入学式 式辞

本日、他校よりも一足早く33期生の入学式が挙行されました。

初めての生徒(新入生)との対面。緊張の中にも大きな喜びを感じました。

初々しい新入生に対して入学式でお話しした式辞は下記のとおりです。

 

<入学式式辞>

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 ただ今、入学を許可しました金剛高等学校第三十三期生、新入生のみなさん。入学おめでとうございます。金剛高校にようこそ。在校生と教職員一同、みなさんの入学を心からお祝いします。

 例年にも増してきびしく長かった寒さもようやく和らぎ、硬かった桜のつぼみも数日来の日差しの暖かさの中でほころび、確実に春の兆しを感じる本日、ここに第三十三回、入学式を挙行いたしましたところ、御多忙にも関わりませず、多数の御来賓、関係の皆様の御臨席を賜りました。高い所からではありますが厚くお礼を申しあげます。

 また、お子さまたちを大事に慈しみ育んでこられた保護者の皆様方におかれましては、本日のご入学、まことにおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

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 さて、みなさんは本日より新たなステージ、金剛高校での高校生活をスタートさせるわけですが、どんな高校生活を思い描いていますか。

 晴れやかな入学式にあえて厳しいお話になりますが、みなさんを取り巻く今の社会状況は、決して楽観できるものではありません。世界の状況は時事刻々と変化し、混迷を極めています。ヨーロッパEUの経済危機や「中東の春」と言われる独裁体制の崩壊とその後の混乱の中で一昔前では予測もつかなかったことが次々と起こり、先行きが全く見えません。今後何が起こってもおかしくない状況です。

 日本の置かれている状況も決してそのことと無縁ではありません。世界が強く影響を受けあうグローバリズムの中、私たちの生活も直接、間接的に大きな影響を受けています。そして、現状の日本の経済機構、政治機構ではそれらの問題に十分な対応ができなくなってきています。

 そして、昨年3月11日の東日本大震災。未曾有の大災害、そして原発による被害はあまりにも大きな課題と試練を、私たちにつきつけました。想像を遙かに超える大地震、大津波は街を破壊し、多くの尊い命を一瞬にして奪い、未曽有の大惨事をもたらしました。そして、原発の破壊による被害は人類がいまだ経験したことのない長く消えることのない甚大な被害をもたらしました。1年を経過してもその復興へのまだまだ道は遠く、原発については解決の糸口さえつかめていません。そんなきびしい世の中でみなさんはこれから生きていきます。お祝いの席で厳しいお話になりましたが、また未成年とはいえ、高校生であるみなさんもその影響下にあるという認識はぜひ持っていてもらいたいです。

 さて、そんな社会状況の中で生きていくために、みなさんには何が求められているでしょうか。現状に満足し、流されるのではなく、問い続け、学び続けること、そんな一生ものの本当の学力、生きる力を身につけることです。課題を見出すこと、問いを持つことそのものが生きることだといっても過言ではありません。

 こんな社会状況の中で、深く心に響いたできごとがあります。被災した人々の何とか役に立ちたいとする高校生たちの活動が、大阪府内の各地の高校で広がりました。この金剛高校でも先輩たちがいち早く自発的に義援金の街頭募金に立ったと聞いています。人の痛みをわがことと思い、「被害に遭われた人々のことを思い、自分たちに何ができるか。できることをして、少しでも役にたちたい。」という思いからです。

 さらに、いくつかの高校では、募金だけではなく現地に行って何か被災された方々の役に立ちたいという熱い思いから、周囲の大人や教員を動かし5月の連休中現地に赴いてボランティア活動を行い、各地で現地リポート、報告会を行って継続的な東北支援の必要を訴え続けています。さらにまた、夏休み被災地の高校を大阪に招き、交流支援を続けている高校生もいます。

 富田林の近隣の高校では、総合の学びから、1年生の生徒たちが自分たちに今できることは何なのか、模索する中で冬休みを利用して東北に出向いて救援ボランティアを行ってきました。その体験は彼らにとって大きな学びと自分はどう生きるべきか、今何をなすべきかという問いから、再び将来に向けての学習の意味を再構築が行われ、今まで以上に熱心に日々の学習に意欲的に取り組むようになったと聞いています。

 厳しい状況下、こんな高校生の姿は、これからの日本の希望の星であり、目指すべき一つのロールモデルです。今日入学されたみなさんにぜひ身につけてもらいたい、学んでほしいのは、このような人を大事にする、思いやりの心、そして人と協力し、行動を起こし、社会に発信、提言する力です。

 

