事例4 仕事より妻の成人式出席を優先させた例

成人式がまだ1月15日と決まっていた十数年前のことです

突然、明日の祝日出勤を言われました。

でもその日は、妻の成人式の日です。

前から妻に同伴すると約束していました。

僕は妻について行ってやりたいので社長の頼みを断りました。

断ったこの先輩は勇気がある人と思いますか。

この先輩は、断ったあとどうなったと思いますか。

この事例に対する在校生たちの反応は、ほぼ全員卒業生を支持しました。

社長だからと言ってひどい。パワハラだという生徒もいました。

この会社は10人ほどの企業です。多くの課題をかかえ、卒業延期になるなど就職先の決まらない卒業生を「俺も若い時やんちゃしたから」と男気を出して採用していただいた経緯がありました。

社長には、これくらいの無理は聞いてもいいだろうという気持ちがあったのでしょう。

当時、会社から呼び出された進路担当の私は、卒業生の価値観にとても違和感を持ちました。

仕事=給料(収入)=生活基盤の確保。

大切なものがいっぱいあるけど、妻の成人式出席は、仕事より大切とはどうしても思えなかったのです。結局、この先輩は、社長や進路担当者の説得もむなしく、出勤要請を断りました。仕事より妻の成人式同伴を優先させました。

その後しばらくして会社に居づらくなったのでしょう、やめました。

時が過ぎてこの事例に向き合って、社長や自分(進路担当者)が、戦後の日本が貧しい時代に育ち、仕事は、収入を得るためにすべてに最優先するものという価値観が、妻の成人式同伴を仕事より頑固なまでに優先する卒業生の価値観を腹立たしく受け止めた結果と冷静に振り返ることができました。自分の怒りの基に気付くと、なぜ卒業生があんなに固執したのだろうという思いにも至りました。

在校当時、卒業生の育った家庭環境から独りぼっちであることが多く、家庭的に恵まれなかった彼は、仕事より家庭を大切したかった。彼の気持ちに思いが至ると、当時厳しく非難した彼に、とてもすまない気持ちになりました。

今年度この事例について学校協議会で紹介したところ、企業委員の方から、現在は合理的配慮が必要です。子どもの卒業式や誕生日会などは、配慮しなければとの意見をいただきました。

あの当時、一方的な説得でなく、午前中は成人式に参加し、式後、午後は、仕事に出るというウインウインの折衷案を提示できていたらどんな結果になったかなと思います。

補足ですが、最近、夫婦仲良く、仕事をしていると聞き、少し救われました。