37期生卒業式式辞

ひときわ厳しかったこの冬の寒さも峠を越え、日ごと春の訪れを感じる今日、大阪府立金剛高等学校第37回卒業証書授与式を挙行するにあたり、大阪府教育委員会ご代表、高等学校課学校経営支援G中川ひろみ様をはじめ、たくさんのご来賓のご臨席を賜りました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 また、保護者の皆様には、お子様のご卒業を心からお慶び申し上げます。心身ともに大きく成長する時期のお子様の健やかな成長を願いつつ、見守り支え続けて来られた保護者の皆様には、感慨も一入のことと拝察いたします。同時に、本校の教育方針、教育活動にご理解をいただき、ご支援下さいましたことに心より感謝申し上げます。

 37期生のみなさん、卒業おめでとうございます。

 私は2年間みなさんと金剛高校でともに過ごしました。中でも最も長く時間を共有したのは、宮古島での修学旅行です。私自身はこの金剛高校で教諭として4回修学旅行に行きましたが、全てスキー修学旅行でしたので、民泊がある沖縄修学旅行は初めてでした。結団式の時、一生の思い出に残る修学旅行にするには、まずは命と安全を守るために、指導者の指示に従うこと、その上で主体性を発揮するために、自らの役割を十全に果たすことを話しました。みなさんは、この私の願いに期待以上に応えてくれました。集団としての規律ある行動はもとより、民泊の人たちとの心温まる交流、そして創意工夫を凝らした全体レクレーションと、みなさんはみなさん自身の力で一生の思い出に残る「かけがえのない時を刻み」ました。3年生になり最上級生として1、2年生をリードしてくれました。今年度は、地震や台風などの自然災害、猛暑などの悪条件が重なった年度でした。しかし、あなた方は、それに負けることなく、体育祭では、競技に全力を尽くすと同時に、指導力を発揮し、下級生をまとめました。文化祭では、総合表現である演劇や有志による発表など、レベルの違いを見せてくれました。後輩たちは、「あの先輩のようになりたい」「あの先輩たちを超えるものに挑みたい」と、思ったに違いありません。

こうした学校行事や部活動だけではなく、毎日の教科授業への地道な取り組み、進路実現に向けたひたむきな努力、人権HRや総合的な学習における当事者への共感と社会問題へ関心と、みなさんは金剛高校での「経験」と「学び」を通して、人間として着実に成長しました。このことをまず誇りに思って下さい。

さて、卒業後、あなた方が、旅立つ社会はどのようなものでしょう。

今年は5月に新しい元号に変わります。あなた方は金剛高校での平成最後の卒業生となります。

今後、日本社会は人口が減少し、超高齢化社会が進行します。1千百兆円を超える国の負債の財政問題と、貧困や格差解消のための社会保障の問題の解決は、喫緊の課題です。その他、虐待、いじめ、パワハラ、ヘイトクライム、外国人の受入、働き方改革、エネルギー問題も深刻です。世界に目を向けると、民族・宗教対立、戦争、テロ、難民・移民、環境問題など、地球規模で、人類として解決すべき問題が山積しています。

さて、こうした課題に、私たちは如何に向き合えばよいのでしょうか。

みなさんは、国際連合(United Nation)を知っていますね。第二次世界大戦への深い反省から、1945年、国際平和と安全の維持、国際協力の達成のために設立された国際機構のことです。現在、世界193カ国が加盟し、日本も1956年80番目に加盟しています。

この国際連合が2015年のサミットで全会一致で採択したものが、SDGs=Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標です。このSDGsは、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17の国際目標と、169のターゲット、232の指標を定めています。

このSDGsに、今後のめざすべき社会の方向性が明示されています。キーワードは「平和」「人権」「環境」です。

しかも、6年後、2025年に開催されることが決定した大阪・関西万博の開催目的は、このSDGsが達成される社会なのです。

みなさん方は、今後、社会の進むべき方向性を考える時、この世界の叡智の結晶であるSDGsを指針として間違いありません。

今後、社会の変化は加速度を増し、複雑で予測困難となっています。この時、この社会を「生き抜き」「立て替える」ために、どんな資質が必要なのでしょうか。

みなさんは、金剛高校の生徒の「よさ」はと、聞かれたら、どう答えますか。

私は、①真面目、②素直、③人を大切にすることだと思います。

ここで、みなさんに心に刻んで欲しい言葉を送ります。それはSincerityです。日本語では誠実という意味です。誠実とは、真心を持って物事に関わり、嘘偽りがないことです。

私は、シンセリティ=誠実こそが、今後、この社会を「生き抜き」、「建て替える」ために最も大切な資質であると考えます。

具体的には、

物に対して、その本質や性質を理解しようと努め、

ことに対して、そのことの成就にとって必要とされることを優先させて行動し、

人に対して、その人と自分にとって何が大切かを考え、つながろうとすることです。

先に挙げた金剛高校の生徒の「よさ」は、このシンセリティ=誠実なのです。あなたがたは、この先行き不透明な時代、この金剛高校の生徒の「よさ」であるシンセリティ=誠実を頼りに自信を持って生きて行けば、よいのです。

最後に、社会に旅立つみなさんに餞の言葉を贈ります。

みなさんは、明治の文豪夏目漱石を知っていますね。2年の現代文で習った『心』の作者です。

夏目漱石は、1905年、38歳の時、日露戦争以降の日本社会を無名の猫の視点から痛烈に批判した「吾輩は猫である」を執筆後、様々な小説を通して、人は如何に生きるべきか、人と人との関係はどうあるべきか、在りうべき社会とは、を懸命に考えました。1916年、10年余りの執筆活動後、「明暗」の執筆途中に49歳で亡くなります。

みなさんに紹介するのは、1916年8月、死の三か月前に、夏目漱石から当時24歳の若者の芥川龍之介に宛てた手紙です。

「牛になることはどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。(中略)」

「あせってはいけません。頭を悪くしてはいけません。根気づくでおいでなさい。世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しかあたえてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。それだけです。決して相手をこしらえてそれを押しちゃいけません。相手はいくらでも後から後からと出て来ます。そうして吾々を悩ませます。牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。」

明治という激動の時代、時代にぶつかり懸命に生き切ろうとした漱石が、次代の若者に向けて、「焦ってはいけない」「頭を悪くしてはならない」「牛のように」「根気づよく」「うんうん」と「人間を押す」のだと言います。ここには人生を誠実に生きようとした人間の、これからを担う若い世代に対する、この上ない、真情と愛情が込められています。

あの有名な「則天去私」は決して悟りの境地ではなく、小さな私の私利私欲を去り、ことわりに則って、現実を誠実に「うんうん」押す覚悟のことなのです。

みなさん、シンセリティ=誠実とは、まさしく、このように地道に、ひたむきに、真心を込めて「うんうん」と人を押し、現実に働きかけ、ことをなそうとすることです。

みなさん、どうか、この金剛高校で過ごしたかけがえのない時を「宝物」とし、金剛高校の「よさ」である誠実を発揮して、恐れ、怯むことなく、それぞれの道で現実を「うんうん」と根気強く押してください。

いのち輝く未来社会はあなたがた一人ひとりがデザインするのです。

金剛高校はこれからもあなた方のホームスクールとして、あなた方を見守り、応援します。

これを私からの式辞とします。

                            平成31年2月23日

                        金剛高等学校 校長 上本 雅也

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