のぼうの城

現在映画が公開され話題となっている「のぼうの城」。
和田竜が2003年に発表し注目を集めた小説が原作です。
映画は完成していたけれど、
忍城の水攻めシーンが津波を思わせるということで、
東北大震災被災者への配慮から公開が先送りされていた。
復興への歩みは半ばではあるけれど、公開を待つ人も多いから、
やっと公開されることになった。
物語は戦国時代末期、豊臣秀吉により日本があらかたまとまったころ、
関東で勢力を保つ北条氏に対して仕掛けた、
俗に小田原征伐といわれる戦役が舞台である。
小田原籠城中の北條勢力は5万人。攻める秀吉がたは20万人。
さすが天下の名城といわれる小田原城はたやすくは攻略できない。
小田原城を攻囲したまま関東の諸城を、別働隊を編成し攻略にかかる。

別働隊の行動は迅速であり、精鋭を小田原に向かわせていた諸城は、
豊臣方の大部隊を前に次々に降伏・開城していく。
だが、忍城のみは、北条氏が降伏した後まで、抵抗を続けた。
その忍城を指揮していたのが、この映画の主人公である成田長親だ

忍城攻防戦時の年齢は45歳。
さしたる武功もなく目だたない経歴の持ち主である。
その目立たない男が、石田光成を主将とする2万人を超える軍勢を相手に、
わずかな手勢で、小田原城が開城したのちまで、抵抗を続けた。

原作の和田竜は、この北条家敗戦の中でひときわ光る忍城戦の秘密を、
無能だけれど、無能さがゆえに、民に愛された成田長親に託した。
史実ではどうだったか。こんな極端な話ではないとは思うが、
本当だったらいいのにと思わせてしまう。魅力ある物語づくりだ。

この忍城が題材になった小説には
風野真知雄の「水の城 いまだ落城せず」 もあります。
二つの作品を比較して読んでみると面白い。
破天荒さという点では「のぼうの城」が面白いが、
成田長親を大石倉之助のように描いた「水の城」のほうが、
開城後の成田氏の去就から見ても、より現実的だと思わせる。
従来の歴史小説手法を踏襲した「水の城」と
エンターテイメント小説に徹した「のぼうの城」。
どちらの作品を高く買うか。読み手が選ぶしかない。

なお、「のぼうの城」も「水の城」も本校図書室にあります。

和田竜の小説をほかにも読みたいという人には「忍びの国」があります。
「忍びの国」はゲッサンでコミカライズもされました。
腕は超一流、だけどサボりという伊賀の国の忍び「無門」が主人公。
さらった女に惚れこんで、その女の尻に敷かれて働かされる。
そういう飄々とした「無門」の魅力も捨てがたいです。