 本校は、地元の熱い期待と支援を背に昭和55年(1980年)開校し、これまで一人ひとりの生徒を大切にしたさまざまな教育実践を積み重ねてまいりました。とりわけ、平成16年(2005年)に普通科総合選択制に改編されてからはさらに基礎学力の充実と総合的な学びの融合、「地域と共生する豊かな学びの中で、社会に貢献できる自立した市民を育てる学校」を目標に、生きる力、本当の学力をはぐくむ教育に力を入れてきました。とりわけ、そんな金剛高校の学びを深化させるべく、時間と思いをかけて協議を重ねてきた「金剛トータルステップアッププラン」が、今年度平成24年度からスタートします。先ごろ亡くなった人類学の泰斗、フランスの文化人類学者・クロード・レヴィ=ストロースは、その著書『野生の思考』(1962年)において、ブラジルの先住民族社会でのフールドワーク体験をもとに、「ブリコラージュ」という概念を発表しました。「ブリコラージュ」とは、世界各地とりわけ先住民に見られる、端切れや余り物を使って、その本来の用途とは関係なく、当面の必要性に役立つ道具を作ることです。この発想は人類が古くから持っていた知のあり方で、別に目新しいものではありません。しかし、社会がどんどん複雑化、細分化する中てそんな本来人間が持っていたトータルな生きる知恵がどんどん退化し、失われてしまっています。彼はこの「野生の思考」とも言える「ブリコラージュ」を、「近代以降の技術革新の思考」と対比し、現代社会において見直されるべき重要な普遍的な知のあり方と考えました。一見古くさく、手間暇のかかるローテク思考のようですが、今までの価値観や思考の枠組みが全く役に立たない現代社会において求められている、ある意味最先端の力とも言えます。現状を嘆き、異議や不満を唱えるだけでなく、課題を見出し、今あるありあわせの材料、環境を最大限に活用して、新たな世界を切り拓いていく力です。混迷を極めるこれからの社会を生き抜いていく高校生に求められている力はまさにそんな力です。そして、そんな力を学び、育てていく場が普通科総合選択制金剛高校であり、「金剛トータルステップアッププラン」なのです。

 金剛トータルステップアッププラン」はこれからの金剛高校の教育の方向性を決定するとても大切で重要なプランで、「(1)知識基盤社会を生き抜く確かな学力をつける」、「(2)他者と繋がり共同する力をつける」、「(3)自ら将来設計し、目標に向かって持続的に努力する力をつける」ことがその具体的目標です。

 今年はその「金剛トータルステップアッププラン」の元年にあたり、みなさんはその先駆者、パイオニアです。明日予定されている新入生オリエンテーションはそのキックオフイベントとして1学年団は時間と思いをかけてその企画、準備に取り組んできています。期待して下さい。「金剛トータルステップアッププラン」では学年ごとのさまざまな多様な体験や学校行事、日々の基礎学習を全体的な視点で有機的につなげ、3年間を通じての総合的な学び、一生ものの生きる力を生徒一人ひとりに育んでいきます。その具体化、実現に向けて、教職員一同、今まで以上に一人ひとりの生徒と向き合い、さらなる創意工夫を重ねていく所存です。みなさんもその熱い思い、夢や希望をどんどん先生方にぶつけて下さい。金剛高校にはその思いにしっかりと応え、方向性を示してくれる、素晴らしい先生方がそろっています。これから、教職員、生徒一丸となって素晴らしい学びの場を作っていこうではありませんか。

 新入生のみなさんには、金剛高校生としての自覚と誇りを持って、一人よがりの学びではなく、共に生きる学び、自立して生きる力の醸成のために、指導に従い、授業はもとより、さまざまな活動に取り組んでほしいと思います。金剛高校には、自分が望めば参加できる活動、学びの場がたくさんあり、その豊かさはみなさん次第です。学びに努力はつきものですが、決してそこから逃げて易きに流れないでもらいたいと思います。学びの先には気づきと喜び、充実感、達成感がもれなくついてきます。高校生の間に、いろんなことに積極的に取り組み、たくさんの失敗も重ね、気づき成長してほしいと思います。

 

 さて、ご列席の保護者の皆さま、改めて本日は誠におめでとうございます。ここまで手塩にかけてお子様を育ててこられた感慨もひとしおのことと思いますが、ひとつお願いがございます。大きく成長された子どもさんに対して、「もう高校生なんだから。」と本人に責任を任せたくなるお気持ちはよく理解できます。しかし、身体が大きくなったとはいえ、高校生という年代はまだまだ成長の途上です。すべてのことを本人任せにするのではなく、少し距離は置くもののしっかりと子どもの様子を見守り、時には声をかけ、間違った考えや軽率な行動には、保護者として毅然とした態度で注意をしていただきたいと思います。とはいえ、子育てに正解というものはありません。もし迷われた時には、どうぞ遠慮せずお気軽に本校の教員、とりわけ担任にご相談いただきたいと思います。家庭と学校の連携を密にする中で、お子様の成長をしっかり支援していきたいます。何卒本校教育に深いご理解とご協力をいただきますようお願い申し上げます。

 最後に、御多忙の中、御臨席を賜りました御来賓の皆さま、本当にありがとうございました。今後とも本校教育発展のため、一層の御指導、御鞭撻をいただくとともに、御支援、御協力くださいますようお願い申し上げます。

 

 以上、入学生の皆さんの今後の活躍と発展を期待して、式辞といたします。

平成24年4月5日

 

大阪府立金剛高等学校長  檜本直之