事例3 デュアル教育で職場実習の巡回から

会社指導担当の方から
「学校でアルファベット教えていますよね。
A君アルファベットの順番がわからないみたい。
それで26文字書いてもらったら、正しく書けなかったんですよ。(笑い)」
巡回した進路担当者
「すみません。学校では、ちゃんと教えています。」
学校にもどりこの話をして、A君の同級生4人に書いてもらいました。その結果は?
皆さんは、書けるかな?
正しく書けた人は、残念ですがいませんでした。
もう少しでという惜しい人がほとんどでした。 5分ほどで、みんな直ぐに覚えてくれました。
1時間後の授業終了時に再テストしたときも全員正解。
1週間後、再テストしました。半数の人が微妙に違っていました。
不思議だなぁ。みんなどうしてすぐ忘れるのかなぁ。

その後、詳しく調べた結果ではありませんが、正しく書けない人、けっこう多いです。
この事例は、アルファベット順に並んだ棚に、同じアルファベットのついた書類を仕分けするときに、棚位置の見当がつかずうろうろしたことから生じました。
似たような例では、クレーン操作の説明後、「前方を北と考えて、西に移動して」と言われ、すぐに対応できなかったということもありました。また、円周率を知らないとか、とっさに九九が出ないなど笑い話のように聞くことがよくあります。

アルファベットが書けなかった先輩、とっさに西が、右か左かわからなかった先輩。
それぞれ、突然聞かれたので答えられなかったと、異口同音に答えました。

アルファベットや東西南北など、知っていて当然と思われることを、直ぐに答えられないと笑われることがよくあります。
仕事ができるのに、簡単なことが即答できず笑われ、評価されるのは残念なことです。

このような事例に時々出会うので疑問に思いながら、いつも「頑張って何度も覚えて」と助言しています。

ある時、アルファベットのHは何番目だったかな?と言いながらA~B~C♬と歌いながら指を折り8番目だという同僚の独り言を聞いていて、「耳から聞こえる言葉には、リズムが重なっていて記憶を引き出すのに大きな役割をしているでは」と、ふと思いつきました。また数字や言葉にリズムや音感を持たせて読み替える語呂合わせをして意味づけ記憶していることも多いと気づきました。

この事例の解釈を考えていてこんな思いに至りました。
「そうなんだ。聴覚に障がいのある人が簡単なことでもすぐ忘れると理解して、その理由を考えていたけど、忘れるのはなく、記憶内容の難易に関係なくリズムや語呂などのきっかけが少ないので、思い出すのに時間が必要なのでは」と、考えると、忘れたと言いながら、アルファベットもすぐに再記憶できる(※思い出す)ことにも納得できました。

忘れたのではなく、思い出すのに時間がかかる。この事例はこんな見方があることを教えてくれました。

聴覚支援学校に勤める教員として、今後は、聴者の方から、この事例のような笑い話風にこんな簡単なことがわからないということを聞いたとき、「それは、聴覚から入る情報が少ないため、リズムや語呂合わせで意味づけ記憶が少なく、聞こえが困難な聴覚障がいによるハンディキャップの一つでもあるのです。」と説明し、聴覚障がい理解の好機にしたいと思います。

卒業生や在校生の皆さんには、勉強した記憶があるのに思い出せなくて直ぐに答えられないときは、「忘れました。」「突然聞かれたから動揺した。」などと言い訳をしないで、素直に、「習ったと思うけどすぐに思い出せないので、面倒をかけますが教えてください。すぐに覚えます。」と答えるのが一番いいように思います。