至誠とは、

信じることでした。

相手を信じること。自分を信じること。

信頼があれば、本当の思いを込めた言葉はきっと伝わるのだと、

みんなが教えてくれました。



「送辞」

柔らかな早春の陽ざしとともに、梅のつぼみも開き始めた今日の良き日に、新たな一歩を踏み出される六八期生の先輩方、ご卒業おめでとうございます

 今、先輩方の胸の中には、入学した日から卒業を迎える今日までの思い出が、込み上げてきていることと思います。

 振り返ると、私たちの心の中にも先輩方との思い出が数えきれないほどあります。

 不安定な天候の下、行われた体育祭。小雨の降る中、声を嗄らして応援する先輩方の姿を見て、自然と各団の士気があがっていきました。応援合戦の素晴らしいパフォーマンスの裏には、練習計画を作り、毎日、早朝や昼休みに声を大にして団員をまとめあげる先輩方の力がありました。球技大会では先輩方のプレーの気迫に圧倒されました。体育祭全体が、先輩方の熱い思い、そしてそれについていく私たちの熱気に溢れていました。先輩方の、熱く一生懸命な姿に感動し、自分たちもこんな風になりたい、と憧れを抱きました。

 普段とは違う先輩方の姿を知った文化祭。活気あふれる呼び込み、お客さんに見せる少し大人びた顔。みんなの笑顔が輝く二日間でした。部活の出し物でも、時に励まし、時に盛り上げながら私たちを引っ張ってくれました。

「一緒にやってよかった。」

心からそう思っています。生野高校文化祭の雰囲気をつくりあげていたのは先輩方でした。

 部活動でも先輩方はいつも私たちの目標でした。

教えてもらったことをなかなか覚えられなかったとき、練習がしんどいとき、何度も一緒になって教えてくれたり、がんばろうと声をかけてくれました。公式戦で私たちが緊張して不安でいっぱいだった時、先輩方のかけてくれた「楽しもう」という言葉。その言葉に試合に臨む勇気をもらいました。

練習以外の時にも、いつも先輩方は真剣に話をきいてくれました。将来のことや、進路のこと、人間関係のこと……相談したことは数えきれないけれど、何度も何度も励ましてくれて、「またがんばろう」と思えました。時にふざけあったりしたこともあったけど、練習になったら切りかえ真剣になる姿勢や、頼もしさ、私たちの一歩前を行く姿が憧れでした。

学校生活のすべてを通して、先輩方は私たちの模範として、ずっと先の先輩方から引き継いできた「生野生」としての姿を、私たちに示してくれていました。私たちも、その良き伝統を引き継ぎ、後輩たちに伝えていきます。

 本日、卒業の日を迎えられる先輩方は、夢と希望を胸に抱いて、新たな世界へと羽ばたこうとしていらっしゃいます。これからも、その夢と希望を胸に、ご自身の信じる道を進んでいってください。一人ひとりの経験は違っても、この生野高校で培ったものは、先輩方の力になるはずです。もしも、信じる道の途中で先が見えないように感じることがあれば、生野高校で過ごした三年間が、きっと先輩方を導く道標になってくれると思います。

私たち在校生は、先輩方から受け継いだ生野生としての誇りや伝統、目に見えないけれど確かにこの学校に流れる大切なものを胸に、生野高校をより良い学校にしていくことを、お約束します。

卒業された後も、いつでも先輩方の原点の一つである生野高校に、お立ち寄りください。

「本当に、ありがとうございました。」

この言葉が私たち在校生の、一番贈りたい言葉です。

先輩方のご健康とご活躍をお祈りして、この言葉をお別れの言葉といたします。?????

平成二八年二月二九日


「答辞」

五綱領の白梅がほころぶこのよき日、私たち68期生は卒業を迎えます。

三年前、ここに立つ私たちは、壁に掲げられた「至誠通神」という言葉を眺めながら、これから始まる日々に不安を抱いていました。「至誠」という言葉の意味さえよく分からないままに、緊張のなかで高校生活が始まりました。

教科書を詰め込んだ重い鞄を背負ったとき、勉強についていけるのだろうかと不安が募りました。教室を見渡せば知らない人ばかりで、心細かったことを覚えています。けれども、日を追うごとに新しく友だちができていく喜びを知りました。互いに気を遣いながら話したのも、一瞬のことでした。

体育祭では、競技や応援合戦に熱く取り組む先輩たちの背中に、憧れを抱きました。私たちがいつか同じ立場に立つことなど、この頃には想像もできませんでした。

 クラスでひとつの曲をつくりあげた合唱コンクール。一人一人の思いを、歌詞に込めました。ステージで歌いあげたあの曲は、今でも口ずさむことができるほど、思い入れのあるものになりました。きっと、これから歩む道のりで困難に出会った時、私たちを励ましてくれる歌になるだろうと思います。

