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小説「黄砂の籠城」-柴五郎にみられる世界に通じる日本人の資質

 今、アマゾンでも本屋でも松岡圭祐著の「黄砂の籠城」という本が売れているらしいです。私も5月のゴールデンウィークの頃に読みました。面白いです。上下2巻ですが三日で読みました。その本を読んでから、主人公の柴五郎という人物に惹かれて、彼について書かれている本を読みました。村上兵衛著の「守城の人」です。「黄砂の籠城」は日清戦争後に勃発した義和団事件を舞台に書かれた史実をもとにした小説で、登場人物も実在の人物です。

 この小説で感じた事は、それぞれの国における国民性ということです。当時は東西南北1km足らずの地域に、イギリス、フランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、オーストリー、スペイン、ベルギー、ロシア、アメリカ、そして日本の11か国の公使館が集中しており、義和団と清国正規軍の攻撃によって、約2か月間の籠城戦を強いられたのです。この時の防衛戦で、日本公使館付武官である柴五郎中佐の卓越した能力と公正無私な姿勢、そして、日本兵の勇敢で献身的な戦いが各国から評価されました。公使館が解放されたとき、イギリス公使のマクドナルド氏が「北京籠城の功績の半ばは、とくに勇敢な日本将兵に帰すべきものである」(「守城の人」649ページより)と正式に報告を行ってます。この時の日本人への評価が、その後日英同盟締結の礎になったと言われています。当時、世界の超大国イギリスとまだ近代国家として誕生したばかりの極東の国、日本の同盟は世界に衝撃が走りました。

 現在はグローバルの時代です。日本人も世界で活躍し、多くの外国人が日本を訪れます。グローバル化に対応するために、英語をはじめとした外国語を身につけようと、日本の英語教育も4技能強化に舵を切っています。海外で仕事をするとき、やはり語学力は重要です。柴五郎は、英語はもちろん、フランス語にも中国語にも精通しており、何不自由なく話せたと言います。しかし、彼が各国の尊敬を集めたのは、語学力ではなく公の精神を大切にし、極めて的確な戦略・戦術を駆使し、献身的に戦い続ける姿勢だったのです。この日本人の資質というか、DNAは今でも私たちの中に生きているように思います。この小説を読みながら、私はブラジルワールドカップで、日本人観戦客が、スタジアムの清掃を自発的に行ったことを思い出しました。この日本人の振る舞いで、世界に日本人の素晴らしさが伝わった様に思います。

 海外に出かけた時、「『日本人ってなんだ?』ということを考えさせられる」、とよく聞きます。私たちが、日本で育ち、自然と身につけている精神、資質というのは、世界から認められるものではないかと、この小説を読んで改めて思うとともに、公の精神を大切することを厳しく自分に課すことが重要であると深く反省しています。

 ただ、気をつけてほしいのは、小説はあくまでも日本人の視点、帝国列強の視点で書かれているということです。時は、帝国主義時代、中国・清は列強に侵略されている状況です。鳥の目で俯瞰すれば、義和団の掲げた「扶清滅洋」は帝国主義に抗議する民衆の蜂起と言えます。この小説に書かれている事を絶対視して、義和団=悪という単純な構図で理解することは、避けなければなりません。私が読み取って欲しいのは、極限状態に置かれた11か国の中で、日本人が常に公明正大に振る舞い、献身的に活動する中で、それまで欧米が一段低く見ていた日本と日本人を認めたという事実です。

 もし、興味があれば読んでみてください。現在の国際社会に通じ日本人が読むべき小説だと思います。また、先ほど紹介した「守城の人」は柴五郎の生い立ちを標した伝記と言っていい本で、「黄砂の籠城」では触れられていない柴五郎の人生が詳細に書かれています。彼の人生を知った時、「もう一つの『坂の上の雲』を読んだ」ような気になりました。