「10年後の君たちに送る手紙」第70回卒業式

 今日(3月1日)、第70回卒業式が行われました。ずっと堪えていたんですが、卒業生退場の時クラスごとに声を揃えて担任の先生への感謝の言葉を叫ぶ姿を見て思わず涙がこぼれました。3枚の写真と一緒に私の式辞を載せました。ちょっと長いですが読んでみてください。これまで70期生に関わってくださった皆さん本当にありがとうございました。心から感謝します!

卒業証書授与式 式辞

校庭に梅の花が咲きました。とてもきれいな花です。早春のこんな素敵な日に第七十回卒業証書授与式を挙行できることは私にとってこの上なく大きな喜びです。お忙しい中ご臨席をいただきました大阪府教育委員会ご代表、大阪府議会議員の先生はじめ、本校同窓会、PTAの各会役員の皆様方に心から厚く御礼を申しあげます。

さて、七十期生のみなさん、卒業おめでとう。保護者のみなさん、お子様の晴れ姿はいかがですか。入学の日から今日までいろんなことがあったと思います。想い出は宝物ですね。先生方、ご苦労さまでした。卒業式はいつも嬉しいけど寂しくて、想い出だけがぐるぐると心をかき回す複雑な日です。万感胸に迫る様子で呼名する担任を見ながら、私も瞼に熱いものを禁じ得ませんでした。七十期生に出逢ってくださった多くの方々。先輩や後輩、八尾高校をずっと応援してくださっている地域の皆さん。七十期生は卒業します。今日は、そんな皆さん方と一緒に巣立ちゆく七十期生を送り出す日です。様々な思いや願いを代弁するつもりで、十年後の七十期生の皆さんに宛てた手紙を書いてきました。聞いてください。

前略 久しぶりです。元気ですか。東京オリンピック・パラリンピックは盛り上がりましたか。大阪万博も賑やかだったでしょうね。街には電気自動車がたくさん走っていますか。リニア新幹線は開通しましたか。卒業してから十年、いろんなことがあったでしょうね。嬉しいことや楽しいことばっかりじゃなかったと思います。辛い思いを溜めこんでいる人もきっと居ることでしょう。ほとんどの人が高校時代には考えもしなかったことだと思いますが「生きる」って本当は結構大変なことなんですよね。大人たちはみんなそのことを知っていたから、高校生だった君たちを優しく見守り、時には厳しく叱ってくれたんですよ。今の君たちなら理解できますよね。

みんなが高校三年生のとき一人の有名なお医者さんが亡くなりました。百歳を超えてもなお現役の医師として活躍され百五歳で天寿を全うされた日野原重明先生です。ハイジャックの人質になったり、地下鉄サリン事件の時にたくさんの被害者を自分の病院に受け入れて治療したり・・・本当に波乱万丈な人生を生き抜いた方です。その日野原先生が九十五歳の時に十歳の小学生に贈られた言葉があります。紹介させてください。 「からっぽの器の中にいのちを注ぐこと。それが生きるということです。」

人間は「死」を自覚できる唯一の生き物だと言われています。「死」は万人に等しく生まれた瞬間から確実に近づいてきます。言い換えれば、「生きる」とは一歩ずつ「死」に近づくことです。それなのに日野原先生は仰いました。「生きる」とは「いのちを注ぐこと」だと。最初はからっぽだった自分という器にいのちを注ぐことが「生きる」ことだと。様々な解釈があるでしょうが、私はそう理解しています。また、日野原先生はご逝去の半年前に「次の目標は何ですか」と訊ねられ、こう答えておられます。 「自分の時間を人に捧げることです」残り少ない時間の中でも自分という器に注いだ「いのち」を使い切ろうとお考えになったんだと思います。

さて、今はもう二十八歳になった皆さんですが、これからの十年をどんなふうに生きようと考えていますか。あと十年経ったら三十代も終盤、あなたを取り巻くたくさんの人たちのおかげで自分という器の中に注がれた「いのち」を人に捧げることを考えるのに決して早すぎることのない年齢です。「いのち」は愛情、「いのち」は知恵、「いのち」は思いやり・・・皆さん一人ひとりが周りの人からいただいて自分という器に注いできたいろんな「いのち」を少しずつでも人に捧げることができる生き様ってカッコいいと思います。

皆さんが十年前に卒業した母校八尾高校は百三十周年を終え、ゆうかりの木もまだまだ元気です。狐山も昔と変わりなく威風堂々と座っています。皆さんがもし生きることに疲れたり、心が押し潰されそうになったならいつでもここに帰ってきてください。伝統という不思議な力が、傷ついたあなたを優しく包んでくれていることに気がつくでしょう。伝統は脈々と続く歴史を紡いできた先人たちが捧げてくれた「いのち」の結晶なのですから。

手紙を最後まで聞いていただきありがとうございました。名残は尽きませんが、私の心は晴れやかです。七十期生は今日八尾高校を卒業しますが、ここは皆さんのふるさとです。だから、惜別の言葉は言いません。

「いってらっしゃい」「またね」・・・いつかまたどこかで逢えることを信じています。

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