部活動に勉強、忙しい生活の中で、力を合わせてひとつのものを創り上げた文化祭。クラスの代表を引き受け奔走する級友の姿に、誰かのために力を果たすことの尊さを学びました。そんな姿に心動かされて、始めは何をしたらよいのか分からず戸惑っていたクラスも、次第にひとつになっていきました。ひとりひとりに果たすべき役割があること、どんなに小さなことでも一生懸命頑張っていれば誰かが必ず見てくれているということ、そして、協力する難しさとよろこびを知りました。

 時にはぶつかることも必要だと教えてくれたのは、部活動でした。チームの目標が決まらずに、何度も話し合いを重ねました。意見がすれ違い、時には涙を流したこともありました。その度にチームメイトの新たな一面を知り、世界が広くなっていきました。そうした日々を通して、意見が違うからこそ新しく生まれる道もあるのだということを学びました。


「おはよう」。毎朝交わす友人とのこの一言に、何度救われてきたでしょうか。クラスが離れてしまっても、会えば挨拶を交わす。それだけで笑顔になれました。

「もっと頼っていいねんで」。ひとりで悩んでいるときにかけてくれた言葉は、とても温かく響きました。相談することは迷惑をかけることだと思っていた私に、そうではないと教えてくれました。

いろんなことがあったはずなのに、今思い返す高校生活は、みんなの笑顔に溢れています。上手く言葉にできないけれど、みんなに出会えてほんとうによかった。ありがとう。

今日まで同じ教室で同じ景色を見てきました。これからは、それぞれ、違う世界へと踏み出していきます。その道のりには、苦しいこともたくさんあると思うけど、それぞれの場所で、笑顔で頑張っていこう。次会う時も、変わらない笑顔を見せてね。


三年間、私たちを見守ってくださった先生方から大切なことを教わりました。休日でも部活動や講習のために来てくださる先生。黒板からはみ出るほどの板書や、チャイムが鳴っても止まらないお話――個性豊かな授業ばかりでした。勉強のこと、進路のこと、家族のこと。悩みを抱えて放課後に訪ねると、熱心に応えてくださいました。様々な場面を通して、何度も自分の考えを見つめ直すことができました。

時には、先生の教えに反発したこともありました。自分のことしか見えていなかったあの頃には、言葉の奥にある先生の思いを受け止められていなかったのだと、今ならわかります。社会へと一歩近づく今、ふりかえってみれば、先生方の言葉にはいつでも、私たちへの期待と願いがありました。

「人とは違う形でも、自分の納得のいく選択をしなさい。」進路に迷う私をまっすぐに見て、先生はそうおっしゃいました。自分で決めた道へ踏み出すと、「これからは人のためにがんばりなさい。」と、声を掛けてくださいました。先生のこの言葉で、「おとな」になるということを自覚することができました。

先生方から学んだことを糧に、私たちは、それぞれの足で、それぞれの道を歩んでいきます。


 私たちがこうして今日の日を迎えることができたのは、ここまで大きく育ててくれた家族のおかげです。たくさんあるパンフレットの隅から隅まで目を通し、私以上に進路のことを考えてくれた父。私より先に起き、お弁当を作り、遅くなる私を待っていてくれた母。受験が近付くにつれ、言い争うことが増えたけれど、誰よりも私を応援してくれているのは家族だと、本当は分かっていました。そのおかげで、こうして卒業の日を迎えることができました。

恥ずかしくて言えなかった気持ちを伝えたいと思います。

「ありがとう。」

忙しいなかで、行事を見に来てくれてありがとう。毎日、おいしいご飯をつくってくれてありがとう。どんな時も味方でいてくれてありがとう。まだまだ迷惑をかけると思うけれど、これからは、ひとりの「おとな」として、お父さん、お母さんを目標にがんばっていきます。


素晴らしい人々と出会い、様々な経験をし、大切なことをたくさん学べた、この生野高校での日々は私たちにとってかけがえのない3年間でした。

入学当初はわからなかった「至誠通神」ということばの意味を、今、実感しています。

至誠とは、信じることでした。

相手を信じること。自分を信じること。信頼があれば、本当の思いを込めた言葉はきっと伝わるのだと、みんなが教えてくれました。


今、ここに立つ私たちは、たくさんの友人、先生方、家族に囲まれ、「おとな」になっていくという不安と同時に、自分の将来への期待に胸を膨らませています。生野高校の生徒であったことを誇りとして、今日、旅立ちます。


伝えたい言葉はひとつです。

「ありがとう。さよなら」

平成二八年二月二九日

そして、呼名はされなくとも、たしかにいっしょに学んだあなたの顔を思い浮かべます。いろいろあったけれど、すべては思い出です。神様がおられるなら、こんな広い宇宙の中で出会わせてくれた、その神に感謝します。

よい人生を!