39期生卒業式式辞

 冬の寒さも峠を越え、春の訪れを感じる今日、大阪府立金剛高等学校第39回卒業証書授与式を挙行するにあたり、PTA会長の松田広宣さまをはじめ、PTA役員の方々ご臨席を賜りました。高いところからではございますが、厚く御礼申し上げます。

 また、保護者の皆様には、お子様のご卒業を心からお慶び申し上げます。心身ともに大きく成長する時期のお子様の健やかな成長を願いつつ、見守り支え続けて来られた保護者の皆様には、感慨も一入のことと拝察いたします。同時に、本校の教育方針、教育活動にご理解をいただき、ご支援下さいましたことに心より感謝申し上げます。

 39期生のみなさん、卒業おめでとうございます。

 あなた方は、金剛高校始まって以来の快挙を成し遂げた学年です。まずこの39期生のメインテーマの「SOZO 39」にあなた方への先生方への願いが込められていました。1年の3学期、体育館でのスライドショーであなた方の1年間の歩みを見せてもらいました。私はそこに先生方のあなた方への「愛」を深く感じました。そして2年の沖縄修学旅行。事前学習では一学期におおぎみまるごとツーリズム協会の事務局長の稲元福子さんが、来校し大宜味村の紹介をしてくれました。二学期には、修学旅行実行委員が沖縄の「歴史と文化」「見どころ」「方言」を中心に発表をしました。そして当日、あなた方は誰一人遅刻も欠席もなく参加しました。これは途轍もない快挙です。私はあなた方と一緒に修学旅行に参加しましたが、あなた方は大宜味村の民泊の方々の温かさに応え、離村式の時には泣いて別れを惜しんでいた生徒もいました。その後のマリン体験や文化体験、そして夜のレクレーションと、あなた方はまさしく「かけがえのない時」を刻み込みました。

 そして、3年次です。コロナ禍による2月末からの臨時休業が6月半ばまで続き、教育活動の開始が大幅に遅れました。再開後も3密を回避するための、様々な制限、制約がある中、体力的にも精神的にもきつかったにも関わらず、あなた方はよくついてきてくれました。8月7日の終業式の時、とにかく体と心を休めるように話しました。9日間の短い夏季休業の後、ここからが正念場でした。9月末の3日間での体育祭、文化祭。これも金剛高校始まって以来のものでした。あなた方3年生は、進路に向けた取組、体育祭の練習、文化祭の準備と、全てが同時並行での中、見事にやり切りました。体育祭では密集、密接を避けての応援合戦の工夫。文化祭の劇はどれもレベルが高く、正直、驚きました。先生方のあなた方への「愛」、自分のため、仲間のために全力を尽くそうとする「情熱」、それらがきらきらと輝き結晶していました。このコロナ禍の中、制限や制約をものともせず、ピンチをチャンスに変え、質の高いものをみんなで協力して作り上げた、このことを誇りに思って下さい。この経験はあなた方にとっての一生の「宝物」です。

さて、卒業後、あなた方が、旅立つ社会はどのようなものでしょう。

喫緊の課題においては、新型コロナウィルス感染症対策です。この新型コロナウィルス感染症は、全世界に大きな影響をもたらしました。多くの尊い命が失われています。まずは亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。次に、コロナ禍は、経済活動にも大きな打撃を与え、生活に困窮する多くの人々を生み出しました。一刻も早く、世界中の国々が連帯して、人々の生活を保障するしくみを作り上げることが求められています。一方でワクチンの開発、先行接種が進められています。早晩、安全なワクチンが開発され、人類は新型コロナウィルス感染症そのものを鎮静化させることができます。しかし、人災的な側面において、コロナ禍による当事者や医療従事者などの関係者への差別が多発しています。またコロナ禍により格差が一層深刻化することも懸念されます。コロナ禍は全ての人を人権問題の当事者にしました。誰もが尊厳を有する存在として自分らしく、人と豊かな関係の中で生きることができる、人権尊重の社会づくりの必要性がこのコロナ禍において一層明確になったと言えます。

