掌に協力を依頼する。また、中国人講師の意見を反映させるようにする。必要に応じて随時開催する。

 

 

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