<3月4日(火)第68回卒業証書授与式>

●本日、午前10時より、第68回卒業証書授与式を挙行いたしました。

○卒業生の皆さん、保護者の皆さま、ご関係の皆さま、ご卒業おめでとうとうございます。以下に、卒業式の式辞(概要)をご紹介します。

○三月を迎え、春を感じる暖かな日差しの日が増えてまいりました。本日ここに大阪府立東淀川高等学校、第68回卒業証書授与式を、挙行いたしましたところ、公私何かとご多用にもかかわりませず、多数のご来賓の皆さま、保護者の皆さまにご出席を賜りましたことを、厚く御礼申しあげます。ただ今、本校所定の課程を修了しました生徒の皆さんに卒業証書を授与いたしました。

○保護者の皆さまにおかれましては、人生で最も多感なこの時期に、深い愛情をもってお子さまを育んでこられたことと思います。今日、こうして卒業の日を迎えられ、これまでをふり返りながら、喜びをかみしめておられることと思います。改めて心よりお祝いを申しあげます。誠におめでとうございます。

○卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。

今、皆さんはどのような思いでしょうか。三年間をふり返り、何を思い出しますか。学校行事や部活動のことでしょうか。それとも友だちと過ごした放課後の教室での時間でしょうか。皆さんにとり、この三年間は全てが順調だったわけではなく、学習や進路、友だちとの関係などに悩むこともあったと思います。

○皆さんは、この機会に三年間をふり返ってください。皆さんは、日本語指導が必要な生徒選抜で入学した生徒を含め、多様な生徒が在学する学年です。また、高校入学後、特に一年生のときに新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた学年です。

○皆さんは、一年次をとおして、日々の感染症対策が求められ、食事のときは「黙食」をするようにいわれました。二年次の5月、感染症が五類の扱いとなり、ようやく行動制限が解除されました。10月、修学旅行は九州を縦断しながら多様なコースを選択する内容で、修学旅行委員を中心に一年次から企画・立案をしてきた成果を感じるものでした。三年次、6月の体育祭は、先輩として一・二年生を指導する姿が印象的でした。9月の文化祭は、多くのひとの進路実現の時期と重なる中、学校行事と進路実現を両立して頑張るひとがたくさんいました。苦労もありながら、充実した三年間を過ごしたのではと思います。

○ただ、こうして卒業の日を迎えたことは、皆さんの努力の成果であるとともに、皆さんを温かく見守り、常に支え続けてこられた、多くの方々の愛情の賜(たまもの)でもあります。今まで支えてくださった保護者の方々をはじめ、多くの方々に感謝し、今日をこれまでをふり返る日としてください。そして、皆さんから、しっかりと感謝の気持ちを伝えてください。

○いよいよ皆さんは、高校を卒業することになります。皆さんがこれから過ごす社会について考えてみてください。まずは、AI(人工知能)が急速に進化し、さまざまな分野で活用が進んでいます。また、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会とされています。さらに、国際連合で採択された2030年までの世界全体の目標SDGsに基づいて、世界のひとびとは協力して貧困や環境問題等の解決に取り組んでいます。一方、三年にわたるウクライナでの戦争、パレスティナ・イスラエルでの戦争など、各地で起こる戦争は長期化し、世界全体に深刻な影響をもたらしています。

○皆さんには、これからの社会で、自身の幸せとともに、例えばSDGsが掲げる社会や世界全体の目標に貢献できるひと、いろいろなことを学び続けるひとであってほしいと思います。また、世界に多様なひとが存在することを大切にしてほしいと思います。