 今後、日本社会は未曾有の少子超高齢化社会が進行します。1千二百兆円を超える国の負債の財政問題と、貧困や格差解消のための社会保障の問題の解決は、喫緊の課題です。

 世界に目を向けると、民族・宗教対立、戦争、テロ、難民・移民、気候変動、環境問題など、地球規模で、人類として解決すべき問題が山積しています。

 さて、こうした課題に、私たちは如何に向き合えばよいのでしょうか。

 ここでみなさんに是非とも紹介したい人がいます。イスラエルの歴史学者、哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏です。彼は「サピエンス全史」を2014年に出版し全世界でベストセラーになりました。彼は、ホモ・サピエンス、すなわち人類がなぜ、他の動物たちと違い、地球で生き残ることができたのかを、人類史の観点から解き明かします。簡潔に言えば、人類は、7万年前の認知革命で、虚構の共有により大きな集団で協力し合うことができるようになり、1万2千年前の農業革命により、定住生活が可能になり余剰生産物を生み出し、階層分化や貨幣による流通が起こり、500年前の科学革命で、無知の自覚により自然を作り変えることが可能になったと主張しています。

 彼は、今後人類の存続を脅かす危機は、「核戦争」「破壊的な技術革新」「地球温暖化を含む環境破壊」だと言います。今後、生物工学とAIなどのIT技術が急速に結びつき、自由意志を基盤とする自由民主主義は危機にさらされます。

 しかし彼は、民主主義の自己刷新能力を信じ、民主主義が自らの過ちを認め、修正できるのだとも言います。

 コロナ禍においても、彼は私たちの心に宿る善、「共感」「英知」「利他」で対処すべきであり、弱者をいたわり、科学を信じ、情報を共有し、世界で協力する。これが人類を存続させるのだと言います。

 知能と心とは違うのです。知能は全てアルゴリズム化され、AIによってとって変わられます。しかし、心は違うのです。人と人とが関わり、「共感」で結ばれることは、数値化できません。

 繰り返します。人類を存続させるのは私たちの心に宿る善、「共感」「英知」「利他」なのです。

 最後に、これからそれぞれの道で社会に旅立つ、あなた方に言葉を贈ります。

まさに、心と心が「共感」で結ばれる場面です。「SOZO39」のあなた方にこそふさわしい言葉です。

 ロシアの文豪ドストエフスキーの最後の作品に「カラマーゾフの兄弟」があります。世界文学の最高傑作です。作品は、善と悪、神と人間などの哲学的な問題をテーマとしながら、他者と他者とが関わりぶつかり合い、世界の底知れなさや人間の奥深さを表現した長編小説です。そのエピローグ、最後の場面で、カラマーゾフ家の三男のアレクセイが、町を離れるにあたって、集まった中学生に向かって次のように演説します。

○ここにこうしてみんなが心を通わせた「美しく貴い思い出」が「一つでも私たちの心に残っておれば、その思い出はいつか私たちを救うでしょう。」

○「この町でお互いに善良な感情で結ばれた」美しく貴い思い出を「永遠に変わることなく」「憶えていましょう」

○「人生を恐れてはなりません!」「正直ないいことをした時には、人生がなんとも美しいものに思われることでしょう!」

○「さあ、行きましょう!これから私たちはお互いに手を取り合って行くんですよ。」

 作者ドストエフスキーが生涯最後の小説の最後の最後に、主人公アレクセイを通して、次の世代を担う少年たちに贈った言葉です。世界文学で最も美しい場面の一つです。

 みなさん、今日のこの時、この瞬間、あなた方一人ひとりは、金剛高校へ想いをもとに心を通わせ、この上なく美しく貴い。

 この美しい思い出は、この先、どんな苦難があっても、あなた方を救います。

 だから人生を恐れることなく、心を真っ直ぐに、最善の行いをしてください。

 そうすれば人生が美しいものなります。

 どうか、この金剛高校で過ごした時をかけがえのない「宝物」として、それぞれの道で果敢に人生に挑戦してください。

 美しい人生、豊かな関係、よき社会は、あなた方一人ひとりが作り上げるのです。

これを私からの式辞とします。

                            令和3年2月27日

                        金剛高等学校 校長 上本 雅也

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