<3月1日(火)第65回卒業証書授与式>

 本日、午前10時より、第65回卒業証書授与式いたしました。以下に、卒業式の式辞(概要)をご紹介します。

 三月を迎え、春を感じる暖かな日差しの日も増えてまいりました。

 本日ここに大阪府立東淀川高等学校 第65回卒業証書授与式を、挙行いたしましたところ、公私何かとご多用にもかかわりませず、多数の保護者の皆さまにご出席を賜りましたことを、厚く御礼申しあげます。

 ただ今、本校所定の課程を修了しました271人の生徒の皆さんに卒業証書を授与いたしました。

 保護者の皆さまにおかれましては、この日を一日千秋の思いでお待ちになっておられたことと思います。今日、こうしてお子さまのご卒業を迎えられ、これまでをふり返りながら、喜びをかみしめておられることと思います。改めて心よりお祝いを申しあげます。誠におめでとうございます。

 卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。

 今、皆さんはどのような思いでしょうか。東淀川高校での3年間をふり返り、何を思い出しますか。  学校行事や部活動のことでしょうか。それとも友だちと過ごした放課後の教室での時間でしょうか。皆さんにとり、この3年間はすべてが順調だったわけではなく、学習や進路、友だちとの関係などに悩むこともあったと思います。

 皆さんは一年生のときから、球技大会などの行事において、積極的に協力をしてきました。そのような中、一年生の終わりから、感染症の影響が出始めました。

 二年生では、年度当初から6月半ばまで臨時休業が続きました。文化祭や体育祭などの学校行事が実施できませんでした。日程を2月に順延し、行く先を変更した修学旅行は、大阪府に緊急事態宣言が出されていたことなどから、中止となりました。

 三年生では、年度当初から部活動の制限がありました。9月にあった臨時休業は進路決定に大切な時期と重なりました。ただ、学年での体育祭、遠足と文化祭が実施できたことは、本当によかったと思っています。

 さまざまな制限がある中、学習、学校行事、部活動、進路実現に向けて、皆さんは頑張ってきました。その姿は本当に素晴らしいと思います。

 ただ、こうして卒業の日を迎えたことは、皆さんの努力の成果であるとともに、皆さんを温かく見守り、常に支え続けてこられた、保護者の方々の愛情の賜(たまもの)でもあります。今まで支えてくださった保護者の方々をはじめ、多くの方々に感謝し、今日をこれまでの自分をふり返る日としてください。そして、皆さんから、しっかりと感謝の気持ちを伝えてください。

 これから皆さんは、高校生としての生活から、より大きな世界に羽ばたくことになります。皆さんがこれから生きる社会について、三つの側面をご紹介します。

 第一に、Ai(人工知能)の進歩です。Aiの進歩により、知識や情報が共有され、新たな価値を生み出す社会(「Society 5.0(ソサエティ5.0)」)がめざすべき社会とされてから、数年が経過しています。

 第二に、新型コロナウイルス感染症については、先行きがみとおせません。ワクチンの普及や治療薬の開発などの対策が進む一方、全世界で拡大していることから、国際的な協力が一層重要になってきています。

 第三に、現代の世界では、さまざまな立場の人が互いに助けあっています。皆さんは今までに「SDGs(エスディージーズ)」について学んだと思います。「SDGs」は国際連合で採択された2030年までの世界全体の目標です。貧困の解決や気候変動に対する取組みなど、持続可能な社会に向けた取組みに、世界中の多くの人々が協力をしています。

 皆さんには、これからの社会についてしっかりと理解をしたうえで、目標を持ち、その実現に向けて誠実に取り組んでほしいと思います。

 皆さんに、アミン・マアルーフさんというジャーナリストをご紹介します。マアルーフさんは、現在フランスに居住されています。新聞や週刊誌の責任者を務めるジャーナリストであり、西洋と西アジアの関係についての専門家でもあります。