○皆さんに、パレスティナ出身でアメリカ人の思想家であったエドワード=サイードさんをご紹介します。サイードさんは1935年、キリスト教徒のパレスティナ人としてイスラエルのエルサレムで生まれました。父親はエジプトのカイロで事業を営んでいましたが、サイードさんはエルサレムにあった叔母の家で幼い時期の多くの時間を過ごしたほか、隣の国であるレバノンでも暮らしました。アラビア語、英語、フランス語の入り混じる環境で育ったため、3つの言語ができるようになりました。14歳になる頃、カイロにある英国系の教育機関に通い、そこで学びました。その後、アメリカ合衆国へ移住し、アメリカの大学を卒業、さらに学位を取得しました。アメリカの大学でたくさんの学生を教えました。晩年は病を患い、2003年、長い闘病生活の末に、ニューヨークで亡くなりました。67歳でした。

○サイードさんは著書『オリエンタリズム』(1978年)において、「オリエンタリズム」ということばの定義を改めて行いました。従来、「オリエンタリズム」ということばは、美術の分野で、西洋にはない、異なる文明(東洋)の物ごとや習慣などへの好奇心を意味していました。これに対してサイードさんは、西洋で継承されてきた「オリエンタリズム」という考え方は、東洋のひとびとが劣った存在であり、劣っているからこそ、西洋が東洋を植民地として支配することを正当化する根拠になったと指摘をしています。

○西洋と東洋の関わりは古く、紀元前5世紀のペルシア戦争に遡ります。8世紀以後、東洋で生まれたイスラムはヨーロッパの一部であるスペイン・シチリア半島を征服しました。その後、15世紀にイスラム勢力がこの地を撤退するまでの間、ヨーロッパはイスラムを恐怖と畏怖の念で眺めていました。時が経過し、18世紀以後、西洋は、統治のために東洋を研究することになります。研究のなかで、西洋は東洋を「東洋人」・「イスラム教徒」・「アラブ」などの類型で固定的にとらえていきました。そのような中で、西洋と東洋は異質であり、東洋は後進的、受動的の性質をもつものとされました。一方、西洋は東洋とは反対の優越した性質をもつとされ、それ故に、西洋の東洋に対する統治が正当化されていったのです。

○では、現代のわたしたちは、文化を相対的にみることができているのでしようか。サイードさんはこの本のなかで、自己の文化について述べるとき、ひとは自己賛美に陥りがちで、異文化を論ずる際には、敵意と攻撃にまきこまれると、指摘しています。多様な文化に接する現代だからこそ、わたしたちには、自分の考えや行動をていねいにふり返ること、ふり返りのうえで、異なる文化や世界について考えたり、行動することが求められているのだと思います。

○改めて、68期生の皆さんには、多様な社会やそれぞれの文化を認め合い、そのうえで行動できるひとにいっそう成長してほしいと思います。東淀川高校に在学中、感染症のたいへんな状況を協力して乗り越えてきた皆さん、さまざまな授業で協力して考え、発表する経験をしてきた皆さん、部活動・学校行事等でひととひとがつながる体験をしてきた皆さん、何より、多様な文化を持つ生徒を含め、多様な生徒が在学する学年でともに学ぶ経験をしてきた皆さんならば、きっとそれができると信じています。

○卒業後は、これまでつくりあげてきたすてきな学年から、すてきな社会を作り出すひととして過ごしてください。明日からの新たな生活では、「この瞬間のために生まれてきた」と思えるほど嬉しいことにも巡り合うでしょう。間違うこともあるでしょう。また、つらいことが重なり、現実から逃げ出したい、と思うことがあるかもしれません。困ったこと、つらいことがあれば、いつでも東淀川高校を訪問してください。

○終わりに当たり、ご出席いただきました保護者の皆さまに、今まで本校に対して賜りました多くのご協力、ご支援に心より感謝を申しあげます。また、お子さまを通じて生まれました学校との絆を、いつまでもお持ちいただき、なお一層、東淀川高校の発展にお力添えを賜りますよう、お願い申しあげます。

○最後に、卒業する皆さん一人ひとりの前途に、堂々たる未来が開けますように、自分とともに周りのひとをも照らす人生を送ることを、心からお祈り申しあげて、私の式辞といたします。

令和七年三月四日 大阪府立東淀川高等学校長 森瀬 康之