大阪国語教育アセンブリー2018の第1分科会報告です。
第1分科会 〈出し合いながらひらく〉 明日へ繋ぐ「悩み」と「挑戦」
大阪国語教育アセンブリー2018 第1分科会 報告
2018/08/05
記録 北野高校 田丸智理
◆ 第1分科会 〈出し合いながらひらく〉 明日へ繋ぐ「悩み」と「挑戦」 2018/07/28
・登壇者 清水琢視(寝屋川高校)・増田優奈(茨田高校)・中尾優作(北野高校)
村尾一樹(北野高校)・金田章吾(常翔啓光学園中学校・高等学校)
・記録 田丸智理(北野高校)
■分科会主旨
経験1、2年。まだまだ青い私たちの毎日は、「困った」「しまった」の繰り返しです。その中でも、もがきながら試していることもあります。そんな悩みと挑戦を共有し、皆様に意味づけていただければ幸いです。力を貸してください!
■分科会報告(要旨)
第1分科会では、経験1~3年目の教員5名が登壇し、日々の授業の中で「困っていること」と「やってみていること」を共有した後、来場された先生方と協議を行いました。
「困っていること」では、古典文法に対する動機づけ、生徒がつまずくポイントの予想、教材を通してどのような力をつけさせるか、共通の教材やテストを使用する悩み等が話題に上がりました。
一方、「やってみていること」では、すべての登壇者が、「主体的・協働的な活動を通して学ばせること」「自分の言葉で表現させること」を挙げました。実践の背景には、生徒のことばの力の実態に危機感を覚えた先生方の、「自分達で考えを深める力をつけてほしい」「自分の言葉で思いや考えを伝えられるようになってほしい」という想いがあることも明らかになりました。
その後の協議では、来場された先生方から、各校の授業の実践を伺いつつ、先の話題についての御教示や激励の言葉をいただきました。
分科会の終わりには、こういった交流をこの日限りで終わらせず、今後へつなげてゆくため、若手の先生が集う勉強会を行うことが提案されました。
■分科会報告(発言記録)
(1)「困っていること」「やってみていること」の共有
■1 中尾先生(北野高校)
○困っていること
・古文の文法に対する動機づけ
...助動詞の範囲に入ってから、生徒の反応があまりよくない。そのため、助動詞を学ぶ意味を共有する必要があると感じている。
・教材研究の中で、生徒のつまづきポイントがわからない
...「大江山」の読解には、古典の背景知識も必要であるが、生徒の持っている知識が想定と異なっており、授業をすると、生徒が思わぬところでつまづいた。
・教材を教えるということと教材で教えるということ
...教材で「何を教えるか」に悩むことがある。直近では、「管鮑之交」で何を学ばせるかが明確に定まらなかった。入門期の易しい文章では、何を学ばせるかを考えるのに苦労することがある。
○やってみていること
・表現させること
...取り組みのきっかけは、入試の採点時に、生徒が自分の言葉ではなく「借り物の言葉」で文章を書いていると感じたこと。「実際に使える」言葉の力がないと感じたため、それを培うために、エッセイを書かせたりしている。
・Classting(教育用SNS)の活用
...生徒が作品を投稿しやすいだけでなく、作品に対する感想の共有もできる点がよい。
■2 清水先生(寝屋川高校)
○困っていること
・教材研究の仕方
...どのような視点・考え方で教材研究をすればよいのか、漠然と不安を感じている。
・生徒にどんな力をつけさせるかを明確にするのに苦労している
...生徒につける力に連続性を持たせることが難しい。
・生徒が躓くポイントを把握できない
...教材研究の段階で、どのように考えれば、生徒がつまずきやすい点を予想できるのかがわからない。
・創作の要素が強い課題の扱い(フィードバックや評価基準の設定あり方)
...時間の制約もある中で、どのように評価・フィードバックすればよいのかに悩む。
・自身のスキルを磨くためにどのようなことに取り組めばよいか
...今実践していることは、本を読むことと、他の先生の授業を見学すること。その他にどのようなことをすれば、授業づくりの力をつけることができるのかを知りたい。
○やってみていること
