2021年度入学式式辞

 桜が惜しみなく花びらを降り注いで言祝ぐ今日、長吉高校第47回入学式を挙行いたしましたところ、ご多用の中、臨席を賜りました、PTA会長久保田さま、同窓会より清重さまには、高いところからではございますが、厚くお礼申し上げます。

 保護者の皆様には、今日まで、ご苦労を重ねつつ、慈しんでこられた、お子様のご入学を、心よりお祝い申し上げます。

 ただ今、入学を許可しました210名の新入生の皆さん、改めてご入学おめでとうございます。皆さんは、今日から長吉高校の生徒です。教職員一同、心から歓迎します。

 高校生になった喜びや感動も大きいかと思いますが、同時に不安もきっとあるに違いありません。

 しかし、大丈夫です。本校は、人権尊重を中心に多様性を尊重する学校です。

 よって、本校は決して、差別やいじめを許しません。

 ですから安心して、居場所を学校の中に見つけてください。

 また、長吉高校はエンパワメントスクールとして、

 「わかる喜び」や「学ぶ意欲」を呼びおこし、生徒の皆さんが本来持っている力を引き出す学校です。自らの内にある様々な可能性を信じ、授業や行事、部活動などを通じて、資質・能力を伸ばしてください。

 ここで入学に際し、みなさんに言葉を贈ります。宮沢賢治の詩です。

雨にも負けず

風にも負けず

雪にも夏の暑さにも負けぬ

丈夫なからだを持ち

欲はなく

決して怒らず

いつも静かに笑っている

一日に玄米四合と

味噌と少しの野菜を食べ

あらゆることを

自分を勘定に入れずに

よく見聞きしわかり

そして忘れず

野原の松の林の蔭の

小さなかやぶきの小屋にいて

東に病気の子供あれば

行って看病してやり

西に疲れた母あれば

行ってその稲の束を負い

南に死にそうな人あれば

行って怖がらなくてもいいといい

北に喧嘩や訴訟があれば

つまらないからやめろといい

日照りのときは涙を流し

寒さの夏はおろおろ歩き

みんなにデクノボーと呼ばれ

褒められもせず

苦にもされず

そういうものに

わたしはなりたい

「雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ」とだけ聞けば、肉体的にも精神的にも強く逞しいことが人間にとって大切なことだ、と理解されがちですが、賢治はそんなことを言っているのではありません。

私はこの「詩」を次のように読みます。

「雨に負けたって、風にも負けたっていいんだよ。」

「人間はそんなに強い生き物ではないんだよ。」

「争いや諍いに勝とうとしなくてもいいんだよ。」

「ただ生きて在ることが重く、尊いことなのですよ。」

「私は現実的には何の役にも立たない人間かもしれません。」

「私にできることは、自らのできることで人に寄り添うことだけです。」

「周りからの評価を気にせず、ただただ人を大切にする」

「そんな強さを持った人間でありたいと願っています。」

 「イ」(にんべん)に「憂」(うれう)と書いて「優」(やさしい)と読みます。人の苦しみを憂い、寄り添い行動することが「優しい」とう意味です。同時にこの「優しい」は「優れる」(すぐれる)とも読みます。人に「優しい」ことが「優れた」生きざまなのです。

 みなさんには、自分の可能性を信じて、様々なものごとにチャレンジし、自己実現して欲しいと願っています。

 しかし、私は、宮沢賢治のように、人の苦しみを憂い、寄り添い行動する、限りなく「優しい」生きざまが、実は人として本当に「優れた」生きざまであることを、あなた方に理解し、行動して欲しいとも願っています。

 私たち長吉高校教職員は、教え、導き、援助する専門家として、チーム一丸となってあなた方を応援します。

 この長吉高校で、一人ひとりが本当の「強さ」「優しさ」を持った人間として成長することを心の底から願っています。

以上を私の式辞といたします。

  

令和3年4月7日

    大阪府立長吉高等学校 校長  上本 雅也