 著書の一つに「アラブが見た十字軍」があります。「アラブが見た十字軍」について、ご紹介します。

 「十字軍」とは、西ヨーロッパのキリスト教徒が、11世紀末から13世紀にかけて、西アジアに向けて行った軍事遠征のことです。目的の一つにイスラエルにあるキリスト教の聖地「エルサレム」を、イスラム教徒から取り戻すことが掲げられていました。一方、西アジアに住みイスラム教を信仰するアラブ系の人々にとり、「十字軍」は自分たちに対する侵略者です。マアルーフさんは、歴史を踏まえ、居住する地域や信仰する宗教により、歴史の見方が全く異なることを示しました。

 マアルーフさんの最近の著書に「アイデンティティが人を殺す」があります。

 アイデンティティということばは、一般的には、「環境の変化により与えられた役割が変化しても、変わらない自分」をさします。

 では、マアルーフさんはどのような環境の変化を経験したのでしょうか。

 マアルーフさんは1949年に、西アジアの国、レバノンで生まれ、アラビア語を母語として育ちました。1975年に国内での戦争(=内戦)が発生したことから、翌年にレバノンを離れ、以後フランスに居住されています。フランスは第二の故郷になっています。

 マアルーフさんは、自分のアイデンティティは、レバノンでの経験、フランスでの経験など、さまざまな要素から成り立っていると考えます。

 ところが、「一番深いところでは、自分は何者だと感じていらっしゃるのですか」と、マアルーフさんに問いかける人がいます。その前提にあるのは、人間の一番深いところには本質があって、それは生まれながらに定まっており、変化することはないという、固定的な考え方です。

 固定的な考え方は、多様な文化の経験を積み重ねてきた人々を安易にひとくくりにして、その人々に犯罪や集団的行為などを負わせることにつながります。たとえば、「○○人(民族)は・・・・(という悪いところ)がある」など、深く考えずに決めつけることになります。そのような決めつけは対立を激化させ、流血の大惨事を生むこともあります。

 マアルーフさんは問いかけます。これから数十年の間、何が私たち(世界中の人びと)を待ち受けているでしょうか。文明間の戦争でしょうか。それとも穏やかな地球村でしょうか。

 マアルーフさんは結論を語ります。未来はどこにも書き込まれておらず、私たちの行いこそが未来を作るのだと。

 私たちはマアルーフさんの経験から、何を学ぶことができるでしょうか。

 一つは、一人ひとりが自らのアイデンティティを大切にすることです。そのことが、他者が自分と同じように大切なアイデンティティを持つことを認め、互いを尊重することにつながってほしいと思います。

 もう一つは、社会や世界について、長い時間や広い世界を意識しながら考えることです。現在、感染症対策等により、国際的な協力が一層重要になる一方、他者や他国に対する不寛容な(許せない)気持ちや行動が広がっています。皆さんには、歴史をみとおしたり、世界とのつながりを考えてほしいと思います。そのうえで、異なる立場や文化を持つ他者と協力をしてほしいと思います。

 東淀川高校の授業で協力して考えたり、発表する経験をしてきた皆さん、部活動・学校行事等で人と人とがつながる体験をしてきた皆さん、何より特別枠で入学した生徒(くろーばぁ生)と、一般入試で入学した生徒がともに学ぶ経験をしてきた皆さんならば、きっとそれができると信じています。

 卒業後は、これまでつくりあげてきたすてきな学年から、すてきな社会を作り出す人として過ごしてください。明日からの新たな生活では、「この瞬間のために生まれてきた」と思えるほど嬉しいことにも巡り合うでしょう。間違うこともあるでしょう。また、つらいことが重なり、現実から逃げ出したいと思うことがあるかもしれません。困ったこと、つらいことがあればいつでも東淀川高校を訪問してください。

 終わりに当たり、ご出席いただきましたご保護者の皆さまに、今まで本校に対して賜りました多くのご協力、ご支援に心より感謝を申しあげます。また、お子さまを通じて生まれました学校との絆を、いつまでもお持ちいただき、なお一層、東淀川高校の発展にお力添えを賜りますよう、お願い申しあげます。

 最後に、卒業する皆さん一人ひとりの前途に、堂々たる未来が開けますように、自分とともに周りの人をも照らす人生を歩むことを、心からお祈り申しあげて、私の式辞といたします。

 令和四年三月一日

 大阪府立東淀川高等学校長 森瀬 康之