42期生が巣立ちました

 42期生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。保護者のみなさま、お子さまのご卒業、心よりお喜び申し上げます。

 

 本校を巣立ってゆくみなさんと、最後に「幸せ」について考えてみたいと思います。

 

 さて、質問です。「幸せ」って何だろう?

 この質問は、実は非常に難しいものです。古代ギリシャの時代から現代まで、アリストテレスをはじめ多くの学者たちが考え続けてきました。哲学から脳科学まで、今もさまざまな視点から論じられています。

 これまでの研究で日本は残念ながら、豊かさのわりに幸福感や人生の満足度が低い国とされています。2023年の国連「世界幸福度調査」では47位で先進国では最下位。2020年のユニセフ「世界子ども幸福度調査」でも、身体の健康は1位でしたが、精神的幸福度は下から2番目でした。

 

 どうして幸福感が薄いのでしょうか? どうすれば幸せだと感じられるのでしょうか?

 お金を稼ぐ? 名声を得る? 健康を維持する? 権力を握る? 物質的な豊かさや恵まれた境遇が「幸せ」になるための条件だと一般的には考えられています。が、条件がそろっていても「幸せ」を感じるとは限りません。

 例えば、お金と幸せとの関係は年収800万円前後がピークで、それ以降は年収が増えても幸福度はあまり変わらないことが知られています。それどころかある調査では、年収3,000万円以上になると幸福度が下がり始め、年収1億円以上ではなんと、年収700万円以上1,000万円未満の人よりも幸福度が低い、という衝撃的な結果がでました。

 

 じゃあ、「幸せ」のカギとはいったい何なのか?

 カギの一つを見つけたと考えられているのが、米ハーバード大学の研究です。人間を健康、幸福にするものを見つけようと、1938年から3世代1300人を超す人たちの人生を追跡し続けています。

 この大規模研究の結果、健康や幸福度に最も影響していたのは、予想もしていなかったものでした。家柄、学歴や職業、社会的な成功、さらには運動の習慣、健康的な食生活ですらなかったのです。

 それは「良い人間関係」でした。しかも、たった一人でもよい、心から大切に思い信頼できる人がいるかどうかが重要だというのです。

 

 私たちはいま、かつてないほど複雑で難しい時代を生きています。新型コロナウイルスの大流行は、私たちが「社会的な生き物」だということを改めて浮き彫りにしました。社会とのつながりを維持するさまざまな機会を奪われ、子どもにまで不安や抑うつ症状など、心理的不調が見られたりしました。一方で、家族や親しい友人と一緒に過ごすなど「幸せな気分にしてくれることや、喜びをもたらしてくれるものに意識を向ける」ことが心の健康に役立つ、と報告されています。

 みなさん、自分の周りを見まわしてみてください。そして、考えてみてください。自分をあたたかい気持ちにしてくれるのは、いま本当に大切に思うのは誰なのか、何なのか。

 「幸せ」のカギは常に身の回りにあります。それは些細で当たり前なもの、あまりにも当たり前すぎて見えにくく、後回しにされがちなものの一つなのです。

 

 人生には必ず浮き沈みがあります。現代の人生は特に忙しく複雑で、避けることのできない試練に何度も立ち向かわなくてはなりません。楽なだけの人生は存在しないのです。

 一瞬一瞬を精一杯生き、喜びや困難を通して誰かと絆を結び合う。そこから生まれるもの。困難や苦労、喜びや達成を分かち合うことによって育てられる何か。それこそが「幸せ」であり、みなさんの人生を豊かにするものなのだと思います。

 「幸せ」は人生の目的地、「点」ではありません。みなさんの人生と共に動いていくもの、「線」であり、「面」であることを覚えておいてください。

 

 以上が、私からみなさんへの最後のメッセージです。

 みなさんがこれからの人生で、「幸せ」のカギを見つけ、「幸せ」を存分に感じることができるよう、心から願って校長の式辞といたします。

 

令和6年2月26日

大阪府立香里丘高等学校 校長 宮内 順