「僕らは奇跡でできている」と「獣になれない私たち」

 本日12月21日2学期の終業式が行われました。終業式では、この秋の連ドラを題材に次のような話をしました。以下、言い足りなかったことも含めて紹介します。

 まず、私が注目して視ていたのが、高橋一生主役の「僕らは奇跡でできている」というドラマです。高橋一生演じる相河一輝は、webpageで以下のように紹介されています。

「大好きな生き物のことや、自分が気になることについて考え始めると、周囲にも目もくれず没頭してしまう性格のため、時には人を困らせ、時に苛立たせる"変わり者"です。しかし、常識や固定観念に捉われない一輝の言動は、周囲の人びとの価値観を大きく揺さぶり、いつしか好きなことに夢中になっていたあの頃の純真無垢な気持ちを思い出させてくれます」

と。そんな相河青年ですが、小学生の頃から中学生にかけて「自分が好きになれなかった」と言います。その理由は、一輝が小学生の時の回想シーンで分かります。こんなシーンでした。

 おそらく小学校の5年生か6年生の高学年。クラスは、テスト中なのか、クラスメイトは一所懸命にテストに向かっています。一輝も取り組もうとするのですが、ふと教室に舞い込んだハエに目が留まってしまいます。そうすると、一輝はもうそのハエに夢中になって椅子を離れてしまい、教室の後ろに止まったハエに集中してしまうのです、みんなテストに集中しているのに・・・。そして、先生に「何をやっているんだ!」と怒鳴られるのです。

 このシーン、全国の教師に見てほしいと思いました。怒鳴った先生は、「みんなテストを受けているのに、一人席を離れて何をしているんだ!」という思いだったのでしょう。先生にとって、それは常識なのです。私もそんな教育を受けてきましたし、教師になってもそんな教育を行ってきました。しかし、そんな教育の結果、どんな資質や能力を持った生徒を育てようとしていたのでしょうか?教室で指導をしているときは、そのように指導することが余りにも常識過ぎて考えませんでしたが、21世紀になり平成も終ろうとしているこのとき、新しく求められる教育と比較してみると、ドラマの中で一輝を怒鳴った先生は、均質で、課題を正確に、それもより速く、そして従順に行う人材を育てる教育を行っていたと思うようになりました。分かりやすくいうと、工場の生産ラインで働くような従業員に求められる能力と資質です。彼らは、与えられた課題をマニュアルどうりに正確に仕事をすることを求められます。ですから、一輝のように「ハエが飛んできたから、それに気をとられて生産ラインから外れる」というようなことをされると困る、だから怒鳴って矯正しようとするのです。つまり、これが20世紀型教育なのです。

 だけど、今は21世紀です。求められる能力や資質は変わっているのです。Appleを創業したスティーブ・ジョブズのようなユニークで創造性と革新性のある資質が求められるのです。想像してみてください。

スティーブ・ジョブズが日本の工場の生産ラインに立って仕事をしているときに、ふと手を休めて「この生産ラインは美しくない!」なんてつぶやき、作業をやめて考え始めたら、その生産ラインの監督者はどうするだろうか・・・

おもしろいですよね。この考えるジョブズの姿と従順に働くことを求める生産ラインの監督、これが21世紀型教育と20世紀型教育の違いなのです。今、求められるのは、ユニークな発想、独創性、思考力、創造性・・・このような言葉で表現される資質・能力が求められるのです。実際、世界でトップクラスの資産価値をもつGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)では、このような資質・能力をもった人材が働いているといいます。主人公の相河一樹も21世紀型の会社に勤めていれば、おそらく彼はイキイキとしていたでしょう。

 さて、これに比して、「獣になれない私たち」に登場してくる主役の新垣結衣演じる深海晶が勤める会社は、ワンマン社長のベンチャー企業、社長のパワハラ満載のブラック企業です。社員は、社長の顔色を伺い、仕事をするどころか、隙を見つけてはサボろうとしています。そんな中で、深海晶は社長と社員の間に入って、仕事と人間関係をうまくまわすために神経を使い、自身も神経をすり減らして疲れ果てている女性社員です。このワンマン社長の会社とGAFA、求められている人材が全然違いますよね。

 因みに、ネットなどで「けもなれ」の評価をみてみると、余り芳しくないですね。でも、私は面白いと思ってみていました。私は、深海晶vsワンマン社長のやり取りに注目していたのです。最初の方で、余りの理不尽な社長の要求に対して、深海晶が改善要求を衝きつけます。服装も今までとは打って変わり、派手、サングラス、ブーツです。そうやって自己主張したわけですが、結局は元に戻ってしまいます。「幸せなら手をたたこう」を鼻歌で歌って、社長の命令をこなして自分をすり減らしていきます。そして、やっと最終回で、会社を辞める決意と共に、ワンマン社長に対して「社員の声を聞いてください!」と訴えることができたのです。私は、このドラマを「アサーション(主張)のあり方」のドラマだと思ってみていました。そういう見方で見ると、深海晶の成長が見えてくるのです。

 少し、話がずれてしまいましたね。終業式では、余り時間も無かったので、十分に伝わらなかったかもしれませんが、21世紀を生きていこうとする布施高校の生徒達に、どんな資質と能力が求められるか、どんな人材が求められるか、この秋の連ドラを例に伝えてみました。今年は、平成最後の年末年始、おそらく平成30年間を振り返る特番なども放映されるでしょう。この冬は、少し広い視野に立って世の中を見つめてほしいと思います。

 それでは、布施高校の生徒のみなさん、そして保護者の皆様、少し早いですが、Merry Christmas!そして良いお年を!