第25回定期演奏会 ~西村友氏からのメッセージ~

「QUATRE ÉLÉMENTS」~pour chœur et orchestre

「四つのエレメンツ」~合唱とオーケストラの為の~

西村友 作曲

Ⅰ ...du Vent 「風の...」

Ⅱ ...de la Flamme 「火の...」

Ⅲ ...de l'Eau 「水の...」

Ⅳ ...de la Terre 「大地の...」

この曲は大阪府立夕陽丘高校から定期演奏会第25回を記念した委嘱として作曲されました。音楽科の先生方と相談しながらお話を進めるにつれ、2017年の作品「Four Elements」から発展させて作曲することになりました。前作の"Four Elements"とは、「この世界は四つの元素からなっている」という古典的四元素説に基づく、"風・火・水・地"の四要素のことです。

僕は子どものころから、目に映る景色や心の中の風景、それらを絵に描きたい、と思い続けてきました。写真のように"その瞬間を切り取る"だけではなく、(絵を描く時間も含め)流れる時間と思考・想いそのものを描きたかったのです。しかし僕の拙い画力ではとても思い通りの絵は描けません...。しかし、偉大なる先人のドビュッシー達にはいまだ遠く及ばないものの、"音楽"によって絵を描く手段を手に入れつつあるのです。この"Four Elements"という題材は僕にとってのライフワークの一つであり、これからも形を変えて作曲していきたい、と考えています。

前作を土台にしているとはいえ、僕にとっては100%新作です。モネが睡蓮という題材を様々な感性で描いたように、同じ構図やモチーフ(テクスチュア)、絵の具や筆致(マチエール)の選択に共通点があったとしても、それはこの曲の成長の軌跡でもあります。

そしてこの曲は夕陽丘高校の生徒の皆さんに多くの助けを頂いています。初めに「...du Vent(風の...)」を聴いていただき、感想と他の曲へのイメージをレポートしていただきました。文章だけでなく、ポエムや絵など、まったくもって自由な発想と表現でした。その瑞々しい感性に触れることによって僕のなかでもさらにはっきりとイメージが出来上がっていったのです。皆さんの参加がなければこの曲は全く違ったものになっていたでしょう。そういう意味で、この曲は本当に特別な、奇跡のような曲なのです。今日演奏してくれるすべての皆さん、そしてコロナと闘いながらも東奔西走してリハーサルと準備をしてくださった先生方、そしてこの素晴らしい企画のきっかけを作ってくださった音楽科の先生方のヴァイタリティに、心から感謝申し上げます。

僕はとても不完全な人間で、常に悩み焦り、小さなことで一喜一憂し、涙を流したり笑ったりしています。青臭い感情と笑われるかもしれません。でも、毎日同じように見える夕陽でも、いつも特別な、オリジナルな、素敵な、二度と見られない夕陽であること忘れずに感動できる人間でいたいのです。

第1曲 ...du Vent 「風の...」

流れゆく風は目に見えない。風が「見える・感じる」時ってどんな時だろう?木々の葉が音をたてるとき。足元に落ちる木洩れ陽が揺れるとき。冬の朝の、春の夜明けの、夏の夜の、秋の夕暮れの、匂いを感じるとき。そう、風は柔らかに嫋やかに"流れる時空(とき)"を教えてくれる、宇宙の息吹。永い永い時の刻みを見つめながら流れ続ける風に、あなたはどのような景色を見るのだろうか?

第2曲 ...de la Flamme 「火の...」

すべてを焼き尽くしたい。自分が嫌いで、自分を信じられない。だから全部燃えてしまえばいい。他人も自分も。それは負の感情。自分の価値は何かと比べて決まるものではない。"できたかどうか"よりも"精一杯やったか"が自分を支えるのだ。そして見つけたい、見つけて欲しい。自分の中に瞬く、小さな燈火を。そして焼き尽くそう、自分の弱気を。自分の弱さも認めたうえで。

第3曲 ...de l'Eau 「水の...」

光と音の交錯する水の世界。彼女の耳に、遠くから呼ぶ声が聴こえる。お前は何者なのか?何処から来て何処へ行くのか?...まだ仮初めの愛も知らない彼女は、本能に刻まれた音楽の言語で体をくねらせる。やがて踊り疲れて水底に身を横たえるとき、遠くでまた声が聴こえる...

第4曲 ... de la Terre 「大地の...」

宇宙のすべては細かい粒子でできていて、人の体も粒子でできている。粒子は意思も感情も持たないが、粒子でできている私たちは、夕陽を見て涙も流すし愛も語る。大地は父でもあり母でもあり、全でもあり個でもある。だからもしかしたら、この宇宙そのものも「大きな一つの生命」なのかもしれない...