・感想文
...作品を読んで終わりにせず、感想を書かせる。
・小説の展開を予想してみる
...ただ展開を予想させるだけでなく、予想した展開を文章として書かせている。そうすることで、実際に作品の当該部分を読む際に、作家の表現の巧みさを体感してもらうことができる。
・品詞分解・現代語訳の解説を考えさせ、発表させる
...ボードに書かせる、写真にとる、プロジェクターに投影して共有する。
■3 金田先生(常翔啓光学園中学校・高校)
○困っていること
・クラス間の学力レベルの差が大きいにも関わらず、コースが同じであるために定期テストの問題を統一しなければならないこと。学力の高い生徒に合わせると苦手な生徒がついてこれず、苦手な生徒に合わせると学力の高い生徒から不満が出てくるという状況で、どちらに併せて進めていくべきかがわからない。
...学力差のある2クラスで同一テストを行うため、どのようなテストを作成すればよいのかに悩んでいる。
・授業時数が他コースに比べて少ないにも関わらず、他コースと進める内容が同じであること。
...シラバスもテストも共通で、コマ数が異なるため、授業をするのが難しい。
○やってみていること
・紙芝居(←山月記を小学生向けに)
...難解な内容を平易な言葉で表現させる過程で、内容理解を促すことができる。
・生徒に教員役をさせること(←学力トップのクラスのみ)
...取り組みのきっかけは、「教員の質問には答えられるが、自分から行動することが苦手である」生徒の様子が気になったこと。
・グループで品詞分解(←得意な生徒が苦手な生徒に教える)
...取り組みのきっかけには、クラスメートの名前を覚えていない生徒がいたこともある。教え合いによって、学びだけでなく、生徒同士の仲も深めることができる。
■4 増田先生(茨田高校)
○はじめに
・勤務校の生徒には、小学校段階で学習につまずいた経験を持つ子が多い。
・古典に関しては、「古典というジャンルがあること」「何百年前の人も、現代の私達と同じ気持ちを感じていたこと」をわかってもらうことを目標にしている。
○困っていること
・生徒の学習到達度を知ることができるテストのつくり方
...テスト問題は、大きく、知識を答える問題と、考えを書く問題に分かれると思うが、「生徒がわかったこと」を汲み取るテストをつくるにはどうすればよいのか悩んでいる。
勤務校には30代以上の教員がおらず、ベテランの先生の経験をうかがうことができない。過去の資料は残っているものの、資料を見るだけではわからないことがあり、困っている。
・共通の授業プリントでオリジナリティを出す方法
○やってみていること
・答えに幅のある記述問題
...生徒が登場人物の心情を考えるような問題を作成している。
・授業プリントの「あらすじ」「感想」欄
■5 村尾先生(北野高校)
○困っている(いた)こと
・国語に対して興味を持たせられなかった
...1年目の頃、受験対策が求められていると思い、そのような授業をしたところ、生徒が古典を苦手と感じるようになってしまった。
・遊びながら学ぶためにはどうすればよいだろうか
...遊んで終わりとなってしまわないように、学びにつながる、学びが深まるような「遊び」をしたい。
○やってみていること
・国語の授業を潤滑油にして、生徒と生徒のつながりを持たせる
...具体的には、エッセイや詩を書かせ、冊子にして共有している。取り組みのきっかけは、入試の採点時に自分の言葉で書くことができていないと感じたことと、「自己開示をしないのがマナー」と認識している生徒が多く見られること。浅薄なことしか言えない大学生・社会人にしないためには、自分の言葉で意見をぶつけ合う機会が必要だと考えた。そのため、「価値を戦わせる授業」をめざして日々の授業を行っている。
・なるべく自分が教壇で喋らない授業(をしたい)
...たとえば、評論の授業において、次のような取り組みをしている。まず導入の段階で、教員が丁寧に話をして生徒にものを考える視点を与えておく。そして、いざ教材に入れば、教員主導の講義形式の授業はせず、生徒達自身に考えを話し合わせる。
評論に関しては、このような取り組みによって、授業がうまくいっているように感じている。
