ベルギーの小さな町の挑戦!

 4月7日の土曜日、朝NHKニュースを見ていると、ベルギーの町メヘレンの取組が紹介されていました。メヘレンという町は、人口8万人余りの小さな町です。東大阪市の人口が平成29年度で49万人だから、その約5分の1ほどの小さな町です。ところが、このメヘレン、犯罪が多数発生するベルギー最悪の町として有名であったといいます。原因は、移民。住民の約2割がイスラム系の移民で、子どもの半数が移民の子たちという状況です。移民たちと警察の間にもトラブルや衝突が多発し、移民排斥を掲げる極右政党の台頭とありました。

 ところが、その町が現在では様相が一変した。ある市長の登場からです。その市長は、一昨年イギリスのシンクタンクから「世界一の市長」に選ばれたパルト・ソーメルス市長です。彼は移民が町で暮らしやすくするために、バディ制度を導入しました。移民と住民がペアを組み、半年間交流をするのです。そのことにより、移民は町に溶け込みやすくなり、住民は移民への偏見が取り払われます。今では、住民主催の交流会が年200回も開催されるということです。

 さて、布施高校のみなさん、なぜこのことを紹介したか?「素晴らしい話じゃないか!」というだけではありません。この過去のメヘレンが直面した課題は、やがて私たちが直面する課題だからです。ご存知のように、日本は人口減少が急速に進み、あなたたちが社会の中心になるであろう30代・40代・50代という時には、この人口減少がさらに急激に進み、社会の中に様々なひずみを生み出していると思われます。私は、この人口減少問題を解決するには、移民政策の見直しを行うしかないとかねてから思っています。しかしながら、日本の移民政策は、「門戸を閉ざしている」という状態に等しい。政府も「1億総活躍社会」という名のもとに、移民政策の転換には消極的です。おそらく、移民を受け入れることによって発生している欧州の混乱を目の当たりにしているからでしょう。さらに、「島国」という特性からか、日本人の心中には、「異なるもの」への抵抗感も強いように思われます。どうすればよいだろうか・・・と思い、私は昨年度大学院での生涯教育・社会教育のレポート作成のために、日本のある地方都市にフィールドワークに出かけて行きました。その町では、南米や東南アジアからの移民が多く住み、市の人口の5%を超えています。ちなみに、大阪の場合、外国人の占める割合は約1%前後の町がほとんどなので、如何にこの町の移民が多いかはわかると思います。

 しかしながら、その町で行われていた移民政策、住民と移民との交流には、学ぶべきものがありませんでした。市の担当者に会うこともできず、彼らの口から出てきた言葉は「彼ら(移民)は働くために、勝手にこの街に来た」というものでした。移民と住民の交流は、市の外郭団体やNPOを中心に行われていました。これではダメだと思い、その後もこの人口減少に関する本や地方自治体の政策などを勉強していた中で知ったのが、このベルギーのメヘレンだったのです。

 移民にとって、異国の地で暮らすというのは、とてつもなく不安です。もともと暮らしていた国や土地をすべて捨てて、まったく知らない町で、言葉も十分に通じず、住むところも、職も、そして食さえも十分かどうかわからないのです。一方、住民はというと、まったく違う国から言葉も文化も宗教も違う人たちが住み始めるのです。その不安な気持ちの中には、「テロ」ということもあるかもしれない。お互いが疑心暗鬼になりながら、「隣人と暮らすストレス」が互いの溝を深めていくのでしょう。その結果、犯罪多発の町、メヘレンになってしまったのでしょう。そこで登場したのが、先に紹介した市長です。彼の打ち出したバディ制度が如何に素晴らしい政策であるか、理解してもらえるでしょうか。

 布施高校のみなさん、そして保護者の方も。今ある生活が今後10年、20年、30年と続くというのは幻想です。それは今の日本ではありえません。必ず、大きな変化が起こります。その時、どうするか?今から考えても決して早くはないと私は思います。今日本が直面している人口減少問題は、過去の日本の政策に問題があり、付焼刃的な対応しかしてこなかったそのツケなのです。このメヘレンの取組を参考に、日本の人口減少問題にどう取り組むか、そのことを勉強、研究するために大学に進学する、そんな生徒が育ってほしいなと思います。これこそが、「世のため、人のために!そして、新しい価値を創造する学びを!」と私が入学式で語った一つの選択ではないかと思うのですが、如何ですか?