式辞
厳しい冬の寒さも緩み、春の芽生えのなか、まさに今、豊島高校も新しい生徒を迎えようとしております。本日、公私ご多用中にもかかわらず、多数の方々に御列席いただき、ここに入学式を挙行できますことは、大きな喜びであります。また保護者の皆様がたにはお子様の入学式に多数ご列席いただき誠にありがとうございます。お子様のご入学を心からお祝い申し上げます。
さて、本日ここに入学を許可されました280人の新入生のみなさん。入学おめでとう。入学試験をうけて、合格発表の名前を見つけた時の諸君の喜びは非常に大きかったと思います。入試という人生で初めてのハードルを無事クリアーできたことは大切な喜びの一つとして心の中にもちつづけてください。今日から諸君は晴れて豊島高校の生徒です。本校は昭和五十年に創立され、今年で38年。約一万三千人の先輩諸氏が本校を卒業し、社会で立派に活躍しております。みなさんも先輩諸氏に負けず劣らず、本校で学習・クラブ活動・課外活動を通じて大きく成長されることを期待します。
さて、諸君は「世界を変えた3つの林檎」の話を知っていますか?ひとつは、旧約聖書にでてくるアダムとイブが食べてしまった林檎。神様が禁じた林檎を食べてから人類の苦難の歴史が始まりました。ひとつは、アイザック・ニュートンが万有引力の法則を発見するきっかけとなった木から落ちる林檎。そしてもうひとつは、スチーブ・ジョブズが率いたアップル社のロゴマークの林檎です。
これから、昨年10月5日、56歳で亡くなったスチーブ・ジョブズ氏の話を紹介しましょう。ジョブズは、1955年、サンフランシスコで生まれ、恵まれない家庭環境で育ちました。1977年、パーソナルコンピューターアップルⅡを世に送り出し、軍事や金融関係などの大企業でしか使えなかったコンピューターを、誰もが使えるコンピューターとして人々に開放したパイオニアです。マウスもジョブズが世に広めました。一方、ライバルで同い年のビルゲイツ率いるマイクロソフトのウインドウズ95が世界のパソコンを席捲しました。挫折したジョブズは一時アップル社を去るのですが、コンピューターの新たな可能性を求めてCGアニメ映画「トイストーリー」を手掛け、アカデミー賞を受賞しました。コンピューターが作り出す映像を芸術として確立したのです。アップル社に復活したジョブズは音楽革命といわれる、携帯音楽プレーヤーでインターネットから音楽を購入する仕組みを作りあげたのです。
私はジョブズが2001年携帯音楽プレーヤーを発売した当時、来日して、NHKのインタビューで語った言葉が忘れられません。
「新しいことを始める時に一番大切なことは、それを成し遂げたいという情熱だ。成功と失敗の一番の違いは途中で諦めるかどうかだ。失敗する人は途中であきらめてしまう。必要なのは強い情熱だ。」
と。
16歳の時に見たホールアース(全世界)カタログで見たコンピューター。それが彼の夢の原点でした。機器の発明家だけではなく、芸術家・預言者とまで言われたジョブズの16歳。くしくも諸君と同じ年ごろです。
そこで諸君にはまず夢の実現に向けて、目標をしっかりと見据えていただきたい。登山に例えるならば、目指す山を決め、その頂上を目指すということです。頂上という目標に到達することは決して平たんな道ばかりではありません。険しい登り坂かもしれません。時には道に迷うことがあるかもしれません。また道のりの厳しさに怖気づくかもしれません。しかし勇気を持って、一歩をかみしめながら、一歩を楽しみながら、一歩の景色を満喫しながら着実に頂上を目指せば必ず登頂できるはずです。今日入学したみなさん全員が、頂上で最高の景色を見る、つまり目標を達成し、夢を実現することを期待しています。
高校生活の主人公は君たち生徒諸君です。教職員は君たちをアドバイスし 目標達成にむけ精一杯サポートしていきます。しかし、あくまで主人公は諸君一人一人である、ということです。主人公となる為に大切な心構えを三つお話いたします。
一つは「自分で考える」ということです。「自分で考える」とは、学習においては予習をすることです。予習で事前に学習内容を自分なりに考えて間違ってもいいから答えを出す。それを授業で確認するということです。クラブ活動においては、技術や技能を高めるために、何を練習するべきかを自分で考えて実践することです。学校行事などの活動においても目標を決めて自分で考えたプログラムや出し物を出品するということです。
二つ目は、「仲間を大切にする」こと。諸君には280人の仲間がいます。目標に向かって仲間と議論し、考え、意見を闘わせ、様々な課題を乗り越えてください。供に良き競争相手として切磋琢磨しながら、仲間の個性を尊重し、決して仲間を傷つけることのないよう、チームとしての絆を育んでください。
三つ目は、「挨拶をする」ということ。一日の始まりは「おはよう」のあいさつから。家族はもちろんのこと、同級生や上級生・職員はもとより来校者の方々など、諸君の学校生活を応援してくださっているすべての方々に、感謝の気持ちをこめて「おはようございます」「こんにちは」と大きな声であいさつをすることを心がけてください。
話は変わって、あの東日本大震災から一年が経ちました。しかし、まだまだ復興の道のりは遠く険しいものです。そんな厳しい状況の中でも未来への夢を追いかけて頑張っている被災地域の高校生もたくさんいます。諸君が被災地から遠いこの大阪の地で震災復興にむけて何ができるのか、何をすべきなのか?それはなにも特別なことをしなければならない訳ではありません。諸君一人一人が自分のできることをしっかりすれば良いのです。未来への志を立て、大いに考え、大いに活動し、決して諦めず、夢の実現に向けてがんばることなのです。諸君一人一人の若い元気な力が、復興に向けての大いなるエネルギーになるのです。
夢を追い続けたスチーブ・ジョブズの最後のスピーチ。それは16歳の時に見たホールアース(全地球)カタログの裏表紙の言葉でした。
「Stay hungry! Stay Foolish」ハングリーであれ!分別くさくなるな!(ウオルター・アイザックソン著 Steave Jobsより引用)
私どもは開かれた学校をいっそう進めるためにも、本校の教育について、ご理解していただけるよう努めてまいります。保護者の皆様方のご支援・ご協力をいただきながら、われわれ教職員は、お子様の成長と夢の実現に向けて一丸となって全力で当たることを誓って、式辞の結びとさせていただきます。
平成24年 4月9日
大阪府立豊島高等学校 校長 松本安雄