本の紹介‐「世界に負けない日本」

 今回は、新書の紹介をします。「世界に負けない日本‐国家と日本人が今すべきこと」(PHP新書2016年5月27日発売)です。著者は、薮中三十二氏です。といっても、「誰それ?」という人が多いのではないでしょうか?でも、彼の顔写真を見れば、「あーーー!」と思い出す人もいるかもしれません。その人は、ちゃんとニュースを見ていた人ですね。薮中氏は、外務省の主要ポストを歴任し、事務次官(官僚の最高ポスト)まで務めた「ミスター外交」です。

 私は、彼が北朝鮮問題を協議する6か国協議で前面に出ていた時に、ニュースで彼のコメントをよく聞きました。その時の印象は、非常に理知的でスマートであること、そして論理が明確であること、言ってよいことと言ってはダメなことの使い分けが明確で、「日本にもこんなスマートでジェントルマンな外交官がいたんだ」と思いました。それで彼のことを覚えていたのです。書店で薮中氏の著書を見つけて、さっそく読んでみました。やはり予想通り。非常に論理的であり、理性的であり、スマートです。

 少し本の紹介をします。この本は、序章、1章、2章、3章、特別篇に分かれていますが、基本は、3部構成だと思います。

1部・・・序章+1章で「グローバル人材の必須条件」です。

2部・・・2章+3章で現在日本が抱える外交問題の概観

3部・・・薮中塾グローバル寺子屋での講演

です。彼は、グローバル人材の必須条件に5つの条件をあげています。それは、①英語力②情報力③「個」の力④ロジック力⑤人間力です。それぞれの内容は、本を読んでほしいのですが、この5つの条件については、「うーーん、なるほど!」と納得させられますし、日本人の弱点を鋭くついています。

2部の2章・3章は、日本の外交問題の入門書として読んでみるといいと思います。難しくて複雑な外交問題を「よくぞここまでわかりやすく書けるな・・・。さすが一線で活躍した外交マン」と感心します。

是非読んでほしいのは、彼が主催する「薮中塾」の話です。彼は、立命館大学で教鞭をとっており、学生の有志と始めたのがこの塾です。そこでは、まさに人間力、「個」の力、ロジックが試される場です。本には瀬谷ルミ子氏の講演が掲載されています。彼女の話はとても興味深い。彼女は「日本紛争予防センター」で働いているのですが、このような場所で働くようになった彼女の経歴もとても参考になります。参考になるというは、特別な何かがあるのではなく、逆に何も特別なものはないからこそ参考になるのです。あるのは、「人の役に立ちたい」という志です。

さて、薮中氏の塾は関西で開催されています。立命館大学が拠点で、そこから他の大学に広がっています。布施高校からも薮中氏の「グローバル寺小屋」に参加するような生徒が生まれてくれたらな、と思います。

時間があるときに、読んでほしい一冊です。

以下余談です。薮中氏の経歴を見てみると、なんと大阪出身。彼の理知的でスマートな雰囲気から「大阪の人じゃないよな」と思い込んでいたら、見事に裏切られました。彼は、大阪府立住吉高校の出身で、大阪大学法学部に進学しています。3回生の時に、外務省の専門職を受験、合格し、大学を中退するという異例の経歴の持ち主です。直接話をすれば、彼から大阪弁が出てくるかもしれませんね。テレビのニュースでは見ることができない側面ですね。機会があればぜひ話を聞きたい人です。