一方、現在悩んでいるのは、古典、とりわけ漢文の授業である。
「内容をとり、それをもとに考えを話し合う」「教員は生徒の班に入って考えを聞く」というような授業をしたいが、実現できていない。
(2)(1)を踏まえた協議
■意見 さかい先生(堺上高校)
○つまずきポイントを予測するには
・「目の前の子が、国語についてどのくらいの力を持っているのか」をはかる工夫が必要。
...具体的には、次回扱う教材についての興味・知識のアンケートをとる等。期末・学年末で行われがちな差別化のための評価ではなく、生徒の学びに活かす診断的な評価が必要である。授業の見通しを持つためには、まず生徒の力を見取るところから始めなければならない。
○授業づくりの力を養うには
・様々なジャンルの本を読んで勉強することが必要。
...新聞や新書等、多くの分野の文章を読んで知ること、考えることが不可欠である。
■意見 江口先生(豊中高校)
○古典文法の動機づけをするには
・生徒同士で説明させるグループワーク
...「一つの目標に向かって協働することが必要だ」という認識は生徒も持っている。感想を言い合うのではなく、説明をさせることで、役割や責任が出てくる。具体的には、テストまでに1回程度、次のような流れの授業を行っている。今日のテーマの共有→小テストの問題を提示→問題解決のグループワーク→10分程度の小テストを実施。
■質問 村尾先生(北野高校)
○各学校では、どの程度、教材の共有が行われているのか?
・勤務校では、個人プレーが中心
■回答 増田先生(茨田高校)
・教材は「共有」ではなく「共通」
...「使ってもよい」のではなく、統一の教材を「使わなければならない」ため、自分でやってみたいことができない苦しさがある。他の先生方に「こんなことをしてみたい」と相談をしたいが、生徒指導や家庭訪問に追われ、その時間をとることができない。
■回答 いとう先生(豊中高校)
・学年で「共通」のプリントを使用
...勤務校で代々受け継がれているものもある。プリント式ではなくノート式だと、授業の山場が教員によって異なることになる。どこを山場とするかは、自分で考えたり、他の先生に伺っている。週に1回、授業の進度や進め方を話し合っている。
■回答 涔口先生(豊中高校)
・過去の良いものは使用。
・作成した教材は、他の先生に見せて、「使いたければどうぞ」。
・他の先生からアイディアをもらって、授業をつくることも。
・教材が共通であれ共有であれ、オリジナルプリントは使用してよいのではないか。
■補足 村尾先生(北野高校)
・校外の先生とも共有するような機会があれば嬉しい。
■意見 中尾先生(北野高校)
○古典の「おもしろさ」を感じてほしい
・「児のそら寝」をする際に、実際にそばがきをつくった。
...実際につくってみると、そばがきは美味しいといえるようなものではなかった。授業でそばがきの写真を見せはしなかったものの、実際につくることで、たいして美味しくないそばがきでも食べたいと思うほどに、児のお腹が空いていたことがわかった。
■意見 田中孝一氏
○自分が生徒のときに習ったのとは、違う教え方を試みる。
○「この単元でどのような力をつけるのか」「その力がどのように次に生きるのか」を考える。
・「公教育」を行う学校には、社会から求められている役割がある。
○先輩方から教えていただきながら、個性を発揮する。
・「教育の質は担保しながら、自分の個性を出す方向でいこう」という考えを持っておく。
○古典文法の動機づけをするには?
・それぞれの言葉の違いを実感させる、その背景を考えさせる
...助動詞であれば、たとえば次のように考えられる。
現在「た」で一括りにしてしまうものを、古典では「き・けり・つ・ぬ・たり・り」で言い分ける。そこには、テンスに対する感覚のこまやかさがある。クーラーの音がすることから、「クーラーがついている」と思えば、それは「めり」。窓越しに雨が降っているのを見て、「雨が降っている」と知れば、それは「なり」。このように、現在でも、古典の言語感覚を実感させることはできる。
○若い先生には、経験はないが、無限の可能性がある!