36期生卒業式式辞

 ひときわ厳しかったこの冬の寒さも峠を越え、日ごと春の訪れを感じる今日、大阪府立金剛高等学校第36回卒業証書授与式を挙行するにあたり、大阪府教育委員会ご代表をはじめ、たくさんのご来賓のご臨席を賜りました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 また、保護者の皆様には、お子様のご卒業を心からお慶び申し上げます。心身ともに大きく成長する時期のお子様の健やかな成長を願いつつ、見守り支え続けて来られた保護者の皆様には、感慨も一入のことと拝察いたします。同時に、本校の教育方針、教育活動にご理解をいただき、ご支援下さいましたことに心より感謝申し上げます。

 36期生のみなさん、卒業おめでとうございます。

 私はみなさんとは今年度だけでしたが、この1年の間にみなさんに大きな力をもらいました。今年度四月の始業式の最初の出会いで、みなさんにお願いしたことを憶えているでしょうか。私はみなさんに下級生が心から慕える「あこがれの先輩」になって下さいとお願いしました。かつて私が金剛高校に12年間勤務した時の大きな課題は、上級生が下級生より元気がないことでした。18年ぶりに金剛高校に帰ってきて、あなたがたを見ていて、この課題は、ものの見事にクリアされたのだと、実感しました。

 体育祭における競技での頑張りはもちろんのこと、応援団での下級生をまとめ、統制がとれ創意工夫を凝らした演技は見事でした。みんなが優勝をめざし、きらきらと輝いていました。運動部や放送部などが体育祭を懸命に支える姿も目に焼き付いています。  

 文化祭では、レベルの違いをまざまざと見せつけてくれました。パネルや垂れ幕はもとより、文化部の発表においても、常日頃の地道な活動の成果が如実に表れていました。そして何と言っても総合表現である3年生のクラス劇において、人生で最も大切なものの一つである「愛」をテーマに、演技を通じて真剣に「問い」、「答え」ようとしていました。    

 後輩たちは、「あの先輩のようになりたい」「あの先輩たちを超えるものに挑みたい」と、思ったに違いありません。

 こうした学校行事や部活動だけではなく、日ごろの授業への真摯な取り組み、進路実現に向けたひたむきな努力、人権学習における当事者への共感と社会問題へ関心と、みなさんは金剛高校での「経験」と「学び」を通して、人間として着実に成長しました。このことをまず誇りに思って下さい。

 さて、卒業後、あなた方が、旅立つ社会はどのようなものでしょう。

 日本は今後、超高齢化社会が進行します。現在65歳以上の人口が27.3%、あなた方が40歳になる2040年には42.5%となります。人口も減少しつつあります。国の負債は現在1062兆円、国民一人当たり約837万円の借金を背負っていることになります。また、格差も深刻で、現在7人に1人の子どもが貧困状態にあります。社会保障と財政問題は待ったなしの状況です。その他、虐待、待機児童、ヘイトクライム、エネルギー問題も深刻です。世界諸国に目を向けると、民族・宗教対立、戦争、テロ、難民・移民、環境問題など、地球規模で、人類として解決すべき問題が山積しています。

 一方で今や「グローバル化」「IT化」が加速化しています。

 インターネットの普及は情報を媒介として国の枠組みを超えて、モノ、人、金を流通させ「グローバル化」を加速させました。また、テクノロジーやITの進歩は今やAI(人工知能)にまで発展し、自動運転、自動翻訳、など私たちの身近な生活や仕事を大きく変えつつあります。

 今後このスピードはますます速まり、社会の変化は加速度を増し、複雑で予測困難となっています。

 現在、先の日本や世界諸国で起こっている事象、事件は、古い社会スキームと著しい社会の変化が、きしみを立て揺れながら、新たな社会を生み出そうとしている中で生起していると言ってもいいです。いわば「過渡期」です。明治の文豪森鴎外の言葉を借りれば「普請中」なのです。

 この「普請中」の社会をあなた方一人ひとりが「生き抜き」「立て替える」のです。

 

