昨2月28日(木)、第71回卒業証書授与式を行いました。長文になりますが式辞を載せます。
七十一期生のみなさん、卒業おめでとう!みなさんの晴れやかな顔は、私の誇りです。
こんな素敵な日は ありません。本当に嬉しいです。
今日はみなさんの門出を祝うために、大阪府議会議員の先生方、学校運営協議会委員の皆様
そして、本校同窓会、PTAの役員の皆さま方にお越しいただきました。
教職員を代表し、保護者の皆さまとともに、厚く御礼を申しあげます。ありがとうございます。
さて、私が皆さんに直接お話できる機会は今日が最後です。
何を話そうか、最後に伝えておくべきことは何なのか・・・迷いに迷った結果決めました。
「メイク・ア・ウィッシュ」の話をします。
1980年のアメリカ、アリゾナにクリスという名の7歳の男の子が住んでいました。
彼は警察官になるのが夢でしたが、白血病にかかり学校にも行けない状態でした。
この少年の話を聞いた地元の警察官たちは彼のために本物そっくりの制服を作り、ヘルメットとバッジも
用意して、彼を名誉警察官に任命しました。
小さな名誉警察官は規則に従って宣誓し、駐車違反の取り締まりや、ヘリコプターを使った監視活動も
行いました。クリスくんはもう大喜びです。
その5日後、彼はこの世を去り、警察署は名誉警察官のための葬儀を執り行いました。
短い時間でしたが、クリスくんの夢は叶ったのです。
彼の夢の実現に関わった人々は、考えました。
クリスくんと同じように、夢を持ちながらも難病のためにチャレンジすることさえできない子どもたちはもっと
いるはずだと。
そんな考え方が世界中に広がり、難病の子どもたちの夢を叶えるお手伝いをしようという思いが「メイク・
ア・ウィッシュ」というボランティア団体をつくりました。
私は先日、この団体の日本支部で長年事務局長を務めてこられた大野寿子(おおの ひさこ)さんという方
のお話を伺いました。
多くのご苦労をされたと思いますが、そんなことを少しも感じさせない笑顔が素敵な方でした。
そんな彼女だからこそたくさんの夢のお手伝いができたのだと思います。
私は彼女の大ファンになりました。
大野さんはクリスくんのエピソードに続いてこんなことを話してくれました。
今の日本だったら「警察が勝手なことをして税金の無駄遣い」だとか「他にも夢を叶えてほしい子がいるのに
依怙贔屓(えこひいき)だ」とかネットが大騒ぎになるかもしれないけど、そんな風にならずに、みんながクリ
スくんと一緒に夢の実現を喜んだっていうところに意味があると思うんですよね。
これを聞いて私は、大野さんのことがもっともっと好きになりました。
皆さんには、アリゾナの警察官や市民のように、自分の心で感じ自分の頭で考えて、自分で決めたことに
自信を持って実行できる大人になってほしいと思います。
大野さんは、「メイク・ア・ウィッシュ・オブ・ジャパン」の活動の一つとしてご自身が関わったこんな話も聞かせ
てくれました。
幼稚園児だった唯(ゆい)ちゃんは、お父さんと結婚したいという夢を語りました。
会場はディズニーランドのホテル。特注のウェディングドレスを着てバージンロードを歩き、リングの交換をし
て新郎であるお父さんの頬にキスをしました。ちょっとおませな表情がとてもキュートな花嫁さんでした。
ドレスや留袖(とめそで)、タキシード・・・正装で結婚式に参列した人たちの嬉しそうな顔は唯ちゃんに負けな
いくらい輝いていたそうです。
このお話を聴いて私は思いました。大人たちは唯ちゃんの夢を叶えたと思っているけれど、実は大人たちの
方が唯ちゃんに幸せな時間をもらったってことじゃないか。
大野さんも、「実は、夢の実現に関わった人の方こそ、子どもたちから温かいプレゼントをもらっているんで
す」と教えてくれました。
最後にもう一つ、十二年の生涯で35編の詩を残してくれたよっくんの話をします。
よっくんは、どんなに自分の体や心が辛くても人を思う気持ちや信じる気持ち、一緒に生きて行こうという
気持ちを忘れませんでした。
弱気になったり自暴自棄になったり、そんな日もあったと思います。
けど、よっくんの詩には人への愛が詰まっています。
大野さんはこんな詩を紹介してくれました。
ビーズとすず
ぼくは今ビーズにこっている
いろんな色のビーズをつないでいる
丸く丸く作っている
その中にすずを入れてみた
すずはぼく
まわりのビーズは
家族、友達・・・
先生、かんごふさん・・・
いつもぼくを守ってくれている
いつかぼくもビーズになる!
大野さんは言いました。
私もすず・・・だけど誰かのビーズになりたいと思って「メイク・ア・ウィッシュ」の活動を続けています。
私はこの年になってはじめて人間社会の成り立ちを教えてもらったような気がしました。
自分はすず、だけど同時に誰かのビーズになっているかも知れないし、これからそうなっていくかもしれな
い。そんな風に思いながら生きて行けたら幸せだろうと思います。
今日は卒業式ですが、私はこの日が別れの日だとは少しも思っていません。
人は誰もその存在自体がすずであると同時にビーズでもあるのですから・・・
君たちが巣立っていく社会には荒波が渦巻いているかもしれません。でも、だいじょうぶ。
君たちの船は沈みません。積み荷を全部海に投げ捨てても自分を信じる気持ちさえ捨てなければ・・・。
八尾高校は君たちの母港、母なる港です。
あなたのすずが自分らしい音色を響かせなくなったとき、また、そろそろ誰かのビーズになりたいと思いはじ
めたとき、いつでも帰って来たらいい場所です。
名残は尽きませんが出発のときはきました。
七十一期生の皆さん
いってらっしゃい! また逢いましょう!
人間誰しも支え合って生きていると言うけれど、だとすれば、自分という存在自体が誰かを支えていると考えても良いんじゃないか・・・クリスくんや唯ちゃんやよっくんが今も大野さんを通じて多くの子どもたちやみんなを支えているように・・・そんなことを考えながら書きました。
誰かに守られている「すず」と誰かを守っている「ビーズ」、どちらも自分なんだということが伝わればとてもうれしいです。
大人も子どもも忙しすぎて、今日明日のことにしか気持ちが向かない日常の中で、こんなに素敵な話を聞かせてくださり、こんなに大事なことに気づかせてくれた大野さんに心から感謝します。