43期生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。保護者のみなさま、お子さまのご卒業、心からお喜び申し上げます。
旅立つみなさんに、私から最後のメッセージをおくります。テーマは「想像力」です。
もし、桃太郎がおばあさんに拾われなかったら...。
だれもが知っている「桃太郎」には、たくさんのパロディ作品があります。例えば芥川龍之介の桃太郎は、ヒーローではありません。美しく平和な鬼ヶ島を侵略する、わがままで怠け者の悪役、ヴィランです。2014年に話題をさらった広告では、「僕のおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」と、鬼の子が涙する姿が描かれました。日本弁護士連合会の動画には、裁判で無罪を主張する鬼がでてきます。
これらに共通しているのは、「いつもとは違う視点から見る」ということです。
絵本「ふたりのももたろう」には、「おにたいじのももたろう」と「おにのこ ももたろう」がでてきます。「おにのこ ももたろう」は、先ほどみなさんに質問した、おばあさんに拾われなかった桃太郎です。鬼ヶ島に流れ着き、鬼に育てられました。自分の頭にだけツノがないことを、仲間外れだ、と泣いて悲しみます。このとき鬼たちは「ちがっていても いいじゃないか」「ももたろうの ちょんまげも すてきだぜ」と、なぐさめるのです。この桃太郎にとって鬼は、包容力があって、どこまでも愛情深い存在なんですね。
これらのことから、物事には自分からは見えない部分、立ち位置を変えると見えてくる部分があることが分かります。
ひるがえって、みなさんはこれからの人生の中で必ず、分かり合えない人と出会います。もしかすると「退治したい」とまで思うことがあるかもしれません。そんな時、ちょっと立ち止まってみてほしいのです。偶然何かが違っていたら、相手の環境にいるのは自分だったかもしれません。
私たちは自分こそが正しい、正義だ、と思ってしまいがちです。でもお互いが爆発してしまう前に、一度主語を「自分」ではなく「相手」に変えてみてほしいと思います。
絶対に許せない相手と友達になれ、全く賛成できない意見に賛成しろ、と言っているわけではありません。それは私自身にも不可能です。でも「相手にも相手なりの立場や視点があり、考えがある」ことを知るのは、複雑で多様な現代社会を生き抜くうえで重要なポイントだと思います。
まずは立ち止まって深呼吸しましょう。「分かり合えない」からこそ、話して、聞いて、相手なりの理由を探っていく。すると、自分自身についても違う視点から再認識できるかもしれません。
新型コロナ以降、経済格差が浮き彫りになり、意見の異なる人たちが時に攻撃的に主張し合うばかりで、分断が深まっています。大変に残念で危険なことです。
同じような考え、親しく大好きな人たちと過ごすのは誰にとっても楽しく、心地よいことですが、それだけでは大きな成長は望めません。大嫌いな相手、どうしても理解できない、許せない相手と出会った時こそ、飛躍のチャンスなのだと考えてください。感情に呑まれず、「相手の立場」を想像して頭を働かせることができれば、あなたは一つレベルアップすることができた、強くなった、と言えるでしょう。
最後に。「卒業」は区切りではありますが、終わりではありません。香里はみなさんにとって、いつでも帰ってくることのできる特別な場所です。そしてこれからも、みなさんの力強い応援団であり続けます。
みなさんが想像力を鍛え、人間的な強さを磨き、希望に満ちた未来をしっかりと進んで行くことを心から願って、私からのお祝いの言葉といたします。
さあ、旅立ちの時間です。
令和7年2月26日
大阪府立香里丘高等学校校長 宮内 順