 さて、このような「普請中」の社会を「生き抜き」「立て替える」には、どのような力が必要なのでしょうか。「グローバル化」「IT化」の時代にあって、人間にはどんな力が必要とされるのでしょうか。

 AI(人工知能)は、与えられた目的を遂行するだけで、自ら主体的に目的を作りだし、行動することはできません。また、均質なデータによって構成された対象とやりとりはできても、異質な他者と出会うことも、つながることもできません。そもそもAIは人間の大脳による情報処理を発展させたもので、人間にある心は持っていません。それゆえ、感動したり、悩んだりすることはできないのです。

 人間は、生きる意味を問い、自らの人生をよりよく生きようと意志することができます。異質な他者と悩みながらも、関わり、繋がろうとすることができます。そして、社会に居場所を求め、社会の一員としてよりよい社会をめざすことができます。

 今後、必要とされる力、それは①主体的に学び、自己実現する力、②多様な他者と協働する力、③持続可能なよりよい社会をめざす力です。

 この力をどこかで聞いたことがないでしょうか。

 あなた方は金剛での①授業や行事、部活動を通じて、自主的・主体的にものごとに関わる力を身につけました。次に②共生推進教室の生徒と共に学ぶことや地域社会の様々な人々との交流を通じ、多様な他者と繋がる力を育みました。そして③総合学習や人権学習を通じ進路を見つめ社会のありようを考える力を養いました。

 そうです。先ほど述べた先行き不透明な変化のスピードが速い、「普請中」の今後の社会を「生き抜き」、「切り拓く」ために必要とされる力は、金剛高校での「経験」と「学び」の中で、その「土台」は形成されたのです。

 ですから、あなたがたは自信を持って前に進んで下さい。

 ただし、学びに終わりはありません。これからはこの金剛での「経験」と「学び」を更に「深化」させることが必要となります。あなた方にはそれができる力があります。

 しかし、一方で、世界は「底知れ」ません。人間の想定、思惑を超えて、どんなことも起こり得ます。今後、苦しく、困難な「苛酷な現実」にあなた方が遭遇するかもしれません。その時は、ためらわずSOSを出して下さい。SOSを出せることも一つの大きな力であることを忘れないでください。

 最後に、これからそれぞれの道で社会に旅立つ、あなた方に言葉を贈ります。

 ロシアの文豪ドストエフスキーの最後の作品に「カラマーゾフの兄弟」があります。世界文学の最高傑作の一つです。作品は、家族の歴史を軸としながら、善と悪、自由と信仰、神と人間など、人間が生きる上で重要な問題をテーマした長編小説です。そのエピローグ、最後の場面で、カラマーゾフ家の三男のアレクセイが、町を離れるにあたって、集まった中学生に向かって次のように演説します。

○ここにこうしてみんなが心を通わせた「美しく貴い思い出」が「一つでも私たちの心に残っておれ      ば、その思い出はいつか私たちを救うでしょう。」

○「この町でお互いに善良な感情で結ばれた」美しく貴い思い出を「永遠に変わることなく」「憶えていましょう」

○「人生を恐れてはなりません!「正直ないいことをした時には、人生がなんとも美しいものに思われることでしょう!」

○「さあ、行きましょう!これから私たちはお互いに手を取り合って行くんですよ。」

 作者ドストエフスキーが生涯最後の小説の最後の最後に、主人公アレクセイを通して、次の世代を担う少年たちに贈った言葉です。世界文学で最も美しい場面の一つです。

 みなさん、今日のこの時、この瞬間、あなた方一人ひとりは、金剛高校へ想いをもとに心を通わせ、美しく貴い。

 この美しい思い出は、この先、どんな苦難があっても、あなた方を救います。

 だから人生を恐れることなく、心を真っ直ぐに、最善の行いをしてください。

 そうすれば人生が美しいものなります。

 どうか、この金剛高校で過ごした時をかけがえのない「宝物」として、それぞれの道で果敢に人生に挑戦してください。

 美しい人生、豊かな関係、よき社会は、あなた方一人ひとりが作り上げるのです。

これを私からの式辞とします。

                            平成30年2月24日

                        金剛高等学校 校長 上本 雅也

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